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きこえない子は、なぜ、ことばが遅れるか?

きこえない子は、なぜ、ことばが遅れるか?

       ―語彙の獲得と概念カテゴリーの構築に関する仮説と実践―

                         

2014.1.20

                              木島 照夫

はじめに

 

 きこえない子の多くは日本語獲得の遅れが常態化している。その遅れの実態は、小学生以降の読書力検査や学力検査等によって把握されてきた。しかし、言葉の遅れは、乳幼児期からの言語発達の結果なのであり、幼児期における言葉の遅れを客観的に把握し、遅れを来す要因を解明し、その支援策を示さない限り、根本的な対応にはならない。

そこで、平成19年(2007)より、P聾学校では、幼稚部3歳児(年少組)以降の幼児・児童にJcoss(日本語文法検査)を実施し、それぞれの幼児・児童の語彙・文法力の経年変化を把握してきた。また、同20年(2008)よりは、幼稚部5歳児(年長組)にはWISCⅢ・Ⅳを手話併用で実施し、動作性IQ(Ⅳでは知覚推理合成得点)及び言語性IQ(同言語理解合成得点)を把握してきた。

その結果、Jcossからは、日本語語彙力・文法力は、すでに年少児(4歳頃)において、「語彙獲得の遅れ(少なさ)」として現れてくること、また、WISCからは、年長児(6歳頃)において、「類概念形成の遅れ(「類似」)」「単語・事象に対する言語的説明の困難性(「単語」「理解」)」、「作業記憶(working memory)の遅れ」として現れることを明らかにしてきた。

つまり、きこえない子の言語獲得の遅れは、すでに年少児(4歳)以前(つまり学齢で乳幼児相談1歳児・2歳児クラス)における語彙獲得の遅れとして始まっており、その語彙獲得の遅れを生ずる、根本的な要因は、モノの類似性やモノ・ものごとの関係の類似性に基づく「カテゴリー」構築の不十分さにあるのではないかと考えられる。

そこで、今回、①概念カテゴリーの構築は、きこえる子の場合はどのように進んでいくのか、最近の研究から考察すると共に、きこえない子の手話及び日本語の概念カテゴリー構築の様相をそこに関連づけて考察し、また、②きこえない子の語彙獲得・概念カテゴリーの形成を促していくためには、どのような具体的支援策・指導方法が考えられるか検討する。

 

1.言語の獲得過程はどのように進むのか

 

(1)名詞の獲得過程(0~2歳)

 

○音声日本語の獲得過程(聴児)

 出生前;母語をきき、母語のリズムやイントネーションのパターンが記憶されていく。    

  0ヶ月;母語と他言語を聞き分ける。

  4ヶ月;母音の音素カテゴリーが形成される。「a,i,u,e,o

6ヶ月;子音の音素カテゴリーが形成される。「k,s,t,n,h,m,y

 10ヶ月~1歳;母語の音素カテゴリー分けができあがってくる(rとlの区別はつかなくなる)。リズムとイントネーションから、規則性を見出し、単語と機能語の区別がつくようになる(単語+機能語)(例)「ミルク飲もうか」「ミルク作るね~」「ほら、ミルクよ~」区別された単語が記憶されていく→新しい語を聞いたとき、新出語(名前を知らないモノ)を発見しやすくなる。

1歳~;ことばを聞いても、それが「何を指す」のかは特定の例だけからでは確定できない(「一般化の問題」)。

 2歳~試行錯誤しつつ、単語を特定の状況から切り離して理解できるようになる=形の類似性によってカテゴライズしていく=同じ種類のモノの集まり

 ・物質の名前は?

水、砂、粘土など「形」のない物質でも、物質が同じものを選ぶことができる=基準を変えて「同じカテゴリー」が作れるのかがわかる。

・固有名詞は?

