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03-2難聴学級の取り組み

〇はじめに~実物に触れることの意味

前回、「写真カード」や「ことば絵じてん」の作り方について、パワーポイント資料をアップしました。⇒ いまさらきけない・・写真カード、ことば絵じてんの作り方.pdf

「写真カード」や「ことば絵じてん」は子どもの記憶を引き出す手掛かりとして使ったり、覚えたことばを整理するために使うものです。こうしたカード類をたくさん作ってそれを使ってことばを覚えさせることはできません。例えばいちごの写真や絵カードを見せて「いちご、いちご」と言わせてそれが言えるようになったとしても、それはいちごの写真と「いちご」という音声または文字記号が結びついただけで、「いちご」の概念がわかったことにはなりません。

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「いちご」がどのようなものか、いちごの概念を身につけるためには、本物のいちごに触れ、さまざまな体験をすることしかありません。実際にいちごを見る、触る、切る、つぶす、食べる、こうした実体験によってこそ、いちごというモノのイメージ(概念)が身につき広がります。ジュースにしたらいちごの形がなくなってしまう、ジャムにしたらドロドロになるなど、いちごが調理の仕方で変化することも体験しなければ分からないことです。さらに、「いちご」の写真カードを持ってスーパーに行き、いちごを一緒に探して、お金を出して買い、持って帰って、洗って、へたをとって・・・こういうプロセスを体験することでいちご・果物・お店・買物といった概念も合わせて形成されます。また、いちご狩りに連れて行き、実際に土に植わっているいちごをもいで食べてみると、いちごがどんな季節にどんなところで育つのかもわかるでしょう。それを「絵日記」にすれば、子どもは思い出と共に体験を文字や文とも結び付けることができるでしょう。さらに、ままごとやお店屋さんごっこでジュースをつくったりジュース屋さんになったりすることも日々の暮らしと関連付けてイメージする力も豊かになりますし、子どもの認知発達に重要な象徴機能を育てることにも繋がります。象徴機能とは、わかりやすくいえば実物を代理する機能です。見えないもの、そこにないものを代理物を使ってイメージする象徴機能の発達は、抽象的な思考の土台をつくります。抽象的思考とは、実体のないものや目に見えないことを頭の中で、映像、言語、記号、数字などを使ってイメージする力のことですから、象徴機能が高次に発達した結果できることなのです。

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さて、このような体験は、実は、幼児期の"日々のふつうの暮らし"の中で少し配慮したり工夫したりすればできることなのですが、あえて意識していないと、ついつい日常のルーティンな生活と会話に流されてしまい、子どもが意味や概念と共にきちんと語彙を身につけるチャンスを失ってしまいます(日常の会話は実物、指さし、目線、表情、語調など非言語情報やパラ言語情報がふんだんに使われているので、正しい言語情報が欠けていても子どもには伝わるので、会話としてはそれで終わることが多いのです)。また、その時の子どもの関心や気持ちに合わせて、目と目を合わせ、その子の言いたいことを的確に言い表せる声掛けの技も必要です。多忙さに追われてしまうと、気づかないうちに「ことばが十分に身に付かない」ままに成長してしまい、聾学校や地域の小学校や難聴学級に入ってくることになります。聾学校も小学校もきこえる子と同じ教科書を使って授業をすることが前提ですから、当然、こうした子は教科書を自分で読んで理解することができません(語彙も文法も不十分ですから言語情報だけで理解しなければならない教科書を読む力ななく、自分で言語を使って表現す

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る力も不十分)。そこで、聾学校や難聴学級では、国語や自立活動などの時間を使って子どもの日本語力(語彙力、文法力など)や思考力(概念形成、象徴機能など)のレベルアップを図るわけですが簡単にはいきません。例えば、「文房具」というカテゴリーの名前はおろか「はさみ」とか「のり」といった個別のモノの名称も知らない子どもを前にして、何をどこから始めるのか教師は呆然としてしまいます。学校生活の中で使うモノの名前を絵入りのプリントを準備して子どもに与えても一事が万事、きりがありません。次から次と知らないものが出てくるわけですから。スポンジが水を吸うように覚えてくれればまだしも、ワーキングメモリーなどの記憶にも課題があると期待するほどの効果があがりません。ではどうすればよいのか? 「急がば回れ」という言葉がありますが、思い切って「体験学習」中心の学習活動から始めるのがよいと思います。つまり、実物に触れ、実物を操作することを通してモノの概念を身につけ、それが日本語という文字や音声の記号で表されるという言葉や概念の成り立ちの原初的な体験をすることです。幼児期にやりそこなった言語学習の再体験といってもよいと思います。モノの概念やことばがどのように成り立っているのかそのしくみをもう一度、根本から学び直すわけです。


〇とある難聴学級での取り組み(1)

それを実際にやった小学校難聴学級の先生がいます。はじめてもった難聴学級に聴力の厳しい女の子が入学してきます。音声言語でのコミュニケーションは、目の前にないことを話題にすることは難しく、例えば以下のような会話になってしまいます。

