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「どうして?」が使えるようになる時期は?

「どうして?」という疑問詞が子どもに理解できるようになるのは、5歳つまり年長さんの課題ということがこれまでの聾教育の中で言われてきました。しかし、手話を早期から使うようになってからは、3歳代で「どうして?」を理解し、自分でも使えるようになる子どもたちが出てくるようになりました。早くから言語(=手話は1歳前後から獲得できる)を獲得して、言語によるコミュニケーションができるようになり、考える力が育つ時期も早くなってきたからだろうと思います。保護者の育児記録から抜粋してみましょう。

 

【事例1】35か月

①(病院の待合室で、お友達が泣いているのを聞いて)K「あ、泣いてる!」Mどうしてだろうね。」K「鼻を吸うのがいやなのかなあ?」

②(お店で、寝ているクマかネコの絵のついたポーチを見て)Kどうして...」と言いかけ、「まちがえた!これ、だれ?」ときいた。

 

①は、Kが「どうして?」の質問に的確に答えている様子が書かれています。②では、自分で「どうして?」が使えるようになったKが、まちがえて使ってしまい、それに気づいて「だれ?」と言い直しています。おそらく、これまでにたくさん「だれ」「どこ」「なに」などの疑問詞を使って、豊かな会話を心がけてきたのでしょう。「どうして?」と訊かれて「○○だから~...」と的確に理由を答えられるようになってくるためには、原因→結果がわかり、結果の根拠を原因から説明できる力が必要です。

 

 

「なに?」を使う時期 

疑問詞にはいろいろとありますが、使えるようになる疑問詞にも順序性があます。例えば2歳頃から、きこえない子もきこえる子と同じようにさかんに「なに?」ときいてくる時期があります。「質問期」です。この時期は語の「爆発期」とも言い、ものには名前があることがわかるようになって、世の中にあるいろんなものの名前が知りたくてたまらない。だから「何?何?」と聞いてくる時期です。以下はその例です。

 

【事例2】 21か月

海の中の生物を描いていたら、Aがカニを指し、初めて「なに?」と聞いてきた。

 

【事例3】2歳3か月

最近質問することが増えてきた。「木、葉っぱ、ロッカー、門・・」片っ端から目にしたものを指さし、「なに?」ときいてくる。

 

【事例4】 24か月

私がよく「なに?」と聞いても「なに?」と真似して指をふるばかりだったが、今日初めて答えが返ってきた!! R「ぼっぼ、どこ?」とおでこに手をやり探すサイン。ママ「なになに探しているの?」R「ピーポーピーポー(救急車)」ママ「あっちの部屋じゃないかなあ」 R 探しに行き「バッバ(あったー)!!」普通に会話が成立し、嬉しかった。

 

【事例5】 2歳8か月

散歩をしていると目に映るものをことばや手話で表現してくれます。「信号は何色?」と私が聞くと「あかー、とまれ」と意味まで言ってくれます。

 

 

「だれ」を使う時期

では、「だれ?」はどうでしょう? ピンポーン(チャイムの音)→M「だれかな?」→子どもと一緒に玄関に行く→「あっ、パパ、お帰りなさい!」。といった会話をやってきているでしょうし、以下は、絵本『だれかしら』を読みきかせたときの記録から。

 

【事例6】 25か月

「H、これだれ?」ときくと、んー~と考えているのか考えていないのか。動物指人形を本の後ろに隠し、うさぎさんの耳、象さんの鼻、しまうまの大きな鼻などを本から覗かせ、 だれかしら.jpg「H、これだれ?」ときくと「うさぎ」「しまうま」と答える。最後は...ママ、ママが本で顔を隠し「H、私はだれ?」ときくと、ケタケタ笑い出しました。これでようやく本のポイントがつかめたようで、11頁ずつ丁寧に、「これだろう?」「うさぎさんかな?」とか、「わにさんだね~」「これはうさぎじゃないね」と楽しく読むことができました。

 

 

「どこ」を使う時期

「どこ?」はどうでしょう? 写真カードを使って買い物に行く時、「りんごはどこかなあ?」などと「どこ」という疑問詞を使ってきている きんぎょが逃げた.jpgでしょう。また、『きんぎょが逃げた?』とか『コロちゃんはどこ?』などの絵本でも、「どこ?」が使えます。さらに、「今日はここに行くよ」といって写真を隠し、「どこだと思う?」などと当てさせるのもよいでしょう。「どこ」という概念は広いので、いろんな機会に使っていくとよいと思います。

 

