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幼児期の動詞語彙の増やし方~その1

「聴力100Bの我が子は軽中度難聴や人工内耳のお子さんに比べて動詞の語彙が少ないように思います。どうすれば動詞を増やすことができるでしょうか?」

 ある保護者の方からこのような質問をいただきました。確かに、高度・重度難聴の幼児の動詞の獲得語彙数は少ない傾向がみられます。Jcoss(日本語理解テスト)でも、一般的に軽中度難聴や人工内耳の子は「動詞」の項目は年少・年中あたりで「通過」(問題として提示される4つの動詞がいずれもわかる)しますが、高度・重度難聴の子は年長くらいになる子が多いです。後者の子たちは日常会話の中で手話を用いる割合が高い(聴覚からの入力に限界がある)子たちですから、意図的・意識的にかつ視覚的に日本語を使う機会を増やさないとなかなか動詞は増えません。そこで、今回は、日常会話の中での工夫、絵日記やことば絵じてんづくりの中での工夫について、次回は動詞を使ったことばあそびの方法について書きたいと思います。


〇日本語の中で最重要品詞は動詞と助詞

 

文の構造.pptx.jpg日本語の文は、右図で示したように、文末の語(述部)に全ての文節が係る構造になっていて(最も伝えたいことが最後の述部にくる)、文末に来る語で最も多いのが動詞です(形容詞:例「今年の春は暖かい」や名詞+「です」:例「私の好物はみかんです」もありますが多いのはやはり動詞)。ですから、動詞がわからないと文を読んだり書いたりすることができないので、まず動詞をたくさん身につけることが大事です。

 小学校1年の国語教科書(光村図書)には250語位の動詞が出てきますが、そのうちの最低8~9割(200220)語は知っていないと自分の力で読んで文を理解することは難しいと思います。 


〇動詞は大事だけれど学習しにくい

 きこえない幼児にことばを教えるとき、机やいす、テレビ、冷蔵庫などそのモノに「つ

動詞活用の種類.pptx.jpgくえ」とか「テレビ」といった、そのモノの名前を文字カードにしてそのモノに貼りつけてモノの名前を教えるといった活動をすることがありますが、このような事物名詞と違って動詞には文字カードを貼り付けることができません。事物名詞のようにそこに「歩く」というモノがあるわけではないのです。

さらに面倒なのは、動詞は活用して一つの動詞が多様に変化することです。同じことばが数十通りの変わり方をします(右表参照)。「食べた」も「食べました」も同じ意味を表すことばなのに、見た目の形が違うと

動詞の誤り.pptx.jpg別のことばだと、きこえない子は思ったりします。

そのような厄介さがあるので、動詞はなかなか幼児期に語彙数が増えませんし、使い方も定着しにくいです。右図の成人の聴覚障害の人が書いた文をみると、動詞と助詞に誤りが集中していることがわかります。そして動詞語彙そのものは間違っていないのに、前文との関係で適切な使い方になっていないことがわかります。適切に運用するためには一定の習熟が必要なのです(きこえる人は会話の中で何十、何百回と繰り返して習熟している)。しかし、動詞と助詞が適切に使えるようになれば、文は正しく書けるようになることもこれらの事例の誤りの特徴が助詞と動詞に集中していることからも理解できます。

 

〇幼児期の課題は、まず動詞の習得、次に基本的な活用を知る

 さて、動詞はそのどれもが活用しますからその変化の規則を知ることも大事ですが、ともかく動詞をたくさん習得することがまず必要です。「おやこ手話じてん」は、実は動詞を重視して作った辞典で、この本の中には動詞が264語掲載されています。これらはいずれも日本語でも手話でも表せる動詞で、これだけのかずの動詞が身についていれば日常生活の中では困ることはまずありません。ですから動詞の語彙数をみるときの一つの目安としてこの辞典に掲載されている動詞の語彙を使うことができます。(獲得語彙数の調べ方は、TOP>乳幼児・学童期>子どもが獲得している語彙数は? 参照)

 

