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「ものに名前があることがわかる」ことの大切な意味

前回(3.6記事)、ヘレン・ケラーを例に、「モノには名前があることがわかること」が言語の獲得だと書きました。ヘレン・ケラーは、庭のポンプからくみ上げた冷たい水を掌に受けたときの体験から、庭のポンプからほとばしる水も、コップで飲む水も、「水(w-a-t-e-r)」という名前なのだということを発見しました。そしてれが言語獲得だということも書きました。

言語を獲得するということは、言い方を変えると、「同じ」という観点で世界を「類」に切り分け(分類・カテゴリー化)、それらを集めて括ったまとまり(=カテゴリー)に対して名前をつけるということです。

さて、実は、私たち人間は、この方法を使って外界の事物を分類・整理し、世界を捉えています。ですから、「モノには名前があること」がわかったということは、世界を認識するための大事な方法を手に入れたということを意味します。

例えば、私たちの日常生活では、調理道具、食器、洋服類、洗面用具、大工道具、勉強道具など、それぞれのモノはそれぞれ収納する場所が決まっています。もしこれらの道具類が全てごちゃまぜに一つの大きな箱に詰め込まれていたら、どこに何があったのかもわからず(記憶すること自体が困難)、必要な時に必要な物を取り出すことができなくて、生活は大混乱に陥るでしょう(と書きつつ、今の自分の生活はそんな状態で、探し物にいつも貴重な時間を使っているなあ・・と反省)。

 

〇カテゴリーと概念を豊かにすることが抽象的な思考には不可欠

このような、ものごとの共通性・類似性を抽出して分類する枠組みを「カテゴリー」と言いそのカテゴリーに存在するものの共通性・類似性をまとめたものを「概念」と言いますが、私たちは常にこのようなカテゴリー化と概念化によって思考を整理しています(殆ど無意識的にかつ自然に)。そして、カテゴリーとして整理することで二つのメリットが得られます。一つは遭遇するすべてのものをひとつひとつ別々に記憶する必要がなくなります(記憶の経済性)。もう一つは新しく出会うさまざまなものに対して、カテゴリー化された既有知識を使って新しいものがどのようなものであるのか予測・推論(帰納的推論)することができます。

カテゴリーが括られていると①.jpg例えば、小学校5年生では、社会科で「農業」について学習しますが、「農業」は抽象概念ですから目に見ることはできません。このような抽象概念を学ぶために必要なことはその抽象概念である「農業」を構成している具体的な概念=下位概念を身につけていることです。5年生であれば、「果物」「穀物」「野菜」といったもののカテゴリーとその概念を子どもたちはすでに身につけています。そして、果物にはりんご、ミカン、ブドウ、モモなど種々あり、それぞれの果物にはさらにさまざまな品種があるなどのことも知識としてもっているでしょう。このような、それぞれのもの(りんご、ミカン、ブドウ・・)についての豊かな概念を持ち、それらが括られて大きなカテゴリー(「果物」)を作っており、それらがさらに括られてもっと大きなカテゴリー(「農産物」)を形成しているという知識(頭の中のイメージ)があって初めて、目には見えない「農業」という概念の学習が理解できることになります。ですから「ブドウってどんなもの?」「キャベツ、ニンジン、きゅうりをまとめた言葉は?」ときかれてことばで説明ができないのであれば、さらに抽象的な概念である「農業」という学習をすることは難しいということになります。これがきこえない子の前に立ちはだかる『9歳の壁』です。

 

〇『9歳の壁』を越えるためには基礎概念からの積み上げが必要

抽象的思考とは、平たく言えば実体のないものや目には見えないことを理解したり、頭の中でイメージできる力です。同じ5年生の学習で算数では「百分率」を学習しますが、「百分率」というものを実際に目で見ることは不可能です。しかし例えば100円の商品を購入するとき消費税率が10%であればその商品は100円+0.1×100円であることは、頭の中でイメージできるでしょう。あるいは、A>B,BCの時、ACであるということが頭の中で記号を操作して理解できるでしょう。

モノに名前があることとは?1.jpg このような抽象的な思考の源をさかのぼっていくと、この「すべてのモノに名前がある」ことがわかる(=「同じ」を集めて分類しカテゴリーを作れる)というところに行き着きます。ここからスタートして、さらに年齢の進展とともに、比較の概念、空間の概念、時間の概念、因果関係の思考、仮定・推論の思考、比喩などの概念が育っていきます。いや、育てていくことが必要です。そしてこれらの力が、小学校以降の教科学習すなわち学習言語を支える力になるわけです。

モノに名前があることとは?2.jpg右のファイルは、「ものには名前がある」ことがわかった頃、あるいは「ものには名前がある」ことを知ったあと、さらに自分が知らないものを知りたいという欲求が生じ、新しく出会うのものについて興味を示している、2歳前後のきこえない子たちの事例です。手話で言語を獲得していくことで、きこえる子たちがこの年齢で示す言語発達・認知発達がちゃんと同じように可能になるということがこうした事例からもわかります。 

 

〇しかし、「ものに名前があることがわかる」ことはスタートでしかない

カテゴリーが括られていると②.jpgしかし、これはあくまでもスタートです。きこえる子たちは極端に言えばほっておいても自分でことばのカテゴリーを構築し概念を身につけていきます。しかし、きこえない子はそう簡単にはいきません。試しに、ファイルにあるような2つの質問をお子さんにしてみてください。聴児なみに応えられるのであれば問題ありませんが、もしこの質問にうまく答えられないのであれば、「ことば絵じてんづくり」をお勧めします。そのやり方はこのホームページの下記を参照してください。

TOPページ>日記・絵本・手話>ことば絵じてん nanchosien.com/10/1/ 

ことばのネットワークづくり.pptx.jpgまた、お子さんが年中・年長さん以上であれば「ことばのネットワークづくり」のワークで、お子さんの頭の中にあることばのカテゴリーと概念をぜひ整理してみてください。必ず語彙力アップにつながります。

TOPページ>論文・資料・教材>ことばのネットワークづくり

nanchosien.com/papers/cat33/

最後に、実際に「ことば絵じてん」づくりに取り組んで、大きく「絵画語彙検査」の結

ことば絵じてんに取り組んで.pptx.jpg果が伸びた子どもの例を紹介しておきます。


 

┃難聴児支援教材研究会
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