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乳幼児期・学童期

はじめに

9歳の壁(峠)」といわれる現象があります。これは、聴覚障害児の言語力・思考力が抽象的思考のレベルに達しない現象をさしていったも ので、1964年、当時東京教育大学附属聾学校の校長であった萩原浅五郎によって指摘された現象です。以来半世紀あまり、この現象は、なかなか乗り越えることができませんでした。9歳の壁1.jpg

このことは、右の澤隆史氏(2016)の調査からもその一端を知ることができます。この図はReadinng test(読書力検査、以下Rtと略す)という語彙力・文法力・読解力をみるテストでの「読書学年」を比べてみたものですが、1971年からほぼ10年ごとの2015年に至るまでの約半世紀、いずれの時代も小4以降は「読書学年」が小4どまりになっていることがわかります。聴こえない子の多くは小5小6になっても小4が超えられていない。小4というのは9歳ですから、そこから「9歳の壁が超えられない」と言われるようになったわけです。

 

1.「9歳の壁」は本当に超えられないのか?

9歳の壁2.jpgかし、この状況に変化があらわれてきました。ある公立聾学校(以下、B校とします。都道府県立の聾学校です)の乳幼児相談を修了した幼児の多くはそのまま幼稚部に進級し、さらに小学部へと進級します。その子どもたちの日本語習得状況をみてみましょう。上記の澤の調査のグラフに乳幼児相談を修了した子どもたち(乳幼児相談に1年以上通った28名)の小学部での読書学年の結果を書き加えてみます(2019年)。そうすると、どの学年においても該当の学年よりも高い「読み」の力という結果が出ました(28名の平均読書力偏差値55.3)。9歳の壁3.jpgつまり「読み」の力では「9歳の壁」は超えてるのです(この調査は2017年より行っていますがこの3年間結果は変わっていません)。この28人の児童について、読書学年が該当の学年と同じであれば「学年対応」(図表・黄緑色)、該当の学年より上回っていれば「上学年対応」(同・水色)、下回っていれば「下学年対応」(同・黄色)として分類してみると円グラフのような割合になります。また、それぞれの児童の読書力偏差値は円グラフ右下の表のとおりです。これをみると、ほぼ8割の子どもは年齢並みかそれ以上の読みの力をつけていることがわかります。

 

2.乳幼児相談で育つ力とは?

では、乳幼児相談修了児(乳相に1年以上通った子)とそうでない場合とでは、子どものReading testRt)結果に差があるのでしょうか? Rtは日本語の読み書きの力です群別偏差値.jpgから、乳幼児相談の経験の有無に関係なく、それぞれの子どもの幼稚部以降の日本語の習得過程の違いが大きな要因ではないかと思えるのですが、乳相修了児28名と幼稚部以降転入児24名(含乳相1年未満)や小学部以降転入児18名(含幼稚部1年未満)と比べてみると有意な差が出てきます(乳相修了群と幼稚部転入群間、乳相修了と小学部転入群間にはいずれも有意水準5%で差あり。二つの転入群の間には有意差なし)。つまり、幼稚部や小学部で同じ教育を受けていても、乳幼児相談を2、3年経験したかどうかによって子どもに身につく日本語力に差が出るということであり、それは、乳幼児期に受けた支援の違いが、幼児期から学童期にかけての日本語の習得に大きく影響していると考えられます。では、その要因は一体何なのでしょうか?


3.乳幼児相談ではどのような支援をしているのか?

 このB校乳幼児相談を経ることで来談した保護者は何を学び、子どもにどんな力を育て、その力がさらに日本語の習得に、そしてRtでの読みの力につながっていくのでしょうか? 

 もし他の多くの支援機関との違いがあるとしたら、それは、①聴覚障害という障害を否定的に考えないという点と、②発達早期から手話(口話併用手話を含む)を積極的に使うという点だろうと思います。言い換えると、手話を否定する聴覚口話法、Auditory vervalの立場とは正反対の立場という点でしょう。では、上記二つのことは、どのように子どもたちにたちに影響しているのでしょうか?

 

(1)二つの障害モデル

まず、前節3の①の聴覚障害についてのとらえ方・考え方について考えてみます。障害9歳の壁4.jpgのサムネール画像をどう考えるかということには、大きく分けて2つの異なった考え方があります。一つは「医学モデル」の考え方で、障害とは個人が所有している身体的な損傷・マイナスと考えます。そしてできる限りこのマイナスを少なくして少しでも健常(聴)者に近づけようとする考え方です。医療・療育機関の多くはこの立場ですし、初めて障害ある子を産み悲しみのどん底にある親御さんたちもこの考えに同意されるのではないでしょうか。そして、少しでも聴こえて話せるようになるためには極力手話を排除すべきという考え方が、医師等の専門スタッフによって奨励されるでしょう 


もう一つは、「社会モデル」の考え方で、障害は個人の側にあらかじめあるのではなく、個人が社会の中で生きていこうとするときに生じる困難さこそ障害(=障壁・Barrier)であると考えます。例えば、聴こえない人がバスに乗ったとき停留所のアナウンスだけではわからない。字幕表示があれば起きている障害(=障壁)は解消できます。つまり障害は社会の側の努力によってなくすことができます。ただ、字幕は日本語ですから日本語を聴こえない人が身につけるためには適切な教育が施されることが必要ですし、個人の努力に負う部分もあります。ですからどちらか一方の考え方だけで障害の問題すべてが解消できるわけではありません。


とはいえ、きこえない子の子育てがスタートするにあたって大事なのは、やはり子どもに周りが合わせるということでしょう。子どもにとっては聴覚障害があることも含めてまるごとそれが自分自身です。子ども本人にとってきこえないことはふつうのこと自然なことなのですから、それを否定されることは自分自身の存在を否定されることになってしまいます。また、子どもの人間形成にも影を落とすことがあると思います(例えば、河﨑佳子「きこえない子の心・ことば・家族」2004,明石書店、齋藤陽道「声めぐり」2018,晶文社を参照)。

 