①会話の中で動詞を指文字で綴る(チェイニング法)

 では、手話中心に会話している場合、どうやって手話の動詞を日本語の動詞と結び付ければよいのでしょうか? これには口話併用手話を用いながら、動詞の部分を再度、指文字で強調する"チェイニング法"を使います。例えば以下のようにします。

 

 「太郎は、明日、引っ越すらしいよ」→「たろう(指文字)(指文字「ハ」を使うか親指を立てて太郎を示し、その親指を指さす)、明日(手話)、引っ越す(手話をしてさらに指文字で「ヒッコス」をかぶせるように表現)、らしい(手話)、(口形または指文字「ヨ」)」

 *「引っ越す」という動詞を手話でやって、さらにおっかぶせるように指文字で「ヒッコス」と綴る。さらにもう一度「引っ越す」の手話をやれば"サンドイッチ法"。引っ越すの意味がわからない時は、紙に絵を描いて説明し、「引っ越す・引っ越し」の文字も加えるとよいでしょう。

 

事例①.pptx.jpgこうした方法を実際にやって効果をあげた事例を右に紹介します。

 この幼児は年中までは手話オンリーでしたが、年中の頃から日本語の習得を意識し始め、まずは少しずつ手話での会話の中に指文字を取り入れていきました。指文字が増えて日本語と手話が結びついてきたら、会話の中での難しい言葉は「指文字⇒手話⇒指文字」の順に提示していきました。また、このころから「二語文暗記」も始めました。毎日、一

事例②.pptx.jpg文を覚えます。根気のいる方法ですが、だんだんと日本語の文がわかるようになり、小1の頃には、かなり長い文でも覚えられるようになりました。日本語力アップのためのおススメの方法です。(この子どもは現在、大学2年生になっています。)

 



事例③.pptx.jpg









②絵日記の中で動詞を意識的に扱う

絵日記動詞①.pptx.jpgのサムネール画像日記の中では必ず動詞が出てきます。まずは、動詞の意識化。右の絵日記では「書く」「くっつける」「折る」などの動詞を手順に沿って取り上げています。また、下の絵日記では、助詞を〇で囲み、動詞を黄緑色ベース型で囲って品詞分類をしています。この年齢では品詞の意味はわからなくとも、最後に来るのは黄緑色ベース型が多いとか文の途中にもあるとかがなんとなくわかればそれでOKです。(因みに名詞は黄色四角、時間や数量を表す時数詞はピンク色四角で囲っています)

絵日記動詞⑤.pptx.jpgのサムネール画像

 また、右下の絵日記のように、動詞の横にその動詞の元の形(基本形)を書く方法も有効です。こうすることでその動詞は全く別のことばではなく、基本形が変化したものであることを教えることができます。また、一つの動詞を取り出して、すでに終わったかたち(過去・完了形)や否定のかたちであることを教えることも有効です。

 さらに、受身形や可能形を使ってその意味

絵日記動詞③動詞活用を抽出.pptx.jpgがどうちがうか確認します。また、文を問題形式にしたり、あえて「とぐ」とか「蒸らす」といった難しい語句を使うのも一方法です。

絵日記動詞②難解語句.pptx.jpg 








③ことば絵じてんを動詞でつくる

 ことば絵じてんを動詞で作ることもできます。例えば、同音異義語で作る。日本語には

ことば絵辞典動詞版.pptx.jpg同音異義語がたくさんあります。右の例では「はく」。「靴を履く」「庭を掃く」「げろを吐く」等々。「あがる」とか「とる」「ひらく」といったことばにもたくさんの意味の違ったことばがあります。また、調理の仕方では「煮る」「揚げる」「蒸す」「焼く」などいろいろな調理法があります。こうした整理をするのも語彙の拡充につながります。ぜひ、「からだの動き(這う・転がる・寝る・立つ・走る・・・)」「手指や腕の使い方(握る・つまむ・つかむ・叩く・指さす・・・」など、いろいろな動詞でことば絵じてんを作ってみてください。動詞の語彙が豊かになると思います。

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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