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助詞をどうやって教えてる?~子どもが楽しめる教材とは?

○助詞はどのように指導すればよいでしょう?

 「が」とか「を」「に」「で」といった助詞はそれだけでは意味を持たず、文の中で名詞と名詞、名詞と述語(述部)など、文中の語と語の関係について意味をあらわす「機能語」なので、文の中でしか使えません。また、日常会話の中では助詞は頻繁に省略されますし、たとえ表出されたとしても音圧も小さく瞬間的なので、音声だけの日常会話を繰り返していてもなかなか身に付きません。このような理由から、きこえない子は多かれ少なかれ助詞が苦手です。しかし、助詞がわからないと文は正確には読めません。「おじいさん( )おばあさん( )引っぱって」の文の( )に入る助詞が、「が」なのか「を」なのかでは、意味が全く違ってしまいます。助詞がわからない子は、文を見ても助詞が( )のような空欄になっているのと同じですから、知っている単語だけから推測して読むしかありません。このようなことから、聾教育の中では長い間、「助詞は永遠の課題」とまで言われてきました。そしてその傾向は、これだけ人工内耳が普及した今もほとんど変わっていません。

しかし、21世紀になって聾学校の中で手話を使う実践が進み、また、外国人への日本語

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教育の中で磨き上げられてきた「江副文法」(新宿日本語学校長江副隆秀氏が築かれた日本語指導法)などの導入によって、助詞そのものを文字カードにして動作化したり(江副文法)、手話を使って助詞の意味を教える方法(「助詞手話カード」大塚ろう学校)が開発・実践され、成果も挙げてきました(*その成果については、右のグラフによって検証できます。Jcoss=「日本語理解テスト」の項目別通過率=ある文法項目について10人が10人とも全員その問題を通過(=4問全問正解)していれば通過率100%、5人なら50%)が、時間と共に向上していることからわかります。4年ごとにとった項目別通過率の折れ線グラフはだんだんと向上し、聴児の平均に近づいていることがわかります。

このことから、継続的・系統的な日本語文法指導によって子どもの日本語を理解する力は確実に向上することがわかります。では、助詞はどのようにして指導すればよいのでしょうか?

 

〇小学生の助詞の指導~どうやって導入するか?

小学生の日本語文法の指導は、①動詞・形容詞の活用の指導と②助詞の指導が中心で、これにさらに児童の実態に応じて③名詞修飾や接続詞、複文、受動文や授受文、使役文、比較文などの構文の指導を加えていきます。小学生は自立活動とか国語などの授業の中で助詞を取り上げて教えます。これについては、このHPでもすでに何度も取り上げてきていますので、ぜひ記事をご覧ください。ここでは助詞の指導に関連する記事のみ以下に取り上げておきます。

①PTOP>助詞テスト 

助詞テスト - 難聴児支援教材研究会 (nanchosien.com)

②HP・TOP>YouTube日本語講座>NO16NO26 

11-1 YouTube日本語講座  全回分テキスト・問題(ダウンロード) - 難聴児支援教材研究会 (nanchosien.com)

 では、本当にこのような指導をやって効果はあるのでしょうか? それについては、最近いただいた、ある地方の難聴学級の先生からのメールと外国人子弟の日本語教育の担当の先生からのメールを紹介させていただき、子どもにとって視覚教材動作化・身体化がどれほど子どもの心を惹きつけ、理解を促し、やる気を育てるものであるかを知っていただきたいと思います。

 

*難聴学級担任の実践から

○月×日 

今、文法指導を本格的に始めています。すると、おしゃべりの間にも『あっ、〝引く〟は動詞!あっ、11時半は時数詞』と楽しそうに、嬉しそうにわかる喜びを伝えてくれます。子どものこのような反応はとても嬉しいものです。まだまだ始まったばかりですが、一緒に頑張ります。

 ○月×日

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プリント学習で非可逆文の絵があり、それを見てA子は大笑い。また、掲示物の手話助詞記号をよく見ていて、担任『どの〝に〟かな?』 A『△年□組だから...この〝に〟を使う。△年□組〝にー(強調して)〟行く。』 担任『尋ねる文は?』 A『どこ〝にー(強調して)〟笑』と楽しんで文法を学んでくれています。

 ○月×日                                             

 A子が誰かとおしゃべりする中で好きな勉強の話になり『Aは言葉の勉強が好き!』と発言し、隣の学級の先生が驚いていました。CD(ワークのオプション教材)から出したプリントも『やりたい!やりたーい』と言ってくれています。言葉の勉強はとても気に入っていて本人の希望で朝いちばんで名詞の前に形容詞をつける練習をしています。とても楽しんでやっています。「おいしい+団子」「広い+教室」「かしこい+A」(自画自賛!笑)など。

今日も「言葉のプリントやりたーい!」と今日もプリント棚から6枚も持って帰るなど

言葉への興味関心が出てきて嬉しく思っています。

 

 このようにして始まった文法指導でしたが、当初は周囲からは「助詞の指導? 難聴児にそれって難しくない? 子どもが苦しくなるんじゃない?」と言われたりもしました。確かに、私たちは「文法指導」ときくと中学や高校で学んだ"あの小難しい国文法の学習"を想像してしまいますからその心配もわかります。しかし、やっている内容は理にかなっており、小学校1年生でも、いや年長さんでもわかる内容で、しかも楽しく学習できることばかりです。こうした「楽しくやる気を起こさせる学習」の結果として、子どもの日本

