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「モノには名前があることがわかる」~言語獲得期(1~2歳)の支援のポイント

認知機能の発達.pptx.jpg初語の発生から初語の獲得に至る0歳後半期の「前言語期」といわれる発達の過程については以前に述べました(本HPTOP>発達の診断と評価>前言語期)。

その中で、言語獲得のためには認知機能の発達と社会的相互関係の発達がカギになるということも説明しました。そして、こうした機能の発達を促すために、添付ファイルのようなことに取り組むとよいと思います(あくまで例です)。そしてこのような活動を親子で楽しく行う中で通常は0歳後半には喃語が出てきます。難聴児の場合、補聴器装用が生後5,6か月までに行われていれば、聴力が概ね8090dB 以下の比較的聴力の軽い難聴児は音声の喃語が出てきますが、聴力が90dBあたりを越えると「手社会的相互関係.pptx.jpgのサムネール画像指喃語(しゅしなんご)」の場が多い傾向がみられます。以下はその例です(2017保護
者調査・木島より)

音声喃語(例)

 【A児・50dB,9カ月】 これまでは、ア、ウ、エ、ンだけだったが、『バババ』『パパパ』など濁音や半濁音がついた声を出すようになった。 

B児・80dB,1歳0か月】 『マンマンマ~』『バババ~』などの声を出す。

前言語期の発達支援目標.pptx.jpg★手指喃語(例)

C児・100dB,10か月】 

「手をパチパチ叩いたり、頬杖をつくようにほっぺを両手で触ったり、『無い』のように手を返してみたり、意味はなさそうだがいろいろな手の動きがみられるようになった」

D児・110dB手をにぎにぎする動作を繰り返す」(9か月) 「頭をパーの形でトントンしている」(11か月)

 そして、最初から手話を使っている場合、1歳前後には手話による初語が出てきます。これは聴力に関係なく初語は手話が圧倒的に多いです。(本HPTOP>発達の診断と評価>前言語期を参照)

 

初語の感動.jpgのサムネール画像初語はそれが音声であれ手話であれ親御さんには大きな喜びと感動を与えます。ここでは、初めての手話が表出されたときの保護者の感動を育児記録から引用しておきます。

 

 では、初語が出ればあとは次々とことば(含手話)が出てくるのでしょうか? いいえ、言語が本当に獲得されたといわれるまでにはもう少し時間がかかります。そこで今回は、初語が出てから、ことばが本当に獲得されたと言えるまでの発達の過程について書いてみたいと思います。

〇ヘレン・ケラーはどうやって「モノには名前がある!」ことに気づいたか?

 盲ろうの才女ヘレン・ケラーのことは皆さんもご存じの方が多いと思います。日本にも戦前に2度、戦後は1948年に来日し、「身体障害者福祉法」の成立に大きな影響を与えました。また彼女は、全国の盲・聾学校をまわって講演し、多くの人々を勇気づけ、当時の

IMG_20200306_0001.jpgのサムネール画像写真や記録などが今でも各地の聾学校に残されています。

ヘレン・ケラーは17か月の時に高熱の影響で視力・聴力を失いますが、69か月のとき家庭教師アニー・サリバンと出会い、徹底した個人指導によって言語を獲得し、19歳の時にハーバード大学ラドクリフカレッジに入学します。映画『奇跡の人』は1960年代に公開されましたが、この映画は、アニー・サリバンとの出会いから、「モノには全て名前がある」ということに気づくまでの約1か月間の経過を感動的に描いています。この映画のクライマックスシーンは、サリバンと庭を散歩している時、井戸水をくみ上げる手押しポンプからほとばしる水を掌に受けたヘレンが、もう一方の掌に「w-a-t-e-r」とサリバンに文字で綴られた場面で、このときはじめて「すべてのモノには名前がある」ことに気づきます。その時の感動をヘレンは自伝の中で次のように書いています。

「突然、まるで忘れていたことをぼんやりと思い出したかのような感覚に襲われ・・この時初めて、w-a-t-e-rが、私の手の上の流れ落ちる、このすてきな冷たいもののことだとわかったのだ。」(『ヘレン・ケラー自伝』,新潮文庫,34頁)

 つまり、モノには名前があるということをこの時に初めてヘレンは理解したわけです(正確に言うと2歳前に失聴して失われていた感覚が5年たってよみがえった)。では、その前はヘレンはモノに名前があるということはわからなかったのでしょうか? 記録によると、ヘレン・ケラーはいくつかの特定のモノに対して、例えば人形に対して「d-o-l-l」と指文字(ヘレンはサリバンに触指文字を教えられその記号を習得していました)で綴ることはありました。しかし彼女は、別の人形に対しては「d-o-l-l」と綴ることはしなかったのです。もしモノに名前があることがわかり、名前とは似たもの同士のモノに付けられた記号だということが知っていたら、多少の違いはあってもどの人形にも「d-o-l-l」と綴ったでしょう。それをしなかったのは、彼女は特定のモノに対応してある種の記号(ここでは「d-o-l-l」)を対応させるということはわかっていた(これも、あるものが別のもので表されるという意味で「象徴機能」の一種です)けれど、だれにも通ずる一般化された「言語」としてはまだ習得されていなかったということです。言い換えるとモノの名前はある類似性をもったものの集まり(カテゴリー)につけられた名前だということを「w-a-t-e-r」の体験をするまでは気づかなかったということです(これに気づくことが誰にも通じる象徴機能である‟言語獲得")。

 

〇それから、「語彙の爆発」が始まった

そしてこの体験をした直後、その日のうちに30くらいのことばを一気に覚えたとサリバンは書いています(『ヘレン・ケラーはどう教育されたか』)。以後、ヘレンは、沢山のモノの名前を知りたがり、周りの人に自分の知っていることばを教えたがるようになります。いわゆる「語彙の爆発」が始まっていったのです。

 

〇聴児や先天性難聴児の場合は?

