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「ことばのネットワークづくり」

 このワークブックは幼児・児童向けの語彙の習得・拡充をめざしたワークです。「どっちのなかま?」「ここはどこ?」「どこが似ているの?」「どっちにも入るのは?」など13の項目に分けて120枚程のワーク(半分はCD掲載)から成っています。

 これまで何度か書いてきましたが、きこえない子の語彙獲得の問題点として、

1.語彙数が少ない、

2.語の概念的な拡がりがない、

3.それらの結果、抽象語いの獲得が困難になる、ということが指摘されてきました。しかし、問題がわかっていながらどうすればよいのかという対応がなかなか伴ってこなかったのがこれまでの聴覚障害教育でした。

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さて、子どもの語獲得のメカニズムについてもう一度復習してみます。子どもの語の獲得を頭の中に作ることばのファイルの編纂に例えて考えてみると、日本語であれ手話であれ、まず最初は、一つ一つのモノ(最初は名詞が多い)について、そのものにまつわるエピソード中心のことばのファイル(つまり「用例」中心のファイル)を自分の頭の中につくっていきます。例えば、リンゴを食べるという経験をしたとすれば、子どもの頭の中には、そのリンゴのもっている特徴(リンゴの形・色・味などの感覚)と共に、そのリンゴにまつわるエピソード(ママと八百屋で買った経験など)が書かれたファイルが作られるわけです。しかし、リンゴにまつわる経験は一人ひとり皆違いますから、同じ「リンゴ」のファイルであっても、そのファイルの中身は一人一人違います。1行しか説明がない子もいれば、自分が経験したことの沢山の用例(イメージ)や類義語が書かれている子もいるわけです。きこえない子のファイルの特徴は、そのファイル自体のかず(枚数)が少ないこと(=上記1.の語彙数の不足)と、それぞれの語のファイルに書かれた説明事項が少ない(=上記2.の語の概念的拡がりがない)ということです。

 

きこえる子は、1歳から始まる言語獲得から1年ほど経って2歳頃になると、爆発的に語彙が増えるようになります。それは、1年間の間に獲得していった個々のモノについてのファイルが増えていき、だんだんとそのモノと同じようなモノがあることもわかってきます(例えば、「リンゴ・ミカン・ぶどう・桃・イチゴ・スイカ・・・」)。このような個々のファイルがたまっていくと当然そのモノ同士の共通性(どれも甘いぞ。ご飯の後とかおやつに食べることが多いな。水っぽいものが多いなとか)もわかってきて、これは一つの共通のカテゴリーに括れること、そのカテゴリーには「果物」という大きな括りのレッテルがあることなどを知っていきます(きこえる子は、あえて意図的に教えなくともどこかでちゃんとそうしたことばを聞きかじっている。そこが違います)。またもう一つ大事なことは、語は増えれば増えるほどそれらを比較照合する機会も増えるので、そのモノの概念的豊かさはますます豊かになるということです。例えば、りんごしか知らなかった時のりんごのファイルにはあまり記述がないのに、みかん、ぶどう、桃、いちごを知ってからのりんごのファイルにはいろいろなことが記述されているはずです(みかんと同じ季節に食べることが多いとか、食感は桃とは全く違うとか・・)。こうしてモノの概念もますます豊かになっていくわけです(ということは、1歳から2歳代の間にきこえる子ときこえない子は、語の獲得数に相当の「差」がつくということです。それを補えるのはこの時期手話しかありません)。

 

やがて概念カテゴリーも「果物」だけではなく、ほかの似たモノでは「野菜」もあるしその野菜にはまたいろいろなモノがその中に詰まっているとか、では米とかパンはどのカテゴリーなんだ?など、どんどんと高次化・複雑化していきます。そして、それらはやがてさらに大きな共通性をもった「農産物」というカテゴリーで括れることや、それらを仕事として担っている人たちの仕事を「農業」というとか、だんだんと抽象的な概念化ができるようになっていきます(もちろんそれは小学校以降です。だから小学5年で「日本の農業」が学習できる)。

これが語獲得のメカニズムです。一つ一つの具体的なモノの獲得に始まり、それらが寄せ集まってさらに大きなカテゴリーが作られ、膨大な情報・知識・イメージをもったファイルが作られていく。最初の語獲得の時期で躓くとなかなかそれを取り戻すことは困難です。だから、絵日記(=子どものエピソード。用例ファイル)だけでなく、ことば絵じてん(=概念カテゴリーのファイル)も作りましょうと呼びかけてきたわけです。

そして、それと同時に、幼児期後半になったら、視覚的な教材も使って、あたまの中のことばの概念を整理しましょう。整理することで記憶しやすくなるし、記憶も確かになります。「ことばのネットワークづくり」はそれを視覚的に支援する教材です。

 

 

◎まとめてよぶことば

 小学校低学年の国語教科書には、どの教科書にも必ずことばの概念カテゴリーをテーマにした単元がありますが、この単元の学習が苦手な子が多いのです。

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 それは、聴覚障害児の課題としてしばしば指摘される「(日本語)語彙数の少なさ」「(日本語)語の概念の狭さ」と関係していると思います。

