全国の難聴児のための早期支援、聴覚障害教育の情報提供、教材などの紹介を発信します。

一語文はどのように二語文になるのでしょうか?~発達の質的転換

〇語彙獲得の便利な仕組み~即時マッピングと語彙の爆発

手話の語彙爆発グラフ.jpgのサムネール画像前回(3.21記事)、「ものに名前があることがわかる」ことが言語獲得の本当の意味でのスタートだと書きました。そしてそれは、「同じ」という観点で世界を切り分け(分類・カテゴリー化)、その括られたまとまり(=カテゴリー)に対して名前をつけるということを意味していました(例:「いぬ」はどんな犬種であろうと全て「いぬ」ですし、「コップ」はかたちや色や材質が違ってもみな「コップ」です)。このしくみに気づいた子どもは、周りのいろいろなモノに関心を持ち名前を知りたがるようになります。これが「語彙の爆発」と言われる現象で、1歳半~2歳頃、子手話の語彙爆発はなぜ起こる?.jpgのサムネール画像どもが50100語程度の語を獲得したころに始まると言われています。

は、なぜこのような急激な語彙の獲得が可能になるのでしょうか? それは、未知のもの(図の例では「オカピ―」)に遭遇したとき、私たちの頭の中では、すでに知っているもの(例:動物、犬、猫、キリン、シマウマなど)を手掛かりにしてそれらと、未知のもの(オカピ―)とのあいだに類似性を見出し(その類似点・相違点は見た瞬間に判断しています)、そこから新しいものがどのようなものであるかを推論し(「あれ、キリンみ

手話の語彙爆発2翔子.jpgのサムネール画像たい。しまうまにも似ている。でも知らない。なんていう動物かな?」)、新しいモノがどんなものであるかを知ろうとします。そして「あれはオカピ―と言うよ。しまうまに似ているけどほんとはキリンの一種だよ」と教えられ、新しい知識として獲得します。このような語を獲得するしくみのことを「即時マッピング」と言いますが、新しく出会うものに対してこの語彙獲得システムが作動していくと、蓄積される情報量も増えていくのでさらに新しく出会ったものに対しての判断も早くなっていきます。こうして語彙の獲得スピードが速まり、結果として「語彙の爆発」が起きると考えられています。

 

〇手話は発達早期から認知発達を促進できる言語

では、きこえない子の場合、このような言語獲得システムは有効に機能するのでしょうか?これまでの経験からは、一般的にきこえない子の音声言語では獲得語彙数が50100語程度まで増えてくる2歳代以降になることが多いですが(補聴器や人工内耳をしても音韻の弁別ができるまでに時間がかかる)、手話では1歳代でこの現象がみられます(*21名の保護者聞き取り調査では12名の子どもにこの「語彙の爆発」期がみられ、その平均開始時期19.4か月でした)。

このことは、獲得した語(手話)を使って発達早期から親とやりとりし、自分の思いを伝えたり、さまざまな体験とそのことに関わるやりとりを通してさまざまな物事の概念を身につけ、認知的な発達を促すことができるということです。これが手話からスタートすることの大きなメリットの一つです。 


〇一語文から二語文への発達過程~述部になる動詞・形容詞の獲得

1歳半から2歳半頃、獲得している手話を使って子どもはず両親や家族などと「今、ここ」でのことについて簡単なやりとりができるようになります。そして親子・家族の中での楽しい経験とわかるコミュニケーションによって、子どもは自ら心を動かしたことについて、身につけた手話を使って積極的に伝えるようになってきます。

二語文事例~手話の早さ.jpg 例えば、右図の事例Aは、発見が1歳4か月で手話を覚え始めてまだ2か月ですが、ママが熱心に手話を覚え、子どもとの会話に手話を使ってきました。子どもも大好きなママの手話を真似し(模倣は言語獲得に必須の要素です)、覚えたての手話で「家、車、/指さし/」と表しています。指さしを使ったのは、「帰る」とか「行く」といった移動に関する動詞が獲得されていないためでしょうが、将来動詞を獲得すれば、「家、車、帰る」と2語文となる述部を構成している指さしと考えられます。この指さしの出現について武居・鳥越(2001)は「聾児は通常の二語文を出現させる前に、指さしと手話単語の2連鎖を出現させる」と述べています。確かに指さしは、他のきこえない子でも二語文になる前に、指示語(これ・あれ・それ)として、あるいは名詞や動詞の代用としてもよく使われます。

また、事例Bでは、姉や自分の洋服について気づいたことを、お互いに手話で自由に語り合っています。この家庭では姉も含めて家族皆で手話を学んでおり、きこえない妹は手話のわかる健聴の姉に自分の思ったことを伝え会話を楽しんでいます。そしてこの子が表出している「ある」「同じ」「見る」などの状態や動作をあらわす語は文の述部になっていて、語順のある二語文になっています。

 

〇二語文が出るための発達的な要件とは?

