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読み書きの力は「読み書き」の中で身につく!

どうすればきこえない人・きこえない子の読み書きの力を伸ばすことができるのか? 

ある地域で成人聴覚障害者の日本語の学習を担当されている言語聴覚士の方から、大きなヒントになるようなメールをいただきましたので紹介したいと思います。

 

〇成人聴覚障害者の日本語の学びなおし

「私が行っている施設では、成人聴覚障害者を対象として、現在、30代から50代の方が日本語を学ばれています。聾学校を卒業していても、日本語の獲得語も生活言語や自分の興味の範囲などに偏りがちです。そのため、使用するテキストにも解説が必要です。子どものときに習得する語彙が未習得であっても、実社会では字幕やメール、ラインなどで使用する文字言語が溢れており、わからない言葉に出会った時に誰かに詳しく説明してもらえる機会はあまりないため、語の意味に関する質問がとても多いです。

 

文の読み書きに助詞は避けて通れませんが、手話に交えて助詞を指文字で提示しても認識されません。(筆者注:その助詞がどのような意味をもち、どのような時に使用するのかわからないからです)そこで、「助詞手話記号・助詞記号」などを使って意味・用法を説明すると、そこで初めて視覚的に、その助詞の使い方について意識することができます。また、 「品詞カード」も、自分でそのカードに言葉を記入し、自分で操作することを通して、言葉そのものに注意が向くようになります。(傍線筆者)

 

時間の経過とともに消えてしまう音声や手話では、言葉そのものに注意が向かず、気づきのないまま進んでしまっているようです。「助詞手話記号・助詞記号」や「品詞カード」など、視覚的に提示し続けられると、そこでじっくり思考でき、理解や疑問に結びつき、更に理解が深まっているように感じます。(同上)

 

通常使う文は動詞文が多く、名詞文・形容詞文は馴染みが薄いようなので、一緒に例文を作りながら増やしたいと思っています。主語述語、5W1Hなどは会話レベルでも脱落が多く、他の教材を合わせながら学習しています。成人の方は、このようなテキストを使用して、日本語にはルールがあるという事が少しずつわかっていくようです。」(某県・言語聴覚士)

 

以上がいただいたメールですが、聾学校を出ていても日本語の読み書きが十分にできない という成人の方は少なくありません。聾教育の根本的な問題がそこにあるわけですが、その問題は横においておくとして、成人の方の学びのプロセスがきこえない子どもたちの日本語を身につけていくプロセスときわめて似ていることに驚かされます。上の言語聴覚士の方も言っておられるように、消えてしまう指文字や音声ではなく(頭の中に長い単語や文を覚えていることは難しい)、消えることのない文字や記号・カードを使って、その人のペース 使用教材2.JPGで、それらのカードを実際に動かしながら、手と目を使って操作しつつ、基礎的な文のしくみを学ぶのがいちばんよいということです。短い文の中で、自分で「見て(読んで)」「意識して」「動かして」「理解して」「書いて」覚えていきます。その時に大事なことは意味が「わかる」ということです。意味が「わかる」ためには、わかるための具体的な教材・教具、手立てが必要です。それが「助詞手話記号・助詞記号」「品詞カード」です。このようなツール(道具)を使って視覚化することで、文がどのようなしくみ(構造)をもって成り立っているのかがとてもわかりやすくなります。

 

〇 発達障害のある子に・・

使用教材.JPG実は今年、ある聾学校で、①発達障害のある小3の児童二人に、動詞の活用や文のしくみの基本を、上記のような視覚教材を使いながら1年間指導したところ、一人の児童はそれまでJcoss(日本語理解テスト)で名詞だけ1項目通過でしたが、一挙に5項目まで通過。もう一人の児童もJcoss2年間、通過はゼロでしたが6項目まで通過しました。二人とも「厳しい児童」と先生方から思われている子たちですが、課題を明確にして「わかる!」という経験を積み重ねることで、どの子も伸びるということを証明した事例だと思います。(写真は使われた文法指導教材)

 

 

〇幼児にも教材を使うことで・・ 

以下は、ある年長幼児に1年間にわたってこのような家庭学習を積んでこられた保護者から、年長修了にあたって送って下さったメールです。このお子さんは、このホームページでも紹介しているお子さんです。以下のURLをご覧ください。

http://nanchosien.com/papers/04-4/

 

「・・・年中の途中に、ジェイコス7項目通過を目指した日を思い出します。諦めそうになった時、このHPを何度読み返したか分かりません。100%の力を出し切って子どもと向き合いました。とても濃い時間をすごせました。わが子の現状を受け入れるのが苦しく・・でも、それ以上に成果が出ると嬉しく、もう進めないと泣きながらも、やっぱり少しでも進もうと心に決めて真正面から、こどもと、自分自身と、難聴とはどういうことなのかと、向き合う日々をすごしました。・・・文法なんてどう教えたらよいのか迷ってばかりでした。助詞カードや大きな名詞ゲームなど、私には思いもつかない良い方法を教えていただき、本当に感謝の思いです。先日やったJcoss18項目の通過でした。」

 

 Jcoss18項目通過という数値は聴児の小3~4年レベルです。幼児でもこのような教材を使って指導すればそこまで伸びる可能性があるということです。「可能性は空の極みまで」(日本聾話学校長・故大島功先生)。ほんとにそうだなと思います。

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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mail:nanchosien@yahoo.co.jp