全国の難聴児のための早期支援、聴覚障害教育の情報提供、教材などの紹介を発信します。

幼児の日本語指導教材と実践

○助詞はどのように指導すればよいでしょう?

 「が」とか「を」「に」「で」といった助詞はそれだけでは意味を持たず、文の中で名詞と名詞、名詞と述語(述部)など、文中の語と語の関係について意味をあらわす「機能語」なので、文の中でしか使えません。また、日常会話の中では助詞は頻繁に省略されますし、たとえ表出されたとしても音圧も小さく瞬間的なので、音声だけの日常会話を繰り返していてもなかなか身に付きません。このような理由から、きこえない子は多かれ少なかれ助詞が苦手です。しかし、助詞がわからないと文は正確には読めません。「おじいさん( )おばあさん( )引っぱって」の文の( )に入る助詞が、「が」なのか「を」なのかでは、意味が全く違ってしまいます。助詞がわからない子は、文を見ても助詞が( )のような空欄になっているのと同じですから、知っている単語だけから推測して読むしかありません。このようなことから、聾教育の中では長い間、「助詞は永遠の課題」とまで言われてきました。そしてその傾向は、これだけ人工内耳が普及した今もほとんど変わっていません。

しかし、21世紀になって聾学校の中で手話を使う実践が進み、また、外国人への日本語

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教育の中で磨き上げられてきた「江副文法」(新宿日本語学校長江副隆秀氏が築かれた日本語指導法)などの導入によって、助詞そのものを文字カードにして動作化したり(江副文法)、手話を使って助詞の意味を教える方法(「助詞手話カード」大塚ろう学校)が開発・実践され、成果も挙げてきました(*その成果については、右のグラフによって検証できます。Jcoss=「日本語理解テスト」の項目別通過率=ある文法項目について10人が10人とも全員その問題を通過(=4問全問正解)していれば通過率100%、5人なら50%)が、時間と共に向上していることからわかります。4年ごとにとった項目別通過率の折れ線グラフはだんだんと向上し、聴児の平均に近づいていることがわかります。

このことから、継続的・系統的な日本語文法指導によって子どもの日本語を理解する力は確実に向上することがわかります。では、助詞はどのようにして指導すればよいのでしょうか?

 

〇小学生の助詞の指導~どうやって導入するか?

小学生の日本語文法の指導は、①動詞・形容詞の活用の指導と②助詞の指導が中心で、これにさらに児童の実態に応じて③名詞修飾や接続詞、複文、受動文や授受文、使役文、比較文などの構文の指導を加えていきます。小学生は自立活動とか国語などの授業の中で助詞を取り上げて教えます。これについては、このHPでもすでに何度も取り上げてきていますので、ぜひ記事をご覧ください。ここでは助詞の指導に関連する記事のみ以下に取り上げておきます。

①PTOP>助詞テスト 

助詞テスト - 難聴児支援教材研究会 (nanchosien.com)

②HP・TOP>YouTube日本語講座>NO16NO26 

11-1 YouTube日本語講座  全回分テキスト・問題(ダウンロード) - 難聴児支援教材研究会 (nanchosien.com)

 では、本当にこのような指導をやって効果はあるのでしょうか? それについては、最近いただいた、ある地方の難聴学級の先生からのメールと外国人子弟の日本語教育の担当の先生からのメールを紹介させていただき、子どもにとって視覚教材動作化・身体化がどれほど子どもの心を惹きつけ、理解を促し、やる気を育てるものであるかを知っていただきたいと思います。

 

*難聴学級担任の実践から

○月×日 

今、文法指導を本格的に始めています。すると、おしゃべりの間にも『あっ、〝引く〟は動詞!あっ、11時半は時数詞』と楽しそうに、嬉しそうにわかる喜びを伝えてくれます。子どものこのような反応はとても嬉しいものです。まだまだ始まったばかりですが、一緒に頑張ります。

 ○月×日

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プリント学習で非可逆文の絵があり、それを見てA子は大笑い。また、掲示物の手話助詞記号をよく見ていて、担任『どの〝に〟かな?』 A『△年□組だから...この〝に〟を使う。△年□組〝にー(強調して)〟行く。』 担任『尋ねる文は?』 A『どこ〝にー(強調して)〟笑』と楽しんで文法を学んでくれています。

 ○月×日                                             

 A子が誰かとおしゃべりする中で好きな勉強の話になり『Aは言葉の勉強が好き!』と発言し、隣の学級の先生が驚いていました。CD(ワークのオプション教材)から出したプリントも『やりたい!やりたーい』と言ってくれています。言葉の勉強はとても気に入っていて本人の希望で朝いちばんで名詞の前に形容詞をつける練習をしています。とても楽しんでやっています。「おいしい+団子」「広い+教室」「かしこい+A」(自画自賛!笑)など。

今日も「言葉のプリントやりたーい!」と今日もプリント棚から6枚も持って帰るなど

言葉への興味関心が出てきて嬉しく思っています。

 

 このようにして始まった文法指導でしたが、当初は周囲からは「助詞の指導? 難聴児にそれって難しくない? 子どもが苦しくなるんじゃない?」と言われたりもしました。確かに、私たちは「文法指導」ときくと中学や高校で学んだ"あの小難しい国文法の学習"を想像してしまいますからその心配もわかります。しかし、やっている内容は理にかなっており、小学校1年生でも、いや年長さんでもわかる内容で、しかも楽しく学習できることばかりです。こうした「楽しくやる気を起こさせる学習」の結果として、子どもの日本

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語力は伸びていきます。右のグラフは、ある聾学校で文法指導を始めた頃の児童のJcoss通過項目数(20項目中何項目が通過しているか)の結果です。指導を始めた頃の24年生の平均通過項目数は、それぞれ27.2項目(年長レベル)、37,8項目(同左)、410.2項目(小1レベル)でしたが、2年後はそれぞれ14.1項目、15.3項目、17.2項目まで伸びました。17.2項目は聴児の到達するレベルです。2年間継続的に指導をすれば、テキストベースで文を読む力がつきます。つまり教科書を自分で読んで理解する力がつきます。こうして基礎的な「読みの力」をつけた子どもたちはその後に進学した聾学校での指導の効果もあり、26名中17名(3分の2)が大学に進学していきました。

 

*日本語教育の担任から

 視覚教材と動作化による助詞の指導は難聴児だけでなく、外国人子弟の日本語教育にも有効なようです。ここで紹介する児童は、日常会話レベルの日本語はある程度できますが、読み書きとなると厳しく、とくに助詞は理解できておらず、「助詞テスト」の結果は30点以下でした。つまり、ほとんどがさいころを振って出た応えが当たる確率と変わりません。そこで、担任は、まず①品詞分類→②「が」の使い方へと導入し、→③「が・を」の非可逆文⇒可逆文へと指導していきました。時間数は週1時間。以下は、2時間やった結果の担任からの報告です。

 ○月×

今日の授業では、動作のことばカードは楽しくできましたが、プリント(品詞の分類と助詞「が」)は、「わかりません」と言っていました。品詞カードを使ってカードにペンで書きながらの短文づくり(YouTubeを見てそれをもとに授業しました)は、とても喜んで取り組み、「が」を使って文をいくつか作ることができました。

 月×日

叩くゲーム.pptx.jpg

今日は助詞「が」と「を」の授業をしました。「B先生たたく」や「先生B追いかける」など、いろいろやってみました。非可逆文のイラストでも学習しました。どちらも大喜びでした。しかも、テキストの練習問題は、全部正解できました。さらに、来週は祝日でお休みだと知ると、振替でやってほしいとまで言ってくれました。・・あまりの嬉しさにメールさせていただきました。また、楽しい授業の大切さを改めて実感できました。

 

 〇幼児の助詞の指導~幼児でも助詞は教えられる!

 では、幼児期には助詞の指導はどうすればよいでしょう?もちろん、幼児にも楽しくあそびながら助詞を教えることができます。それについては、ぜひ以下の記事をご覧ください。

 *TOP>幼児の日本語指導教材と実践>「助詞カード」であそぼう!~幼児も楽しめる助詞の教え方

TOP>幼児の日本語指導教材と実践>視覚教材の効果的な使い方~幼児期の日本語指導

幼児の日本語指導教材と実践 - 難聴児支援教材研究会 (nanchosien.com)


また、最近、年長のお子さんに、助詞カードを作ってやってみた保護者もいらっしゃいます。その方が以下のようなメールを下さいました。

 

ある年長のお子さんの取り組みから

 〇月×日

 助詞カードを作って遊んでみました。 おおきなかぶの絵本で、はじめて使用した時

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は、わかりやすいね〜っと言って喜んでいました。テントに助詞カードをあてて、「テントあそぶ」や、「テントこわれた」、「テント入る」などなど楽しく遊んでいます。期待できそうです。・・助詞カードを使用した時に、やっぱり目で生きる子なんだな〜と、改めて感じ、なんだかじーんときました。教えたいものはまず視覚化を意識しようと思います。

 

 このように、幼児では、実際に助詞カードを作って、それを使って動かして遊ぶことで、こういう場面でこういう助詞を使うんだ、ということが実感としてわかります。そして、カードで"わざわざ"助詞をクローズアップさせることが、子どもには面白いようです。