(2)聴覚障害を否定しないことと手話を使うことの意味

生まれてきたわが子に障害があると分かった時、ほとんどの親は否定的な感情に襲われ、どうすればその状況から逃げられるかを考えます。しかし、きこえないわが子の現実は変わりません。たとえ人工内耳をしたとしても聴力ゼロデシベルのきこえる子にはなりません。障害からいかに遠ざかるか、きこえる世界にいかに近づけるかと息苦しくなるよりも、変わらぬきこえないという事実を事実として受けとめ、まず、子どもと通じ合える手段を身につけ、それによって子どもとと通じ合える喜びを分かち合うことを大切にしてほしいと思います。


①きこえないという「障害」を「身体的な差異」としてまず受けとめる。②そしてきこえる親ときこえない子がコミュニケーション(以下コミ)するためには、そこにある「障壁」をどのように取り除けるかを考える。③「耳がきこえない」子は「目で見る」子であり、「目で見る」言語とは手話なので、手話を使ってコミする。④子どもは手話でコミすることで、自分がきこえなくてもよいことを周りから認められていると実感していく。⑤やがて子どもは手話を「自分のことば」として、手話を使うきこえない自分を肯定する感情が育つ。これが自己肯定感であり、成長・発達の原動力になる。


昔から「三つ子の魂百まで」と言って3歳ころまでに子どもの人格形成の土台がかたちづくられると言われていますが、まさに乳幼児相談の時期がこの時期にあたります。子どものありのままを尊重していくことがその後のこどもの成長・発達を支えると考えると、障害を否定しないこと、手話を発達早期から使うことの大切さが理解できます。

 

(3)障害のとらえ方はどう変化していくか~当事者との出会いの大切さ

9歳の壁5.jpgのサムネール画像のサムネール画像では、実際に親はどのように子どもの障害を受けとめていくのでしょうか? それをB聾学校乳幼児相談の支援プログラムから考えてみたいと思います。

プログラムの中で特徴的なのは、まず「ロールプレイ」「難聴疑似体験」「マイノリティー体験」といった体験活動が組み込まれていることと、全体活動の中に成人聴覚障害者による「絵本の読み聞かせ」や「手話教室」などがあることでしょう。


①ロールプレイ

「ロールプレイ」とは、親役とかきこえない子ども役などの役割を決めて、模擬的にある場面での親子のかかわりを再現し、それを観客役にもみてもらい、その後、皆で感想を話し合います。こうした活動の中で気が付かなかったわが子とのかかわり方を実感をもって見直すことができます(セラピー的要素)。わが子とよいかかわりをもつこと、それは子どもが成長・発達していくためにとても大切なことです。


②難聴疑似体験・マイノリティー体験

「難聴疑似体験」は、ヘッドホンに雑音を再生して疑似難聴(軽度伝音難聴)状態をつくり、外出体験や集団コミ体験などを行います。わが子のきこえなさをある程度実感することができます。

「マイノリティー体験」は「お茶の間の孤独体験」とも言い、数人の手話話者の中に手話のできない聴者の親に入ってもらうという体験です。周りが手話で盛り上がるのに自分はそこに加われない疎外感を味わうことで、きこえる家族の会話に入れないきこえない子の寂しさを逆の立場で実感できます。このような体験を通して、家族皆で通じ合えるコミュニケーションの大切さやそこに必要な手話の役割について学ぶことができます。


③手話教室

「手話教室」は、成人聴覚障害者を講師として「入門」「初級」などに分かれて実施し、言語としての手話や子育てに必要な手話などを学びます。


④その他

年10数回設定されている「保護者講座」では聴覚障害という障害について学んだり、社会で活躍している成人聴覚障害者やきこえない子を育てた先輩保護者の体験談をきいたり、一緒に教材を作ったりします。

「グループ活動」では、成人聴覚障害者による絵本の読みきかせや各種行事、また同じ障害をもった子の親同士で触れあい、情報交換をしあったりします。こうした自由な雰囲気の中で、前を向くことができるようになっていきます。また「個別相談」の時間では、子どもとのかかわり方や悩みを担当の先生に相談したり実際に関わる場面をみてもらいアドバイスをもらったり、育児記録へのコメントをもらったりします。

このような活動を通して変わっていく保護者自身の変化を、アンケート調査(2017)の中からいくつか拾ってみたいと思います。

 

★A児(5か月)母(初回来談より2か月後)

「はじめは『きこえる人に近づけることが大事』と思い、それができないと苦しかったが、聾の人からきこえないということはどういうことなのかを教えてもらい、理解できた。それから子どもとのかかわり方が変わった。」


B児(5か月)母(初回来談より2か月後)

「以前は障害のことが気になって、子どもとの一日一日の成長を楽しめなかった。今は、少しの成長をも感じるととてもうれしいし、一日一日がとても楽しい。」


C児(10か月)母(初回来談より4か月後)

「これまで障害者手帳をもっていること、手話を外でやることが恥ずかしいと思っていた。でも、聾の人の話をきいて気持ちが変わった。きこえないから他の感覚を使っていると聞き、ジーンときた。この子のおかげできこえない世界との接点をもつことができた。きこえない人は皆明るくて誇りをもっていることがわかった。」

 

このようにどの保護者も最初は聴覚障害に対して否定的ですが、成人聴覚障害者と出会い、聴覚障害が決して恥ずべき障害ではないと知り、気持ちを切り替えることができています。そして、そこからきこえないわが子への見方が変わり、子育ての楽しさが増したと語っています。この障害観の変化とわが子との関わりの変化こそ子育てのスタートにあたってまず最初に大切なことだと思います。きこえない子との関わりが楽しく感じられること、子どもといる毎日に幸せを実感できること、それが子どもの心理的な成長を促し、ことばの土台を形成しているのだろうと思います。

以下、子どもとの日々を楽しく過ごしている親子のかかわりを育児記録から引用してみたいと思います。


D児(6か月)「手話」

Dに母乳をあげていたら、目が合ってきゃは!きゃはは!と笑ってくれた。ニコニコニコニコしている。うれしくなって「Dちゃん、ママは手話習っているのよ。学校行ってるよ。楽しいよ。がんばるよ。」と知っている単語は手話で話しかけた。そうしたら、いつもは割とそっぽ向いていてむなしく手話が空を舞っているのに、この時はじーーっと手の動きを見ていてくれてやりがいを感じた。


