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幼児の日本語指導教材と実践

 算数の計算はできるけれど、文章題が・・というきこえない子はけっこうたくさんいます。文章題で使われている、「ひく」はわかるのに「とる」はわからないとか、「ちがい」とな さんすう.jpgるともっとわからないなど言葉を知らないために、問題のイメージが描けないのです。

右の図は、小学校1年生の算数の教科書に出てくることばですが、子どもはこれらの語の意味がちゃんとわかっていないのです。

 

実際の生活の中では、私たちは数を使う機会はけっこう多いのですが、いちいちモノを操作しながらことばで言うことはしません。「えっと、冷蔵庫にあるたまご5個のうち、3個使おう。そうすると残りはいくつになるかな?」なんて一人で声を出してぼそぼそ言いながら料理するわけではないでしょう(頭の中で材料をイメージしています)。

 しかし、きこえない子どもには、あえてそのプロセスをことばに出して言うことが必要なのです。

Aちゃん、冷蔵庫にいくつたまごあるか見てきて」「はーい。1,2,3・・・。ママ、5つあるよ」「じゃあ、そのうち3つ持ってきてくれる?」「うん、わかった」「ありがとう。今度お料理するときに、残りのたまごを使いたいんだけど、いくつ残っているかな?」「ええっ? えっとー、さっき5つあって、3つもってきたんだから・・・」

まあ、こんな感じのやりとりを年長さんくらいになったらお手伝いをしてもらいながらやるのです。そうしたやりとりの中で、算数で使うことばを、口に出して使うわけです。じゃあ、どんなことばを? 最低、上のファイルにあるようなことばは使ってほしいです。

  

 ある年長児のお母さんは、この表の中のことばを使って、家で「たしざん」「ひきざん」 足し算.jpgのポスターを 作って壁に貼りました。こうした教材も具体的な場面と併せて使うとよいでしょう。

 因みに、子どもには「のこり」(求残)を求める引き算は、ものが消えてしまうので残りはイメージしやすいですが、「ちがい」(求差)を求める引き算はモノが消滅しないので、なぜ引き算を使うのか理解しづらいです。

 そこで実際に、例えばプラレールの新幹線とトーマスを横に並行に並べて、「新幹線とトーマスはどっち 引き算.jpgが多い?」「数えてみよう」「新幹線は、1,2,3,4両。トーマスは・・3両。」「新幹線のほうがトーマスより1両多いね」など、「ちがい」「どちら」「多い」「少ない」などのことばを使って、ことばの意味をイメージできるように比較する体験をするとよいと思います。

 

 聾学校幼稚部では、「ことば」については意識的に指導していますが、意外と意識してい 01-3203_01[1].jpgないのがこのような「かずのことば」です。そのために、小学校以降の算数の文章題が解けないということが起こりがちです。生活の中での数量のことばを扱う経験が、小学校以降の数量認識・数的能力の基礎を育てるので、意図的に取り上げてほしいものです。

 また、右の絵本は、「はじめてであうすうがくの絵本」シリーズ1~3(安野光雅著、福音館、各1,728円)です。このような絵本をお子さんと一緒に読むのもよいと思います。このような算数に関わる絵本はほ 51QhnTu915L._SX378_BO1,204,203,200_[1].jpgのサムネール画像かにもいくつかあります。「さんすうだいすき」シリーズ1~10(遠山啓著日本図書センター、各2590円)は、子どもにとてもわかりやすく書かれています。ただ、1冊が高価なので図書館などで借りてきて読むとよいと思います。

 

はじめに

これから紹介する実践は、年中・CI装用児Sちゃんの保護者が半年間にわたって取り組んだ、①「ことば絵じてん」づくりによる語彙カテゴリーの学習と、②助詞、受動文・能動文、比較表現、自動詞・他動詞などの日本語文法の学習に取り組んだ記録です。

