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文字(指文字)を早期に学習することの意味

〇文字(指文字)の役割

聴覚障害の子どもには小さい頃からどうして「文字」に関心を持たせなければいけないのでしょうか? きこえない子たちにとっての文字の大切さは、一般的に言われている早く文字が読めるように、早く英語が話せるようになるための「英才教育」といった意味での早期教育の意図とは違います。文字はきこえない子たちにとって、日本語を獲得していくために不可欠な役割をもっているのです。

 補聴器を付けているからといって、あるいは人工内耳をしているからと言って私たちと同じようにきこえているとは錯覚してはなりません。このことは、軽度難聴と言われる40dB程度のきこえの子どもであっても、低い音から高い音までフラットに約40dBできこえる人工内耳であっても、私たちと同じように音韻をいつも聞き分けているわけではないことをしっかりと理解しておきたいものです。

静かな一対一の場面で、大きめの明瞭な発音で一音一音を聞かせればこうした100パーセント弁別できるような軽・中等度難聴や人工内耳の子どもたちがいるのも事実です。しかし、実際の生活場面になると、騒音下や距離が離れた所から話された時に、聞き誤りや聞き落としがたくさん起こっているのが現実です。こうした子たちは、文字を書くようになって初めて、あんなによくわかる発音でお話しているのに、そんな風にきこえている、理解しているとは思わなかったと親御さんが驚くことはたくさんあります。以下は、ある先生が語っていた例です。


教室にいて、校内放送が聞こえた時、「何?今の」とAちゃん。「ほうそう、放送がきこえたのよ。」と私(教員)。「こうちょう先生?」とAちゃん・・・「ほうそう」「こうちょう」が同じように聞こえているのでしょう。「ほうそう」から「校長先生」をイメージしたわけですね。また、「補聴器って書いてみて」とBちゃんにお願いすると「ほじょき」と書いてみたり、「しりとりしよう。」と私が「しりとり」と文字を書いて見せると、Cちゃんは「ちがうよ、『ちりとり』だよ。」と書き直してくれたりします。『ちりとり』はこうやってお掃除する時にごみを集めるものなのよ、と説明しながら、「しりとり」との違いを伝えるわけですが、日々の生活、会話の中でこうした文字での提示や確認がいかに大事なことかを実感します。・・

  

  実際に私も中等度難聴の児童が「たたたのたた」と何度も言ってるので文字で確認したら「高田馬場(たかだのばば)」のことだったという経験がありますが、子どもにはこのように聴こえているわけですね。こうした子どもの姿を目の当たりにしながら私たちは子どもの現実に気付いていくわけですが、もし、文字や指文字が幼児期にわかるようになっていると、こうした音声言語の聞き取りや読話で、誤って理解しているかもしれないことばを文字を通して確認することができるのでとても役に立ちますし、文字や指文字の役割を軽視すべきではありません。また、こうした単語だけでなく、「ディズニーランドへ いったよ。」と会話では話していることも、「ディズニーランドえ いったよ。」ではなくて「へ」という助詞を使うのだということなども、絵日記等の文を見たり、読んだりすることを通して日本語の文法や表記の仕方を理解していくわけです。きこえない子たちは、「きくこと」や「読話すること」だけに頼って、正しい日本語を獲得していくのではなく、必ず文字や指文字といった視覚的な手掛かりを併用して日本語を正しく理解していくのだということを知っておいていただきたいと思います。

 

〇日本語の文字・指文字の獲得の過程

さて、では、このように大事だと言われている文字をどのようにして子どもたちは読めるようになっていくのでしょう。4,5歳の時期から文字や指文字を覚える場合は、「あ」「い」「う」「え」「お」・・・と一文字一文字ずつ音声や指文字と合わせて、覚えて読めるようになっていく子ども達もいます。しかし、2,3歳の子どもたちが文字・指文字に興味を持ち始める時は、一つの単語の文字のかたまりを、絵のようにとらえて覚えていきます。たとえば「アンパンマン」という文字はアンパンマンの絵に添えられてよく見るため、子ども達はアンパンマンと読むことが始まります。自分の名前もそうですね。くつや下駄箱に「たろう」と書いてあれば、その三つの文字のかたまりが自分の名前と理解できるようになるわけです。

 

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小さい子ども達がこうした文字の世界に興味を持つようになるためには、新しく買った箸や、茶碗、靴などに「○○ちゃんの名前を書くね」と、子どもの目の前で話しながら書いてあげたり、きょうだいの名前も同じように書き、違いに気付かせたりするのも家庭で文字環境を整える一つの方法です。文字への興味を持ち始めたら、「れいぞうこ」「たんす」というように文字のカードを家具に貼り、文字をたどりながら読んで、手話や指文字とつなげてあげるのもいいでしょう。このように、子どもの様子を見ながら少しずつ文字刺激を増やし、環境を整えていくつもりで、文字の世界へ上手に導いていってあげたいものです。子ども達が文字に興味関心を持

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つ時期は、一人一人違っています。3歳になったから、そろそろ・・とは必ずしもいきません。押しつける形で文字に触れさせるかかわりをすると、返って文字嫌いにさせてしまいかねませんので気をつけたいです。

幼児期からたくさん親子で絵本を楽しんだり、絵日記やことば絵じてんを見たりすることを通して文字に親しみながら、読み書きの力を育てていきたいものです。 そして、文字をきちんと習得するためにも、50音文字・指文字表や濁音・半濁音・拗音などの表も壁などに貼って、いつでも子どもが見れるようにしておくとよいと思います。

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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