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動詞の獲得は「行動の言語化」から

 難聴児の語彙力の検査をしていると、難聴児は動詞語彙の獲得数が少ないことに気づきます。動詞は、事物名詞のように「ほら、これが〇〇だよ」と実物を見たりさわったりすることができないし、一つの動詞がいろいろと活用してかたちが変わるので、獲得が難しいのです。では、日々の生活の中で、動詞はどのように身につけていけばよいのでしょうか? 23か月のA児の例から考えてみます。

 

〇「~に着いた」(A児、2歳3か月、手話での会話)

子ども(A男)と一緒に出かけて、行き先に到着すると、手話で「○○に着いた」と伝えます。すると、必ず真似をして「着いた」(手話)を連呼しますが、最近は私よりも先に「着いた」と手話をしながら私の顔を見て、確認してくるので「そうだね。着いたね。」と繰り返すのが日課になりました。今は、電車に乗ると、駅に停まるたびに「着いた。」と手話で表すので、「まだだよ」と伝えるとわかっているかのように、ニコニコと笑い、冗談までするようになりました。〇〇駅に着くまでの電車内でのやりとりです。(A23か月時の育児記録より)

 

 この育児記録は、「駅に着いた」、「学校に着いた」、「おうちに着いた」...つまり、到着した時に必ず「着いた」をお母さんが子どもに繰り返し語りかけて来たことで、A君が、自分から「着いた」と伝えられるようになってきている姿が描かれています。つまり、子どもは最初から「着いた」が言えるわけではありませんが、身近な大人が繰り返し、「今、ここ」での行動に合わせて、語りかけていけば、自分で「着いた」の意味概念をとらえ、使えるようになっていきます。

子どもたちのことばを育てる時に、大人がたくさんのことばをかけるという量だけを意識するのではなく、子どもの気持ちにピタッと合ったことばをかけるということがとても大事です。この基本に加えてもう一つ大事なことは、上の例のように、子どもが行動したことをきちんと大人が言語化(ことば=手話や日本語)して繰り返すことです。繰り返すという意味から言えば、語りかける『量』ももちろん大事なのですが、子どもの文の表出につなげていくためには、その時の行動や動作を表すことばがとても大事です。

 

〇行動の言語化 

 さて、子どもが行動する(した)ことを言語化するには、どのような場面があるでしょうか。子どもの1日をイメージして、朝起きた時からを振り返ってみましょう。

朝、子どもが起きたら「起きたね」がありますね。「おはよう!」という語りかけももちろん大事です。しかし「起きた!」と伝えること(=動作語・動詞)も習慣にしていきたいものです。着替えの時には「着替えるよ」→「パジャマ 脱ぐよ」「シャツを 着るよ」、食事の時に「アムアム ごはんを 食べるよ」「ミルク ゴックンゴックン 飲むよ」「歯を 磨くよ。」・・。このほかにも、「おむつを 替えるよ。」「おもちゃで 遊ぶよ。」「公園に 行くよ。」「くつを はくよ。」「ぼうしを かぶるよ。」「ベビーカーに 乗るよ。」「キャベツを 買うよ。」「お金を 払うよ。」「家に 帰るよ。」「もう寝るよ」「お風呂に入るよ」「テレビを見るよ」「おふとんを敷くよ」「おふとんをかけるよ」「おはしを並べるよ」...等、たくさんありますね。

ここに挙げたのは、乳幼児の生活で繰り返されるほんの一部の行動を言語化したことばにすぎませんが、こうしたことばを身近な大人が丁寧に繰り返しているかどうかを見直し

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てみたいものです。毎日繰り返される行動なので、その行動に合わせて毎回ことばかけも同じように繰り返せば、子どもたちが自発的に使えるようなことばにつながっていきます。是非、お母さんお父さんなど身近な家族・大人は、毎日同じように語りかける習慣を身につけてほしいと思います。右のファイルの例は、2歳1か月のとも君とママとが「手洗い洗濯」をしたときの場面ですが、こうした生活の一場面でも使える動詞が沢山あることがわかります。

 ただ、大人がこうした行動を言語化した語りかけているのに、子どもはちっとも手話を見ない、音声を聴いている様子が見られないということもあるかと思います。その場合は、きちんと見たり聴いたりしてくれない原因を探りながら対処していかなければなりませんが、きこえない子どもたちのことばを育てる時の大人の習慣として、大人は空振りでもこうした行動を言語化した語りかけを続ける心構えを持っていてほしいと思います。

 

 行動の言語化=動作のことば(動詞)