 また、聾学校年長クラスでは、場所の「に・で・を」を使ってあそびました。

 

*ある聾学校幼稚部(年長)での実践

 

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教室のある場所を「学校、教室、トイレ、お風呂」などいろんな場所に見立ててみんなで遊びました。そして家で、「に・で・を」を使って文を作ってくる宿題。あくる日やってきたのを見ました。
C
ちゃんは、「トイレ」で文づくり。
「トイレに行く」⇒「トイレで泣く」⇒「トイレを出る」
「ママに叱られてトイレで泣いたの?」と聞いたら、「違う違う。姉と弟と一緒にゲームやっていた時に負けて悔しくて、トイレで泣

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いたの」と。
D
ちゃんは「プール」で作文
「プールに行く」⇒「プールで競う」⇒「プールを出る」

「プールで何する?」とパパにきかれて、「勝負」の手話をしたら、パパが、「それなら『競う』だな」と教えてくれたようです。

 

年長さんでも、助詞を取り上げて遊んだり、いろいろな文を作ったりできるようです。


さあ、皆さんもやってみませんか? 「助詞カード」を作って、頭に当てて「頭痛い」とか相手に当てて「君悪い」とか、どこかの「場所」に見立てて助詞の「に・で・を」を使って動作化したり、新聞紙を丸めて叩き棒を作って「○○が○○を叩く」の文カードを作ってゲームをしたり、たのしい助詞の学習をいろいろと工夫してみましょう。きっと子どもたちはノリノリで楽しく助詞を身につけると思います。


〇文字(指文字)の役割

聴覚障害の子どもには小さい頃からどうして「文字」に関心を持たせなければいけないのでしょうか? きこえない子たちにとっての文字の大切さは、一般的に言われている早く文字が読めるように、早く英語が話せるようになるための「英才教育」といった意味での早期教育の意図とは違います。文字はきこえない子たちにとって、日本語を獲得していくために不可欠な役割をもっているのです。

 補聴器を付けているからといって、あるいは人工内耳をしているからと言って私たちと同じようにきこえているとは錯覚してはなりません。このことは、軽度難聴と言われる40dB程度のきこえの子どもであっても、低い音から高い音までフラットに約40dBできこえる人工内耳であっても、私たちと同じように音韻をいつも聞き分けているわけではないことをしっかりと理解しておきたいものです。

静かな一対一の場面で、大きめの明瞭な発音で一音一音を聞かせればこうした100パーセント弁別できるような軽・中等度難聴や人工内耳の子どもたちがいるのも事実です。しかし、実際の生活場面になると、騒音下や距離が離れた所から話された時に、聞き誤りや聞き落としがたくさん起こっているのが現実です。こうした子たちは、文字を書くようになって初めて、あんなによくわかる発音でお話しているのに、そんな風にきこえている、理解しているとは思わなかったと親御さんが驚くことはたくさんあります。以下は、ある先生が語っていた例です。


教室にいて、校内放送が聞こえた時、「何?今の」とAちゃん。「ほうそう、放送がきこえたのよ。」と私(教員)。「こうちょう先生?」とAちゃん・・・「ほうそう」「こうちょう」が同じように聞こえているのでしょう。「ほうそう」から「校長先生」をイメージしたわけですね。また、「補聴器って書いてみて」とBちゃんにお願いすると「ほじょき」と書いてみたり、「しりとりしよう。」と私が「しりとり」と文字を書いて見せると、Cちゃんは「ちがうよ、『ちりとり』だよ。」と書き直してくれたりします。『ちりとり』はこうやってお掃除する時にごみを集めるものなのよ、と説明しながら、「しりとり」との違いを伝えるわけですが、日々の生活、会話の中でこうした文字での提示や確認がいかに大事なことかを実感します。・・

  

  実際に私も中等度難聴の児童が「たたたのたた」と何度も言ってるので文字で確認したら「高田馬場(たかだのばば)」のことだったという経験がありますが、子どもにはこのように聴こえているわけですね。こうした子どもの姿を目の当たりにしながら私たちは子どもの現実に気付いていくわけですが、もし、文字や指文字が幼児期にわかるようになっていると、こうした音声言語の聞き取りや読話で、誤って理解しているかもしれないことばを文字を通して確認することができるのでとても役に立ちますし、文字や指文字の役割を軽視すべきではありません。また、こうした単語だけでなく、「ディズニーランドへ いったよ。」と会話では話していることも、「ディズニーランドえ いったよ。」ではなくて「へ」という助詞を使うのだということなども、絵日記等の文を見たり、読んだりすることを通して日本語の文法や表記の仕方を理解していくわけです。きこえない子たちは、「きくこと」や「読話すること」だけに頼って、正しい日本語を獲得していくのではなく、必ず文字や指文字といった視覚的な手掛かりを併用して日本語を正しく理解していくのだということを知っておいていただきたいと思います。

 

〇日本語の文字・指文字の獲得の過程

さて、では、このように大事だと言われている文字をどのようにして子どもたちは読めるようになっていくのでしょう。4,5歳の時期から文字や指文字を覚える場合は、「あ」「い」「う」「え」「お」・・・と一文字一文字ずつ音声や指文字と合わせて、覚えて読めるようになっていく子ども達もいます。しかし、2,3歳の子どもたちが文字・指文字に興味を持ち始める時は、一つの単語の文字のかたまりを、絵のようにとらえて覚えていきます。たとえば「アンパンマン」という文字はアンパンマンの絵に添えられてよく見るため、子ども達はアンパンマンと読むことが始まります。自分の名前もそうですね。くつや下駄箱に「たろう」と書いてあれば、その三つの文字のかたまりが自分の名前と理解できるようになるわけです。

 

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小さい子ども達がこうした文字の世界に興味を持つようになるためには、新しく買った箸や、茶碗、靴などに「○○ちゃんの名前を書くね」と、子どもの目の前で話しながら書いてあげたり、きょうだいの名前も同じように書き、違いに気付かせたりするのも家庭で文字環境を整える一つの方法です。文字への興味を持ち始めたら、「れいぞうこ」「たんす」というように文字のカードを家具に貼り、文字をたどりながら読んで、手話や指文字とつなげてあげるのもいいでしょう。このように、子どもの様子を見ながら少しずつ文字刺激を増やし、環境を整えていくつもりで、文字の世界へ上手に導いていってあげたいものです。子ども達が文字に興味関心を持

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つ時期は、一人一人違っています。3歳になったから、そろそろ・・とは必ずしもいきません。押しつける形で文字に触れさせるかかわりをすると、返って文字嫌いにさせてしまいかねませんので気をつけたいです。

幼児期からたくさん親子で絵本を楽しんだり、絵日記やことば絵じてんを見たりすることを通して文字に親しみながら、読み書きの力を育てていきたいものです。 そして、文字をきちんと習得するためにも、50音文字・指文字表や濁音・半濁音・拗音などの表も壁などに貼って、いつでも子どもが見れるようにしておくとよいと思います。

乳幼児相談にやってくる1歳児さん。成人ろう者の魅力的な絵本の読み聞かせ、みんなで作ったクッキー、楽しいお弁当の時間・・もっと遊びたい、学校から帰りたくない子どもたちに「おうちに かえろう。」「おねえちゃん まってるよ。」とママが手話や音声語でいくらお話しても子どもは帰ろうとしません・・・そこでとり出したのが子どもの大好きな「おねえちゃん」と「おうち(家)」の写真。「おうちに かえろう。おねえちゃんが、待ってるよ~」と話すと、たちまちスタスタと教室を出て行く・・そんな子どもの姿を見ることがあります。写真を使うことで、何が違ってくるのでしょうか。

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一つは、ことば(手話・音声語) の意味がわからない、伝えられたことばだけでは、まだ「おうち」「おねえちゃん」といったイメージが浮かばない・・・そのような時期の子どもにとって「写真」を見ることがイメージの助けとなり、理解、納得に結びついた、ということです。大人は、「おうち」は手話でわかっているはずだけど・・・と思っていても、1歳児さんではまだまだそのイメージが曖昧で、しっかりとわかっているわけではないことばがたくさんあります。写真で確認することで、自分の頭の中にある記憶のイメージと結びつき、ことばと併せて理解が確実になったから、「おうちへ帰ろう」という気になったのでしょう。そして、もう一つの写真効果は、「これが目に入らぬかー!」といった一目で相手の意図が伝えられる水戸黄門の印籠効果。ことばで理解されている子どもでも、ハッとして行動を切り替えるきっかけにすることができるようです。

 そのような効果があるとされている写真カードですが、いちいち出して使うのはめんどうだったり、まあ、使わなくてもその内にわかってくるだろうと思ったりして、作りはしたけれど、あまり使っていないおうちが実際には多いのではないでしょうか。というわけで、なぜ使うといいのかをこの機会にしっかりと見直してみたいと思います。

 

