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音韻意識とワーキングメモリーを伸ばすために!

〇音声だけで音韻の区別はできない

日本語は「あいうえお・・・」という50音、濁音・半濁音・拗音を含むと約100の音韻(音節)によって成り立っています。そしてこれらの音韻を順に並べて単語を作ります。例えば「ばす」という語は、「ば」と「す」という二つの音韻で作られていることになります。また、さらに、これらの単語を文法規則に従って順に並べていくことで文を作り、言いたいことを伝えます。例えば「ば・す・に・の・る・よ」と6つの音韻を並べて自分が「バスに乗る」ことを表現しているわけです。きこえる子は、音韻の区別は耳で聞いて100%できますから、毎日の生活の中でその音韻の並びを繰り返し聞くことで意味を理解し、日本語の文法を獲得していきます。ところが、きこえない子はそうはいきません。防音室での聞き取りが100%近くできたとしても日常生活の場ではそうはいきません。きこえる子は暗闇や後ろから声をかけられても、また周りに多少の騒音があっても特定の人の声を聞き取れたりしますが、「感音難聴」のきこえない子は、常に曖昧さを伴ってことばを聞いているので、語を記憶すること自体が困難で(例えばアラビア語を知らない人が何度きいても単語や文を覚えられないのと同じです)なかなか語自体も蓄積されていきません。

音韻意識の芽生える時期.jpgでは、語を確実に記憶していくためには何が必要なのでしょうか? それは100%音韻を視覚的に区別する記号すなわち文字・指文字です。きこえない子にとって日本語の音韻をいつでもどこでも100%区別できる記号はそれ以外にはあり得ないのです。問題は、その文字や指文字での音韻を子どもがいつ頃から意識できるようになるのかということです。聴児を対象としたこれまでの研究では4歳を過ぎてからというのが定説です(天野2005)が、手話や指文字を使っているきこえない子の場合は、さらに1年は早く、だいたい3歳を過ぎたあたりです。(右上事例参照)

 

〇おぼえるのが苦手な子たち

  このあたり(3歳頃)から文字や指文字を意識できるようになり、徐々に日本語の語彙を獲得していきます。もちろんそれには個人差があり、教育開始時期や聴力等によって差があります。きこえない子の8割位はとくに大きな問題はないのですが、2割くらいに、なかなか日本語を覚えられない子たちがいます。

 この子たちは、ほおうっておくと、覚えられないことがそのまま続いていってしまうので、小学生になる頃には他の子と語彙力で差がつき、日本語に対する苦手意識が強くなってだんだんと自信を失いがちになります。こうなってしまうとそこから這い上がることが難しくなってしまうので、日本語を覚え始めるスタートの時期から、丁寧に時間をかけて関わっていくことが必要です。

  数唱検査.jpgでは、どうやって、音韻を覚える力があるかないかをみるのかということですが、例えばWISC5歳以上適用可)という検査の中に「数唱」という検査があります。例えば「同じに言ってね。2・1・3。はいどうぞ」(検査者)⇒「2,1、・・」(子ども)(順唱)とか、「今度は反対に言ってね。2・1・3。はい、どうぞ」「えーと、3、1・・」(逆唱)といった検査です。順唱の場合は、単純に今言われたことを繰り返す検査です。今覚えたことをちょっとの間記憶しておき、それをどの程度再生できるかをみています。これを「言語的短期記憶」といいます。通常、年長児(聴児)ですとだいた3~4個の数字を覚えていて再生することができます。一方、「逆唱」は、あとで言われた数字のほうから逆に再生しなければならないので、頭の中で数字(記号)を操作しなければなりません。ですからこちらのほうが難しい課題で、年長児ですとだいたい2個か3個くらい言えれば普通です。こちらは頭の中で記号を操作する「中央実行系」という機能が働いていると言われています。そしてこの「中央実行系」という機能は、記号の操作だけでなく注意のコントロールも担当していると言われています。ですからこの中央実行系の機能が弱いと、ことばを覚えたり、ことばを頭の中に思い浮かべて操作したり、注意集中ができにくいなどのことが生じたりします。きこえない子の検査をしていると、ここに弱さをもっているのではと思える子どもが2割くらいはいるように思います。せいぜい2音節から3音節のことばなら覚えられるけれど、それ以上の長い音節のことばはなかなか覚えられないというタイプの子たちです。また、問題を出すと最後まで見ていられなくて、途中で答えを探し始めるといったタイプの子もいます。このような記憶の苦手なタイプの子にはどうすればよいのでしょうか?