 今、行動の言語化ということについて述べましたが、このようなことばは、行動する、行為する、動作する、要求するなどの意味をあらわすことばですから、品詞で言えば『動詞』であることがわかります。実はこの『動詞』の獲得が、難聴幼児がつまずきやすい言語課題の一つにあげられているのです。名詞はたくさん知っているけれども、動詞は少ない...難聴児は、こうした傾向がしばしば見られます。どうして動詞の獲得は難しいのでしょう。例えば『バナナ』という名詞は、バナナという実体につけられた名称であり、匂いや色、形、感触、味といったイメージと合わせて理解されます。同様に、くつも、ズボンも、コップも、名詞は基本的に五感を使って捉えられる実体のあるものです。ですから、子どもが最初に獲得していくことばは名詞がほとんどです。

 

しかし、『動詞』については、実体がありません。名詞のように「これだよ」と見ることができません。「行く」はその行動をし終わって、「行く」って、こういうことか、「分ける」も、分ける行動をしてみて初めて、分けるとはこういうことかというように、行動して、その行為がことばで表現されて初めてことばとして理解されるのです。「行く」って何だっけ?と思っても、形として何も残っていませんから、かなり頻度高く「行く」行為と「行く」という手話や音声で表されることばを何度も結び付けながら覚えていかないと、ことばとして理解することが難しくなるわけです。「おもしろい」といった形容詞や「そろそろ」といった副詞を理解する時にも同様で、「今、ここ」の場で、その状況や様子に合わせて大人が語りかけ、それを何度も見たり聞いたり体験していかないと、獲得が難しいのです。

 

ちょっとややこしい話になりましたが、『動詞』を意識するということは、子どもに文で語りかけましょうという風に思っていただけるとわかりやすいかもしれません。出かける時に、「帽子、帽子」で済ませていたら、それは文での話しかけにはなっていません。「帽子、帽子をかぶるよ。」といった文で話しかけることが大事です。

手話で表すと「帽子」と「帽子をかぶる」は同じ手話表現になりますが、手話に併せて「帽子を かぶるよ」と、音声を合わせて使うことで、「かぶる」という口の動きと口形、さらに耳からの音声情報とも一緒に入力されることで、だんだんと手話から理解される意味情報と音声情報とが結びついてきます。そして、文字や指文字が理解できる時期が来たら、「かぶる」を指文字で表したり、「かぶる」と文字で書いたりする対応をしていくと、視覚的にきちんと捉えて、正しい日本語(文字言語)として理解されるようになります。

その時期を迎える前の準備として、親御さんは、文で話すことを心がけ、習慣化しておけば、曖昧でも、動詞がたくさん子どもに提示される環境が作られていくでしょう。

 上記にあげたような動詞に限らず、「ぶらさがる」「飼う」「くずす」「さそう」「くばる」...動詞はたくさんあります。例えば、料理の時のことばは「作る」だけではありません。「炒める」「煮る」「焼く」「ふかす」「蒸す」「揚げる」等沢山あります。公園でも「~する」だけではありません。ブランコは「乗る、すわる、揺らす、押す」等々、滑り台は「のぼる、しゃがむ、すわる、すべる」等々、それぞれの行為に合わせてことばを使っていきたいものです。このような行為・動作に合わせて動詞を使い分けていくことで、子どもの語彙環境は格段に豊かになります。

 

〇動詞は活用する

さらに、この動詞の獲得の難しいところは、動詞が活用するところにあります。食事の前に「ごはんを 食べよう。(食べるよ)」、食べているときは「食べているね」、食べ終わったら「食べたね」、なかなか食べてくれない時に「食べないの?」「食べてね」「食べなさい」、...こんなふうに動詞は活用していきますね。きこえない子ども達にとって、このように動詞が次々と状況によって活用変化していくことを理解し、それを読解し、さらには状況に合わせて書き表せるようになるということは、大変なことです。聴力のよい子どもの中には、日常生活の中ではほぼ相手に伝わるように話せていたとしても、文字で正しく表せるかどうか、書かれた文の意味を読解できているかどうかは不確実なことが多いものです。

日本語を正しく読んだり書いたりできるようになることを目指すためには、話せるようになるだけでは解決しないこともふまえて、まずは、幼児期に家庭や学校で、丁寧に日本語の基本を育てていきたいものです。そんなちょっと先のこともふまえて、幼児期には、親御さんが、子どもがする(した)行動を丁寧に言語化していくようにしましょう。「自転車に乗るよ。」「自転車に乗ったね。さあ出発!」というように、語りかけの基本をマスターしていきましょう。くどい位に繰り返し語りかけていくことが、引いては子どもの書記日本語の力につながると信じて、地道に、日々の細やかな語りかけをしていきたいものです。  


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本ホームページ・TOP>日本語文法指導>動詞・形容詞の指導>幼児期の動詞語彙の増やし方・その1~その2


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