☆E児(7カ月)「でんきパッチンあそび」

夫がEちゃんを電気のスイッチの横で抱っこする。私が照明の下にいる。「Eちゃん、電気ピカー!やって」(すべてサイン付き)と言う。夫とEちゃんでスイッチを押す。明るくなって「わぁー!電気ピカーだね!!」「電気パチンは?」ともう一度言う。夫の手とEちゃんの手でスイッチを切る。「電気パチンだ。」この遊びを10回位すると、電気ピカー、パチンのかけ声にあわせて、スイッチを見るようになった。

 

F児(10か月)「綱引き・お馬・本をビリビリ」

私のスカートのベルト布をひっぱる。伸びる生地なので、面白いらしい。私もベルト布をスカートからはずし、Fにあげてから引っ張りっこする。わざと引っ張られてみたりする。背中に乗りたがる。背に手をついているので、私がそのまま進むと少し歩く。たまにこの体勢のままで振り向いて、「Fちゃん!」と言うと、「キャッ、キャッ」と喜ぶ。雑誌を本棚より引っ張り出してはビリビリ破り、なめて振り回す。「あーら、出しちゃったねえ。だめよ。」と言うが、おかまいなしなので、私もいっしょにビリビリ、ペロペロとなめてみる。

 

G児(10か月)「バナナ」

いつもは絵本のバナナの絵と実物を見せて「バナナ」の手話をしてからバナナを食べる。しかし、今日は何もないところから手話だけで「バナナ」をしてみたら、じーっとかたまって何やら考えている。そこで実物のバナナを冷蔵庫から出すと少しニヤリ。M「じゃじゃーん、これだよ!」と実物を見せると大喜び。触ったり、皮ごとかんでいる。食べる前に絵本と実物を何度も見比べる。そして「甘いね」「黄色いね」「バナナだよ」などと話しかけながら一緒に食べた。

 

☆H児(11か月)「踏切」

踏切で踏切の写真カードを取り出す。M「同じだね。踏切だね」と言うと実物と写真カードを何度も見比べる。遮断機のランプが点滅してバーが降り、電車が通るといちいち電車を指さす。通り過ぎると「バイバイ」とやる。バーが上がりM「高いね」とやると一緒に真似る。帰るとき抱っこの身を乗り出して遠ざかる踏切を見ている。家に帰ると、自分で踏切の写真を取り出し「踏切」の手話をする。

 

I児(1歳2か月)「買い物と手話と写真カード」 

午後からスーパーへ買い物に行く。家を出る前に「○○ストアへ買い物だよ。」とスーパーの写真を見せながら手話をやり、着くと「○○に着いたよ。○○だよ。」とやると、Cは写真を指さし、「ア!」。次に店の看板を指差し「ア!」と言う。「そうね。同じ。同じね。○○だね。」と言い、ストアへ入る。

 

☆J児(13か月)「テディーベア」

いつも通る花屋さんの前で、窓辺に飾ってある熊の人形を満面の笑顔で見ている。熊の手話をするのが日課だが、おばあちゃんと一緒の今日は、散歩中ずっとおばあちゃんに話しかけている。水がない噴水から、池の鯉、電車・・とよくしゃべる。

テディーベアのコーナーの数十メートル前から、「熊」の手話をしてやたらに高いところから振り下ろす。「あそこにテディーベアの熊があるんだよね」と言うと、笑顔いっぱいでおばあちゃんの手を引っ張り、花屋まで連れて行き、「ばあちゃん、あそこ(指さし)、テディーベア(熊の手話)、ある(高いところから両手を振り下ろす手話)」と話す。

 

☆K児(14か月)「二語文」

「ほしい」をよく使う。13か月の時はじめは「風呂」限定だったが、次の日には別のものでも使うようになった。

・「ほしい、~したい」(手伝ってほしい、寝たい、待ってほしい、座りたい等) 

・「あれpt+ほしい」(あれをとってほしい)

・「あっちpt+ねこ+ほしい」(あの猫を連れてきて)

・「あれpt+ジュース+ほしい」(あのジュース飲みたい)   pt・・指さし

 

L児(16か月)「順番」

今日は公園で遊んだ。友達のバイクを見て「ちょうだい」(代わってという意味)と友達に手話した。私は「Lちゃんも乗りたいんだね。でも待ってる友達いるね。順番だよ」「〇ちゃんが先だよ。順番だよ」と言うと、手話で、L「順番、順番」と繰り返しながら待つことができた。

 家に帰り、公園で撮った写真を見ながら会話した。M「お砂場だね。砂だよ」L「砂」。M「そう砂だね。」 M「ブランコしたね。楽しかったね」L「楽しい」。M「Fちゃんが滑り台の階段のぼっているね」など。その都度、Lも写真を指さしたり手話をまねたりする。

 

☆M児(19か月)「商店街」

グループの帰り、商店街を寄り道しながらMと歩いた。薬局のカエルの置物をいい子いい子。お店の方に手を振る。ソフトクリームの置物をみて「アイス」(手話)。M「ここは車が来て危ないからこっちを歩こう」と言うと、後ろを振り返って「車」の手話。水たまりを見たり、開店準備のお店をじ~っと見たり、そして、閉まっているシャッターを見て、「赤」の手話。M「ほんと赤だね」と返すと、お店の看板や洋服など、「赤、赤」とサインしながら歩いた。」

 

N児(1歳9か月)「伝え合う」

このところ、Nの生き生きとした動きに感動いっぱいの我が家です。1歳になる頃、Nの口をトントンたたくと自分で「あー」と声を出し、「あーわーわー」と聞こえるのか、何度も同じ遊びをやらされていました。今日、久しぶりに私や長男、遊びに来ているおばあちゃんがそれぞれの口をトントンたたく姿を見て、Nも自分の手で口をたたきながら、「あーわーわー」と繰り返していました。人の様子をじっと見ている姿には感動しました。赤ちゃんのような時間が長く、周りの一歳児はどんどん歩き始め、サインを見せてくれています。ゆっくりでもいいので、いつの日か、サインを含めたコミュニケーションができたらいいなと思います。

 