【事例7】2歳5か月

おばからメダカをもらい、家においたら「メダカどこ? あっ、いた!」と見つめている。

 

【事例8】2歳9か月

家のおままごとセットで遊ぶ時に大根のおもちゃを取り「大根はどこ?」と聞いてみると冷蔵庫から大根を持ってきて「いっしょ」といって喜んでした。「やかんはどこ?」というと、私に「おいで」と言って、やかんの所に連れて行き「いっしょ」と嬉しそうにいっていた。

 

こうした繰り返しの中でだんだんと「何」「誰」「どこ」といった疑問詞の意味を理解し、子どもも自分からも使えるようになっていきます。

さて、基本的な質問のことばに答えられるようになってきたら、「どうして?」といった質問にもだんだんと答えられるようになってきます。「どうして?」は、「何」「誰」「どこ」「何色」といった質問と違い、少しレベルの高い質問です。この疑問詞は、理由を問う質問であり、物事の因果関係を理解できる年齢に来ないと難しいものです。そして、その理由を説明するには、ある程度ことばで表現したり、思考したりする力が伴わないと難しいのです。「どうして?」の質問の答えについて考えた時に、原因―結果の状況がわかり、答えがわかっていて、明らかに理由が一つしかない【事例9】のような場合と、状況がわからないので、【事例1-①】のようにいくらでも理由(原因)が考えられる場合とがあります。

 

【事例9】3歳5か月

遊んでいるKに「お風呂入ろう!」と言うと、「あし[指文字]が痛いから入れない。」と答える。「どうして足が痛いの?」と聞くと、「蚊がブーンて刺したから痛い。」と答えた。「痛かったら、病院に行かなきゃダメだよ。今日は、たくさん汗をかいて遊んだよね。K、くさくなるよ。」と鼻をつまむ・・・と笑いながら話していると、「お風呂に入ろう!」とKから洋服を脱いだ。

 

【事例10】 3歳3か月

手話学習会の保育で久しぶりにママと離れて泣いたが、ママが戻ってきたら遊んでいて、嬉しそうに迎える。「どうして泣いたの?」「ママがいなくなったから泣いた」。

 

「どうして足が痛いの?」ときかれて、「蚊が刺した」というのは、状況がわかっているから答えることができ、答えも一つしかありません。【事例10】もそうでしょう。しかし、【事例1―①】のように泣いている子どもを見た時に「どうして?」と訊かれたら、状況がわからないので、いくらでも答えが考えられます。このような、いくらでも答えが予想できる場面は、親子の会話を広げ、深める上でチャンス場面にもなります。「おなかがすいたから泣いているのかな。」「お菓子を買ってほしいのに、ママがダメだって言ったから泣いているのかな?」「疲れて眠くなったから泣いているのかな?」「注射されると思って泣いているのかな?」...というように、ある程度親がリードしながら会話をふくらませ、推測する力、思考する力、表現する力をつけていくことができます。こうした、子どもが頭の中で考えたり、気持ちを揺さぶられたりしながら、ことばを使っていくチャンスを大事にしてほしいと思います。

もうひとつ紹介しましょう。以下の例は3歳になったばかりのT君とママのクイズでのやりとりです。

 

【事例11

 事例 3歳0カ月

M「りんご、ぶどう、トマト、いちごの中で仲間外れは?」

T「ん~・・・、とまと!」Mどうして?」T「とまとは野菜」

M「なるほど、もう一つ答えがあるよ。」T「ん~・・・わからない・」

M「ことば絵じてん見てみようか?」

T(パラパラめくって)「ぶどう!」 

 

T君はママと一緒に「ことば絵じてん」を作っています。そのじてんを使ってママはクイズを出すことを思いつきました。さて、皆さんはT君はことば絵じてんをめくって「ぶどう」という答えを導き出した理由がわかりましたか? 「皮の色」に着目した時、わかったのですね。仲間づくりは、なにも名前のあるカテゴリーばかりとは限りません。名前こそつけられませんが、「赤い皮の果物」という点に着目した時、確かにぶどうは仲間ではありません。このようなくくり方もできるんだという柔軟な思考力を育てることも大切ですね。

以上のように、質問のことばに答えられるようになることを通して、子どもたちは豊かな思考力や、表現力を身に着けていくことができます。どの質問についても、身近な大人が自問自答したり、家族の中でやりとりするモデルをたくさん見せたりすることで、質問にどう答えればいいのかということばの使い方を子どもたちは学んでいくことができます。手話を使うことによって、その成長の過程もこれまでよりずっと早くなっていることがおわかりいただけると思います。