さて、考えてみましょう。きこえない、きこえにくい子どもたちは、例えばお出かけの時、どのような気持ちでいるでしょうか。「さあ、お買い物に行くわよ。」「〇〇ストアに行くよ~」音声語で子ども達に呼びかけるお母さん。聞こえるお姉ちゃんは隣の部屋にいながら、了解。きこえない、きこえにくい子どもは、お母さんがせわしなくお出かけの用意をし始める様子を見て、毎度のことながら自分も・・.・とあわててくつを履き始めます。あくまでも今までの経験から状況判断して出かけることを察しただけ。子どもの気持ちは、「どこに行くんだろう???ぼく、わからないよ・・・」きっと、行き先がわからない不安だらけのはずです。では、ちゃんとお話しなきゃ、とお母さん。「お買い物にいくよ。」「〇〇ストアに行くよ。」と手話、音声語でしっかりと伝えても、さて、〇〇ストアのイメージはわくでしょうか。確かに、積み重ねていけばいつかわかると思います。しかし、できればそのわかるまでの間の不安をできるだけ取り除いてあげたいものです。「うん、〇〇ストア、あそこね。ぼくわかったよ!」とわかる喜びを味わわせたいと思った時に、写真カードが生きてくるわけですよね。写真カードを使いながら、お話してあげると、一目瞭然、「〇〇ストアって、ここね・・」ことばと結びつけながら、確かなイメージを持って、子どもはお出かけできるわけです。

子どもにとって、生活の中で「わかる」「イメージが持てる」ような機会をたくさん準備してあげることは、子どもの安心感やわかる喜び、人ともっと関わりたいというコミュニケーション意欲につながります。写真がなくても手話や音声語で場所や人、モノがイメージできるようになると、写真カードを使う必要もなくなります。それをいちいち出してくる手間をかけたコミュニケーションもいつか卒業しますから、今、うちの子にはコレがあった方がよくわかって安心するだろうなあ、という発想で、必要な写真カードを用意してあげてほしいと思います。

 

先生が作るように言ったから・・・がスタートではありません。わが子とよりよく伝え合うために、わが子がわかる安心感が持てるようにするためには、何があるといいんだろう?そんな風に考えてください。というわけで、AちゃんのおうちとBちゃんのおうちでは、用意する写真カードの種類や量が違ってきてあたりまえですし、その写真カードを使ったコミュニケーションをいつの時期に始めたらいいかも色々で良いわけです。うちの子は、よく児童館に行って遊ぶけど、「児童館」をことばで説明してもイメージがもちにくいだろうなあ、よし、写真を撮って、カードにして出かける時に必ず見せてお話しよう。うちの子は、毎日のようにおばあちゃんのうちに行くけれど、同居しているおばあちゃん、おじいちゃん、いとこの○○ちゃん、△△おばちゃん・・・の写真を撮って、出かける前に「○○ちゃん、いるかなあ」と毎回、必ずお話してから出かけようかな、今は写真を見てもなめてばかり・・・じっと写真を見るようになったら始めようかな、というように、それぞれが違って良いのですから、我が家に合わせて、進めていかれるといいと思います。

「わかる」安心感に満たされている子どもの姿は、親にとって何よりうれしい姿であるはずです。そんな子どもの安心のために、一手間をかけてみてはどうでしょう? (S記)

 

以下は、写真カードを使った実際の例から。0歳後半から始まって3歳くらいでも使えることがわかります。

①「写真カードを見せると、視線が写真・文字に行く」(0歳7か月、意味のあるものとして認識し始めている)

 

 ②「病院のA先生の写真をみて、実物のA先生と何度も見比べている。」(13か月、Dちゃん、写真のA先生と目の前にいるA先生が同じなんだと気づき始めている)


③「午前中、私がいつもスーパーへ行く時の格好(帽子をかぶって、ジーンズに着替えて)をして、Yに声をかけようとすると、私の方を見たYが「うーうー」とスーパーのカードを指さす。」(14か月、Yちゃん、日々の買い物をするスーパーとスーパーの写真とが結びついており、自分も連れて行ってほしいと訴えている)


④「家族で遊園地に行く前日...Eが乗れる乗り物を選び出し、それぞれの写真をコピーして写真カードを作りました。Eにそれを渡し、「明日、ここ、遊園地にみんな一緒に行くよ。」「楽しみだね。」「今日じゃないよ。」「明日、寝て起きてからだよ。」と説明した。するとEはカードをジーッと見て、「遊園地」「エーン、エーン、赤ちゃん。」とやりました。きっと、前回遊園地に行った時にジェットコースターに乗れず、泣いたことを思い出したんだなあと思いました。「赤ちゃん」は、きっと私がEにジェットコースターに乗れない理由を「Eはまだ赤ちゃんだからお兄さんになったら乗れるよ。」と言った時の「赤ちゃん」のことで「エーンエーン赤ちゃんと」やっていたんだなと思い、よく覚えていたと感心しました。Eには「お兄さんになったから、これ全部乗れるよ。」と説明。ニコニコしながら「遊園地」と何回も言いながら写真カードを見ていました。

当日の朝、お兄ちゃん達に起こされ、すぐに写真カードを見せられたEは、寝起きなのにものすごい勢いでリビングまで走ってきて、私の顔を見てすぐに「お着替え」とやりました。遊園地に行くことを理解しているためか、普段ではありえない位の速さで洋服に着替えていました。遊園地に着くと、カードにある乗り物が早速あったので、「同じだね。」とやると「あ~っ」と嬉しそうな顔をして、すぐに走って行き、乗り物に乗りました。その後も写真カードを見せながらたくさん乗り物に乗って、とても楽しそうでした。」(3歳1か月)

日本語は50音、いや濁音、半濁音、拗音、長音まで含めると108の音韻(音節)ですべての単語が成り立っています。ところが難聴児は、日常生活の中では耳だけで100%の音韻を区別することができません。ではどうやって区別するのかといったら、文字か指文字です。それ以外に100%区別することは不可能です。ですから正しい日本語を身につけるためには幼児期に文字・指文字をきちんと身につけておくことが必要です。

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そのためにどこの家庭でも文字や指文字の50音表を壁に貼っておられると思います。ところが難聴児の多くは意外とこの50音が苦手です。「ア行から順番に言ってみて」と言われてもサ行あたりまでは言えますが、それからあとは言えない子どもが多いです。頭の中に50音表がちゃんと浮かばないのです。そこでお勧めしているのはラミネート加工した小型の指文字表をお風呂の壁に貼って、お風呂から上がる前に浴槽で数字を暗唱する代わりにこの50音表を縦に読んだり横に読んだりして頭の中に50音表をしっかり入れておくことです。この50音表が身についていると将来、国語辞典を引いたり、動詞の活用を学ぶときに役立ちます。

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 ふつう50音表は清音だけの表です。もちろん最初はここからスタートです。でも年長くらいになったらぜひ日本語108音のひらがな版とカタカナ版を壁に貼って下さい。小学生になって難聴児がよく間違えるのはとくにキャ、キュ、キョなどの拗音や「きって」などの促音、それから長音が入ることばです。耳だけでききとることが難しいのです。そのためにもこうした拗音の入った100音表を貼っておかれるとよいでしょう。

 

ここで紹介するのは『一文字かるた』を使ったあそびです。ことばには1音節だけの単語というのがあります。「い」...胃、「う」・・・鵜、「え」・・・絵、柄など。でも「あ」はありません。ないけれど「ア!」と叫んだりすることはあります。単語ではないけれどそういう種類のものも入れて作ったのが『一文字かるた』です。絵がとてもユーモラスなInstagramriechin0233 のママさんが作られたものをお借りしました。

 これを作ってどんなあそびができるでしょうか? いくつか考えたあそびを紹介します。

 

50音ならべ」(「7ならべ」の50音版)

50音ならべ.jpgのサムネール画像

7ならべは7を最初に開いておきますが、50音ならべでは「ナ行」を開いておきます。

ここからスタートでルールは7ならべと同じです。休みは3回までとか、止められているところを「アンパンマンカード」を使って請求できるとか、ヤ行の空白部分は「バイキンマンカード」を使うとかします。

 

「ビンゴゲーム」

 月カレンダーなど少し硬めの紙を使ってビンゴ盤(3×3、4×4、5×5など)を作ります。じゃん

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けんして順番に好きな文字カードをとり、ビンゴ盤に置きます。文字カードは別に作って山積みにしておきます。山積みの文字カードから一枚ずつめくり、その文字がビンゴ盤にあれば裏返します。写真では「あ」が出ています。向かい側の相手の上から2列目の左(こちらから見ると右)に「あ」があります。これを裏返します。順次やっていき、早く「たて」か「よこ」か「ななめ」一列全4枚裏返った人が勝ちです。

 

 

「それは〇です!」

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親役は伏せてある一文字カードから一枚とります。そのカードの文字のヒントを出します。例えば写真の例「か」なら「空を飛びます。血を吸います。刺されるとかゆいです。」など。相手が当てたら相手に渡し、はずれたら自分がもらいます。たくさんカードをとったほうが勝ちです。ことばでなく、ジェスチャーでヒントを出してもよいです。

 

 

「同じ文字、出るかな?」

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 一文字カードと文字カードを裏返して山積みにしておき、一文字カードの山から場に5枚開きます。じゃんけんして勝った人から文字カードを一枚とり、場に同じ文字のカードがあったらもらいます。あったときは、一文字絵カードを一枚場に開き、もう一度文字カードを続けて開きます。場にない場合は、文字カードも場に開いて置いておきます。次の人が同じようにやります。沢山ペアを集めた人が勝ち。

