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外国人の子ときこえない子の共通点?~生活言語と学習言語

 今、日本には外国からたくさんの人たちが働きに来ています。その人たちの子どものうち小学校と中学校に通う子どもの数は、住民登録されている数で12万人なんだそうです。聴覚障害の子どものざっと10倍です。しかし、そのうちの約2万人が未就学だそうです(2019年秋・文科省調べ)。

 これだけの子どもたちがいて、では、日本の小・中学校でちゃんと学年に対応して勉強できているのかといえば、話はそう簡単ではないようです。

 日本語の話しことば(日常会話・生活言語)だけを考えれば、日本語を使う環境さえあればそれなりに身についていきますが、これまでにも生活言語と学習言語について書いてきたように、学校で学ぶための言語(=思考のための言語・書き言葉・学習言語)は、簡単にはいかないようです。これは、聴覚障害の子の場合とよく似ています。日常会話は多様な非言語情報によって支えられているので、極端にいえば単語だけであっても会話が通じますが、書き言葉となると、非言語情報もすべてきちんとした言語情報によって補わなければならないので、語彙力や文法力や思考力がないと相手に通じる文章は書けませんし、学習言語が習得されていないと勉強はわかりません。


日本語の習得.jpg きこえる日本人の家庭のきこえる子どもたちは、家庭で日本語を使って生活して語彙を獲得し、幼稚園や保育園、小学校で教育を受けていますから、生活言語から学習言語への橋渡しもふつうはそれほど大きな困難さはありません(最近そうでもないことがわかってきました。「AI対教科書が読めない子どもたち」新井紀子参照)しかし、きこえない子もそうですが、外国人家庭の子どもたちもどうもこの生活言語から学習言語への移行が難しいようなのです。

 言語の問題を考えるとき、言語学では「音韻」「語彙」「統語」「語用」の4つの側面から考えますが、音韻や語彙の問題は幼児期にその土台をつくっておかないと学齢期になると困難さが増してきます。ですから、語彙の量の問題と同時に語の概念やカテゴリーの問題、音韻形成・音韻意識の問題などを幼児期に意識的に取り組むよう「ことば絵じてんづくり」や「ことばあそび」などを私は推奨してきました(本HP>TOPHP>論文・資料・教材>ことばのネットワークづくり等参照)。おそらく外国人家庭の子たちは、親が日本語を使えるとはいってもこのようなところまでの配慮・指導は難しいのだろうと思います。そのあたりの問題について外国人の子どもたちの学習支援をしている方が以下のように教えてくださいました。



「私たちは、外国から来て日本の学校で勉強している小学生、中学生、高校生の日本語と教科学習のサポートをしているボランティア団体を運営しています。 

 15年間この活動を続けてきて今、思っていることですが、小学生までを母国で過ごし、中学生で来日した生徒は、高校入試が大きな壁ですがなんとか乗り越えていきます。最初は、日本生まれの子どもたちの方が学習が順調に進むのかと思っていましたが、結果は、中学生で来日した生徒に比べて苦戦している生徒が多く、なぜなのか最初はわかりませんでしたが、母語の習得が大きな要因であることがわかってきました。

の研究会(難聴児支援教材研究会)のホームページを拝見して、ことばの概念、ネットワークの形成は、日々の生活、家族の中で育まれること、それは、音が聞こえない子どもたちのことばの育ちと母語を獲得する前に日本語を学んでいる子どもたちのことばの育ちととても近いと思いました。この研究会が公開してくださっている、ことばの獲得についての考え方を、私たちも勉強して、作成された教材を使わせていただきたいと思います。

 

つまり、きこえる外国人の子のうち生活言語から学習言語への移行を母語で行い、いわゆる「9歳の壁」(抽象的思考の壁)を越えてから中学生で日本に来た子たちは、高校受験もなんとか乗り越えられる。日本語と母国語という言語の違いはあっても、教科学習の内容そのものを理解でき思考力があるからです。

ところが、幼児期から日本に来た子たちは、そう簡単にはいかないようなのです。おそらくその子たちは家庭の中では母国語を使ったり、母国語と日本語が入り混じっていたりするでしょうし、就労している家庭も多いでしょうからルーチンな会話で日々終わっていくことが多いのではないかと思います。日常生活は片言でも用は足せますから。

子どもに、いちいち「ママはこう思ったけど、どうしてあなたはそう思ったの?」とか「じゃあこの次はどうなると思う?」と考えさえる会話を意識的にすることも少ないでしょうし、「自転車ってチャリンコとかチャリとかいうし、うちにあるのはママチャリよ。電動じゃないけど。あと、二輪車なんていう言い方もあるね。」と語彙を拡充したり、「リンゴ、バナナは果物。じゃあニンジンは?」などと仲間あてクイズをして遊んだりなどまずないだろうと思います。とすると、やはりこれはきこえない子の問題と共通する問題が起きてくるのだろうと思います。


10万人以上の子どもたちが日本で暮らし、2万人に近い子どもたちが未就学となると、これは非常に深刻な問題です。日本語が喋れても考える力がないと学校での勉強はついていけません。たのしくなければ行きたくない・・とここまで書いて、あれっ、きこえない子も、しゃべれるけれど勉強難しい、そういう子が増えているかもな、と気づきました。そのことについてはまた改めて書こうと思います。

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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