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受動文の指導~基本的な直接受身から

受動文は、日本語ではごく自然に用いられ、私たちにとってはなじみ深い表現の方法です。幼児でも兄弟げんかで弟が「兄ちゃんにぶたれた~」などと泣いているのを見かけたりしますし、私たちも「雨に降られてびしょびしょだよ」などとしばしば使います。また、教科書の中でも受動文はほぼどの出版社の教科書にも小1から出ています。しかし、受動文の使い方はけっこう複雑です。大きく分けると直接受動文(受身)と間接受動文(受身)があり、前者が通常の受動文です。直接受身とは「~を」をとる文(例「兄が弟を叩いた」)と「~に」をとる文(例「母が私に言った」)とがあります。一方で先にも引用した「雨にふられた」という受動文は能動文にすると「雨がふった」で、「を」も「に」もとりません。自動詞だからです。直接受身は英語の受身にもありますが、自動詞が受身になるのは日本語特有のもので「間接受身」と言い、「迷惑」という意味が含まれます。教科書の中にも登場しますが、小1の教科書ではまだ出てきません。(例えば「スーホの白い馬」小2下・光村図書などに出現)以下、各教科書の初出箇所をみてみましょう。(  )内に能動文も対比的に書いてみます。


①光村図書(1年上)「たぬきの糸車」⇒「わなになんかかかるんじゃないよ。たぬきじるにされてしまうで。」(⇔能動文「(だれかが)(おまえを)たぬきじるに してしまうで」)

②教育出版(1年上)「だれが、たべたのでしょう」⇒「まつぼっくりがおちています。まわりだけが、かじられたものもあります。」(⇔能動文(だれかが)まわりだけを かじったものもあります。)

受動文1.jpg堂(1年下)「いなばの白うさぎ」⇒「かわを はがれて いたかろう」(⇔能動文「(だれかが)かわを はいで (おまえは)いたかろう。」)

④東京書籍(1年下)「いろいろなふね」⇒「いろいろなふねが、それぞれのやく目にあうように つくられています。」(⇔能動文「(だれかが) ふねを それぞれの役目に あうようにつくっています。」)

⑤学校図書(1年下)「めだかのぼうけん」⇒「田んぼの水は、たいようのひかりで、すぐにあたためられます。」(⇔能動文「たいようのひかりが 田んぼの水を すぐにあたためます。」)

 

 これらの使い方をみると、いずれも能動文は「~を」をとる直接受動文で、それぞれどの文も主格(主語)について何かを述べたいときに受動文のかたちで使われているということがわかります。ただ、どの文も能動文にすると日本語としては不自然です。とくに④などは、主語を明示すると明らかにおかしくなってしまいますし、筆者としては「船とは一般的にそういうものだ」という意味で使っているので、それにそぐわない文になってしまします。日本語では行為・動作の対象となる語を主格にもってきて、主格について言いたいことを受動文であらわすのが自然なのです。


〇受動文をきこえない子はどう理解しているか?

 

受動文2.jpg上に述べたように、受動文は教科書の中ではかなり早い段階で出現しますが、その意味や使い方は日本語の使い方に習熟していないと難しい構文です。そのため、受動文で書かれている文がきこえない子に正確に理解されているかというと、おそらくかなり難しいというのが実情でしょう。

右の資料は、ある聾学校の小1児童のJcoss(日本語理解テスト)の結果です。受動文の問題は4つあり、この4つ全部正解の時、「通過」と評価しますが、1年生12名のうち受動文の問題を通過(4問正解)した子どもは2名、あと1問できれば通過という子も含め

受動文3.jpgのサムネール画像れば3人だけというのが実態です(因みに聴児では小1で12人いればそのうち8人は通過します)

そして児童の誤り方の特徴をみると、半分近くの児童が受動文を能動文(平叙文)として理解してしまっていることがわかります。というか、文とはふつう、この問題文で例えれば「馬が 女の子を 追いかけています」という言い方が当たり前で、この文の表すところを「女の子」の立場から表現できる(視点を転換する)ということがまだよくわかっていないということです。 

では、子どもたちはどのようにこの文を読んでいるのでしょうか? 実はこれらの児童は、助詞もまだよく理解できていません。また、名詞「馬」「女の子」は理解し、動詞「追いかける」の基本形もだいたい理解しているようですが、受身の言い方はわかっていません。ですから、わかる単語「馬」「女の子」「追いかける」を手掛かりにして絵から推測して読んでいます。「馬、女の子、追いかける」と順に読めば(語順方略)、子どもの頭の中に浮かんでくるのはやはり①だろうと思います。

  また、もう一つ難しいことがあります。それは上にも少し述べましたが、受動文(授受文、使役文もそうですが)は、同じことを立場を変えて言っているという「他者の視点」がもてないと理解ができない文だということです。「誰のことを言おうとしているのか」という関係の変化・視点の転換ができないと理解が難しいのです(これはきこえない子が、なかなか「自己中心的な視点」から脱してなかなか他者の立場からの見方を理解できないこととも関係していると思われます)。

 

〇受動文の指導はまず直接受動文から

 

受動文4.jpgこのような3つのことを考慮しながら指導しなければならないのが受動文です。そこで児童には、まず、受動文の中でわかりやすい「直接受動文」で指導をしますが、その前に、「~が~を+動詞」(例「太郎が 花子を 追いかける」)や、「~が~に+動詞」(例「太郎が 校庭に 行った」)などの構文の中で助詞の指導をしておく必要があります。

*助詞の指導については下記を参照
本ホームページTOP>日本語文法指導>助詞の指導

*構文「~が~を+動詞」(文型2)と「~が~に+動詞」(文型3)の指導については、以下を参照。
本ホームページTOP>日本語文法指導>構文・接続詞の指導>日本語に文型はあるか?

また、動詞の活用表を用いた1~3グループ動詞の活用についても習熟しておく必要があります。

*動詞の活用については以下を参照

*本ホームページTOP>日本語文法指導>文法指導の順序>動詞・形容詞等の指導

nanchosien.com/09/09-1-1/09-2/

 

受動文5.pptx.jpgそのうえで受動文の指導となりますが、受動文の動詞は、動作を受ける側に立った表現の仕方ですから、それに慣れるためには『絵でわかる動詞の学習」の中にある「受動文」のワークを使うとよいと思います。

*『絵でわかる動詞の学習』1,700円,

難聴児支援教材研究会発行

本ホームページTOP>出版案内⑥>日本語のワーク>「絵でわかる動詞の学習」

nanchosien.com/publish/cat58/post_23.html


受動文6.jpgのサムネール画像受動文.jpg

┃難聴児支援教材研究会
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