1歳半頃にはきこえない子が表出する手話の語彙は50100語に達しますが、同じころ、二つのことが同時に処理できる力も育ってきます。例えば、ままごと遊びは以下のように発達します。

1歳頃「りんごのおもちゃを口に入れる真似をする」(ふり遊び)

1歳半~2歳頃「切るもの(おもちゃの包丁)と切られるもの(りんご)との関係を

 理解して、おもちゃの包丁で切る真似をする」→

③2歳頃「切ったりんごを皿に入れて出す」(見立て遊び) 

救急搬送(スクリプト).pptx.jpgこのように、②③の頃、二つのものとものとの関係の理解や事柄と事柄の順序や手順(スクリプト)などがわかるようになると、その認知発達の上に二語文が出てきます。

例えば、右の【事例C】と【事例D】はちょうど2歳頃の「見立て遊び」の例ですが、このような、二つのことを関連付けて遊べる力や事柄を順番通りに実行できる力が、二つの単語を並べて一つの文にまとめた二語文の生成を可能にしているわけです。

 

〇きこえない子の特徴的な手話の使い方~要求表現「ほしい・~たい」

子どもは1歳代に手話の単語を獲得していきますが、モノの名称をあらわす名詞だけを二つ並べても文にはなりません。状態や動作を表す動詞や形容詞の獲得が二語文を生成するために必要ですが、きこえない子の場合、動詞・形容詞を獲得する前に「ほしい・~たい」の手話の使用がしばしば用いられます。その使い方の特徴は、初めは動詞の代用としての使い方が多いようです。

(例)「/指さし(あっち)/+ほしい」→「(あっちへ)行きたい」(P児・13か月)

  「ねこ+ほしい」→「ねこと遊びたい」(Q児・1歳4か月)

  「番組名+ほしい」→「テレビ番組名が見たい」(R児・18か月)

その後、動詞が獲得されると、本来の動詞意向形(~たい)や形容詞(ほしい)として使われ、動詞の代用としての使い方は少なくなっていきます。

(例)「開ける+ほしい」→「開けたいor開けてほしい」(P児・17か月)

     「飲む+ほしい」→「飲みたい」(R児・17か月)


「自分・自分・自分」(助詞の使用)

二語文事例2(の、が、も).pptx.jpg2歳になると心の面での発達の早い子は、自我意識が芽生え自己主張の表現として、「ぼく~」といった名詞を二つ並べて所有を表す二語連鎖の表現や、動詞が省略された「自分!」「〇〇!」など、名詞に助詞1音だけを音声(または指文字)でつけ加える表現を使い始めます。これらの表現は名詞に助詞一音節をつければよいだけなので、きこえない子どもにとっても習得のしやすい助詞です。
 また「~も」といった「とりたて助詞」(選択助詞)なども2歳代後半になると使われはじめます。


〇二語文がなかなか出ないとき、どうすればよいか?

 きこえない子の中には、単語は出ているけれどなかなか二語文が出ないという子どもたちがいます。この子たちはどこに課題があるのでしょうか? 

 ①まず一つ目は、子どもがいちばん自分の話をきいてほしいのはやはりママやパパなので、子どもの気持ちを受けとめて、子どもに合わせて共感しながら応答しているか見直してみましょう。会話のコツは、子どもがいちばん言いたいこと・気持ちを言語化してあげることです(「~なんだね。~と思ったんだね」等)。このような応答的な関係を大事にすると子どもは自分の思いをたくさん語ってくれるようになります。

二語文~振り返りタイム.pptx.jpgそして、2歳近くになった子どもは記憶力も伸び、楽しかった「あの時」のことも語れるようになります。「今、ここ」でのことは具体的なモノや文脈の手掛かりがあるので単語だけでも伝えることができますが、「過去」のことを語るには、単語だけではとても間に合いません。しかし、子どもはまだ文のかたちがわかりません。そこで子どもの語りはありったけの単語を羅列して「思い出」を語ります。子どもの頭の中にはその時の情景や会話がイメージ映像として記憶されており、それを単語化しているように見えます。こうした単語の羅列の中からだんだんと「主語・目的語+述部」という語順のある二語文が出てくるようになります。右のファイルはその例で、一語文から二語文への過渡期にこのような語りがよくみられます。

 ②二つ目は、単語だけで済む会話をしていないか見直してみることです。日本語の会話

拡充模倣をしよう.pptx.jpg(話し言葉)は、文脈が共有されていれば単語だけでも会話が成り立ちます。そのためになかなか一語文から抜け出せないことが起こりがちです。右図のような意図的な会話(拡充模倣)で二語文を引き出していくことが必要かもしれません。

 ③三つ目は、二つのことを同時に処理する力とか物事を手順通りに進める力を伸ばすことです。

例えば「パパに新聞を持って行って、コップをもらってきて」「靴を履いて帽子をかぶってね」(二つのことを記憶して実行する)とか、衣服の着脱や食事の準備の手伝いなど生活習慣の繰り返しの中で操作手順をマスターする力をつけます。

 

二語文で説明しよう.pptx.jpg④四つめは、動作や動き、要求をあらわす動詞や状態をあらわす形容詞を使って二語文で表現してみましょう。文を構成するために必要不可欠な語はまずなんといっても動詞、次に形容詞です。動詞の増やし方については下記を参照してください。

TOPページ>乳幼児期・学童期>幼児期の動詞語彙の増やし方~その1・その2 

 nanchosien.com/nyuyou/



┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

〒145‐0063
東京都大田区南千束2-10-14-505 木島方
TEL / FAX:03-6421-9735

mail:nanchosien@yahoo.co.jp