 

 

「ことばを作ろう!」

ことばを作ろう!.JPG

全ての一文字カードを場に開いておきます。じゃんけんをして勝った人から順番に一文字カードをとってことばを作りますが、とってもよいのは4枚まで。4枚とってひとつのことばを作るわけです。例えば「たこやき」。たくさん作った人が勝ち。

*濁音、半濁音、長音、拗音、促音はなし。清音だけで作ります。

 

 

「じゃんけんカード集め」

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すべての一文字カードを裏にして場に置きます(山積みでもよい)。じゃんけんをしてパーで買ったらカードを5枚、チョキで勝ったら2枚、グーで勝ったら1枚とります。場にカードがなくなるまでやります。とったカードを組み合わせてことばを作ります。できるだけたくさんのことばを作った人が勝ちです。*清音だけで作ります。

 

 

「〇のつくことばを言おう」

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一文字カードを裏にして山積みにしておきます。じゃんけんをして勝った人が一枚めくりその文字があたまになることばを探して言います。写真では「み」です。みのつくことば例えば「みかん」「みず」「みどり」など。清音だけに限りません。全てOKです。もし見つからない場合は、場に置き、次の人が山積みのカードを開いてことばを言えたら、ボーナスとして場に置いてあるカードでことばを作ってうまくできたらそれももらえます。

 

 「アンパンマーン!来て~!」(坊主めくりの一文字かるた版)

 全てカードを伏せておきます。中に、アンパンマンカードを3枚、バイキンマンカードを3枚忍ばせておきます)。じゃんけんで勝った人から順にめくり、普通の一文字カードならそのまま一枚もらいます。しかし、バイキンマンが出たら、自分の獲得したカードを全て場に返します。そのカードは次にアンパンマンカードを引いた人がもらいます。山積みのカードがなくなるまでやります。沢山カードをとった方が勝ちです。

 

 以上、思いついたゲームを紹介しました。皆さんもぜひゲームを考えてみたり、作ったゲームを子どもといっしょにやってみませんか?

 難聴幼児をおもちの保護者の方から時々「写真カードはどうやって作ればよいですか?」という質問を受けます。そこで、今回は写真カードの作り方と使い方について紹介します。 

 実物の代理物がある便利さ

写真カードの作り方①.jpgきこえる子もきこえない子も生後6か月を過ぎると、だんだんと経験したことを記憶できるようになってきます。ママのことや自分の家の中のことをよく覚えているので、人見知りや場所見知りが出たり(8カ月頃)、また、ママが見えなくなるとママの後追いもするようになります。

このように自分の経験を記憶できると、頭の中に経験したことのイメージが残っているので、その時の写真を見せれば思い出すことができるようになります。ですから、例えば、家族で新幹線(電車)に乗って楽しかったという経験をしたとしたら、その時の新幹線(電車)の写真を見ると新幹線の電車を思い出すことができます。このとき、写真に写っている新幹線の写真は、実物ではなく新幹線の代理物(象徴)にすぎません。でも、実物が目の前になくても、頭の中の記憶をたどっ

写真カードの作り方②.pptx.jpg「新幹線に乗ってたのしかったね~」と子どもと経験を共有することができます。新幹線の実物が目の前になくてもいいわけですから写真という代理物が使えるのは互いに思いを伝えあうときには確かに便利です。このような代理の機能をもつことを「象徴機能」(表象機能)などと言います。

また、ちょうどこの頃1歳前後になると、子どもは自分の乗った新幹線を思い出して、積木を新幹線の代理にして遊んだりもします。いわゆる「見立てあそび」です。楽しかった経験を思い出して一人で頭の中にイメージを浮かべて楽しんでいるわけです。この時、積木は新幹線の代理(象徴)です。これも象徴機能のあらわれです。

 

このように、写真や積木は、一緒に経験していたママやパパには「ああ、あのときのことを思い出しているんだな」とわかりますが、他人には子どもの描いているイメージはわかりません。もう一歩進んで、その絵がさらに「し・ん・か・ん・せ・ん」という日本語や/新幹線/という手話と結びついたとき、これらはだれにも通じるものですから、一般化・社会化された代理物(象徴)として使うことができます。「しんかんせんだよ」と言えば、だれにも通じます。これが最も高度化された象徴機能である言語です。

事例Aは、生後9か月の難聴児です。ベッド(実物)とベッドの絵(代理物)を見比べながら同じだねと手話をすると、子どもはその写真とベッド(実物)を見比べて照合し、「同じだ」という意味の指さしをしています。また、お風呂の写真カードを見せながら「お風呂」の手話をすると、子どもはお風呂のイメージが自分の頭の中に浮かび、ニッコリとしています。お風呂の実体験と写真カードとはすでに結びついていて、そこに/風呂/(手話)という言語をマッチングすることで、風呂(実体験)と手話とが結びついたようです。さらに、靴下に描かれたパンダの絵をみて、「パンダ」の手話をすると、子どもは靴下の絵を指さしています。絵というパンダ(実物)の代理物と「パンダ」という手話(言語)とが結びついているようです。このようにして写真や絵は、実物と言語とのあいだにあって、実物と言語とが結びつきやすくなるための橋渡しをしてくれています。手話は身振りから発展したものが多いので(例えば「新幹線」という手話は新幹線の先頭の尖った部分を象徴しています)、実物のイメージを描きやすく言語として獲得しやすいですが、日本語の「しんかんせん」は、実物とはなんの関係もない単なる恣意的な記号にすぎません。しかも、難聴児とくに感音性難聴児にとっては、例え補聴器をしたとしてもきこえてくる音は、明瞭に一つ一つの音韻が区別できない音のかたまり(例えば「イーアーエー」)ですから、簡単にはことば(言語)にはなりません。そのようなときに、実物とことばを橋渡しして結びつきやすくしてくれるのがこの写真や絵なのです。

 

写真カードの作り方③.jpg

〇作り方

 ここでは、写真カードや絵カードの作り方で、よくある質問から。まず写真を撮るときは子ども目線で撮りましょう。子どもがなにに関心を向けているか、どこに視線を向けているかに注意して作ります。また、写真と絵では、写真のほうが実物に近いのでわかりやすいのですが、写真には背景にいろいろなものが写り込むという欠点があります。その点に注意をしておきましょう。子どもがいつも自分で見れるところに置いておくこと、舐めたりしても安全な材質・形への配慮も大事です。

それから写真・絵カードの主な用途は、目の前に見ることができるモノや人、場所などの名詞です。「うれいしい」とか「きれい」といった感情や「食べる・飲む」「行く・帰る」といった動作語(動詞)には使えません。

写真カードの作り方④.pptx.jpgのサムネール画像

さらに、写真とことばが結びついたらことばとして獲得できたかというとそうではありません。子どもはその写真がことば(例:「パンダの写真」が「パンダ」と思っている)だと思っているだけかもしれません。ことばを実物と結びつけるためには本物と出会う経験が大事です。五感を使ってほんものと出会い体験することがそのものの概念の豊かな獲得につながります。

 

〇使い方

写真カードの作り方⑤.pptx.jpg

 子どもと一緒に生活するとき、遊ぶときいろいろな時に使えます。興味を持ったものと写真とことばをマッチングしましょう。難聴児のママさんたちはどのように使っているか例をいくつか紹介します。子どもの年齢や興味・関心、実際の生活の中での必要性など、うまく使っていくとよいと思います。

最後に写真・絵カードと「ことば絵じてん」や「絵日記」へのプロセスを紹介しておきま

。「ことば絵じてん」はある程度ことばを身につけてきた2歳過ぎくらいから、ことばの概念を拡げたり整理していくときに使います(語彙の拡充・概念の写真カードの作り方⑥.jpgのサムネール画像整理)。「絵日記」は2歳頃から、子どもがその日に経験したことを振り返り、書きことばへとつないでいくときに使います(構文力・文法力・運用力)。



写真カードの作り方⑦.jpg

 

こえない子たちにとって苦手な品詞のひとつが助詞です。理由はいくつかあります。

①日常会話の中で助詞はしばしば落ちてしまいます(「ねえ、学校?」「いや、病院」など互いに文脈が共有されていれば日本語は単語だけで会話できるからです)。

②助詞には一文字のものが多く(が、を、に、で、と・・)瞬間的に発音されかつ音圧も弱いため聞き取れないことがあり、また、口形がほとんど同じ助詞もあります(「ママ」「ママ」「ママ」、「学校」「学校」など)。

 ③助詞は名詞や動詞などと違って、前の語と後ろの語との関係を表示する機能を持つ品詞(機能語)です。そのため、「が」なら「が」という助詞だけを単独で取り出して使用方法を学ぶことができません。必ず文の中で学ぶことが必要です。

 

では、文の中で助詞は、どのように教えればよいのでしょうか? 助詞にも格助詞とか副助詞とか接続助詞とかいろいろありますが、まずは、きこえない子が躓きやすい一文字の格助詞「が、を、に、と、で」を取り上げて指導します。

 

助詞カード.JPGのサムネール画像のサムネール画像

〇助詞カードで遊ぼう!