固有名詞もわかる。普通名詞を先に覚えるのは、いろいろな対象に使えるカテゴリーの名前のほうが役に立つことに気づいているから。

2歳~2歳半

  発見した規則性を使って新しいことばの意味を推測し、急速にことばを増やす(「語彙爆発」)→主として名詞。

 

○手話の獲得過程(聾児)

Aに母乳をあげていたら、目が合ってきゃは!きゃはは!と笑ってくれた。ニコニコしている。うれしくなって「ママは手話習っているのよ。学校行ってるよ。楽しいよ。がんばるよ。」と知っている単語は手話で話しかけた。そうしたら、いつもは割とそっぽ向いていてむなしく手話が空を舞っているのに、この時はじーっと手の動きを見ていた。(6ヵ月)

●写真カードが大好きで、先生が出てくるとここ2,3日は「先生」とやる。午後からスーパーへ買い物に行く。家を出る前に「○○へ買い物だよ。」とやり、着くと「○○に 着いたよ。」とやると写真を指さし、「ア!」。次に,○○の看板を指差し「ア!」と言う。「そうね。同じ。同じね。○○だね」と言う。(1歳2ヶ月)

●いつも通るお花屋さんの前でのできごと。窓辺に飾ってあるくまの人形が大好きで、目の前を通るたびに満面の笑顔。くまの手話をする事が日課だったのだが、おばあちゃんと一緒の今日は散歩中ず~っとおばあちゃん専属のガイドさん。例の水がなかった噴水から、池の鯉、電車と、まぁよくしゃべる。(手話)そうこうしていると、Bがテディーベアのコーナーの近く(数十メートル離れていて、そんな所からじゃ見えない場所)からくまの手話。やたら高い所から両手を振りおろすB。何をそんなに興奮しているのかすぐにわかり、「あそこにテディーベアがあるんだよねぇ、B」と手話で話しかけると、笑顔いっぱいでおばちゃんの手を引っ張り花屋まで連れて行き、「ばあちゃん、あそこ(指差し)テディーベア(両手を胸の位置でクロス)ある(高い所から両手を振り落とす)」とお話。(1歳3ヶ月)

●いつもの噴水に「みずが ない!」のサインを送るC。おぉ!ほっぺに人差し指をつけるのはwaterの手話か!と納得しながら感動!「な~い!」と大げさにサインするCにまた感動!そして、同じことを繰り返す大切さを学ぶ。この日は何度も何度も噴水の話題を持ち出していた。(1歳3ヶ月)

●TV「いないないばあ」を見ていたら、バスが出て、「あ!」と本棚を指して、「本!本!」と言っていたので、もしかして、乗り物の本かな?と渡したら、開いて「あ!」と声を出しました。「あ、これ同じだね。バスだよ~」と会話しました。(16か月)

●寿司屋の大きな水槽に魚が泳いでいたので、そこで魚の手話を覚えさせたところ、ヨーカ堂の鮮魚コーナーで切り身のサバを買ったら、「魚、魚」と手話していた。(1歳9ヵ月)

Dが「しまった」の表現をよく使う。哺乳ビンが落ちて「しまった」、本が落ちて「しまった」。落ちる=しまった、と思っているらしい。(1歳10ヵ月)

Eが最近質問することが増えてきた。「木、葉っぱ、ロッカー、門・・」片っ端から目にしたものを指さしできいてくる。(2歳3ヵ月)

 

☆手話の発達に関して

①手話が意味を持っているらしいと子どもが気づくのは生後5~6ヶ月頃。

②座位がとれて手が自由に動く0歳後半で、自分からも手を動かすようになる。

③手話での「同じ」の概念の獲得は1歳前半。きこえる子も「同じ」の認識はあろうが、構音器官の発達が追いつかず、発語は困難。手の動きの発達のほうが早い分、手話での表出も早い。

④「形の類似性」から類推し、1歳9ヶ月児は「切り身」を「魚」と手話(推論による語彙獲得)。また、1歳10ヶ月児では「落ちる」(動き)=「しまった」などの言い間違いも音声言語同様に生じている(単語を何に適用するのかという「一般化」の問題)

                                    

(2)動詞の獲得過程

○音声日本語の獲得過程(聴児)

2歳~;・動詞の獲得は?