 これまで、上記①の「ことば絵じてん」づくりは、乳幼児相談の段階から積極的に保護者に勧め、語の概念形成や語彙拡充において一定の成果をあげてきています。

しかし、②の文法・構文の学習においては「助詞手話記号」や「品詞カード」を使った日本語の文法学習は、基本的には小学生以上を対象として(一部年長クラスでも実践されていますが)、「自立活動」などの学校の授業の中で取り組んできており、これも一定の成果をあげてきてはいるのですが、未だ幼児には本格的には行ってきませんでした。

今回、ある年中児の保護者が、上記視覚教材を使って子どもと文法学習に取り組み、その結果、語彙の概念カテゴリーや文法の理解が進み、病院で行ったJcoss(日本語理解テスト)視覚版による検査で、14項目通過したということでした(自分で問題文を読んで回答する方法)。これには私も正直、驚きました(14項目通過は聴児小2レベル)。もし、幼児期にこの記号を使って文法理解ができるのであれば、きこえない子どもとくに高度・重度難聴児の幼児期での日本語習得は、視覚を通して飛躍的に進む可能性があります。そこで、この事例を、学校や療育施設等で聴覚障害幼児を指導しておられる先生方やお子さんをお持ちの保護者の方々にも紹介し、ぜひ、実践・検証していただきたく、紹介することとしました。日本語の面で悩みを抱えておられる先生方や保護者の方々に、ぜひ、教材を工夫して実際にやってみていただきたけたらと思います。以下、保護者による実践記録(メール記録)を紹介します。

 

1.ことば絵じてんづくりに取り組む(年中・10月上旬~)

「わが子は、新生児スクリーニングで重度難聴がわかり、その後、手話を使い始め、1歳4か月で初めての手話「おいしい」が出ました。2歳0か月で人工内耳(CI)を片耳にして、年中になった今は、声と手話と指文字でコミュニケーションをとっています。

言葉が上手になると、つい「聞こえている」と思ってしまい、安心してしまいました。先日、このホームページ(=難聴児支援教材研究会HP)の『ことば絵じてん』づくりのところを見てことばのカテゴリーのことを知り、子どもに『上位概念』を質問してみると、果物と野菜の名前はたくさん知っているのに、分類もできていないし言葉で説明もできない。単語を知っているから、特に説明はしたことはないけれど、自然に分かっているものと思い込んでいたことに気がつきました。子どもの頭の中では、単語があちこちに散らかってるんだなと思いました。 秋の食べ物.jpgのサムネール画像

そこで、ことば絵じてんで頭の中に引き出しを作り、整理しようと考えました。変化は早く、すぐに上位概念を理解して、みるみる頭の中に引き出しができていくのを感じました。誰かに何かを説明するときには、ことば絵じてんのページを頭の中で見ながら話していることが、一緒に作った私にはわかりました。ものにはカテゴリーがあること、色々な見方ができることを教えられたと思います。

ことば絵じてんの効果は、予想以上でした。こどもと一緒に私も学んでいて、大変なこともあるけれど、素敵な時間を過ごせています。

一番最近作ったのは『秋』に関するページです(右図)。体験した事、食べ物、服装など秋にまつわることを集めました。作っていると、ワクワクしてきます。親が楽しいと、こどもも楽しんでいて、どんどんペー 十二支並び替え.jpg ジが増えていきます。こどもも、自分だけの辞典が大好きになって、分からない時は自作の辞典を持ってくるようになりました。

いまは、子どもと二人で『冬』のページを制作中です。冬に使うもの、クリスマスの料理、虫や動物の冬眠などを作っています。夏のページと比較して違いを学んだりしています。また、おせちや十二支のお話しを聞かせて順番を覚えました。」(右図上下おせち由来.jpgのサムネール画像