☆O児(111か月)「カレーづくり」

しまじろうの本にカレーを作ろうという頁があって、おもちゃの包丁で材料を切って、なべに入れてお玉でぐるぐるかき混ぜて、カレーをお皿に盛り付けて(シールを貼る)遊ぶのがあるのですが、それをOが楽しそうに遊んでいたので、今日はカレーを一緒に作ってみることにしました。玉ねぎ、人参、ジャガイモ、お肉。絵本とカード、本物と見比べながら、切ったり鍋に入れたりしてみました。(ここまでは私がやりました。)お玉でぐるぐるかき混ぜるのをOにやってもらいました。Oが自分で食べるサラダ(和え物)はママが調味料を入れた後にかき混ぜて、お皿に盛り付けまでをやってもらいました。いつもは野菜の食が進まないのですが、自分で作ったものは特別だったようで、ペロリと完食!「おいしいねー」と何度も言っていました。

 

☆P児(21か月)「生ごみ」

 生ごみを白いビニール袋に入れて縛っているとPがやってきて、「サンタさん」と手話。M「ん? あ、これね」と言ってひょいとかついで歩くと、「サンタさん、サンタさん」と言って大喜び。そこでM「この中にプレゼントあるかなあ?見てみる?」「ウン」M「はい、どうぞ」と開けると、「ゴミ!」と手話して大笑い。M「プレゼントないね。ゴミだったね」。P「もう一回」。そこでまたかついでM「はい、開けるよ」「ゴミ!」M「やっぱりゴミだね」と二人で大笑いする。そのあと一緒にゴミを出しに行った。

 

  以上、どの事例からも手話を使って親子・家族で楽しく会話している様子が伝わってきます。そして、1歳頃から獲得され始めた手話は、さらに文へと発展していく中で、語の意味や使い方が広がり、ものごとの概念や思考の力の獲得へと発展し、さまざまな知識として身につけていく様子がわかります。1歳頃から始まるきこえない子の手話の獲得が、きこえる子の音声言語の獲得過程と変わらないことが、これらの事例からもよくわかります。この手話でのことばの力が日本語へと変わっていくのは、もう少し後の2歳半から3歳代まで待たねばなりません。そのことについてはまた別に書きたいと思います。

 

 

【参考】

*以下は、内田伸子氏らの研究からの引用です。聴児を対象とした調査(20113000名対象)の中で、子どもの語彙力や国語学力は、親子関係のあり方によって伸びが違ってくるということを立証し、以下のような関わり方を大切にした「共有型の育児」を提唱しています。このことは、障害の有無にかかわらず、「子どもの心を尊重する」「楽しいことがたくさんある家庭」で育つ子どもこそ、ことばの力も伸びるということの証明なのだと思います。そしてB聾学校の乳幼児相談もまさにそのことを追求してきたのだということです。その結果がこの記事の最初に提示したReading testの結果なのだと思います。


① 親子の間に対等な人間関係をつくること

② 親は子どもの安全基地になること

③ 子どもに「勝ち負けのことば」を使わない

④ 子どものことばや行動を共感的に受け止め、受け入れる

⑤ 他児と比べず、その子自身が以前より進歩したときに承認し、ほめる

⑥ 裁判官のように禁止や命令ではなく、「~したら」と提案の形で対案を述べる

⑦ 教師のように完璧な・詳細な・隙のない、説明や定義を述べ立てない

⑧ 子ども自身に考える余地を残す働きかけをすること

⑨  親は「待つ」「みきわめる」「急がない」「急がせない」で子どもがつまずいたときに支え、足場をかけ、子どもが一歩踏み出せるよう脇から援ける

⑩ 子どもと共に暮らす幸せを味わおう


他者との良好な人間関係を築くためには、「Aさんは、私がこう言えばどう思うだろうか? それならどういう言い方が適切だろうか?」といった、他者の気持を読み取り、自分の言動を調整する力が求められます。すなわち、他者の心を想像する力が必要であると思います。きこえない子は、この「他者の思い」を想像する力に弱さがあり、またそれに加えて、語彙力や文法力にも弱さがあったりするために、中・高生あるいは成人間でのメールでのやりとりでしばしば誤解を生じ、そこから大きなトラブルに発展したりすることがあります。そこでここでは、「他者の心を想像する力」を伸ばすために、幼児期からどのようなことに取り組んでいけばよいのか考えてみたいと思います。

 

○聴覚障害児の「心の理論」課題

ミニカーはどこ?2.jpg聴覚障害児は、他者の心を想像する力の発達が遅れる傾向にあることがこれまでに指摘されてきました。例えば、藤野(*1)は、年中から小六までの聴覚障害児(638名)に「サリーとアン課題」において、その正答率は、年中児及び年長児で約2割、小1年3割、小2年4割、小3年6割、小4年8割という結果であったとしています。そして、これらと言語的・非言語能力とを比較した結果、「文の産出」に関わる力と「語彙の理解」に関わる力が関係していたと述べています。

確かに、聴覚障害児は、何か(人・もの・こと)と何か(人・もの・こと)との関係を考えるといった関係理解に弱さがあり、そのことは「位置関係表現」「比較表現」「受動・能動文」「使役文」「授受文」といった文の理解・表出の困難さにあらわれてきます。そしてその困難さは、動詞の活用と格助詞の変化といった文法知識の弱さだけでなく、今、どちらについて言及しているのかといった二者の関係性の理解の弱さにも起因していると思われます。基本的な関係概念(大小・長短・軽重・位置関係・因果関係など)は習得していても、まだ自分の経験や直観に頼っており、自分中心(自分勝手とかわがままという意味ではありません)の思考で、自分以外の他者の視点から考えることに弱さがあるのです。

そこで、こうした「他者の視点に立って考える」力は、聴覚障害児においてはどのように形成され、またその力を伸ばすためにはどのような取り組みをしていく必要があるのか考えるために、この2~3年、以下のような課題を年長児さんたちにやってもらい、実態を把握してきました。「ミニカーはどこ?」というテーマの調査ですが、これは「サリーとアン課題」を「アンパンマンとバイキンマン課題」に変えて行ったものです。

 

○「ミニカーはどこ?」

 この課題の内容は以下の通りです。

ミニカーはどこ?.jpg①アンパンマンは、ミニカーで遊んだ後、水玉箱にしまい、遊びに行く。

②アンパンマンが遊びに行っている間に、バイキンマンが来てミニカーを取り出して遊び、その後、無地箱に入れて去っていく。

③バイキンマンが去った後、アンパンマンが遊びから帰ってきて、しまっておいたミニカーを取り出そうとする。

④その時、アンパンマンは、水玉箱と無知箱のどちらを開けると思うか?