T「お休みはどこに おでかけしたの? 」 C「おかあさんで いった・・」 

T 「どこに行ったの?」 C「 いちごが・・・ まる・・・ (身振りで)」

T 「いちごを たべたの?」 C「 ん・・・? 食べる」

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すぐに教科学習に取り組むことは難しいと考えたその先生は、特別支援学級の先生と協力して、小麦粉粘土あそびから始めてお月見団子づくりへと発展させていく過程で、感触あそびのときにオノマトペを使ってその表現を教え動詞に結びつける、買物をしてその材料がお店の中のどのような場所(カテゴリー)にあるのかを体験させる、使う道具をカテゴリーで整理して教える、工程を時系列で整理し順序の表し方を教えるなどさまざまな工夫をしています。また、実際に野菜を育て、収穫して調理したり、野菜の切り方の違いなども体験させています。このような実物に触れる体験を通してモノ・ことばの概念を身につけ

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ることで、子どもは次第に変わっていき、3年目に入った今、その子は「言葉をどんどん吸収していくのを感じています。言葉に関して、『これの名前は何?』『つまづくって意味は何?』などと質問するようになってきました。算数の『単位』の学習の後、壁に貼ってあったメモリ付きのマスキングテープで長さを測ったり、2年生までは図書館に行くのも嫌がるほど本嫌いでしたが、国語の授業が終わったあとの休み時間に辞典を開いていたりなど言葉への興味も広がってきました。」(難聴学級担任)と。ことばを知っていく喜び、新しい世界を発見したり、知識が

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広がっていくことの楽しさを子どもは身をもって体験したわけです。


〇概念・イメージを整理することの大切さ

 ことばを身につけるために大切なことは、実物に触れることだと言いましたが、もう一つ大切なことは、いろいろなものを実際に動かして分類し、仲間づくりをすることです。分類は知的な活動をするうえで最も基礎になるものと言われています(銀林浩,2007)。ことばも分類したもの(カテゴリー)につけられ

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た名前です。難聴児においても手話を使えば初語は1歳前後に出てきますが、1歳頃のことばはまだモノに貼り付けられたラベルのようなもので「ラベリング」の時期ともいわれています。そのため、ある赤ちゃんにとっての「わんわん」とは自分の家で飼っているプードルにつけたラベルであって、よその大型犬は「わんわん」でないこともありますし、逆に猫を見ても「わんわん」と言ったりもします(過剰般化)。しかし、2歳近くになると「わんわん(犬)」とは、どの犬種も含めた「イヌ」の仲間・カテゴリーにつけられた名前であることがわかってきます。これが、「ものになまえがあることがわかる」ということです。

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仲間づくり・カテゴリー」は、ことばと大きくかかわっていますが、実は私たちの生活そのものに大きく関わっていて思考にも影響を与えています。例えば、どこの家でも、食器や調理道具はキッチンにあり、衣類はタンスに、靴は靴箱に、本は本棚に、仲間ごとに分類され整理されて収納されています。このように整理しておかないと生活自体いや社会全体が混乱し成り立たなくなってしまいます。例えば、酒が欲しいのに魚屋さんに行って「ビールありますか?」と言っても魚屋さんは困ってしまうでしょう。私たちは、世界を「類」に切り分け整理し、あらゆる物事に対処しているのです。このような分類・整理をすることで、私たちは効率的に言葉や物事を記憶したり(モノが整理されずバラバラになっていては覚えることも負担になる。記憶の経済性)、新しいことばや物事、情報に出会った時に、それがいったいなんであるのか、収納され整理された既存の知識を使って推論し(帰納的推論)判断・認識していくという営みを行っています。そして、高度に分類され整理された言葉・概念をもっているからこそ抽象的な思考や知的活動を営むこともできるわけです。

上位・下位概念.jpgのサムネール画像

ところが、きこえない子はしばしばここで躓きます。例えば、国語の教科書の中には、必ず上図のようなことばの上位・下位概念に関する単元がありますが、「基礎語」といわれるモノの名前はわかっても「野菜」とか「お菓子」といった上位概念のカテゴリーの名称を知らないきこえない子どもが実際に少なからずいます。きこえる子ならいちいち教えてもらわなくてもどこかで聞きかじって知っていることばですが、きこえない子は「どこかで聞きかじって」という学習(「偶発的学習」)ができないので、大人が意図的に知る機会を作らなければ知らないままいってしまうというとうことが起こるわけです。「果物」とか「野菜」といった上位概念を知らなければさらにその上位にある「農産物」ということばは知る由もなく、上位概念は上に行けば行くほど概念の抽象度も高くなるわけですから、下からの語彙・概念が順番に積みあがっていないと、抽象概念の意味は理解できません。「農産物」がわからなければ5年生で学ぶ「農業」の理解も難しいでしょう。またさらに、私たちは世界を知るために、あらゆる対象を「類」に切り分けて整理し、理解・記憶・対応しているという思考方法も困難ということになります。そしてその結果として起こるのが「9歳の壁」といわれる現象です。ですから、きこえない子は幼い時から、「仲間づくり」という活動を意図的に積み重ねる必要があります。そのひとつの取り組みが「ことば絵じてん」づくりですし、日々の生活の中での活動では、例えば、ごみの分別収集、洗濯物の取り入れや収納、使った玩具や絵本の片付け、靴箱の整理等々。さらに『ことばのネットワークづくり』などで、多種多様な「仲間づくり」の経験を積むのも一つの方法でしょう。