単語の形態の気づき ・名詞は変化しないが動詞は変わる。

「~た(ちゃった)」「~ている」「~ない」「~ます」などの文末がモノの名前でなく、動きの名前であることに気づくようになる。

・「~ている」で終わることばは、動きの名前であると理解している。

・モノが変わると、動作が同じでもわからなくなる。→特定のモノでする動作と理解。

動詞が動作に対応していることがわかる。

・「あげる」「もらう」「くれる」の理解

「AがBにプレゼントをあげる」「BがAにプレゼントをもらう」「Aが私にプレゼントをくれる」

→動詞の意味の理解には、文の構造の理解が必要。

・どの動作・行為を「同じ」とみなすか?~いくつか知っただけでは難しい。「持つ」「担ぐ」「抱く」「背負う」など、その動作の一連の「似た」動詞を知ってそれらの関係を整理して、はじめて正しく使えるようになる。

・オノマトペ~「ポーンする」「チョキチョキする」「「モシモシする」・・意味が感覚的にわかる。動詞の代わりに使って文を作る。

 

○手話の獲得過程(聾児)

●オムツ一丁で遊んでいたFが、「ズボン、はきたーい。」(手話+音声)。「Fのズボンはここにあるよ、これをはいたら?」と言うと、自分で履いていた。履けると、今度はズボンの前後を確認して私の顔を見る。「マーマー、ちがう?大丈夫?」。私が「大丈夫だよ、ちゃんと履けているよ。上手に履けたねぇ」と手話で答えると「大丈夫ねー?」と言いながら満足そうでした。は最後まで自分でできてうれしそうでした。(2歳2か月) 

●キッチンにいると、Gが「いっしょ、ご飯作る」と。自分のおもちゃのキッチンと忙しそうに行き来する。本物の人参を見せると、本物とおもちゃの人参を両手に持って、うれしそう。「ママの人参、どっち?」と聞くと、「はい!」とおもちゃをくれる。包丁で切った真似をして、「切れないな~」と言うと、本物をくれた。・・・少しのシーンで、イメージの手話が一気に思い出されるようで、夜、食事の準備を始めると、私に「ご飯作る。グツグツ。パパ家に帰る。車でブーッ。お仕事終わり。テレビ触るとパパ怒る。こわ~い。メッ。」とどんどん話が広がって来るが、一気に手話で話し始める。私もそうそう・・・ってうなずきながら聴いている。そして、何か手話で付け足そうとすると、手を押さえられ、「自分で!」と一人で話し始める。そんな時は、ただただ聞いてほしいらしい。しまいには、「ママ、新聞読んでて!」と指示。(2歳5か月) 

●「お風呂に入ろう」「お風呂洗ってくるね」などは話していても、お風呂がお水からお湯になることも説明しなきゃいけないと気づき、「お風呂をわかそう。今は水で冷たいから暖かくしなきゃ。スイッチ入れてこよう!」と言うと、大きくうなづき、台所に行ってガス台のスイッチを触っている。お風呂のスイッチは教えたことがないが、「お風呂」「煮る」という手話で「お風呂をわかす」を表現したので、「煮る」の手話を見てガス台へ行ったのだろう。いろいろ話したり、教えたりすることは多いなあと気づいたと同時に、断片的な情報から想像をふくらませて行動するRにも感心した。(2歳8か月 )

 

☆手話・動詞の発達に関して

①2歳を過ぎると手話の動詞も盛んに使うようになる。

②動詞は2~3語文で使われている。ただ、保護者の記述からは、動詞の過去や現在の時制、主語の表示などは不明。

 

(3)形容詞、「色」「位置関係」の獲得過程

 

○音声日本語の獲得過程(聴児)

「仲間づくり」をすると子どもはモノの特徴によく気づく(例「赤いモノ」「縞模様のモノ」など)。しかしモノの特徴の名前は覚えるのは遅い→1歳代で名詞9割、形容詞は1割未満。

・4歳くらいまではそのモノの名詞を知らないとそのモノの特徴に名前を付けられない。

・モノの性質は、モノと切り離さないと学べない。

・感情や味覚は直接経験できるが、モノの性質は、それがどの特徴をいっているのか判断が難しい(色、形、模様、感触、重さ・・)

・くっつく名詞によって変化する。

(例)「背が高い」「値段が高い」

・比較の基準が相対的

・いろいろな性質の強弱や大小を表すことばがある→対概念を表す言葉の共通性に気づく

 

☆色の名前の獲得

・色を見分けることはできる{これと同じ色さがして}。

しかし、「これは何色?」は難しい。色の境界をみつけるのは難しい(赤―オレンジーピンク)→自分の言語による色空間の地図を学習するのと同じ。大人が日常的に使う色の名前を身につけるには何年もかかる。

