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[代理日記」~「ことば」のないわが子に代って

ある聾学校の乳幼児相談0歳グループのお母さんが、育児記録にお子さんの気持ちを表した「代理日記」を書いておられます。そのママは、書くことで「Kにとって今日が良い一日だったかどうか」というのを考えながら過ごしていきたいのだそうです。

この「代理日記」を通して、Kちゃんのママは、子どもの気持ちを的確に読み取り、それをことばで表現されています。子ども目線で何を見ているか、何を感じているかがあまりに自然に、そしてきっとそうだろうなと思えるように想像し、書かれています。びっくりすると共に、微笑ましい気持ちでいっぱいにさせられます。以下に引用してみます。

 

「びょういんのせんせいが、はなをすすってくれた。こわかった。へんなきかい。いやだった。たいふうがきたから、ごごはママといっしょにあそんだ。たのしかった。

えほんをよんでもらった。さいきん、ママとはなれるとかなしくなる。パパもわたしのそばからはなれるとさみしくなる。 これ、あとおいだよね。 ほちょうきをはずそうとすると、ママがおこる。だから、はずさないの。だけど、きになるの。ママがいないとき、かんじゃえ!」(〇月〇日、11か月)

 

ごぜんちゅう、ひるねしてたら、ママ、いなくてびっくりした。わんわんないて、とびらのところにへばりついたよ。もうどこにもいかないでほしいな。ごごはたくさんの

しょうがくせいとせんせいにあそんでもらったよ。たのしかった。でも、みんな、ほっぺたつねったりさわったりするからいやなの。かなしくなるの。すこしこわかったけど、みんなにかわいいっていわれるとうれしいよ!よるはママとおふろにはいったよ。すこしおふろでみずあそびをしたよ。よるはぜんぜんねむくないのに、ママ、ねろねろとうるさかった。えほんよみたいし、あそびたいし、いやなの~。...コテン」(〇月〇日、11か月)

 

Kちゃんの代理日記には、「こわかった。」「さびしかった。」「かなしかった。」「いやだ。」「楽しかった。」「嬉しかった。」「びっくりした。」「うるさかった。」等、Kちゃんの気持ちがどうだったかが実に豊かに表現されています。この子どもの気持ちを読み取れていることが、ママの素晴らしい点です。この気持ちをその場その場で感じ取り、それをことばに表すことが「共感」に繋がります。ママの姿が見えなくなって、泣いていたKちゃんに「寂しかったね。」「ママがいなくて、悲しかったね。」とことばで伝えてあげることで、子どもは「私の気持ちをママはわかってくれた。」「まさにそうだったの。悲しかったの!」と共感してもらえたことで安堵し、理解してくれるママへの信頼を深めることができるわけです。「代理日記」に書けたことは、実体験の場から離れて、ママが一人冷静に振り返りをしている時に想像して書けたことだと思いますが、この想像をたくさんすることが、子どもの気持ちの読み取りの感性を鍛えることに繋がると思います。

 

ことばで表現する前の時期の子どもたちは、指さしや手差し、声や視線、大人の手を引く、大人の手をモノに近づけるといった直接動作で要求や伝達の気持ちを表します。直接的な動作や指()さしは読み取り、応答しやすいのですが、声や視線による伝達、要求の中には読み取りが難しい、気づきそびれてしまうものも少なくありません。子どもたちは自分の要求や伝達の意図がわかってもらえ、それに応えてもらえると、とても満足し、さらにまた発信をしようという意欲がもてるようになるものです。しかし、読み取ってもらえない、伝わらない、応答してもらえない不全感を重ねると、この人に期待はできないと子どもは諦め、人に伝える意欲をそがれてしまうことにつながりかねません。「何?何?」と外れてもいいので「ママはわかろうとしているよ。」というメッセージが伝わるような応答をしてあげることが大切です。

 

このような関わりをしていれば、だんだんと子どもから親御さんに視線はたくさん送られるようになってきます。子どもの興味に合わせて付き合う、遊ぶことをしないで、大人の意図に従わせようとすることが多かったり、子どもの気持ちに共感した語りかけや対応をしなかったり、子どもが色々発信してくることを無視したり、「待って」の繰り返しで応答が足りなかったりすると、子どもは親御さんを見ることが少なくなり、いざ親御さんが伝えたいことも伝わらない、受け止めてくれないという親子関係になってしまいがちです。つまり、親御さんが見てほしいと思ったら、親御さん自身が、子どもに合わせて付き合う努力をしなければいけないということになります。たくさん親御さんを見てくれるようになれば、親御さんの使うことば(音声言語、手話、指文字)や身振り、表情等に注目ができる子になり、モデルとなる親御さんのことばがだんだんと入るようになっていきます。ただ、この時に、子どもがせっかく見てくれても、親御さんが早口でボソボソしゃべったり、手話が使えなかったり、表情に乏しいというのでは、語りかけの内容は伝わらない、伝わりにくい結果となり、残念です。写真カード、絵カードも含めて、わかるように語りかける工夫をすることで、親子のコミュニケーションが徐々に成立するようになります。

 

「代理日記」は、こうした子どもの気持ちを読み取る練習にもなるところがとてもいいものだと思います。是非、子どもの気持ちを思いやり、想像しながら「代理日記」を時々でもつけてみることをお薦めします。書くことで、翌日のわが子の見方が変わってくるのではないでしょうか。(S記)