 

この課題の正解は水玉箱です。アンパンマンはバイキンマンが無地箱に移したことを知りませんから、アンパンマンは、ミニカーは水玉箱にあると思っているからです。

物理的な事実としてはミニカーは無地箱ですが、アンパンマンにとっての心理的な事実は「ミニカーは水玉箱にある」わけです。

この問題は、物理的事実と心理的事実が食い違うよう場面が設定され、物理的事実によってではなく、登場人物にとっての"心理的事実"によって物事を判断しないと正解できません。つまり、アンパンマンの視点に立って物事を考えることが求められるわけです。これを「心の理論」課題と言っていますが、武藤(1997)が聴児を対象にやった調査では5歳代で56%の正答率でした。

 

○聾学校年長児は?

そこで、木島は、発達早期から手話を使っている聾学校3校の年長児(2017~19年・59)を対象にこの課題を実施したところ、正答率37%(平均年齢5歳10か月)という結果が得られました(2017年には年中児にも行っており、添付した図にはその結果も併せて示した)。

この結果は聴児と比較すると正答率はやや低いですが、藤野が報告している聴覚障害児対象の調査結果(年長児正答率23%)よりは高いという結果となりました。 

この結果をどう解釈すればよいのか実はまだよくわかりません。ただ、この結果から私たちは、きこえない子の対人関係の課題を知り、その課題を克服するために、どのようにかかわっていけばよいかを考えることができます。

 

○どんなかかわりが大切か?

 他者の心を想像するためにまずどんなことが大切でしょうか?

他者の心が想像できるということは、その前にまず、自分のこと・自分の気持がわかるということが大切ではないでしょうか? そのためには、手話であれ日本語であれ、自分の思い 自分を好きになれない学生達.jpgを「ことばにできる(言語化)」ということが必要です。そして、さらにそのためには、大人が子どもの心・言いたいことに共感し、子ども自身が自分の気持を言語化できるよう、その手伝いをすることがまず必要ではないかと思います(「とっても嫌だったんだね」「もっと~したかったね」など)。きこえない子は、自分が自分であることより先に、まず聴者に合せることが幼い頃より求められることが多いように思います(少しでも聞こえて話せるようになってほしいなど)。そのことが続くと、自分の本当の気持を言語化する力が育たず、思春期・青年期の「自分さがし」の時期に、様々な心理的不適応になってあらわれてくることがあります。いずれも根底には、自分の気持・心・要求等がうまく言語化できない苦しさがあるように思います(右ファイル参照)。

 

 次に、自分の思いが言語化できる力が育っていけば、自分の気持と周りの人の気持と比べた ミニカーはどこ?3.jpgり、自分とは違う人の考えを想像してみたりすることができるようになってきます。

「あなたは、そう思ったんだね。なるほどわかるよ。でも、ママはこう思ったよ」「次の3つのうち、あなたの気持はどれ?」「Aちゃんはどう思ったのかなあ?」「もし、〇〇だったら、みんなはどう言うかな?」など、思考を深めたりことばを取り出してことばについて考える「メタ言語意識」や、自分のことや人の心について想像してみる「メタ認知」的な視点を育てることが大切ではないかと思われます。

 

 このことは、年長児59名(平均年齢5歳10か月)に対して同時に行ったWISC Ⅳ検査で、 正答群誤答群比較.jpg正答した幼児群(22)と誤答した幼児群(37名)とのあいだに、「類似」「単語」「理解」(以上『言語理解』)、「絵の概念」(『知覚推理』)の4つの下位検査に1%有意水準で差があり、「算数」(『ワーキングメモリー』)で5%有意水準で差があったことから、手話・日本語を問わず「ことば」で思考し推論できる力が関わっていることが予想されます。例えばAとBとを比べてその共通の概念が言えるとか、Aとはどういうもの・ことか言葉で説明できるとか、Cという出来事にどう対処すればよいか説明できるとか、X個あったものからY個とったら数はどう変わるかといったことを頭の中でイメージできるなど、ことばや記号を使った思考が、自分の頭の中で柔軟にできるかどうかの差ではないかということです。他者の心・思いについて想像することが、他者の思いの言語化(アンパンマンはミニカーが○○にあると思っている)であると考えると、このような、頭の中にものやできごとを自由に思い浮かべ、そのことについて考えられる力と関係していると考えることもできます。

  ミニカーはどこ?4pptx.jpg

 いずれにせよ、他者の心を想像する力を育てるためには、子ども本人の心の言語化や互いに思いを自由に伝えられることば(コミュニケーション手段)があり、そのことばを使ってやりとりできること、ものごとの関係を考える力を伸ばすこと、自分以外の視点から考えたり、他者の気持を想像する力を様々な機会を通じて伸ばすことが大切ではないかと思います。そのための会話の工夫はとりわけ大切です。例えば家族の会話は、聞こえない子にもいつも見えているでしょうか?自分が見てもわからない会話に子どもは関心の寄せようがありません。つまり他者の思いにだんだんと無頓着になっていくのは当然で、聴覚障害児が他者の心の理解に遅れをきたす要因のひとつではないかとも思います。そのほか、絵本の読み聞かせや再現あそび、ごっこ遊びでの役割演技、郵便ごっこやお誕生カードなどで相手を想像して書く練習など、さまざまな機会をとらえて、他者の心を想像したり、他者になりきってみたり、自分とは別の視点から考えてみたりなど、自分中心の思考を拡げていく機会をもっていくとよいのではないかと思います。

 

*1「聴覚障害児における心の理論と言語発達の関係」『聴覚障害児の日本語言語発達のために』,2012

〇音声だけで音韻の区別はできない

日本語は「あいうえお・・・」という50音、濁音・半濁音・拗音を含むと約100の音韻(音節)によって成り立っています。そしてこれらの音韻を順に並べて単語を作ります。例えば「ばす」という語は、「ば」と「す」という二つの音韻で作られていることになります。また、さらに、これらの単語を文法規則に従って順に並べていくことで文を作り、言いたいことを伝えます。例えば「ば・す・に・の・る・よ」と6つの音韻を並べて自分が「バスに乗る」ことを表現しているわけです。きこえる子は、音韻の区別は耳で聞いて100%できますから、毎日の生活の中でその音韻の並びを繰り返し聞くことで意味を理解し、日本語の文法を獲得していきます。ところが、きこえない子はそうはいきません。防音室での聞き取りが100%近くできたとしても日常生活の場ではそうはいきません。きこえる子は暗闇や後ろから声をかけられても、また周りに多少の騒音があっても特定の人の声を聞き取れたりしますが、「感音難聴」のきこえない子は、常に曖昧さを伴ってことばを聞いているので、語を記憶すること自体が困難で(例えばアラビア語を知らない人が何度きいても単語や文を覚えられないのと同じです)なかなか語自体も蓄積されていきません。