☆位置を表す言葉の獲得

・自分の体の前、後ろがわかる。

・車など固有の前のあるモノの前後がわかる

・「人形の前にボールを置いて」が確実にできるようになる

・「人形の左にボールを置いて」がわかる

「Aちゃんのは、ママと同じ所にあるよ」

→同じ色のモノを捜す。モノとモノの「関係が同じ」ことにまだ気づかない。

→関係を表すことばを使って位置関係に着目させることが大事。関係の類似性・同一性

 

○手話の獲得過程(聾児)

●朝食べたヨーグルトがこぼれたままになっているのを見て、眉間にしわを寄せて「汚い」サイン。その後、ガーゼを自分で見つけ、持って、ふいて「きれい」サイン。とても、満足そうな顔。(1歳8ヵ月)

●お風呂に入っていた時、私と姉とHで湯船につかっていたのですが、Hが「早く頭洗って!」とサイン。姉はイジワルく「ゆっくり入ろう」とサイン。するとHは、「早く、早く!」。「早く」サインは今日初めて使っているのを見ました。(1歳11ヶ月)

●トッポというお菓子を使って、ママ「Iちゃん、これ長~いね。」折れているトッポを見つけて「Iちゃん、これ短~いね。」と教えながら、長いトッポを渡したら、Iは「ママ、これ、長ーい」と言って食べました。次に、短いトッポを渡したら、「ママ、これ、短~い」と楽しそうに食べました。数を教えたり、大きい、小さいもわかってきました。(23か月)

●扇風機が突然壊れた。ママ「扇風機こわれた。止まっちゃった。」J「???」慌てている。手の動きが速い(笑)ママ「何??」Jは走って違う部屋へ。ついていくと、古い前に使っていた扇風機の所で私に「交換、交換」と手話。ママ「扇風機こわれたから、これと交換するのね!すごーい。よくわかったね」Jは壊れた扇風機を指して、「古い、古い」  (3歳4か月)

●裏庭に行って雪を触って「冷たい!」をして戻ってきたKが、今度はKの座椅子に座る猫を相手に雪についてお話を始め、冷たいだの、雪が降っているだのと伝えていた。伝え終わると椅子をひっくり返して猫をどかし、椅子を戻すと「おも~い」と何度もサイン。(2歳2ヶ月)

●補聴器屋さんに行ってきました。そこには色々なマグネットがあり、Lは祖母に手話で色を教えていました。「赤、青、ピンク、黄色、オレンジ、緑、茶色・・」。(111か月)

●時間にゆとりがある時は、「テクテクあんよしていこう!しゅっぱーつ」のかけ声で出かけます。歩かないとできない会話がたくさん生まれます。今日は"黄色の色探し"Rから始め、ポスター、電車、ポール、お花、缶ジュース、スーパーのかご・・教えきれないほどの"黄色"に出会い、二人でびっくり!お散歩は楽しいね。寒いけど(笑)(23カ月)

☆カタログ

●生協のカタログを見ているとLが興味を示しました。それから野菜飲み物などの雑貨を見せると意外にも手話もまねしてくることを発見。古いカタログを持ってきて、ペンで囲いながら「きゃべつ」「にんじん」など教えてみました。最後にビリビリ遊びをして大爆笑。今度は、カードを持ってお買い物に行こうと思います。(2歳3か月)

Mは、手話で2歳後半頃「これは何?」とよくきいていた。その後、3歳過ぎに何があったのか状況を聞くために「何?」を使っていた。3歳半になって、Mのママが満面の笑みで「自分が作ったことば絵辞典の意味が分かった!」と興奮したように言っていた。今は、名前が知りたくて、ご飯も進まないぐらい野菜いろいろなもの文字・指文字(日本語)できいている。(3歳6ヵ月)

 

☆手話・形容詞・色・位置関係の発達に関して

①形容詞や色の言葉は、2歳頃より使うようになるが、これも語尾変化などは不明。

②モノとモノとの関係を表す位置表現は、保護者の記録には記述が見あたらなかった。

 

 

(4)基礎語・基礎カテゴリーから関係性のカテゴリーへ

 