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語力は伸びていきます。右のグラフは、ある聾学校で文法指導を始めた頃の児童のJcoss通過項目数(20項目中何項目が通過しているか)の結果です。指導を始めた頃の24年生の平均通過項目数は、それぞれ27.2項目(年長レベル)、37,8項目(同左)、410.2項目(小1レベル)でしたが、2年後はそれぞれ14.1項目、15.3項目、17.2項目まで伸びました。17.2項目は聴児の到達するレベルです。2年間継続的に指導をすれば、テキストベースで文を読む力がつきます。つまり教科書を自分で読んで理解する力がつきます。こうして基礎的な「読みの力」をつけた子どもたちはその後に進学した聾学校での指導の効果もあり、26名中17名(3分の2)が大学に進学していきました。

 

*日本語教育の担任から

 視覚教材と動作化による助詞の指導は難聴児だけでなく、外国人子弟の日本語教育にも有効なようです。ここで紹介する児童は、日常会話レベルの日本語はある程度できますが、読み書きとなると厳しく、とくに助詞は理解できておらず、「助詞テスト」の結果は30点以下でした。つまり、ほとんどがさいころを振って出た応えが当たる確率と変わりません。そこで、担任は、まず①品詞分類→②「が」の使い方へと導入し、→③「が・を」の非可逆文⇒可逆文へと指導していきました。時間数は週1時間。以下は、2時間やった結果の担任からの報告です。

 ○月×

今日の授業では、動作のことばカードは楽しくできましたが、プリント(品詞の分類と助詞「が」)は、「わかりません」と言っていました。品詞カードを使ってカードにペンで書きながらの短文づくり(YouTubeを見てそれをもとに授業しました)は、とても喜んで取り組み、「が」を使って文をいくつか作ることができました。

 月×日

叩くゲーム.pptx.jpg

今日は助詞「が」と「を」の授業をしました。「B先生たたく」や「先生B追いかける」など、いろいろやってみました。非可逆文のイラストでも学習しました。どちらも大喜びでした。しかも、テキストの練習問題は、全部正解できました。さらに、来週は祝日でお休みだと知ると、振替でやってほしいとまで言ってくれました。・・あまりの嬉しさにメールさせていただきました。また、楽しい授業の大切さを改めて実感できました。

 

 〇幼児の助詞の指導~幼児でも助詞は教えられる!

 では、幼児期には助詞の指導はどうすればよいでしょう?もちろん、幼児にも楽しくあそびながら助詞を教えることができます。それについては、ぜひ以下の記事をご覧ください。

 *TOP>幼児の日本語指導教材と実践>「助詞カード」であそぼう!~幼児も楽しめる助詞の教え方

TOP>幼児の日本語指導教材と実践>視覚教材の効果的な使い方~幼児期の日本語指導

幼児の日本語指導教材と実践 - 難聴児支援教材研究会 (nanchosien.com)


また、最近、年長のお子さんに、助詞カードを作ってやってみた保護者もいらっしゃいます。その方が以下のようなメールを下さいました。

 

ある年長のお子さんの取り組みから

 〇月×日

 助詞カードを作って遊んでみました。 おおきなかぶの絵本で、はじめて使用した時

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は、わかりやすいね〜っと言って喜んでいました。テントに助詞カードをあてて、「テントあそぶ」や、「テントこわれた」、「テント入る」などなど楽しく遊んでいます。期待できそうです。・・助詞カードを使用した時に、やっぱり目で生きる子なんだな〜と、改めて感じ、なんだかじーんときました。教えたいものはまず視覚化を意識しようと思います。

 

 このように、幼児では、実際に助詞カードを作って、それを使って動かして遊ぶことで、こういう場面でこういう助詞を使うんだ、ということが実感としてわかります。そして、カードで"わざわざ"助詞をクローズアップさせることが、子どもには面白いようです。

 また、聾学校年長クラスでは、場所の「に・で・を」を使ってあそびました。

 

*ある聾学校幼稚部(年長)での実践

 

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教室のある場所を「学校、教室、トイレ、お風呂」などいろんな場所に見立ててみんなで遊びました。そして家で、「に・で・を」を使って文を作ってくる宿題。あくる日やってきたのを見ました。
C
ちゃんは、「トイレ」で文づくり。
「トイレに行く」⇒「トイレで泣く」⇒「トイレを出る」
「ママに叱られてトイレで泣いたの?」と聞いたら、「違う違う。姉と弟と一緒にゲームやっていた時に負けて悔しくて、トイレで泣

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いたの」と。
D
ちゃんは「プール」で作文
「プールに行く」⇒「プールで競う」⇒「プールを出る」

「プールで何する?」とパパにきかれて、「勝負」の手話をしたら、パパが、「それなら『競う』だな」と教えてくれたようです。

 

年長さんでも、助詞を取り上げて遊んだり、いろいろな文を作ったりできるようです。


さあ、皆さんもやってみませんか? 「助詞カード」を作って、頭に当てて「頭痛い」とか相手に当てて「君悪い」とか、どこかの「場所」に見立てて助詞の「に・で・を」を使って動作化したり、新聞紙を丸めて叩き棒を作って「○○が○○を叩く」の文カードを作ってゲームをしたり、たのしい助詞の学習をいろいろと工夫してみましょう。きっと子どもたちはノリノリで楽しく助詞を身につけると思います。


┃難聴児支援教材研究会
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