HP紹介木島解説より】

お子さんと一緒に楽しみながら、世界にひとつしかない"myことば絵じてん"が編纂されていく様子が浮かんできます。これは、子どもの頭の中に「辞典」を作っていく作業を、紙の上で行っている"語彙辞典を編む"作業。きこえる子はとくにこのような作業をしなくても、耳に次々と入ってくることば(新情報)を整理していけばよいのですが(きこえる子は1語につき約800回その語をきいて、その語の概念を旧情報と照合・整理し、新たに語の概念を書き換えているのだそうです)、きこえない・きこえにくい子どもたちは、それだけの情報を「耳から」きくことは、いくら補聴器や人工内耳をしていてもまず不可能です。ですから、「みかん、りんご、バナナ・・・」と単語はいくつも知っているのに「果物」「食物」「農産物」「植物」「栽培」「農業」「貿易」といった上位概念や抽象語を知らないということが起こってきます。語は様々な切り口で仲間にまとめ、カテゴリー化でき、それらがそれぞれに関係しあって語のネットワークを構成して膨大な構造を構成しているのが特徴です。頭の中にある語を全て視覚化・カテゴリー化することはもちろんできませんが、語のもっているこのような"しくみ"を学習することは十分可能です。「ことば絵じてん」を編纂することは、このような語と語の関係性、そのしくみを学ぶことです。この原理が理解できれば、あとは子ども自身が自分の頭の中で、新しい語に出会った時にそれを整理しながら蓄え増やしていくことができます。きこえない子が語彙を増やし、抽象語を身につけていくために、語の概念カテゴリーとそのしくみが学べる「ことば絵じてん」づくりをぜひ、お子さんと一緒にやってみることをお勧めします。

 

(2)その後の「ことば絵じてん」づくり

「1ケ月の日数、一週間の日数、一日の時間、一年、1学期~3学期、季節を通して、教 えていきました。これは家の壁にも貼りました。 自宅掲示板.jpgのサムネール画像

以前、数え方について先生に質問して、それも絵辞典にまとめると良いとのアドバイスをいただき、さっそくやってみたところすぐに覚えて、今では「本を2冊かりてくる」「魚は一匹、二匹」と、あっさり暗記しました。まとめることって、こんなに効果があるんだ、と毎回驚きます。絵辞典を作れば作るだけ、知識に直結していく感じがします。

いまは、物の名前の絵辞典作りより、言葉集めの絵辞典作りになってきました。 形容詞表.jpg

これからも、絵辞典を活用して、親子で一緒に楽しみたいと思います。どこから手をつければいいのか、やり方も分からない。学校も教えてくれない。でも、助詞を教えたい。上位概念を育てたい。途方もない作業に感じていましたが、絵辞典、手話助詞記号、品詞分類、助詞カードと、教えて頂いた方法を一つずつ試していくと、「できるかもしれない」と希望が持てました。

また、春になったので、ことば絵じてんから発展させて、春に関する絵本も一緒に作りました。」

 

 

 

2.ワーク『ことばのネットワークづくり』の取り組み

『ことばのネットワーク作り』(難聴児支援教材研究会編)はCDの分も全て終わりま ことばのネットワークづくりから.jpgした。「仲間はずれはどれ?」と「似ているところと違うところ」が難しかったようでしたが、繰り返して日常でも質問していくと、答えられるようになってきました。」(右図)

 

 

3.助詞の学習にとりくむ(2月中旬~)

(1)助詞カード(助詞記号)を作成

「教えていただいた助詞カードを作ってみました。 助詞カード.jpgとてもとても、よさそうです!!                           