 まず、助詞を視覚化した助詞カードを作ります。助詞の「見える化」です。これを使って遊ぶだけで、ある程度音声で会話が出来ている子には助詞の使い方の間違いを少なくすることができます。以下、教材の作り方と使い方を説明します。 

①「助詞カード」の作成

 まず、助詞のカードを作成します。割りばし付きとそうでないものと二種類準備します。厚紙であればラミネートはしなくてもOKですが、長持ちさせるにはパウチしたほうがよいでしょう。大きさは5~6cm四方。10cmの大き目

助詞カード棒つき.JPGのを作ってもいいでしょう。

*下記より助詞カードの印刷用原版(PDF)がダウンロードできます。

助詞カード.pdf

 ②絵本の中で助詞カードを使おう~助詞「が」の例

 まず、絵本を読み聞かせをするときにこのカードを使ってみましょう。助詞を意識させるのに最も適した絵本は、かがくいひろしの『だるまさんが・の・と』の3部作。この絵本の中の『だるまさ

だるまさん三部作.pptx.jpgんが』をひらき、助詞カード「が」を使いながら読み聞かせてみましょう。

 絵本の各頁の文、例えば「だるまさんが・・」と読みながら、だるまさんの絵に助詞カード「」をあてます。頁をめくるとおならをしている絵です。「ぷっ」と言って、だるまさんの絵にカードをあてて、「だるまさん ぷっ」「あっ、だるまさん おならしちゃった。くさいくさい」などと言って

だるまさんが.JPGだるまさんがプッ.JPGしみます。このように助詞カードを絵にあて「が」を強調しつつ読み進めます。

助詞カード「が」を使って絵本を読もう!.pptx.jpgのサムネール画像このような繰り返しのある絵本は、何度かターゲットになっている助詞が出てくるので

その助詞を強調しながら読み聞かせを楽しめます。例えば『誰かしら』『きんぎょがにげた』『おおきなかぶ』なども「が」を強調しながら読み聞かせが出来ます。こうした絵本の中で「が」は、動作・行為の主体(=動作主・主語)であることを示します。

 だるまさんシリーズでは、助詞「と」や「の」も同様使って読み聞かせができますが、ここでは省略します。

ポストが.JPG

②助詞カードを使って遊んでみよう!~助詞「が」の例

 次は助詞カードを使って、いろいろなもの(具体物)にあてて文を言ってみましょう。

例えば、今、ポストに「が」があたっています。どんな文を作りますか? 上の写真なら「ポスト赤い」「ポストある」「ポスト立っている」、下の写真なら「ポストバタン」「ポスト倒れた」「ポスト寝てる」等々。

 また、写真下のような人形を使ったり(「リ

ポスト2.JPG可愛い」など)、実際に身の回りのもの、自分のからだなどにあてながらいろいろと「が」を使った文を作って遊びます。自分のおなかにあてて「おなか痛い」とかおやつにあてて「おやつ食べたい」など楽しめます。

 

リボンが.JPG








③その他の助詞カード(「を・に・で・と」など)を使って

 

助詞カード「を」を使って絵本を読もう!.pptx.jpg同様に助詞カード「を」を使って絵本を読みます。これも図のような繰り返しのある絵本がよいでしょう。絵本の次は、具体物や人に助詞カードをあてて同様にあそびます。

 

④助詞カード「が」「を」を使って

それから絵本『おおきなかぶ』で、助詞カード「が」「を」を一緒に使い、文にしたがって絵にあてた助詞カードを順次動かしながら読んでみましょう。右ファイルの例は『おおきなかぶ』を使った例です。

 そして絵本の次はまた具体物を使って動作しながらやってみましょう。

 

〇助詞カードを作ってあそんでみたら・・

助詞カードを使ってみたら2.pptx.jpgうしたあそびを、実際に聾学校年中児さんにやってみた保護者がおられます。果たしてその効果はどうだったのでしょうか? 右のファイルをご覧ください。

 *右記のお子さんはこうした活動の中で助詞をマスターし、療育のSTさんにも「最近、急に助詞がわかるようになりましたね」と驚かれたそうです。

 

 



 以前にこのホームページで、ある幼児の保護者が、お子さんが年中児のときに「ことば絵じてん」作りから始め、その後、「品詞カード」「助詞記号」「助詞手話記号」など様々な視覚教材を作って子どもに日本語を教えて、非常に効果的だったという実践を紹介しました。⇒「年中幼児にことば絵じてん・助詞記号・品詞カードを使ってみて」参照。下記URL http://nanchosien.com/papers/04-4/

 

このお子さんは、その後、着実に語彙と文法を獲得していきました。例えば「絵画語彙検査」では、取組前の検査結果は、生活年齢5歳1カ月の時語彙年齢3歳1カ月でしたが、その後、生活年齢5歳8か月の時は、語彙年齢は5歳6か月まで伸びていました。また、Jcoss(日本語理解テスト)での日本語文法理解力は6歳で14項目通過・小2レベルまで伸びました。さらに、質問応答検査でも生活年齢6歳4カ月で6歳11カ月でした。

 このお子さんは人工内耳を装用していますが、たとえ人工内耳を装用して装用閾値が30 自動詞と他動詞.jpgBだったとしても、0デシベルのきこえる子との差は歴然としており、そのためにどうしても音声だけでは情報の入力に限界が生じ、日本語獲得に負の影響が生じます。

それを補うためにはやはり視覚を活用することです。視覚言語すなわち手話の併用や視覚教材すなわち「ことば絵じてん」作りであったり、「品詞カード」「助詞記号」「助詞手話記号」であったりします(右図は教材の一部)。それらの効果は、このHPの他のカテゴリーでそれぞれ紹介していますのでそちらを参考にしていただければと思います。

 

〇助詞カードを使ったわかりやすい指導法

  動詞で遊ぼう!.jpgまた、ある聾学校で、筆者が「助詞がよくわからない」という年長児の個別指導をしたとき、「助詞カード」を作って遊んだことがあります(右図参照)。アンパンマンとバイキンマンの指人形を使って二人で楽しく遊びながら、そのお子さんは30分で助詞「が」と「を」の使い方を理解しました。それを横で見ていたお母さんは、「これで助詞がわかるようになるんですね!」と驚いていました。幼児は、このような具体物を交えて、動作化・視覚化することで理解が進みます。そして、それを日本語の文に置き換え、書きことばとして理解していくわけです。

 

〇「江副文法・構文図」を使って

品詞カードにすると.jpg動詞や助詞がある程度わかるようになった子どもは、文のしくみが学べるようになります。ここでは、ある保護者が、年長のお子さんに使った、「構文図」を使った日本語学習について紹介します。このお子さんのお母さんは、このHPに掲載されている記事や最初に述べた保護者の実践等を読み、自分もやってみようと思い立ち、筆者が作成したワーク等(「ことばのネットワークづくり」「絵でわかる動詞の学習」「新・日本語チャレンジ」)を購入し、品詞カードを作って品詞分類から始めました。名詞、時数詞、動詞、形容詞などと作っていき、文の構造は江副文法の方式にしたがって、横書き・縦並びの重層構造に配置して教えていきました。

幼児の日本語指導(3).JPGこの方法は、まず、文を文節(「犬は、女の子に、押されています」)に区切り、それを一直線上ではなく、文節ごとに縦に配置していきます(右下図参照)。但し、名詞を修飾する「名詞修飾句」があるときは、修飾される名詞までを横一列にします。保護者の例(右下図)では、名詞句はありませんが、右上図には三つあります。1つは「とても・・・昨日」、二つ目は「久しぶりに・・・私」まで、三つめは、その下の「きこえない・・・運動会」です。しかし「きこえない・・・運動会」の名詞句はスペースの都合上、2段になっています。本来は横一列です。

次に、助詞は縦線を二本引いた真ん中に配置します。この二本の直線の左に配置された名詞や名詞句を「情報」と呼びます。

そして、文末の述語(右上例では「行った」、右下例では「押されています」)は、最後の文節の助詞の右側に表示します。これを「述部」と言い、一つの文の最後に一つしかありません。

それぞれの構文図をみてみましょう。各文節(右下例の「犬は」「女の子に」)が、この文末(押されています)の述部に、それぞれちゃんとつながっていることが一目見てわかります(犬は→押されています、女の子に→押されています)。右上の例も同じです。

このように、文の構造が一握的にわかるのがこの図の最大の特徴です。このように文がどのように成り立っているのかをお子さんに見せたり、文の絵を描かせたりしました。このような方法で学習していったところ、文の主述関係や修飾・被修飾関係の読み取りがよくできるようになり、文を読んで意味を理解する力が増し、学年末のJ.cossでは15項目(小2年レベル)まで通過しました。

視覚や動作を活用して、「見て、動いて、からだで」おぼえていく日本語は大きな効果を発揮します。

      

〇絵日記を使って品詞分類

  絵日記の品詞分類.jpgまた、絵日記の中の文を品詞分類する方法もあります。色と形を使って単語を視覚化し、文の構造・しくみを把握する上で効果的です。

 

 視覚教材(目)と動作化(からだ)で日本語を学ぶ方法は、幼児期から使える方法です。

ぜひ、お子さんに合せてさまざまな教材を工夫し、兄弟・家族含めてみんなで楽しく遊びながら日本語を身につけていってほしいと思います。

 