☆手話での概念の発達に関して

①モノの名前に関する上位概念の分類カテゴリー

これは保護者の記述にもある程度は存在する(「野菜・果物・飲み物・魚など」。手話でのラベルは限られていることや1~3歳代という発達的な問題からか、あまり記述はみられない。

②関係性が含まれる語彙 

これについても3歳代までの保護者の記録には、記述はみられなかった。

 

 

2.考察

 

(1)語彙の習得と類推能力について

単語の意味は、一つの単語だけでは決まらない。語彙という全体的なシステムの中で、他の単語との関係で決まってくる。しかし、だれでも始めからそのような全体構造をもっているわけではない。きこえる子どもは、1歳代の単語獲得数がわずかの時期に、それらの語彙の要素間に共通するパターン(規則性)を見出すことで語彙を拡げていく。例えば、名詞であれば、「形」の類似性に着目することで「わんわん」「にゃんにゃん」といった語を獲得する。あるいは、形のない物質であれば、その「材質」の類似性に着目し、「水・牛乳・砂糖・砂」といった語彙を獲得する。さらに、動詞では行為や動作自体の類似性(「歩く・走る・座る」)、形容詞であれば、そのモノの状態や性質の類似性(「大きい・新しい・赤い」)に着目することで語を獲得していく。こうした事実から、語彙獲得に最も重要なことは、語彙獲得を可能にする「類似」「類推」(analogy)能力の有無であることがわかる。

では、この点においてきこえない子はどうであろうか? WISCⅣには、言語理解(言語性)の下位検査として「類似」が配置され、知覚推理(動作性)の下位検査としては「絵の概念」(ITPAでは「絵の類似」)が配置されている。しかし、語彙獲得が困難な幼児においては、一般的に前者は低い(例「バナナとリンゴはどこが似てる?同じ?」)。しかし、後者の「絵の概念」では殆どの子に遅れはみられない(知的障害を併せ持つ子を除いて)。このことから、例え言語性「類似」ができなくとも、類推能力それ自体は持っていると考えてよいと思われる。したがって、問題は以下の点であろう。

 

①基礎語・基礎カテゴリーは、手話でどのように獲得されるか。また、日本語ではどのように獲得されるか。

 

②手話で獲得された基礎語・基礎カテゴリーは、どのような「同じ」(機能・用途・材質・言語・抽象的な関係性など)という観点から分類され、概念カテゴリーとして習得されるのか。また、日本語ではどうか。

 上例のような階層性のあるカテゴリーが着実に構築されていけば、そのカテゴリーを使ってさらに抽象的な概念を習得することができる(「りんご→・・・→農産物・農業・特産品・食料自給・貿易・輸入→・・・TPP」、「名詞・動詞・助詞→・・複文・受動文」)。

  PP.pptx

 

 

 

しかし、WISC「類似」に課題をもつ子どもたちは、「バナナ」「リンゴ」(基礎語)は手話や日本語で名前がわかっていても、その類似点を問われて、「食べ物」「食べる」「果物」という共通の(名前のつく)概念カテゴリーがわからなかったり知らなかったりする。仮に「果物」はわかっても、さらに「ちょうちょーはち→昆虫・虫」「タイヤーボール→丸い・回る」「電車―バス→乗る・運ぶ・乗物」「クレヨンー鉛筆→書く・文房具」など、目に見えるモノであっても、様々な概念カテゴリーがことばとして習得されていないことが多い。

したがって、こうした子どもたちに必要なことは、生活の中で経験したことを言語化していくと同時に、ターゲットとなるモノ・ものごとについての概念カテゴリーを視覚的に理解できるように工夫することが必要である。そうした視覚的な構造化によって、ことばによって世界を切り分け、整理していくことができることに気づかせることではなかろうか。ただ、上図でもわかるように、手話だけでは切り出せないカテゴリーがある。これについては、指文字や文字などの日本語を習得し、カテゴリーを示す必要があろう。

 

(2)関係概念の習得と類推能力について

 基礎語・基礎カテゴリーがある程度構築されると、モノとモノとが「同じ」という、モノ同士の直接的な共通点だけではなく、モノ同士の「関係が同じ」という関係の類似性・同一性にも目を向けられるようになる。但し、そのためにはことばが必要である。例えば、今井が伸びている「カラーボックス」の「同じところにシールが入っているから探して」という問題において、3,4歳の幼児では、色を手掛かりに探していたが、「上」とか「真ん中」といったことばを用いることで、そのモノではなく、モノ同士の位置関係に着目できるようになる。つまりモノ自体への認識から、さらに抽象的な関係の認識へと目が向けられるようになる。