実際の生活場面で助詞がカードになって登場するので、こどもが驚き面白がっています。こどもが遊んでいるぬいぐるみやミニカーなどに、助詞カードをさっとつけて「Sが、コアラに渡す」「コアラがSに渡す」と文章で言っています。視覚化できて、インパクトもあって、助詞を意識すると思います。これで助詞の理解が進みそうです! でも、今はまだまだ助詞の理解が進んでいないので、現段階では7項目目は通過できないと思います。ですが、今後、助詞の勉強を家でしていけば、いけるかもしれない!と思うことができました。

ヘルメットととんかちで叩くゲームも、さっそくやってみました。が、単語の意味はわかるけれど、やはり助詞の意味がわからないので、ゲームになりませんでした。とりあえず、解説の絵をかいて説明してみようと思います。」

 

(2)助詞手話記号をポスターに

「助詞の指導をスタートして、CDの中にあった手話助詞記号をポスターにして貼っているん 助詞例文付きポスター.jpgですが、助詞手話記号、ものすごい効果を感じています。これを参考に教えたら一気に理解が進んだ感じがあります。家にポスターも貼って、自分なりに説明もしてみました。すると、子どもが「Sが、トイレに行く、の『に』はこれ」とポスターの場所を表す「に」をしめしました。「お部屋で遊ぶ、の『で』はこれ」と、場所の「で」の手話助詞を出したりしています。やりだしてまだ1ケ月未満ですが、思ったより子どもは吸収が早いようで、もう取り入れ始めているようです。」

 

(3)助詞クイズ

「今日は、短文を作って、「ポスターの手話助詞記号のどれに当てはまると思う?」と質問すると100%正解でした。手話記号になっているので、目で見て使 助詞クイズ .JPGい方や意味がわかるから、するする入るようです。それを見て主人が「ぼくも、はやく表を覚えないとついていけなくなる」と焦っていました。大人よりも、こどもの方が覚えがいいですね。はてしなく遠く思えた助詞理解の目標ですが、この調子ですと夏ごろには理解できそうです。反復してしっかりと自分のものにしていきたいです。」

 

(4)絵日記に品詞分類を導入

「それから、絵日記も難聴児支援教材研究会のHPにのっているやり方にかえてみました。 初めて絵日記の効果があらわれてきたのを感じます。(今になり、文法を勉強中です・・・・・頑張ります) 日本語を使うのは自然すぎて、第二言語として学ぶ時に、そもそもどこが難しいかが分かりません。HPをみて、「これが難しいのかぁ」と驚くような感覚でした。日本語は自然すぎて、品詞分類、動詞の活用と、学問的になると逆に考え出して難しいです。」

 

(5)助詞学習の経過と結果
①助詞に関しては、最初に助詞記号のカードをつくり実物にあてはめた。

②助詞ポスターの意味を説明した。すぐ理解して即アウトプットできた。 可逆文「~が~を」.jpg

③たたくゲームで実際にたたく側、たたかれる側の時、どういう文章かやりながら確認した。(右図、まだよくわかっていなかった)

④助詞ごとの助詞クイズをした。

⑤すべての助詞をまぜて助詞クイズをした。

⑥追いかけっこをした。「追いかける」「追いかけれる」の札をさげて、やる前に助詞カードを体にあてて「Sがお母さんを追いかける」と文章にしてから行動した。能動文7割ぐらい理解の段階で受動文を教え始めた。「お母さんがSに追いかけられる」と言ってからやった。

⑦簡単な文章をつくった。このカードを使ってと渡してみた。(文章作りはまだまだ)

⑧絵日記はすべて品詞分類をした。初期は助詞手話記号を助詞の横に貼っていた。

⑨ほぼ理解してから春休みを使って日本語チャレンジをやった。レディネステストでは78~90点ほどとれた。

⑩病院でジェイコスを受けてみた。14項目通過した。

 

 

4.構文の学習にとりくむ(3月上旬)

(1)動詞ビンゴで語彙の拡充

「動詞ビンゴも作ってやっています。何度もできるようにラミネートしました。楽しいやり方で言葉が学べるのが気に 入っています。この動詞を使って文章作りをしながらビンゴしています。」

 