 最初に引用したお子さん(年長)のお母さんから、最近、以下のようなメールをいただきました。そのまま引用します。

「・・・(語彙の獲得や拡充に)効果的だったことは、①ことば絵じてん、②意識的な親子の会話、③親がかく絵日記、④絵本よみきかせです。自作ことば絵じてんがことばの土台となり、会話で知らない言葉や、別の言いまわしをどんどん使用していくことが大切だと思いました。それらの言葉を、すぐ絵日記に書いて確実におさえていく。ただ、親の語彙も生活していくなかで、繰り返しが多く限られてきますので、会話には、なかなか出てこない言葉は、絵本でおぎなえました。絵本にでてきた新出語彙を説明していくことで短期間に増えたと思います。」

 見たり聞いたり話したり書いたり、あらゆる感覚、コミュニケーション手段を使って、あらゆる機会をとらえて総合的に取り組んでいかれたことがわかります。この期間、ことば絵じてん作りから始まって1年半です。集中的・意識的に取り組むことによってお子さんのことばの力はぐんと伸びます。ことばやコミュニケーションの力は決して「今からではもう遅い」ということはありません。気づいたときがスタートの時です。

きこえない子が学ぶ聾学校の教室や家庭では、スペースの都合もあるでしょうが、できるだけきこえない子に配慮した「可視化した教材・掲示」が必要だなと思います。

 

こうした掲示物をみると、そこでどんな活動が日々行われているのかイメージできるものです。今日は、ある聾学校の幼稚部年長組の教室とあるお子さんの家庭を参考に、どのようなものがそこに掲示されているのかみてみたいと思います。

教室正面.JPG

まずは教室正面の黒板。この写真は1月頃のものなので、円形の十二支の表があります。干支の話題で話題が盛り上がったことがわかります。正月の飾りの絵、鏡餅の模型、獅子舞の絵、絵本などが置かれています。餅つきのためにクラスでお米屋さんに行き、もち米を買ってきたことも板書からわかります。幼児にとって時間の認識は、時間が目に見えないこともあって意外と難しいので、こうした機会に話題にしていくことはとても大事です。 教室壁面(窓側).JPG

黒板の左側は、最近使った名詞や動詞が色分けしたカードになって貼られています。

教室の窓側をみると、針金を通して、これまでに使ったことばを概念カテゴリーごとに分けて色画用紙に貼ってつるしてあります。「野菜」「果物」「海の生き物」なかには「日本のおばけ」まで。ことばは単独にバラバラに存在しているのではなく、このようなカテゴリーをもっています。そのような構造が視覚的にわかるようにしてあるわけです。また、下のほうには、助数詞の一覧表も貼ってあります。日本語には「枚、匹、冊、頭、台、個・・」など無数に数え方のことばがあって、しかも、「ぴき、びき、ひき」と言い方もまちまち。きこえない子にとって苦手なところです。

  教室壁面.JPG

廊下側の壁面はどうでしょう。

前のほうには、ホワイトボードにはり付けた1月のカレンダー。書き込み式になっており、週には「先週、今週、来週」などのことばと変わり方がわかるように色分けした移動式帯テープが貼ってあります。「おととい、昨日、今日、明日・・」なども同様です。

壁には、この3年間の学校での活動がすべてわかるように、行事などのときに撮った写真が月別に貼ってあります。例えば、「年少のときの9月の誕生会はどんなことをした?」「年中のときの運動会のダンスは?」など、過去の思い出をたどると同時にこの3年間の成長ぶりもわかるようになっています。そして、本棚、赤ちゃんを入れておくベッドまで。弟妹を連れてきたお母さんのためには保護者控室はもちろん、教室内にベッドも用意されています。  

きこえない子にとって、視覚的にわかる、ということはとても大事なことです。やったこと、話したことが目で見て確認できることは、ことばや知識の定着に役立ちます。

このくらいの教室環境は準備したいものですし、それぞれのお子さんの家でも、スペースの問題はあるでしょうが、できるだけ視覚に配慮した掲示(例えば書き込み式の月カレンダーとか連絡版とか)があるとよいと思います。 自宅掲示板.jpg

 

 4枚目と5枚目の写真は、ある家庭の壁に貼られたさまざまな掲示です。一緒に遊んだあと貼ったのでしょう。カラフルで見ているだけで楽しめます。壁だけでは足りず、ついに襖には季節のポスターが! もしかして、トイレやお風呂、天井にも貼ってあるのかな?

 

季節ポスター.JPG

 算数の計算はできるけれど、文章題が・・というきこえない子はけっこうたくさんいます。文章題で使われている、「ひく」はわかるのに「とる」はわからないとか、「ちがい」とな さんすう.jpgるともっとわからないなど言葉を知らないために、問題のイメージが描けないのです。

右の図は、小学校1年生の算数の教科書に出てくることばですが、子どもはこれらの語の意味がちゃんとわかっていないのです。

 

実際の生活の中では、私たちは数を使う機会はけっこう多いのですが、いちいちモノを操作しながらことばで言うことはしません。「えっと、冷蔵庫にあるたまご5個のうち、3個使おう。そうすると残りはいくつになるかな?」なんて一人で声を出してぼそぼそ言いながら料理するわけではないでしょう(頭の中で材料をイメージしています)。

 しかし、きこえない子どもには、あえてそのプロセスをことばに出して言うことが必要なのです。

Aちゃん、冷蔵庫にいくつたまごあるか見てきて」「はーい。1,2,3・・・。ママ、5つあるよ」「じゃあ、そのうち3つ持ってきてくれる?」「うん、わかった」「ありがとう。今度お料理するときに、残りのたまごを使いたいんだけど、いくつ残っているかな?」「ええっ? えっとー、さっき5つあって、3つもってきたんだから・・・」

まあ、こんな感じのやりとりを年長さんくらいになったらお手伝いをしてもらいながらやるのです。そうしたやりとりの中で、算数で使うことばを、口に出して使うわけです。じゃあ、どんなことばを? 最低、上のファイルにあるようなことばは使ってほしいです。

  

 ある年長児のお母さんは、この表の中のことばを使って、家で「たしざん」「ひきざん」 足し算.jpgのポスターを 作って壁に貼りました。こうした教材も具体的な場面と併せて使うとよいでしょう。

 因みに、子どもには「のこり」(求残)を求める引き算は、ものが消えてしまうので残りはイメージしやすいですが、「ちがい」(求差)を求める引き算はモノが消滅しないので、なぜ引き算を使うのか理解しづらいです。

 そこで実際に、例えばプラレールの新幹線とトーマスを横に並行に並べて、「新幹線とトーマスはどっち 引き算.jpgが多い?」「数えてみよう」「新幹線は、1,2,3,4両。トーマスは・・3両。」「新幹線のほうがトーマスより1両多いね」など、「ちがい」「どちら」「多い」「少ない」などのことばを使って、ことばの意味をイメージできるように比較する体験をするとよいと思います。

 

 聾学校幼稚部では、「ことば」については意識的に指導していますが、意外と意識してい 01-3203_01[1].jpgないのがこのような「かずのことば」です。そのために、小学校以降の算数の文章題が解けないということが起こりがちです。生活の中での数量のことばを扱う経験が、小学校以降の数量認識・数的能力の基礎を育てるので、意図的に取り上げてほしいものです。

 また、右の絵本は、「はじめてであうすうがくの絵本」シリーズ1~3(安野光雅著、福音館、各1,728円)です。このような絵本をお子さんと一緒に読むのもよいと思います。このような算数に関わる絵本はほ 51QhnTu915L._SX378_BO1,204,203,200_[1].jpgのサムネール画像かにもいくつかあります。「さんすうだいすき」シリーズ1~10(遠山啓著日本図書センター、各2590円)は、子どもにとてもわかりやすく書かれています。ただ、1冊が高価なので図書館などで借りてきて読むとよいと思います。

 

はじめに

これから紹介する実践は、年中・CI装用児Sちゃんの保護者が半年間にわたって取り組んだ、①「ことば絵じてん」づくりによる語彙カテゴリーの学習と、②助詞、受動文・能動文、比較表現、自動詞・他動詞などの日本語文法の学習に取り組んだ記録です。

 これまで、上記①の「ことば絵じてん」づくりは、乳幼児相談の段階から積極的に保護者に勧め、語の概念形成や語彙拡充において一定の成果をあげてきています。

しかし、②の文法・構文の学習においては「助詞手話記号」や「品詞カード」を使った日本語の文法学習は、基本的には小学生以上を対象として(一部年長クラスでも実践されていますが)、「自立活動」などの学校の授業の中で取り組んできており、これも一定の成果をあげてきてはいるのですが、未だ幼児には本格的には行ってきませんでした。