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そしてこの仲間づくり・分類といった思考が育っているかどうかは5歳以降で実施可能なWISCⅣの「言語理解」の下位検査「類似」という検査でみることができます。この検査は、例えば「りんごとバナナはどこが似ている・同じ?」という質問を子どもにすることで、子どもはこれらの二つのモノを頭の中に浮かべて比較し、それらの共通概念をことばで取り出せるかどうか(頭の中に自分の経験を離れてモノ・ことばを思い浮かべ、それらを比べて共通の概念(両方とも果物だとか食べ物だといった)を取り出して言えるかどうかをみる問題です。このような検査によって、自分との関連でことばを理解している「生活言語」の段階から、自分の経験から離れて客観的・一般的にことばを理解したり操作できる「学習言語」の段階へと足を踏み入れているかがわかります。もし、この問題がクリアできないのであれば、「仲間づくり」や「ことば絵じてん」づくりなどの活動を再度やり直す必要があります(*1


〇とある難聴学級での取り組み(2)

この難聴学級では先にも述べたように「体験学習」を通して実物に触れ、実感を伴い豊かな概念をもったことばの習得ができるよう子どもを支援・指導してきましたが、同時に、「分類・仲間づくり」という視点を重視してことばの指導に取り組んできました。その結果、子どもは、ことばはカテゴリーをもっていること、それらのことばがいくつも集まってさらに大きなカテゴリーを形成しそこに名前がつけられていることを理解できるようになっていきました。取り組んで3年目になる担任は、次のように語っています(2021.夏)。

1、2年生の時は、机上での勉強よりも体験活動に重きをおき体験前後に日記を書かせたり、語彙をカテゴリー化する活動を行いました。その時はピーマンやきゅうりが『野菜』ということも分からず、犬や猫が似た形態のものとの認識はあったようですが『動物』という言葉は出てきませんでした。しかし語彙をカテゴリー化することで言葉が少しずつ豊かになってきていると感じます。」(担任)

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そして、担任は小3年の夏(2021)にWISCⅣを実施しています。その時の「類似」の評価点は14/19IQ125相当・評価点10が同年齢児平均値)で、検査全体の中でも本児の最も得意な項目でした。これまでの取り組みによって分類や仲間づくりといった思考方法を身につけ、モノの共通概念を考えたり、上位・下位概念などカテゴリーの名称を身につけるなど、語彙と概念習得の力が著しく伸びたと確認できる数値と言えるでしょう。また、太田ステージの「保存の概念」と「包含の概念」も通過しており、こうした結果から、実際にものを動かさなくとも頭の中でモノのイメージを思い浮かべたり、記号や数字、ことばといった象徴を操作し、抽象的な思考が可能になる段階(「具体的操作期」,ピアジェ)まで伸びたということだと思われます。

 しかし、まだまだ聴児と比べると語彙数は少なく語彙習得に偏りもあると思われます。動詞テスト、形容詞テスト、助詞テストの得点はまだ十分とは言えず、添付した日記(上図)のように助詞の使い方の間違いや動詞や形容詞の活用の間違いもあります。教科書を自分の力で読めるためには語彙力や文法力は必須です。今後は文法指導も並行することで、正しく読み、書く力を伸ばしていくとよいと思われますし、まだまだ伸びると思います。


*1)(右上図)ある聾学校幼稚部では年長児に実施したWISC「類似」の評価点が全体的に厳しく

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「仲間づくり」や言葉のカテゴリーに課題があることがわかりました(Ⅰ期;H202433名)。そこで保護者にこうした課題を伝え、生活の中での「仲間づくり」や「ことば絵じてん」づくりに取り組んでもらいました。こうした活動を始めてから以降の年長児たち(Ⅱ期;H2529,45名)のWISC「類似」の平均評価点は、意識的に取り組んでこなかった以前の幼児たちの平均評価点と比べると差がみられ、「仲間づくり」や「ことば絵じてん」づくりの効果が、「類似」に反映

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していると思われました。また、こうした取り組みの結果はJcoss平均通過項目数の伸びにも表れ、語彙力の改善に役立っていることが確認されました。

(右下図)

また、ある聾学校幼稚部年長児6名の「類似」の平均評価点は8.6で聴児の平均をかなり下回っており、課題があることがわかりました。そこで、これらの幼児に、夏休みを利用して家庭で「ことばのネットワークづくり」(右下図・難聴支援教材研究会発行,1200円)に取り組んでもらいました。そ

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して、その2年後、子どもたちが小学部2年時に行ったWISCでは同じ子どもたちの「類似」の評価点は12.2で、聴児の平均を上回り、大きく伸びていることが確認できました。

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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