(2)受動文の学習

 「木島先生より『助詞の学習のときに、能動文と受動文が両方使われているが、この区別 追いかける.jpgはきこえない子には結構難しいので、まず「ABを~」という可逆文で助詞「が」と「を」を意識させるのが最初で、それが使えるようになってから、能動文と受動文の違いつまり、①どちらに視点を向けた言い方か、②助詞も動詞も変わるということを教えるとよいでしょう』とアドバイスをいただき、なるほど、能動文と受動文は、一気に教えるのではなく、まず「ABを」からの方がいいとわかりました。確かに、初心者に一気に説明したので、余計にややこしくなってしまったのでしょう。初日、全くゲームにならなかったところから、一緒に文を読んでから、Sに私と自分それぞれに助詞カードをあててもらう、そこからどっちが叩くか考える時間をもつことを繰り返していたら、ゆっくり考えながらなら、8割ほど正解するようになっ てきました。今日でゲーム3日目、もっとかかるだろうなぁと覚悟していましたが、教えたら、教えただけ吸収していっています。」(上図は能動文例)

 

(3)比較表現の学習(3月中旬)

「先生のテキスト(『きこえない子の日本語チャレンジ』)を参考に助詞を教えて2か 比較カード.jpg月。ぐんぐん伸びて、一気にここまでたどり着きました。2月の時は、「ねこが犬をおいかける」「犬はねこより大きい」も全く分かっておらず、項目7の通過は果てしなく遠い目標でしたが、教えていただいた助詞をカードにして実生活に活用することで、理解が進みました。

助詞カードが良かったので、比較を教える際にも、比較カードも作って実際の物に当てはめました。(右図)

実物に、分解された文がつくことによって、目でみて文章の構造がわかるので、幼稚園児にもわかりやすいようでした。先生のHPに、比較は「基本が分かれば難しい構文ではありません」とありますが、本当にその 比較教材.JPG通りだ!と思いました。

・比較カード
・比較の品詞分類シート(ラミネートしてホワイトボードマーカーで消せます)
・比較カード(実物につけます)
 これを繰り返し毎日やって、全くわかっていないところから、だいたい3週間ほどで理解し、日常的にも間違いなく使うようになりました。予想より理解が早かったので、クイズは確認の意味ぐらいで、ほとんど使わずでした。

 

(4)自動詞・他動詞の学習(春休み)

自動詞.jpg自動詞と他動詞も教えました。以前は、「はこが落と した」 など間違って話していましたが、問題カードを作って、「さかなが焼ける。Sが魚を?」と聞いて「焼く」と答える。逆もやる。「ものの様子、人がやるときはこっち」と説明し、繰り返していくと自然に暗記していき、会話で自動詞と他動詞の間違いがなくなってきました。いまでは、「はこを落とし 他動詞.jpgた。」と間違いなく言うことができています。聞くことで覚えられないぶん、カードで補えば覚えていけるんだなと思いました。右の上の写真は「ジュースが 冷える」(自動詞)、下の写真は、「ぼくが かんを 冷やす」(他動詞)を実際にやっている場面です。

自動詞と他動詞の間違いがなくなり、助詞の間違いも減り、会話の中で比較表現を使うようになりました。2か月間で急に変わったので、周りの先生たちが驚いていました。会話中の助詞に関しては、8割ほど正解です。いまでも2割は間違えていますが、「『ここに見て』は、おかしいよ。なんだと思う?」と聞くと「ここを見てだった」と、ちょっと考えると正解できます。日常で間違わず使えるようになるには、理解の後に、練習を積み重ねることが大切ですね。急に助詞を間違わなくなった、助詞をたくさん使うようになっていると、何人もの人に言われました。

このテキスト(『日本語チャレンジ』『絵でわかる動詞の活用』『ことばのネットワークづくり』)を使っていると説明すると、STの先生が「これは、すごくいいですね!」と言っていました。日本語チャレンジ、動詞のドリル、ネットワーク、すべて終わりました。苦手だった「○ ○と○ ○の似ているところ、ちがうところ」も、今ではすらすら答えられるようになりました。

 