音韻意識の芽生える時期.jpgでは、語を確実に記憶していくためには何が必要なのでしょうか? それは100%音韻を視覚的に区別する記号すなわち文字・指文字です。きこえない子にとって日本語の音韻をいつでもどこでも100%区別できる記号はそれ以外にはあり得ないのです。問題は、その文字や指文字での音韻を子どもがいつ頃から意識できるようになるのかということです。聴児を対象としたこれまでの研究では4歳を過ぎてからというのが定説です(天野2005)が、手話や指文字を使っているきこえない子の場合は、さらに1年は早く、だいたい3歳を過ぎたあたりです。(右上事例参照)

 

〇おぼえるのが苦手な子たち

  このあたり(3歳頃)から文字や指文字を意識できるようになり、徐々に日本語の語彙を獲得していきます。もちろんそれには個人差があり、教育開始時期や聴力等によって差があります。きこえない子の8割位はとくに大きな問題はないのですが、2割くらいに、なかなか日本語を覚えられない子たちがいます。

 この子たちは、ほおうっておくと、覚えられないことがそのまま続いていってしまうので、小学生になる頃には他の子と語彙力で差がつき、日本語に対する苦手意識が強くなってだんだんと自信を失いがちになります。こうなってしまうとそこから這い上がることが難しくなってしまうので、日本語を覚え始めるスタートの時期から、丁寧に時間をかけて関わっていくことが必要です。

  数唱検査.jpgでは、どうやって、音韻を覚える力があるかないかをみるのかということですが、例えばWISC5歳以上適用可)という検査の中に「数唱」という検査があります。例えば「同じに言ってね。2・1・3。はいどうぞ」(検査者)⇒「2,1、・・」(子ども)(順唱)とか、「今度は反対に言ってね。2・1・3。はい、どうぞ」「えーと、3、1・・」(逆唱)といった検査です。順唱の場合は、単純に今言われたことを繰り返す検査です。今覚えたことをちょっとの間記憶しておき、それをどの程度再生できるかをみています。これを「言語的短期記憶」といいます。通常、年長児(聴児)ですとだいた3~4個の数字を覚えていて再生することができます。一方、「逆唱」は、あとで言われた数字のほうから逆に再生しなければならないので、頭の中で数字(記号)を操作しなければなりません。ですからこちらのほうが難しい課題で、年長児ですとだいたい2個か3個くらい言えれば普通です。こちらは頭の中で記号を操作する「中央実行系」という機能が働いていると言われています。そしてこの「中央実行系」という機能は、記号の操作だけでなく注意のコントロールも担当していると言われています。ですからこの中央実行系の機能が弱いと、ことばを覚えたり、ことばを頭の中に思い浮かべて操作したり、注意集中ができにくいなどのことが生じたりします。きこえない子の検査をしていると、ここに弱さをもっているのではと思える子どもが2割くらいはいるように思います。せいぜい2音節から3音節のことばなら覚えられるけれど、それ以上の長い音節のことばはなかなか覚えられないというタイプの子たちです。また、問題を出すと最後まで見ていられなくて、途中で答えを探し始めるといったタイプの子もいます。このような記憶の苦手なタイプの子にはどうすればよいのでしょうか?

 

〇日々の生活の中での工夫

 

特効薬はないのですが、やはり子どもが楽しめるようなあそびの中で、その子に「できる」ことから増やしていくことだと思います。例えば生活の中でなら「今日は何を食べたい? カレーがいいの? じゃあ、スーパーに玉ねぎとじゃがいもと豚肉を買いに行こう。ママは忘れてしまうかもしれないから覚えていてね。」などと言いつつ一緒に買い物に出掛けるとか、「冷蔵庫見てきて。卵いくつある? じゃあ、そこから2個持って来て」と頼み、持ってきたら「冷蔵庫に卵いくつ残ってる?」と尋ねるとか、「パパにお風呂沸かしてと言ってきて。それからお兄ちゃんには宿題終わったかきいてきて。」な複数の用事を頼むとか、"覚えておく練習"を積むなどができるでしょう。

また、さまざまなことばあそびや絵・文字カードを使ったあそびを親子・家族で楽しむこともできるでしょう。例えば、「一文字かるた」。一文字であればいくら覚えるのが苦手な子でも大丈夫。そこから「二文字かるた」「三文字かるた」などに発展させていくこともできます。

それから「すごろく」をするときに、数字の目のかわりに、1なら「め」、2なら「あし」、3なら「あたま」、4なら「つまさき」、5なら「ふくらはぎ」などと絵と文字を入れるなども面白いでしょう。

 

〇音韻意識を身につけるために

日本語の音韻意識を身につけるためには、いくつかのことができなければなりません。

手話と日本語の違いがわかる.jpg1つ目は、手話と日本語のメタ言語意識がもてること。手話と日本語の違いがわかり、互いに翻訳可能であること。子どもは「バス」という手話を1歳代から自然獲得しますが、その手話が「日本語」という別の言語で表わせることがわかり始めるのは、先にも書いたようにだいたい3歳頃からです。この気づきを促すためには日本語でのしりとりだけでなく、手話でのしりとりをしたり、お風呂に指文字パウチ版を貼って風呂から上がる前に、「アは遊ぶ(手話)、イは行く(手話)」などと五十音を唱えながら、手話と日本語をするなどもよいでしょう。 ②音韻抽出.jpg

 

2つ目は、音韻抽出ができること。「あのつくことばあつめ」とか「最後にあがつくことばあつめ」とか、また、日本語の「しりとり」などもこの音韻抽出のあそびです。

 

