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教科書をわかりやすくする方法

はじめに

 

 日本語力の厳しい子どもにも、聴児用につくられた教科書(検定本)をそのまま使いたいという願いは、理解できないことではありません。しかし、その子どものもっている日本語力を無視しては、本当に教科書の内容を理解し、自分で読む力を育てることにはつながりませんし、内容がわからなければ子どももやる気を失います。

そこで、よく行われる方法は、その子どもが理解できる程度の易しい文に書き換える方法(リライト法)です。この方法は、挿絵など教科書の基本的な体裁をそのまま残したり、単元のねらいを残しつつ子どもの日本語力に合わせるという点で確かにメリットがあります。しかし、物語文など文学的な作品においては、勝手に文章を書き換えることは簡単にはできません。といって、そのままの文章では、語彙力・文法力などに限界がある子にとっては、「読み聞かせ」の域を出ない学習教材になりかねません。

 では、リライトしないで自分の力で読める程度の文に変える方法はあるのでしょうか? 実は、あるのです。それは、ひとつひとつの文を基本文型に戻し、修飾語句を省いて、文を2~3語文のシンプルな単文にするという方法です。

この方法は、会話文などを除いてほとんど書き換えはしません。

基本文型とは、いくつかの決まった文型のことで(『きこえない子のために日本語チャレンジ!第2章文のかたち(P49~)』参照)、格助詞は、「が(は)、を、に、と」という4つしか使いません。そして、実は、文のほとんどは、この基本文型でできています。ですから、基本文型さえしっかり指導しておけば(動詞・助詞を含みます)、子どもたちは、その範囲で、自分で文を読み、その内容を理解することができます。以下、国語教科書(学校図書)小2年(上)『ヤマタノオロチ』を例にして、基本文型を用いた指導方法を紹介します。

 

1.教科書の原文

(但し、ここでは漢字使用。省略されている語は〈 〉で表示した)

 

ヤマタノオロチ 木坂涼  

(第1段落)

 ①天の、高天の原を追われたスサノオノミコトは、下界の、出雲の国のとりかみという土地に、やってきました。②そこには、斐の川が流れていました。③「さて、どっちへ行ったものか。川上か、川下か。」④〈ミコトが〉迷っていると、川上から箸が流れてきました。⑤「箸が流れてきたということは、川上に誰か住んでいる証拠だ。」⑥そこでミコトは、川上に歩いて行きました。

 

(第2段落)

⑦〈ミコトが〉しばらく行くと、立派な屋敷がありました。⑧〈ミコトが屋敷の中を〉見ると、おじいさんとおばあさんと娘が、泣いています。⑨「どうして〈あなたたちは〉泣いているのですか。」⑩ミコトが尋ねると、おじいさんが応えました。⑪「私は、この国を治めるオオヤマツミノカミの子で、アシナヅチと申します。⑫妻はテナヅチ〈と申します〉、娘は、クシナダヒメと申します。・・・」

 

「証拠」「屋敷」「追われる」「治める」など少し難しい語句もありますが、それほど沢山あるわけではありません。しかし、日本語の語彙数が1,000語に満たない子たちにとっては、わからない言葉はこれだけでは済みませんし、助詞もよくわからない、文には語の省略がある、重文・複文になっている・・・などわからないことばかりで、挿絵と教師の説明なしにこの文を自分で読みとることはできません。

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2.文を基本文型に変える

 そこで、文を子どもにも理解できそうなシンプルなかたちにします。基本的な構造と限られた助詞の2~3語文です。文末が動詞で終わる基本文型は、以下の5つになります。

 第Ⅰ文型「~が(は)+動詞」

 第Ⅱ文型「~が(は)~を+動詞」  

 第Ⅲ文型「~が(は)~に+動詞」

 第Ⅳ文型「~が(は)~と+動詞」

 第Ⅴ文型「~が(は)~に~を+動詞」

 *もう一つ「~は~が+動詞」も、よく使われますし、実際、この単元にも使われています(ここではとりあえず第Ⅵ文型としておきます)。

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では、本文を基本文型にしてみます。

 

