視覚教材の効果的な使い方~幼児期の日本語指導
以前にこのホームページで、ある幼児の保護者が、お子さんが年中児のときに「ことば絵じてん」作りから始め、その後、「品詞カード」「助詞記号」「助詞手話記号」など様々な視覚教材を作って子どもに日本語を教えて、非常に効果的だったという実践を紹介しました。⇒「年中幼児にことば絵じてん・助詞記号・品詞カードを使ってみて」参照。下記URL http://nanchosien.com/papers/04-4/
このお子さんは、その後、着実に語彙と文法を獲得していきました。例えば「絵画語彙検査」では、取組前の検査結果は、生活年齢5歳1カ月の時語彙年齢3歳1カ月でしたが、その後、生活年齢5歳8か月の時は、語彙年齢は5歳6か月まで伸びていました。また、Jcoss(日本語理解テスト)での日本語文法理解力は6歳で14項目通過・小2レベルまで伸びました。さらに、質問応答検査でも生活年齢6歳4カ月で6歳11カ月でした。
このお子さんは人工内耳を装用していますが、たとえ人工内耳を装用して装用閾値が30
dBだったとしても、0デシベルのきこえる子との差は歴然としており、そのためにどうしても音声だけでは情報の入力に限界が生じ、日本語獲得に負の影響が生じます。
それを補うためにはやはり視覚を活用することです。視覚言語すなわち手話の併用や視覚教材すなわち「ことば絵じてん」作りであったり、「品詞カード」や「助詞記号」「助詞手話記号」であったりします(右図は教材の一部)。それらの効果は、このHPの他のカテゴリーでそれぞれ紹介していますのでそちらを参考にしていただければと思います。
〇助詞カードを使ったわかりやすい指導法
また、ある聾学校で、筆者が「助詞がよくわからない」という年長児の個別指導をしたとき、「助詞カード」を作って遊んだことがあります(右図参照)。アンパンマンとバイキンマンの指人形を使って二人で楽しく遊びながら、そのお子さんは30分で助詞「が」と「を」の使い方を理解しました。それを横で見ていたお母さんは、「これで助詞がわかるようになるんですね!」と驚いていました。幼児は、このような具体物を交えて、動作化・視覚化することで理解が進みます。そして、それを日本語の文に置き換え、書きことばとして理解していくわけです。
〇「江副文法・構文図」を使って
動詞や助詞がある程度わかるようになった子どもは、文のしくみが学べるようになります。ここでは、ある保護者が、年長のお子さんに使った、「構文図」を使った日本語学習について紹介します。このお子さんのお母さんは、このHPに掲載されている記事や最初に述べた保護者の実践等を読み、自分もやってみようと思い立ち、筆者が作成したワーク等(「ことばのネットワークづくり」「絵でわかる動詞の学習」「新・日本語チャレンジ」)を購入し、品詞カードを作って品詞分類から始めました。名詞、時数詞、動詞、形容詞などと作っていき、文の構造は江副文法の方式にしたがって、横書き・縦並びの重層構造に配置して教えていきました。
次に、助詞は縦線を二本引いた真ん中に配置します。この二本の直線の左に配置された名詞や名詞句を「情報」と呼びます。この方法は、まず、文を文節(「犬は、女の子に、押されています」)に区切り、それを一直線上ではなく、文節ごとに縦に配置していきます(右下図参照)。但し、名詞を修飾する「名詞修飾句」があるときは、修飾される名詞までを横一列にします。保護者の例(右下図)では、名詞句はありませんが、右上図には三つあります。1つは「とても・・・昨日」、二つ目は「久しぶりに・・・私」まで、三つめは、その下の「きこえない・・・運動会」です。しかし「きこえない・・・運動会」の名詞句はスペースの都合上、2段になっています。本来は横一列です。
それぞれの構文図をみてみましょう。各文節(右下例の「犬は」「女の子に」)が、この文末(押されています)の述部に、それぞれちゃんとつながっていることが一目見てわかります(犬は→押されています、女の子に→押されています)。右上の例も同じです。
このように、文の構造が一握的にわかるのがこの図の最大の特徴です。このように文がどのように成り立っているのかをお子さんに見せたり、文の絵を描かせたりしました。このような方法で学習していったところ、文の主述関係や修飾・被修飾関係の読み取りがよくできるようになり、文を読んで意味を理解する力が増し、学年末のJ.cossでは15項目(小2年レベル)まで通過しました。
視覚や動作を活用して、「見て、動いて、からだで」おぼえていく日本語は大きな効果を発揮します。
〇絵日記を使って品詞分類
また、絵日記の中の文を品詞分類する方法もあります。色と形を使って単語を視覚化し、文の構造・しくみを把握する上で効果的です。
視覚教材(目)と動作化(からだ)で日本語を学ぶ方法は、幼児期から使える方法です。
ぜひ、お子さんに合せてさまざまな教材を工夫し、兄弟・家族含めてみんなで楽しく遊びながら日本語を身につけていってほしいと思います。