今回、ある年中児の保護者が、上記視覚教材を使って子どもと文法学習に取り組み、その結果、語彙の概念カテゴリーや文法の理解が進み、病院で行ったJcoss(日本語理解テスト)視覚版による検査で、14項目通過したということでした(自分で問題文を読んで回答する方法)。これには私も正直、驚きました(14項目通過は聴児小2レベル)。もし、幼児期にこの記号を使って文法理解ができるのであれば、きこえない子どもとくに高度・重度難聴児の幼児期での日本語習得は、視覚を通して飛躍的に進む可能性があります。そこで、この事例を、学校や療育施設等で聴覚障害幼児を指導しておられる先生方やお子さんをお持ちの保護者の方々にも紹介し、ぜひ、実践・検証していただきたく、紹介することとしました。日本語の面で悩みを抱えておられる先生方や保護者の方々に、ぜひ、教材を工夫して実際にやってみていただきたけたらと思います。以下、保護者による実践記録(メール記録)を紹介します。

 

1.ことば絵じてんづくりに取り組む(年中・10月上旬~)

「わが子は、新生児スクリーニングで重度難聴がわかり、その後、手話を使い始め、1歳4か月で初めての手話「おいしい」が出ました。2歳0か月で人工内耳(CI)を片耳にして、年中になった今は、声と手話と指文字でコミュニケーションをとっています。

言葉が上手になると、つい「聞こえている」と思ってしまい、安心してしまいました。先日、このホームページ(=難聴児支援教材研究会HP)の『ことば絵じてん』づくりのところを見てことばのカテゴリーのことを知り、子どもに『上位概念』を質問してみると、果物と野菜の名前はたくさん知っているのに、分類もできていないし言葉で説明もできない。単語を知っているから、特に説明はしたことはないけれど、自然に分かっているものと思い込んでいたことに気がつきました。子どもの頭の中では、単語があちこちに散らかってるんだなと思いました。 秋の食べ物.jpgのサムネール画像

そこで、ことば絵じてんで頭の中に引き出しを作り、整理しようと考えました。変化は早く、すぐに上位概念を理解して、みるみる頭の中に引き出しができていくのを感じました。誰かに何かを説明するときには、ことば絵じてんのページを頭の中で見ながら話していることが、一緒に作った私にはわかりました。ものにはカテゴリーがあること、色々な見方ができることを教えられたと思います。

ことば絵じてんの効果は、予想以上でした。こどもと一緒に私も学んでいて、大変なこともあるけれど、素敵な時間を過ごせています。

一番最近作ったのは『秋』に関するページです(右図)。体験した事、食べ物、服装など秋にまつわることを集めました。作っていると、ワクワクしてきます。親が楽しいと、こどもも楽しんでいて、どんどんペー 十二支並び替え.jpg ジが増えていきます。こどもも、自分だけの辞典が大好きになって、分からない時は自作の辞典を持ってくるようになりました。

いまは、子どもと二人で『冬』のページを制作中です。冬に使うもの、クリスマスの料理、虫や動物の冬眠などを作っています。夏のページと比較して違いを学んだりしています。また、おせちや十二支のお話しを聞かせて順番を覚えました。」(右図上下おせち由来.jpgのサムネール画像

HP紹介木島解説より】

お子さんと一緒に楽しみながら、世界にひとつしかない"myことば絵じてん"が編纂されていく様子が浮かんできます。これは、子どもの頭の中に「辞典」を作っていく作業を、紙の上で行っている"語彙辞典を編む"作業。きこえる子はとくにこのような作業をしなくても、耳に次々と入ってくることば(新情報)を整理していけばよいのですが(きこえる子は1語につき約800回その語をきいて、その語の概念を旧情報と照合・整理し、新たに語の概念を書き換えているのだそうです)、きこえない・きこえにくい子どもたちは、それだけの情報を「耳から」きくことは、いくら補聴器や人工内耳をしていてもまず不可能です。ですから、「みかん、りんご、バナナ・・・」と単語はいくつも知っているのに「果物」「食物」「農産物」「植物」「栽培」「農業」「貿易」といった上位概念や抽象語を知らないということが起こってきます。語は様々な切り口で仲間にまとめ、カテゴリー化でき、それらがそれぞれに関係しあって語のネットワークを構成して膨大な構造を構成しているのが特徴です。頭の中にある語を全て視覚化・カテゴリー化することはもちろんできませんが、語のもっているこのような"しくみ"を学習することは十分可能です。「ことば絵じてん」を編纂することは、このような語と語の関係性、そのしくみを学ぶことです。この原理が理解できれば、あとは子ども自身が自分の頭の中で、新しい語に出会った時にそれを整理しながら蓄え増やしていくことができます。きこえない子が語彙を増やし、抽象語を身につけていくために、語の概念カテゴリーとそのしくみが学べる「ことば絵じてん」づくりをぜひ、お子さんと一緒にやってみることをお勧めします。

 

(2)その後の「ことば絵じてん」づくり

「1ケ月の日数、一週間の日数、一日の時間、一年、1学期~3学期、季節を通して、教 えていきました。これは家の壁にも貼りました。 自宅掲示板.jpgのサムネール画像

以前、数え方について先生に質問して、それも絵辞典にまとめると良いとのアドバイスをいただき、さっそくやってみたところすぐに覚えて、今では「本を2冊かりてくる」「魚は一匹、二匹」と、あっさり暗記しました。まとめることって、こんなに効果があるんだ、と毎回驚きます。絵辞典を作れば作るだけ、知識に直結していく感じがします。

いまは、物の名前の絵辞典作りより、言葉集めの絵辞典作りになってきました。 形容詞表.jpg

これからも、絵辞典を活用して、親子で一緒に楽しみたいと思います。どこから手をつければいいのか、やり方も分からない。学校も教えてくれない。でも、助詞を教えたい。上位概念を育てたい。途方もない作業に感じていましたが、絵辞典、手話助詞記号、品詞分類、助詞カードと、教えて頂いた方法を一つずつ試していくと、「できるかもしれない」と希望が持てました。

また、春になったので、ことば絵じてんから発展させて、春に関する絵本も一緒に作りました。」

 

 

 

2.ワーク『ことばのネットワークづくり』の取り組み

『ことばのネットワーク作り』(難聴児支援教材研究会編)はCDの分も全て終わりま ことばのネットワークづくりから.jpgした。「仲間はずれはどれ?」と「似ているところと違うところ」が難しかったようでしたが、繰り返して日常でも質問していくと、答えられるようになってきました。」(右図)

 

 

3.助詞の学習にとりくむ(2月中旬~)

(1)助詞カード(助詞記号)を作成

「教えていただいた助詞カードを作ってみました。 助詞カード.jpgとてもとても、よさそうです!!                           

実際の生活場面で助詞がカードになって登場するので、こどもが驚き面白がっています。こどもが遊んでいるぬいぐるみやミニカーなどに、助詞カードをさっとつけて「Sが、コアラに渡す」「コアラがSに渡す」と文章で言っています。視覚化できて、インパクトもあって、助詞を意識すると思います。これで助詞の理解が進みそうです! でも、今はまだまだ助詞の理解が進んでいないので、現段階では7項目目は通過できないと思います。ですが、今後、助詞の勉強を家でしていけば、いけるかもしれない!と思うことができました。

ヘルメットととんかちで叩くゲームも、さっそくやってみました。が、単語の意味はわかるけれど、やはり助詞の意味がわからないので、ゲームになりませんでした。とりあえず、解説の絵をかいて説明してみようと思います。」

 

(2)助詞手話記号をポスターに

「助詞の指導をスタートして、CDの中にあった手話助詞記号をポスターにして貼っているん 助詞例文付きポスター.jpgですが、助詞手話記号、ものすごい効果を感じています。これを参考に教えたら一気に理解が進んだ感じがあります。家にポスターも貼って、自分なりに説明もしてみました。すると、子どもが「Sが、トイレに行く、の『に』はこれ」とポスターの場所を表す「に」をしめしました。「お部屋で遊ぶ、の『で』はこれ」と、場所の「で」の手話助詞を出したりしています。やりだしてまだ1ケ月未満ですが、思ったより子どもは吸収が早いようで、もう取り入れ始めているようです。」

 

(3)助詞クイズ

「今日は、短文を作って、「ポスターの手話助詞記号のどれに当てはまると思う?」と質問すると100%正解でした。手話記号になっているので、目で見て使 助詞クイズ .JPGい方や意味がわかるから、するする入るようです。それを見て主人が「ぼくも、はやく表を覚えないとついていけなくなる」と焦っていました。大人よりも、こどもの方が覚えがいいですね。はてしなく遠く思えた助詞理解の目標ですが、この調子ですと夏ごろには理解できそうです。反復してしっかりと自分のものにしていきたいです。」

 

(4)絵日記に品詞分類を導入

「それから、絵日記も難聴児支援教材研究会のHPにのっているやり方にかえてみました。 初めて絵日記の効果があらわれてきたのを感じます。(今になり、文法を勉強中です・・・・・頑張ります) 日本語を使うのは自然すぎて、第二言語として学ぶ時に、そもそもどこが難しいかが分かりません。HPをみて、「これが難しいのかぁ」と驚くような感覚でした。日本語は自然すぎて、品詞分類、動詞の活用と、学問的になると逆に考え出して難しいです。」

 

(5)助詞学習の経過と結果
①助詞に関しては、最初に助詞記号のカードをつくり実物にあてはめた。

②助詞ポスターの意味を説明した。すぐ理解して即アウトプットできた。 可逆文「~が~を」.jpg

③たたくゲームで実際にたたく側、たたかれる側の時、どういう文章かやりながら確認した。(右図、まだよくわかっていなかった)