 私たちの使っていることばは、この「カテゴリー」(=同じものをくくって仲間を作るということ)ということと切っても切れない関係にあります。例えば、「イヌ」とか「ネコ」は、同じ特徴をもったいきものをくくったときの言葉です。もし、このくくる言葉すなわちカテゴリーがなかったら、一匹一匹別々のイヌにそれぞれに名前をつけていくしかありません。それは「イヌ」だけでなく、「ネコ」も「ゾウ」も「りんご」も「ミカン」も「机」も「椅子」もです。そんなこと現実には不可能です。私達は「イヌ」とか「ネコ」という基礎的な単位の言葉(これを「形態素」といいます)でくくることによって、その言葉を使ってスムーズに会話し、生活しているわけです。ですから、手話であれ、日本語であり、英語であれ、言葉を獲得している子・人は、このカテゴリーでくくるということが、当然ながらできているわけです。

 

では、なぜ、きこえない子は、その言葉のカテゴリー(ここでは、日本語の問題に絞ります)で躓くのでしょうか? もちろん、第一義的な要因は「きこえない・きこえにくい」からです。きこえる子のように、音声から入力される音声日本語が圧倒的に少ないからです。きこえる子は、1~2歳の頃に「わんわん」「にゃんにゃん」といった言葉を身につけます。つまり「イヌ」「ネコ」とい概念カテゴリーを獲得します。このとき、「イヌ」しから知らなかった時の「イヌ」の概念は、「ネコ」を知ったあとでの概念と同じかといったら、

違います。なぜなら、ネコとの比較照合によって、例えば「ネコはイヌより顔が細長い」とか「ネコは背中から落としても足から降りるけど、イヌはそのまま落ちる」といったようにイヌ自体の概念も豊かになるからです。つまりイヌの概念もいわば上書きされるわけです。そして、次に新しい生き物(例えばトラ)を見たときに、既知のカテゴリーと照合して「これはイヌとは違う。ネコに似ている。でもネコとも少し違う。もっと大きい」などと推論し、名前を教えられて新たに「トラ」というカテゴリーを作ります。このようにカテゴリー間を比較照合し、その関係を整理しながら語を獲得していきますから、元の語も上書きによってますます概念的に豊かになり、語と語、カテゴリー間の関係も整理しながら記憶していくので、どんどんと語彙数も増えてくわけです。

 

 このような内的システムが作動するためには、一定の語彙の獲得が必要で、その時期がきこえる子では2歳代に来ます。では、きこえない子ではどうか?と考えると、音声日本語ではやはりちょっとこの年齢では難しいと思います(手話は視覚言語なので可能です)。

また、入力条件がきこえる子よりは劣るので、きこえる子に追いつくということも難しいわけ(いわば並行している在来線で新幹線を追いかけるようなものです)。このまま行ったのではますますその差は広がる一方になります。じゃ、どうするか、ということで、ぜひ

取り組んでほしいのが「ことば絵じてん」作りです。基本的なねらいは多様な概念カテゴリーの構築ですが、これは、本当にいろいろな使い方ができます。1歳児や重複のお子さんのコミュニケーションの補助手段にも使えますし、小学生の学習にも使えます。例えば、光村図書の国語小1上では、ちょうど「とりのくちばし」という単元をやっている頃ですが、「くちばし」というインデックスでいろいろな鳥のくちばしの写真をじてんに貼って、それらがどう違うか調べるのもよいと思います。鳥のくちばしは、なにを餌にするかで違いますし、また手の代わりもしていることなどいろんなことを知ることができると思います。

そして、このような活動をしつつ、『ことばのネットワークづくり』で、獲得した言葉や知識を整理するとよいと思います。

*関連記事「掲示板過去ログ抜粋>ことば絵じてん

 以下は、このワークブックを使った方から寄せられた感想の一部です。

 

読者からの感想

・「内容が濃く、上位概念を分かりやすく教えられるし、こういうのを求めていました!!!!こどもがさっそく取り組んでいて、楽しく学べています。」(大阪府・読者)

 

・「難聴学級の児童の指導に大変役立っています。ふつうに喋っていてもことばの概念が豊かに育っているかどうかはまた別のことなので、このテキストで小学生のことばの指導を楽しくやっています。」(都内難言学級担任)

 

「ことばのネットワークづくり」は、海外で日本語を学ぶ子ども達に使用させていただ

 き、まだ文字が読めない書けない子どもに大変有益に使わせていただいております。一般的

 な幼児向け国語ドリルでは歯が立たなかった子どもでも、こちらの教材は理解しやすく、

 切ったり貼ったりの作業もあったりして、楽しんで取り組んでくれます。ひらがなが読

 み書きできるようになるために、日本語の語彙と自然な表現をどれだけ理解し、身につけて

 いけるかが土台となることを実感しています。これからもこちらも教材でいろいろな境遇の

 子どもが楽しんでことばを学んでくれるようにと願っています。」

                      (海外の日本語教育関係 者からの感想)

 

 

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