全国の難聴児のための早期支援、聴覚障害教育の情報提供、教材などの紹介を発信します。

「これ、なにか知ってる?」~年長児の答から

〇「ばけつ」を知らない子どもたち...?!

きこえない年長児に4つの絵を見せ、日本語での名前をきいてみます。(右図①~④)

①から③までは、ほとんどの子が名前を知っています。それぞれどれも子どもには身近なもので、しばしば会話や話題になることも多いからでしょう。

これ何か知ってる?.jpgところが④は半分以上の子が知らないのです(知らない子の答えで多いのは「はこ」「かご」など)。きこえる子なら年長になって「ばけつ」を知らない子はおそらくほとんどいないでしょう。きこえる子は、ばけつをしばしば見たり使っているけれど、きこえない子はあまりばけつを見る機会や使う機会がないからでしょうか? そうではないと思います。子どもが使うかどうかは別にして、どの家にもばけつはあるでしょうし、第一、幼稚園や保育園や聾学校に行っている子であれば、園庭の砂場でいつも使っているはずです。日常的に使っているのに知らないのは、きこえる子は、たとえ園庭の砂場でばけつを自分が使っていなくとも、隣の子が別の子に「ばけつ持ってきてよ!」と言っているのが聞こえる。きこえない子は自分に言われたことばでなければわからない。この差なのです。こういうことはばけつに限らず日々生じていることでしょうから、ほかにも、聴児は当たり前に知っているのにきこえない子は知らない、ということばが沢山あるだろうということです。この入力の差が語彙力の差となり、それが読み書きの差となって現れ、やがて学力の差につながっていくのだということです。

 

 そこで、年長児の時に「ばけつ」を知っていた子と知らなかった子たちがその後、聾学校小学部に入学し、それぞれの学年時の読書力検査(=読字力・語彙力・文法力・読解力の4分野からなり、総合的な「読み」の力をみる)でどのくらいの読書偏差値を示すのかを調べてみると、明らかに差(1%有意水準)が出るのです(右上図のグラフ)。「ばけつ」を知っていた子たち(12/30名)の平均は偏差値約60(該当学年よりも上の学年水準)、知らなかった子たち(18/30名)の平均偏差値は約50。そういうと、「な~んだ。ばけつ知らなくても平均50ならきこえる子と変わらない。大丈夫なんだ~」と思われるかもしれませんが、そうではなくて、こうした結果をこの学校では保護者にフィードバックし、その後、家庭でも語彙の習得・拡充に配慮して取り組んでいただいていることが、その後の語彙力向上に繋がっているのです。とくに聴力的に厳しいお子さんたちは、かなり指文字や文字からの入力を増やさないと語彙が増えないというのはこの結果からも予想できます。さらに、この学校では小学部低学年段階で文法指導に力を入れていることも、検査の中の文法力の項目の向上に繋がっていて、そうした取り組みの結果として「読書力検査」の偏差値があるわけです。

 

〇幼児期に語彙力をどうつけるか?

 では、生活の中で当たり前に知ってるはずのこうした語を、幼い頃からどうやって身につけていけばよいのでしょうか? きこえる子ならほっておいてもどこかで覚えてしまっているこのような語でも、やはり意図的に使い(見せ)、意図的に言わせ(指文字等で表出させ)、文字としても見せていくしかありません。

例えば右の例は3歳児の例ですが、「年末大掃除」の時に、「ことば絵じてん」で作っている「掃 これ何か知ってる?②.jpg除道具」の頁を見せ、どれをやるか選ばせ、みんなで掃除に取り組む中で、楽しみながら、掃除という概念や「ガラスを拭く⇒雑巾が汚れる⇒バケツの水で洗う⇒きれいになる」などの因果関係をいちいちことば(手話)にして学んでいることがわかります。ばけつに限らず、日々の生活の中で使うことばはほかにも沢山ありますし、きこえない子が意外と知らないことばもけっこうあります。例えば「風呂桶、しゃもじ、自転車」等々。聴覚が使える子たちもさらっと耳からきいて終わるだけでは、そのことばが身についていないということは、ばけつを知っていた子が半数しかいなかったことからも想像できます。言葉で言わせるだけでは確実に音韻を正確に表出しているかわかりません。声と同時に指文字を使うことや、文字でも書いて見せるなどして、100%弁別できる記号を使うことの大切さが理解できます。

 

 また、語彙を増やすには、ことば絵じてんで掃除道具とか風呂の道具、洗濯に使うものなどの頁を作るのもよいでしょうし、「入れ物」などの頁を作ることで、固体はかごとか箱、液体はボトルとか鍋、バケツ、桶、缶など、気体はボンベなど、入れるものがそれぞれ違うことも学べるでしょう。語彙数だけなく概念の豊かさを育てることやカテゴリーで整理することもとても大事です。こうしたことがまた、知識や概念、思考力を伸ばすことにつながるからです。そして、それらの総合的な結果として得た語彙力が読みの力を支えているということなのだと思います。