(1)模造紙に書いて黒板に貼り付けた第一段落の文を一緒に読んだあと、「文の区切り(句点)の前にある動詞はどれ?」と、子どもにそれぞれの文の「述部」にある動詞を探させます(動詞の語尾変化(活用)は、それとして学習する必要があります)。動詞を見つけたら、緑色ベース型に塗ります。(ここでは二重下線で表示)例を示します。

①「天の、高天の原を、追われた スサノオノミコトは、下界の、出雲の国のとりかみという土地に、やってきました。」

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2)次に、述部の動詞に着目させます。①の文では「やってきました」に着目させ、「やってきただけではこの文は何が言いたいのかわからない。いったいだれがやってきたの?」と問います(これが動詞「やってきました」に必須の「情報」です。)子どもは「スサノオノミコト」と応えるでしょう。これで基本文型はできあがりです。述部の動詞に必須の情報をみつけるだけです。 

→「スサノオノミコトやってきました

 

これが、①の文のバックボーンになっている基本文型です。しかし、これだけではまだどこか説明不足の感じがします。「どこにやってきたの?」と尋ねたくなります。それは「が」ではなく「は」が使われているからです。もし「スサノオノミコトやってきました」であれば、それはそれで完結した文です。ところが、「は」は、「~について言えば」という意味があるので、この文は「スサノオノミコトについていえば、やってきました。」となって説明不足の文になるからです。そこで、この文に、「どこ」という部分を入れてみます。

 

→「スサノオノミコト、下界の、出雲の国のとりかみという土地やってきました。」 

 

「下界」「出雲の国」の「の」は、「とりかみという土地」を説明するための「の」ですから基本文型には関わりありません。また、これではまたまた文が長くなってしまいます。そこでこの部分を省いてみます。そうすると、以下のようになります。

  

→「スサノオノミコトとりかみという土地やってきました。」

  

 これが①の文の基本文型です。そして、この文の助詞「に」は、行き先を表す「に」です(助詞の指導は、それはそれとして必要です)。

 

(3)以下、同様に、それぞれの文を基本文型にしていきます。文中にある「は」「が」「に」「と」といった基本文型に必要な助詞とその前にある名詞をさがして、名詞は黄色長方形、動詞は緑色ベース型、助詞はそれぞれの助詞記号の形に色を塗ります。

 

②③の文では、以下のようになります。(ここでは下線だけで表示)

 

②「そこには、斐の川 流れていました。」(第Ⅰ文型)

    →「斐の川 流れていました。」

 

③「『さて、どっちへ(=に) 行ったもの(=行こう)か。川上か、川下か。』」(第Ⅲ文型) →「どっち 行こうか?」

 

現代においては、「へ」は方向性を示す用法として「に」と区別して用いられますが、基本文型として考える時は「に」を用いることにします。また、「行ったものか」も、基本文型では「行こうか」としておきます。

 

3.抽出した基本文型を別の模造紙に書いて整理する

それぞれの文から取り出した基本文型を別の模造紙に書き出します。本文の段落は、原文の半分くらいの長さになり、これなら子どもも負担なく読むことができますし、本文の要旨を読みとることができます。そして、この基本文型を使って、動詞の活用や助詞の用法などがまだ理解できていない子どもに教えることもできます。

詳しい内容を知りたいときや作品の鑑賞をするときは、本文にかえって読むことになります。

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4.子どもに「基本文型ワークシート」を書かせる

また、子ども用の「基本文型ワークシート」を用意して、子どもにも書かせます。名詞は黄色、動詞は緑、助詞は赤などで色分けすると、品詞の分類と文の基本構造が視覚的・構造的によくわかるようになります。

このような方法で、長くて複雑になっている教科書の文を2~3語文のシンプルな形にまとめることができます。

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