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子どもが獲得している語彙数は?

お子さんがどのくらいの語彙(単語)を獲得しているかご存知ですか? きこえない子のことばの遅れは、まず、身につけている語彙の数が少ないということから始まります。というと、では、どのくらいの語彙を身につけていればよいのですか?と質問したくなります。 そこでこういうふうに考えてみます。


〇幼児の日常生活に必要な語彙数は?

まず、幼児が(大人も)日常生活をしていく上で必要な語彙数は? これは今も昔もだいたい1000~1500語あれば、生活の用を足せる会話は間に合うと言われています。そうした基準で作ったのが、右の『おやこ手話じてん』です。これにはだいたい1200~1300語くらいの語が掲載されています。ですから、このじてん1冊分の語が手話で使えれば手話での日常会話ができますし、日本語でできれば日本語での会話ができるといえると思います。


〇就学に必要な語彙数は?

くじらぐも.jpgでは、1200語の単語を知っていれば小1の国語の教科書は理解できるのでしょうか? そこでシミュレーションしてみます。『おやこ手話じてん』に掲載されている1200語と助詞「が、は、を、の」は理解できる、という前提で国語の教科書を読んでみます。使用するのは光村図書小1上にのっている『くじらぐも』。 (  )の空欄は知らないことばです。そうすると、以下のように なります。

 

「(  )まで(  )、一、二、三。」  (  )ときです。

(  )、風が、みんなを 空(  )(  )ました。

 (  )、(  )いう(  )、先生(  )子ども(  )は、手を つないだ(  )、雲(  )(  )(  )乗っていました。

「(  )、およぐぞ」 (  )は、青い、青い、空の(  )を 元気(  )(  )でいきました。 

海の(  )(  )、(  )の(  )(  )、(  )の(  )(  )」 

 【国語小1年上「くじらぐも」・光村図書より】

 

上記の文章には約60語の語が使われていますが、そのうち1200語獲得レベルでわかるのは全体の60%程度35語ほどです。あとの4割の単語はわかりません。このまま読んだだけでは、文の意味はほとんどわかりません。挿絵があればそれを手掛かりになんとか想像できる程度ですが、詳細な意味はわかりません。1200語知っていても小1の国語の教科書はほとんど読めないのです。

ということは、おそらく小1になった聴覚障害児の半分以上は、小1国語教科書を自分で読んでみてもほとんど理解できないということになります。

因みに、きこえる子どもの平均的な獲得語彙数は、2歳で300語、3歳で1,000語、4歳で1,500語、5歳で2,000語、6歳で3,000語と言われており(但し1950年代の研究結果。テレビ等からの情報量も多い今の子どもたちはもっと多いと思われます)、3000語以上の語彙をもっていることを前提にして小1国語教科書は作られていることになります。きこえる子は、日々のコミュニケーションの中で、何十回も何百回も同じことばを聞き、話すことで自然獲得していきます。自分の後ろや横からきこえてくる人が会話することばやテレビからきこえてくる音声なども含めて。

では、きこえない子はどうでしょう? きこえない子だって日々のコミュニケーションがきこえる子に劣るわけではありませんが、ただ、聴力のよい難聴児・人工内耳装用児でも、あえて聞こうと思って聞いてはいない家族の会話から自然にことばが聞こえてきて覚えたとか、何気なく漠然と見ていた(聞いていた)テレビ番組からことばや知識を得たといったきこえる子のようなことばや知識の身につけ方はできません。自分で「聴こう」と思って意識を向けて聴かない限りは。まして聴力が厳しく手話中心の子どもたちは、大人が意識的に日本語を使って子どもに働きかけない限り、日本語の語彙が自然に入るとか増えるとかはありません。では、どうすればよいのでしょう? 

日々の生活の中で、あらゆる機会を通して、対応の手話も含めて「日本語」を使う以外に方法はありません。親子の会話の中で、絵日記を書くときに、ことば絵じてんをつくるときに、絵本を読むときに、ことばあそびをするときに・・・。聞いて(見て)、話して(綴って)、読んで、書いて。方法はひとつではありません。まずは子どもと楽しくやれることをさがしてみましょう。とりあえずは「おやこ手話じてん」に掲載されている1200語は手話でも日本語でもわかることを目標にしましょう。辞書に掲載されていない日本語も習得されているでしょうから辞書の語がだいたいわかっていれば1500語は身につけていると考えてよいと思います。

〇子どもの獲得語彙数の調べ方

日本語語彙数の調べ方.jpg因みにまずどのくらい、お子さんが手話と日本語が結びついているか調べてみましょう。調べ方は簡単。じてんを開いて18頁から171頁までの各頁の最初のことばを手話で提示して(または指文字で提示して)、お子さんに指文字で(指文字で提示した場合は手話で)綴ってもらってください。154頁あるので全部で154語提示することになります。正解の数を調べて8倍してください。その数がお子さんの手話と結びついている日本語の語彙数です(例えば、154問中100問正解だったら100×8=800語がお子さんのおよその日本語習得語彙数です)。

子どもが使っている手話は、音声や指文字・文字などを使って日本語に置き換えていくことが、小学校の教科学習をする上に必要になります。日本語の音韻を獲得できるようになるのは指文字・文字なら3歳前後から。そのあたりからまずは名詞、そして形容詞や動詞へと進めていきます。

二言語の習得をめざすわけですからきこえない子も親も負担が大きいかもしれませんが、バイリンガルになれるチャンスと考えて、がんばってもらいたいものです。語彙チェックは、子どものバイリンガル度のチェックと言ってもよいかもしれません。

(注:この方法で調べられるのは手話を自然獲得している子どもです。手話を知らない子どもは子どもが表出した単語を全て記録し数えるしか方法はありません。もちろん、「絵画語彙検査」「J.coss」等J.coss」の検査を用いて語彙年齢を推定する方法もあります。)

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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