5.学習の成果と今後の課題

(1)学習の評価

Jcoss通過項目数14項目(小2レベル) 

  〇単語レベル;「名詞」「動詞」「形容詞」3項目通過

〇語連鎖レベル;(「二語文」「二語否定文」「三語文(非可逆文)」3項目通過

〇文法レベル;可逆文、位置詞、比較表現、受動文、主部修飾、格助詞など8項目通過

●「述部修飾」「中央埋め込み文」~正答なし(今後の課題)

 

(2)保護者の感想

「助詞手話記号に出会えて、本当に良かったです。そして、あの日、教わった『助詞をカードにすること』と、 「〇男がお母さんをたたく」ゲーム。これがなければ、こんなに早く理解が進んでいなかったと思います。素晴らしいアイディアをいただき、心から感謝しております。しかし、「かわいいだった」「きれいかった」など、まだ変な文章で話しているので、活用もそのうちやろうと思っています。

 

6.おわりに~まとめにかえて

以上がメールでやりとりしてきた半年間の実践の記録です。Sちゃんは2歳で人工内耳を装用し、年中になった時には日常会話は音声で可能、日々の生活に必要な語はほぼ獲得していました。ところがたまたま出会ったホームページ(難聴児支援教材研究会)の中で、語の概念カテゴリーのことを知り、Sちゃんに質問してみました。ところがSちゃんはそれぞれのモノの名前は知っているのにそれらのモノの上位概念を知らなかったのです。ここが難聴児の問題なんだと気づいたお母さんは、そこから「ことば絵じてん」づくりを始めました。幸い、Sちゃんもその活動を楽しみ、語の概念はどんどんと広がっていきました。

しかし、課題はそれだけではありませんでした。モノの数え方(助数詞)、助詞の使い方、受動文の使い方、比較の言い方など、きこえている子なら自然に身につけ間違えないはずのことが、人工内耳をしているとはいっても、きこえにくいSちゃんには自然に身についていないこと、知らないことがたくさんありました。

そこでお母さんは、「ことば絵じてん」の取り組みに加えて「助詞記号・助詞手話記号」「品詞カード」などの視覚教材の利点を活かした日本語の文法学習に取り組み始めました。「視覚教材の利点」は「ことば絵じてん」づくりですでに経験していましたから、スムーズに取り組め、持ち前の教材作りのセンスを活かして、次々と教材を自分で開発し、それらを使ってSちゃんと遊びました。第三者から見ると、家庭で親が教師になっているのではないかと思えるかもしれませんが、決してそうではなく、Sちゃんにとっては、それはお母さんとの楽しい「ことば遊び」の時間なのです。こうしてSちゃんは助詞を理解し、動詞の活用もわかるようになっていきました。この間わずか6か月。SちゃんはJcoss14項目通過できる文法力を身につけました。しかも、自力で問題文を読んでの解答ですから、「読んで理解する力」をつけたわけです。

 

 さて、聴覚障害教育の中で、きこえない子の課題としてこれまでに指摘されてきたこととして語彙の不足、語の概念の貧しさ、結果としての抽象語彙の習得困難、日本語文法力の不足、それらのために文の読解困難などがあります。それに対して、私は、語彙の習得はとくに幼児期における中心課題として、文法の習得は小学生とくに低学年での中心的課題と考えてきましたが、今回のSちゃんに対する視覚教材適用の試みは、このような分析的な学習教材でも幼児期から十分に楽しめる可能性があることを示唆するものでした。ただ、Sちゃんの実践例がどこまで他の幼児にも適用できるかどうかまだわかりません。ぜひ、皆さんも関心あればぜひ取り組んでみていただきたいと思います。そして、その取り組みの結果をぜひ紹介いただき、広く成果を共有し、日本語を負担に感じている子どもたちとその保護者に、成果を還元し、楽しみながら日本語が身につけられたらいいなと思っています。

 (木島照夫記・東京学芸大学非常勤講師)