④助詞ごとの助詞クイズをした。

⑤すべての助詞をまぜて助詞クイズをした。

⑥追いかけっこをした。「追いかける」「追いかけれる」の札をさげて、やる前に助詞カードを体にあてて「Sがお母さんを追いかける」と文章にしてから行動した。能動文7割ぐらい理解の段階で受動文を教え始めた。「お母さんがSに追いかけられる」と言ってからやった。

⑦簡単な文章をつくった。このカードを使ってと渡してみた。(文章作りはまだまだ)

⑧絵日記はすべて品詞分類をした。初期は助詞手話記号を助詞の横に貼っていた。

⑨ほぼ理解してから春休みを使って日本語チャレンジをやった。レディネステストでは78~90点ほどとれた。

⑩病院でジェイコスを受けてみた。14項目通過した。

 

 

4.構文の学習にとりくむ(3月上旬)

(1)動詞ビンゴで語彙の拡充

「動詞ビンゴも作ってやっています。何度もできるようにラミネートしました。楽しいやり方で言葉が学べるのが気に 入っています。この動詞を使って文章作りをしながらビンゴしています。」

 

(2)受動文の学習

 「木島先生より『助詞の学習のときに、能動文と受動文が両方使われているが、この区別 追いかける.jpgはきこえない子には結構難しいので、まず「ABを~」という可逆文で助詞「が」と「を」を意識させるのが最初で、それが使えるようになってから、能動文と受動文の違いつまり、①どちらに視点を向けた言い方か、②助詞も動詞も変わるということを教えるとよいでしょう』とアドバイスをいただき、なるほど、能動文と受動文は、一気に教えるのではなく、まず「ABを」からの方がいいとわかりました。確かに、初心者に一気に説明したので、余計にややこしくなってしまったのでしょう。初日、全くゲームにならなかったところから、一緒に文を読んでから、Sに私と自分それぞれに助詞カードをあててもらう、そこからどっちが叩くか考える時間をもつことを繰り返していたら、ゆっくり考えながらなら、8割ほど正解するようになっ てきました。今日でゲーム3日目、もっとかかるだろうなぁと覚悟していましたが、教えたら、教えただけ吸収していっています。」(上図は能動文例)

 

(3)比較表現の学習(3月中旬)

「先生のテキスト(『きこえない子の日本語チャレンジ』)を参考に助詞を教えて2か 比較カード.jpg月。ぐんぐん伸びて、一気にここまでたどり着きました。2月の時は、「ねこが犬をおいかける」「犬はねこより大きい」も全く分かっておらず、項目7の通過は果てしなく遠い目標でしたが、教えていただいた助詞をカードにして実生活に活用することで、理解が進みました。

助詞カードが良かったので、比較を教える際にも、比較カードも作って実際の物に当てはめました。(右図)

実物に、分解された文がつくことによって、目でみて文章の構造がわかるので、幼稚園児にもわかりやすいようでした。先生のHPに、比較は「基本が分かれば難しい構文ではありません」とありますが、本当にその 比較教材.JPG通りだ!と思いました。

・比較カード
・比較の品詞分類シート(ラミネートしてホワイトボードマーカーで消せます)
・比較カード(実物につけます)
 これを繰り返し毎日やって、全くわかっていないところから、だいたい3週間ほどで理解し、日常的にも間違いなく使うようになりました。予想より理解が早かったので、クイズは確認の意味ぐらいで、ほとんど使わずでした。

 

(4)自動詞・他動詞の学習(春休み)

自動詞.jpg自動詞と他動詞も教えました。以前は、「はこが落と した」 など間違って話していましたが、問題カードを作って、「さかなが焼ける。Sが魚を?」と聞いて「焼く」と答える。逆もやる。「ものの様子、人がやるときはこっち」と説明し、繰り返していくと自然に暗記していき、会話で自動詞と他動詞の間違いがなくなってきました。いまでは、「はこを落とし 他動詞.jpgた。」と間違いなく言うことができています。聞くことで覚えられないぶん、カードで補えば覚えていけるんだなと思いました。右の上の写真は「ジュースが 冷える」(自動詞)、下の写真は、「ぼくが かんを 冷やす」(他動詞)を実際にやっている場面です。

自動詞と他動詞の間違いがなくなり、助詞の間違いも減り、会話の中で比較表現を使うようになりました。2か月間で急に変わったので、周りの先生たちが驚いていました。会話中の助詞に関しては、8割ほど正解です。いまでも2割は間違えていますが、「『ここに見て』は、おかしいよ。なんだと思う?」と聞くと「ここを見てだった」と、ちょっと考えると正解できます。日常で間違わず使えるようになるには、理解の後に、練習を積み重ねることが大切ですね。急に助詞を間違わなくなった、助詞をたくさん使うようになっていると、何人もの人に言われました。

このテキスト(『日本語チャレンジ』『絵でわかる動詞の活用』『ことばのネットワークづくり』)を使っていると説明すると、STの先生が「これは、すごくいいですね!」と言っていました。日本語チャレンジ、動詞のドリル、ネットワーク、すべて終わりました。苦手だった「○ ○と○ ○の似ているところ、ちがうところ」も、今ではすらすら答えられるようになりました。

 

5.学習の成果と今後の課題

(1)学習の評価

Jcoss通過項目数14項目(小2レベル) 

  〇単語レベル;「名詞」「動詞」「形容詞」3項目通過

〇語連鎖レベル;(「二語文」「二語否定文」「三語文(非可逆文)」3項目通過

〇文法レベル;可逆文、位置詞、比較表現、受動文、主部修飾、格助詞など8項目通過

●「述部修飾」「中央埋め込み文」~正答なし(今後の課題)

 

(2)保護者の感想

「助詞手話記号に出会えて、本当に良かったです。そして、あの日、教わった『助詞をカードにすること』と、 「〇男がお母さんをたたく」ゲーム。これがなければ、こんなに早く理解が進んでいなかったと思います。素晴らしいアイディアをいただき、心から感謝しております。しかし、「かわいいだった」「きれいかった」など、まだ変な文章で話しているので、活用もそのうちやろうと思っています。

 

6.おわりに~まとめにかえて

以上がメールでやりとりしてきた半年間の実践の記録です。Sちゃんは2歳で人工内耳を装用し、年中になった時には日常会話は音声で可能、日々の生活に必要な語はほぼ獲得していました。ところがたまたま出会ったホームページ(難聴児支援教材研究会)の中で、語の概念カテゴリーのことを知り、Sちゃんに質問してみました。ところがSちゃんはそれぞれのモノの名前は知っているのにそれらのモノの上位概念を知らなかったのです。ここが難聴児の問題なんだと気づいたお母さんは、そこから「ことば絵じてん」づくりを始めました。幸い、Sちゃんもその活動を楽しみ、語の概念はどんどんと広がっていきました。

しかし、課題はそれだけではありませんでした。モノの数え方(助数詞)、助詞の使い方、受動文の使い方、比較の言い方など、きこえている子なら自然に身につけ間違えないはずのことが、人工内耳をしているとはいっても、きこえにくいSちゃんには自然に身についていないこと、知らないことがたくさんありました。

そこでお母さんは、「ことば絵じてん」の取り組みに加えて「助詞記号・助詞手話記号」「品詞カード」などの視覚教材の利点を活かした日本語の文法学習に取り組み始めました。「視覚教材の利点」は「ことば絵じてん」づくりですでに経験していましたから、スムーズに取り組め、持ち前の教材作りのセンスを活かして、次々と教材を自分で開発し、それらを使ってSちゃんと遊びました。第三者から見ると、家庭で親が教師になっているのではないかと思えるかもしれませんが、決してそうではなく、Sちゃんにとっては、それはお母さんとの楽しい「ことば遊び」の時間なのです。こうしてSちゃんは助詞を理解し、動詞の活用もわかるようになっていきました。この間わずか6か月。SちゃんはJcoss14項目通過できる文法力を身につけました。しかも、自力で問題文を読んでの解答ですから、「読んで理解する力」をつけたわけです。

 

 さて、聴覚障害教育の中で、きこえない子の課題としてこれまでに指摘されてきたこととして語彙の不足、語の概念の貧しさ、結果としての抽象語彙の習得困難、日本語文法力の不足、それらのために文の読解困難などがあります。それに対して、私は、語彙の習得はとくに幼児期における中心課題として、文法の習得は小学生とくに低学年での中心的課題と考えてきましたが、今回のSちゃんに対する視覚教材適用の試みは、このような分析的な学習教材でも幼児期から十分に楽しめる可能性があることを示唆するものでした。ただ、Sちゃんの実践例がどこまで他の幼児にも適用できるかどうかまだわかりません。ぜひ、皆さんも関心あればぜひ取り組んでみていただきたいと思います。そして、その取り組みの結果をぜひ紹介いただき、広く成果を共有し、日本語を負担に感じている子どもたちとその保護者に、成果を還元し、楽しみながら日本語が身につけられたらいいなと思っています。

 (木島照夫記・東京学芸大学非常勤講師)

 

 

 

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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