3つ目は、音韻分解ができること。子どもの頃にやったじゃんけんをしてグーなら「ぐりこ」、パーなら「パイナップル」と歩を進 音韻分解.jpgめたあそびも語を音韻数に分解するあそびです。

 

4つ目に、音韻操作ができること。「数唱」検査の「逆唱」はこれです。この種のあそびには「さかさことば」などがあります。また、音韻を使った「なぞなぞ」は少しレベルが高いですができるようになるとよいと思います。

 

音韻操作.jpg 音韻タイプのなぞなぞ.jpgこのように、子どものレベルに合わせて楽しいあそびを考えることがいちばん子どもの覚える力を伸ばします。面白いことであれば子どもは興味を持ちますし、興味のあることは覚えるからです。ぜひたくさんみんなで楽しめる遊びを考えてみてほしいと思います。

 

 私は都会に住んでいて都会の聾学校に行く機会も多いですが、地方の聾学校に行く機会も年間、何回かあります。どちらに行っても最近増えてきたなあと感じるのが共働き家庭。聾学校幼稚部に通いつつ保育園も併用している子どももいますし、下校時に合せてデイケアから迎えが来て、夕方、親はそちらに迎えに行くという子たちも多いです。なかには聾学校の校舎を借りてデイが開設されている久留米聴覚特別支援学校のようなところもあります。ここでは、子供たちは同障・異年齢集団の中で放課後を楽しく過ごしています。放課後保障も進化しているのですね。かつて聴覚口話法の時代は、母親に仕事をやめて聾学校に付き添うよう求め、下校後も一緒に過ごして「ことばを入れる」ことを求めてきましたが、今は、そのような学校は少ないかもしれません。シングル家庭なども含め生活の厳しい家庭もあるでしょうし、企業で活躍されている方もおられます。

 

 ただ、かつての聾学校が母親に付き添いを求めてきたのはそれなりに理由があるのも確かです。両親が就労することによって時間的に親子で生活を共にする時間や会話の時間が減少し(兄弟が多いとなおさら)、そのことによって言語とくに日本語習得が疎かになることへの危惧です。結局は、聴覚障害が言語・コミュニケーションの障害であり、口話・手話に限らず、家庭でのルーチンな会話だけでは、「日本語」習得の問題がどうしても残ってしまうという問題です。そこが聴児とは違うところです。

 

〇二人の大学生の体験談より

 では、どうやってその問題は解決できるでしょうか? 私が担当している、ある国立大学の授業には二人の聴覚障害学生がいます。二人とも100dB以上で補聴器装用ですが、そのうちの一人A君は私立の名門の大学からの聴講生で、特別支援教育免許の取得のために来ています。もう一人のB君は今年、聾学校から大学に入った1年生です。

 先日、この二人にこれまで自分がどのように育ってきたのかという体験談を語ってもらい、そこから「聴覚障害とはどういう障害なのか?」について皆で考えるという授業を2時間行いました。その中でのテーマの一つが、「幼少期にどのように日本語を獲得したのか?」ということでした。

 

A君は地方の療育施設に時々通いながら保育園通園。そして小学校から普通校に通い、中学でいじめにあい、高校は聾学校です。そこから大学に進学しました。

一方、B君は、聾学校乳幼児相談から幼稚部へと進みそのままずっと聾学校です。ただ、幼稚部は厳しい口話法だったそうです。

この二人に共通点が二つあって、一つは当時は聴覚口話法の時代でしたが、家庭では手話を使っていたということです。もう一つの共通点は共働き家庭だということです。それでどうやって日本語を身につけたのでしょうか?

 

A君はお母さんが公務員。彼が語った幼児期の記憶は以下のようなことでした。

・指文字は年長になる前に全部覚えた。

・手話は、毎週15個の単語を日本語と結びつけて覚えた。

・母が毎日、絵日記を書いてそれを見て言語化して話しながら手話で表現していた。

話し終わった後に文章の主語、接続詞、助詞など教えてもらい、内容について質問されてそれに答えるという学習を毎日やった。

・文章の書き方を学ぶため、毎週1週間の出来事を自分で日記に書いた。

こうしたことを毎日積み重ねることで文章力や論理的思考力の土台を作るのに重要な役割を果たしたと思うとも語ってくれました。

  

では、毎日、どのくらいの時間やっていたのかと質問したら、夕食後にだいたい1時間半くらいはやったということでした。特徴的なのは、①手話・指文字も文字も音声も全部使ったということがあげられます。これは、ことばを覚えるための方略としては大事なことです(多重符号化)。ことばを覚える手掛かりが曖昧な音声だけでは覚えられないからです。また、語彙を増やすという活動を手話と日本語でやっています。毎週15語ということは1年間では800語。馬鹿にならない数です。また二つの言語を使うということは、学習言語につなげるためのメタ言語意識を高めることにも役立ちます。また、②絵日記という文字による言語化を中心に学習していることです。しかも、内容は主述関係や助詞、接続詞といった文法指導と書かれた文章読解の指導。ちゃんと文を読むための基本の力を幼児期から育てていたことになります。③さらに自分で作文する練習です。「まるで学校」と思われた方もいらっしゃるでしょう。では、「保育園ではどうしていたのか?」「まだ聞こえていないことを意識することもなくとにかく遊ぶのがただただ楽しかった」と。昼は保育園で元気に遊び、夜はお母さんと「言語指導」の日々。それにとくに反発を感じることもなく、本人にとってはそれがふつうの生活だったようです。

 

B君はどうでしょう? 