 

〇日々の生活の中での工夫

 

特効薬はないのですが、やはり子どもが楽しめるようなあそびの中で、その子に「できる」ことから増やしていくことだと思います。例えば生活の中でなら「今日は何を食べたい? カレーがいいの? じゃあ、スーパーに玉ねぎとじゃがいもと豚肉を買いに行こう。ママは忘れてしまうかもしれないから覚えていてね。」などと言いつつ一緒に買い物に出掛けるとか、「冷蔵庫見てきて。卵いくつある? じゃあ、そこから2個持って来て」と頼み、持ってきたら「冷蔵庫に卵いくつ残ってる?」と尋ねるとか、「パパにお風呂沸かしてと言ってきて。それからお兄ちゃんには宿題終わったかきいてきて。」な複数の用事を頼むとか、"覚えておく練習"を積むなどができるでしょう。

また、さまざまなことばあそびや絵・文字カードを使ったあそびを親子・家族で楽しむこともできるでしょう。例えば、「一文字かるた」。一文字であればいくら覚えるのが苦手な子でも大丈夫。そこから「二文字かるた」「三文字かるた」などに発展させていくこともできます。

それから「すごろく」をするときに、数字の目のかわりに、1なら「め」、2なら「あし」、3なら「あたま」、4なら「つまさき」、5なら「ふくらはぎ」などと絵と文字を入れるなども面白いでしょう。

 

〇音韻意識を身につけるために

日本語の音韻意識を身につけるためには、いくつかのことができなければなりません。

手話と日本語の違いがわかる.jpg1つ目は、手話と日本語のメタ言語意識がもてること。手話と日本語の違いがわかり、互いに翻訳可能であること。子どもは「バス」という手話を1歳代から自然獲得しますが、その手話が「日本語」という別の言語で表わせることがわかり始めるのは、先にも書いたようにだいたい3歳頃からです。この気づきを促すためには日本語でのしりとりだけでなく、手話でのしりとりをしたり、お風呂に指文字パウチ版を貼って風呂から上がる前に、「アは遊ぶ(手話)、イは行く(手話)」などと五十音を唱えながら、手話と日本語をするなどもよいでしょう。 ②音韻抽出.jpg

 

2つ目は、音韻抽出ができること。「あのつくことばあつめ」とか「最後にあがつくことばあつめ」とか、また、日本語の「しりとり」などもこの音韻抽出のあそびです。

 

3つ目は、音韻分解ができること。子どもの頃にやったじゃんけんをしてグーなら「ぐりこ」、パーなら「パイナップル」と歩を進 音韻分解.jpgめたあそびも語を音韻数に分解するあそびです。

 

4つ目に、音韻操作ができること。「数唱」検査の「逆唱」はこれです。この種のあそびには「さかさことば」などがあります。また、音韻を使った「なぞなぞ」は少しレベルが高いですができるようになるとよいと思います。

 

音韻操作.jpg 音韻タイプのなぞなぞ.jpgこのように、子どものレベルに合わせて楽しいあそびを考えることがいちばん子どもの覚える力を伸ばします。面白いことであれば子どもは興味を持ちますし、興味のあることは覚えるからです。ぜひたくさんみんなで楽しめる遊びを考えてみてほしいと思います。

 

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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