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コミュニケーション上手になろう!~インリアルアプローチ

 子どもたちは大好きな大人のことはよく見て、その人の声にも注目するものです。大人は、話を聞いてほしい、手話もきちんと見てほしいと思ったら、コミュニケーションの上手な相手になることが必要です。子どもたちがなかなか自分を見てくれない~という理由の一つに、楽しい遊び相手になっていないということがあるかもしれません。もちろん、それだけではなく発達の問題で、なかなか注意を人に向けられないという課題を抱えている子どもたちもいますから、全てが大人の問題というわけではありません。しかし、発達に課題を抱えている子どもたちでも、また、聴覚に障害あるなしに関わらず、基本的なアプローチの仕方は同じと思います。大人は、いかに楽しい、魅力的な遊び相手になれるかを考えていくことが、よりよいコミュニケーションの成立につながります。そのためには、大人は子どもの興味関心に沿って付き合い、遊ぶことに尽きるわけですが、具体的に遊びの中で関わるコツについての方法として、「インリアルアプローチ」という方法があります。今回はこの方法を紹介します。

 これは、1970年代にアメリカで開発されたことばの発達に課題のある子どもの支援のために考えられた方法で、自由な遊びや会話の場面で、子ども自らが遊びを始め、コミュニケーションできるようにするために、大人がどう関わればいいかを方法としてまとめたものです。


●大人の基本姿勢 SOUL(ソウル)  

ilence(静かに見守ること)  bservation(観察) nderstanding (深く理解すること) istening (耳を傾ける)

 この頭文字をとって「SOUL」と言いますが、静かに見守りながらしっかりと子どもを観察し、状態や要求を理解し、言っていること、言いたいと思っていることを聞いてあげることです。

 

●大人の語りかけ

1.ミラーリング

 例えば、赤ちゃんが「バンザーイ」の動作をしたら、対面しているママも「バンザーイ」をするというものです。1歳を過ぎた子どもたちが好きなのは積み木倒し。積み木を倒した時に大人が倒れるのを見て、子どもは最初笑っているだけですが、今度は自分から倒れて、大人が自分と同じように倒れるかなと、期待いっぱいに見るようになります。こうした子どもの動作を真似ることで、子どもは自分と同じことをしている大人を見ながら、自分が何かすると大人が同じように動いてくれる事に気づき、自分が仕掛け人になれていることに気づきます。それが嬉しいので、相手が自分と同じことをするかを確かめながら、視線を向けてくるようになるわけです。

 

2 モニタリング

 子どもが「マンマンマン」と発声したら、親御さんも「マンマンマン」、子どもが「失敗!」と手話したら、親御さんも「失敗!」と手話するというように、発声や手話といった言葉をそのまま真似て返すことをモニタリングといいます。これは、自分の発声や表した手話が相手にどう伝わったかを子どもが自分で見たり、聞いたりして確かめることができるため、また同じように声を出してみようかな、手話してみようかなという意欲につながります。

 

3 パラレル・トーク

 子どもがぬいぐるみのくまさんにミルクを飲ませている時に、「くまさんにミルクあげているのね。」と子どものしている行動を言葉で伝えたり、泣いている時に「パパ、会社に行っちゃった。寂しいね。」というように気持ちを言葉にして返したりすることです。こうした子どもの行動や気持ちに沿った語りかけをしてもらうと、子どもは、ママは自分をわかってくれているという理解、安心感につながり、信頼につながります。


4 セルフトーク

「ママ、手話の勉強に行ってくるからね。」「ママ頭が痛くて、元気ないの。」「ママは

〇〇ちゃんがお片づけしてくれて、嬉しいな。」というように、ママの行動や気持ちを言葉にして伝えることをいいます。大人の行動や気持ちの言語化は、子どもに安心感を与えると共に、語彙の理解を広げるチャンスにもなります。

 

5 リフレクティング

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 子どもがネコを見て「ワンワン」と手話や音声で伝えてきた時に、「違うでしょう。あれはネコ、ニャーオ、ニャーオ ネコよ。」と否定するのではなく、「ニャーオ、ニャーオ ネコね。かわいいね。」と正しい言葉を返すだけで良いのです。また、「パンダ」を「あんあ」と発音した時にも「違うでしょう。」「はっきり 言ってごらん。ぱ・ん・だ」と言い直させるような関わりは、子どもに話す意欲を失わせてしまいます。あくまでも「パンダ、パンダね。」というように正しい音を聞かせることにとどめることが大事です。ただ、難聴の子どもの場合は、正しい音を聞き続ければ、いずれ正しい発音ができるようになるとは限りません。きこえる子どもでも、発音器官が成熟するのは56歳頃と言われています。難聴の子どもの場合は、正しい音韻が耳から入ってこないという聞こえの限界があるため、鏡を見て視覚的な手がかりを得ながら、舌や唇、顎等の筋肉の使い方(筋感覚)のコツを学び正しい発音に導く発音指導を受ける適当な時期があります。基本的には、34歳までの幼い時期は難聴児が正しい発音で話すこと以上に、たくさん話したい気持ちを育てる事を大事にしたいので、発音を厳しく指摘するのは気を付けていきたいものです。

 

6 エキスパンション

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 これはろう教育で昔から言っていた「拡充模倣」のことです。子どもの言った言葉を広げて返すものです。例えば「牛乳」と声やサインで伝えてきたら、「牛乳 ほしい。」「牛乳 ちょうだい。」というように、大人は単語だけでは足りていない表現を広げて返し、子どもにこんな風に表現するといいよというモデルを示していくことです。「白い パパ ブーブ」と表現してきたら、「パパのブーブは白いね。」というように文法的にも正しく表現して返すことも含みます。

 

7 モデリング

 子どもが「鳥」とサインしてきた時に、「カラスだよ。黒い鳥だね。」というように、新しい言葉のモデルを伝えることです。「バーン」と伝えてきたら「ぶつかったね。」という応答もいいですね。子どもに新しい情報を伝えていくことです。

ここに挙げたカタカナや英語は全く覚える必要はありません。大事なのは、こうした関わり方のコツを理解し、お子さんとの関わりに生かすことです。親御さんたちには、お子さんの楽しい遊び相手になりながら、こうした語りかけや応答の仕方のコツを生かして、家庭でのコミュニケーションを楽しんでいただければいいわけです。親御さんが楽しいと思うコミュニケーションは、お子さんにとっても楽しいものになっています。そのとき、子どもたちは心の面でもことばの面でも成長していくと思います。

楽しければことばも伸びる.jpgのサムネール画像


 右の研究は、内田伸子先生(元お茶の水女子大)らの研究結果で、楽しい家庭ほどことばの力も伸びるという結果を表しています。このような楽しい家庭で育った子どもは当然、自己肯定感も高くなりますから、いつも物事に積極的、前向きで、その分、出来る事も多くなるでしょうし、またよい人間関係を築いていくことができるので、他者の手助けも得やすくなるといえるでしょう。

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┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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