ヘレン・ケラーの場合は、17か月で失聴・失明ということもあって、非常に劇的に610か月の時に、モノには名前があるということが思い出されたのだろうと思います。では、きこえる子ども(聴児)の場合はどうでしょうか? きこえる子の多くは1歳前後に初語が出て(もちろん個人差も大きい)、その後の数か月間は、例えば「わんわん」を犬だけでなく猫などにも対応づけてしまうなどのことがよくあります(「過剰般化」)。カテゴリーの基準がまだよくわかっていないからです。以下の例は、難聴児の手話での過剰般化の例です。

 【事例G110か月】

Gはモノが落ちた時、手話で「しまった」の表現をよく使う。哺乳ビンが落ちて「しまった」、本が落ちて「しまった」と、「落ちる=しまった」と思っているらしい。今日、パパが作ったうさぎの折り紙(上から落とすと耳をパタパタさせながら回転して落ちてくる)が上からパタパタと落ちてきたとき、やはり「しまった!」とやっていた。

 

しかし、2歳くらいになるとこのような間違った対応づけも少なくなり、モノの名前とは似たモノ同士のモノ(カテゴリー)につけられた名前であるということがわかってきます。

 ではこの発達の過程は、きこえない子(難聴児)の場合ではどうでしょうか? 一般的に難聴児の「音声言語」での初語は2歳前後と聴児とは1年くらいの差が生じます(補聴器や人工内耳をしても感音性難聴ゆえに音声は歪んだ音の塊としてしか入力されませんから、音声言語の音韻が認識されるまでにはそれなりに学習の時間が必要です。例えば「イヌ・いす・行く」の区別は単に単語だけきいても、いくら音量をあげても明確には区別できません)。

しかし、手話は、その子が「見えてさえ」いれば、手の形や動き(=手話の音韻)の弁別は100%可能ですから言語として認識され発達していきます(2017年保護者対象の調査と保護者育児記録からきこえる子の音声言語の発達過程と難聴児の手話の獲得過程は基本的には同じというがわかっています)。

 

〇「モノには名前がある」ことがわかるようになるまでに必要なこと

1状況依存語・同時模倣.pptx.jpgのサムネール画像初語が出て、その後しばらくの間は単語だけの時期が続きます。そして、その単語はまだ特定の場面や状況と結びついた「記号」的(ラベリング)な意味合いが強いです(「状況依存語」)。例えば【事例H】の「ぞう」は、置物の象だけを意味している名前ではなく、本来は絵本やテレビに出てくる象も含めての「ぞう」です。「モノに名前があることがわかる」ということは、実物の象も置物の象も絵本やテレビの象も「ぞう」という括りをもったある種の動物につけられた名前だとわか2写真カードの使用.pptx.jpgるということです。これが「言語」です。1歳頃の子どもは、「ぼうし」とは自分の帽子のことだと思っていてママの帽子は「ぼうし」ではないと思っていたりすることがあります。また、「わんわん」と覚えたら猫もぞうも動物全てに「わんわん」と使ったりすることもあります。このようなことばの使い方を本来の意味での使い方にしていくためには、生活の中でことばを使う経験を豊かにし、また、さまざまな象徴機能を高めていくことが必要です。例えば、1~3歳頃に次のような活動3ごっこ・再現あそび.pptx.jpgをたくさんするとよいでしょう。

①まねっこ遊び(同時模倣)をする→【事例I

②写真や絵カードを使う→【事例J

③ごっこあそび・再現あそび→【事例K

④色や形の名称→【事例L,M

⑤同じ・違うなどのマッチングや分類→【事例N,O

4色を探そう!.pptx.jpg⑥対概念→【事例P,Q

⑦絵本の読み聞かせ【事例R

⑧描画

など、いろいろなものを他のいろいろなものに見立ててあそぶという象徴機能を高める活動をたくさんするとよいでしょう。

 

5同じをみつけよう!.jpg

6対概念に気づく.pptx.jpg






7絵本の読み聞かせ.pptx.jpg

〇「語彙の爆発」へ

 このような経験の積み重ねの中で、子どもはやがて自分で、ことばは特定の場面・状況と切り離して使えるとか、似たモノの集まりにつけられた記号がことばなのだといったことを発見していきます。そしてこの段階に達すると、今度は発見した規則性や仕組みを使って新しいことばの意味を推論し急激に言葉の数を増

語彙爆発事例.pptx.jpgやしていくわけです(「語彙の爆発」)。この段階に入ると、語彙がどんどんと増えていきます。ここに達するまでには通常、初語の表出から半年ないし1くらいかかります(2017調査では語彙の爆発が観察された20名中10名の開始年齢平均は19.4カ月)。また、2語文の表出もこのころから始まります。最後に、初語獲得からことばに名前があることがわかるまでの時期の発達支援目標をまとめておきます。


手話の語彙爆発.pptx.jpg象徴機能を高めるための支援目標.pptx.jpg

 

 



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