 しかし、0~3歳代までの保護者の記録(500)の中には、そのような関係性の認識に関わるような記述は見出すことができなかった。関係をあらわすことばは、3歳代までのきこえない子どもの生活の中では、ほとんど使われていないのかもしれない。

 「見た目も性質も全く違った」モノ同士を、「同じ」とみなすことは、幼児にとっては簡単なことではないが、そこにことばが存在することによって思考が可能になる。例えば、「錠:鍵」と同じ意味を持つのは「ペンキ缶:刷毛か缶切りか?」の問題では、鍵が「開ける」ということばが手掛かりになる。このようなモノとモノの関係を考えるときにはことばが必要になる。Jcossにおける「位置詞」「比較文」「受動文」などの通過率の低さつまり文理解の躓きの源をだどると、こうしたモノとモノの関係の言語化に行き着く。従って、

幼児期においても、生活の中での会話で、用を足して終わりではなく、思考を深める会話をする必要がある。例えば以下のような配慮である。

 

a.ことばを使って順序立てて考えさせる

(例「はじめに~、次に~、そして~、おわりに~」)

b.因果関係や理由を考えさせる

(例「~だから~になった。」「~になったわけは~」)

c.予想したり、仮定して考えさせる

 (例「~だから、~だろう」「もし~だったら?」「例えば~」

d.問題解決の方法を考えさせる

(例「うまくいかなかったのはなぜかな?」「どうやったらできるかな?」)

e.共通点や相違点を考えさせる

(例「牛と馬とはどこが同じ?」「じゃ、牛と人間は?」)

f.空間、位置、比較、数量、時間などをあらわすことばを使う。

  (例「上から二番目」「車の左側」「半分まで入れる」「3つに分ける」「2つずつ配る」

 

このように考えてみると、きこえない子も基本的にもっている「類推」能力を駆使し、「基礎語・基礎カテゴリー」という語彙習得から、複雑に構造化していく概念カテゴリーを構築していくこと、また、習得したことばを使って関係カテゴリーを構築していくことが必要であり、それは発達早期においては手話を用い、やがて日本語をも駆使しながら思考を重ねることで、豊かな「心的辞書」(mental lexicon)を作り上げることは、十分、可能性のあることではないかと思われる。

 

【用語説明】

『カテゴリー』・・・「イヌ・ペット・動物」(名詞カテゴリー)、「食べる・飲む」(動詞カテゴリー)、「大きい・白い」(形容詞カテゴリー)、「前・後ろ・上・左」(位置関係カテゴリー)など同じ種類のモノ・動作・状態・材質等の集まり。固有名詞はカテゴリーではない。「同じ」という共通の特徴を抽出して、「世界を切り分ける」重要な概念。

『基礎語・基礎カテゴリー』・・・「形態素」と同義。これ以上、分割・分類できない基本的な語。「イヌ・りんご」など。このようなモノのカテゴリーは、モノをまとめる抽象度の度合いによって階層的に構成されている。(「プードル<イヌ<ペット<ほ乳類<動物<生き物」など)「ワラシ・イナダ・ワラサ・ブリ」

『心的辞書』(mental lexicon・・・人は、頭の中(記憶)に何万語も載っている「辞書」をもち、その辞書に収められた情報(単語の音・意味・文中での使用法、視覚・聴覚イメージ、感情など)を駆使して、人の話を理解し、人に伝え、文を読み、書いたりしている。それら掲載された語彙は、互いに関連づけられた構造をもった集合体(システム)であると考えられる。きこえない子どもの多くは、そこに収録された語彙の量も少なく、構造も単純で、読み書きや抽象的な思考をするには、十分とは言えないと考えられる。

 

【参考・引用文献】

今井むつみ『ことばと思考』岩波新書(2010

同  『ことばの発達の謎を解く』ちくまプリマー新書(2013)

 

*なお、上記の仮説に基づいた実践例は、今回は割愛する。