・聾学校幼稚部と保育園に並行して通園。また療育機関にも時々通い、発音指導や言語指導を受けていた。

・家族や自分の行動を写真にとり、カードを使って文を覚えた。

・日本語の文法を覚えるために助詞に丸を付けてひとつずつ役割を確認して覚えた。

 ・毎日、絵日記をお母さんと一緒に書いて、内容のやりとりや助詞などの使い方を学んだ。

 「では、B君は、毎日、どのくらいお母さんと一緒にそうした時間を過ごしたのか?」という質問には、やはり夕食後の2時間くらいとの返答でした。そして、その時間がとても楽しかったと応えてくれました。本人にとってはその日の出来事をきいてくれる時間、一緒に考えてくれる時間、絵本を読んでくれる楽しい時間だったようです。また、家族で手話を覚え、お父さんは、B君が地域の野球チームに入ったとき、一緒に手話通訳兼コーチとしてチームに入ったそうです。家族皆で協力し合ってB君を育てたことが伝わってくるエピソードでした。

 

二人の体験談から、大事だと思ったことです。

①共働きであっても家族で協力し合って(協力がないと難しい)、日々親子で関わる時間を確保し(1時間は必要かと思いますが、できなければ15分でも。それを習慣化することが大事かと)、そこでやりとりし、日本語を身につける時間がもてていることでしょうか。

 

②次に子どもが苦痛を感じていないことも大事でしょう。親子関係が安定していないと子どももなかなかいうことをきいてくれませんし、いやいややっていることは身につきません。そのためには大人の側の創意工夫や子どもを楽しませる演技力も必要かもしれません。そして、

③それが継続されること(両君とも小学校低学年くらいまで継続)。ここが一番難しいかもしれません。「石の上にも三年」と言いますが、そのくらいの時間が必要なのかもしれませんが、前回のSちゃんの事例は1年間でかなりの成果が上がっています。他児の例などからも1年あればかなり違うのは確かでしょう。

 

これからの時代、AIがますます進化してくることや外国からの労働力が導入されることなども考えると、いまある聴覚障害者の仕事(例えば自動車生産工場のラインの仕事など)もいつまでもあると考えない方がよいかもしれません。では、その時に必要なことはなんでしょうか? 人間関係に上手に対応できる対人関係能力(そのための障害認識)、そして読み書きのできる日本語の力、論理的にしっかりと考えられる思考力でしょうか。その土台をつくる時期はやはり幼児期なのだと思います。

〇「ばけつ」を知らない子どもたち...?!

きこえない年長児に4つの絵を見せ、日本語での名前をきいてみます。(右図①~④)

①から③までは、ほとんどの子が名前を知っています。それぞれどれも子どもには身近なもので、しばしば会話や話題になることも多いからでしょう。

これ何か知ってる?.jpgところが④は半分以上の子が知らないのです(知らない子の答えで多いのは「はこ」「かご」など)。きこえる子なら年長になって「ばけつ」を知らない子はおそらくほとんどいないでしょう。きこえる子は、ばけつをしばしば見たり使っているけれど、きこえない子はあまりばけつを見る機会や使う機会がないからでしょうか? そうではないと思います。子どもが使うかどうかは別にして、どの家にもばけつはあるでしょうし、第一、幼稚園や保育園や聾学校に行っている子であれば、園庭の砂場でいつも使っているはずです。日常的に使っているのに知らないのは、きこえる子は、たとえ園庭の砂場でばけつを自分が使っていなくとも、隣の子が別の子に「ばけつ持ってきてよ!」と言っているのが聞こえる。きこえない子は自分に言われたことばでなければわからない。この差なのです。こういうことはばけつに限らず日々生じていることでしょうから、ほかにも、聴児は当たり前に知っているのにきこえない子は知らない、ということばが沢山あるだろうということです。この入力の差が語彙力の差となり、それが読み書きの差となって現れ、やがて学力の差につながっていくのだということです。

 

 そこで、年長児の時に「ばけつ」を知っていた子と知らなかった子たちがその後、聾学校小学部に入学し、それぞれの学年時の読書力検査(=読字力・語彙力・文法力・読解力の4分野からなり、総合的な「読み」の力をみる)でどのくらいの読書偏差値を示すのかを調べてみると、明らかに差(1%有意水準)が出るのです(右上図のグラフ)。「ばけつ」を知っていた子たち(12/30名)の平均は偏差値約60(該当学年よりも上の学年水準)、知らなかった子たち(18/30名)の平均偏差値は約50。そういうと、「な~んだ。ばけつ知らなくても平均50ならきこえる子と変わらない。大丈夫なんだ~」と思われるかもしれませんが、そうではなくて、こうした結果をこの学校では保護者にフィードバックし、その後、家庭でも語彙の習得・拡充に配慮して取り組んでいただいていることが、その後の語彙力向上に繋がっているのです。とくに聴力的に厳しいお子さんたちは、かなり指文字や文字からの入力を増やさないと語彙が増えないというのはこの結果からも予想できます。さらに、この学校では小学部低学年段階で文法指導に力を入れていることも、検査の中の文法力の項目の向上に繋がっていて、そうした取り組みの結果として「読書力検査」の偏差値があるわけです。

 

〇幼児期に語彙力をどうつけるか?

 では、生活の中で当たり前に知ってるはずのこうした語を、幼い頃からどうやって身につけていけばよいのでしょうか? きこえる子ならほっておいてもどこかで覚えてしまっているこのような語でも、やはり意図的に使い(見せ)、意図的に言わせ(指文字等で表出させ)、文字としても見せていくしかありません。

例えば右の例は3歳児の例ですが、「年末大掃除」の時に、「ことば絵じてん」で作っている「掃 これ何か知ってる?②.jpg除道具」の頁を見せ、どれをやるか選ばせ、みんなで掃除に取り組む中で、楽しみながら、掃除という概念や「ガラスを拭く⇒雑巾が汚れる⇒バケツの水で洗う⇒きれいになる」などの因果関係をいちいちことば(手話)にして学んでいることがわかります。ばけつに限らず、日々の生活の中で使うことばはほかにも沢山ありますし、きこえない子が意外と知らないことばもけっこうあります。例えば「風呂桶、しゃもじ、自転車」等々。聴覚が使える子たちもさらっと耳からきいて終わるだけでは、そのことばが身についていないということは、ばけつを知っていた子が半数しかいなかったことからも想像できます。言葉で言わせるだけでは確実に音韻を正確に表出しているかわかりません。声と同時に指文字を使うことや、文字でも書いて見せるなどして、100%弁別できる記号を使うことの大切さが理解できます。

 

 また、語彙を増やすには、ことば絵じてんで掃除道具とか風呂の道具、洗濯に使うものなどの頁を作るのもよいでしょうし、「入れ物」などの頁を作ることで、固体はかごとか箱、液体はボトルとか鍋、バケツ、桶、缶など、気体はボンベなど、入れるものがそれぞれ違うことも学べるでしょう。語彙数だけなく概念の豊かさを育てることやカテゴリーで整理することもとても大事です。こうしたことがまた、知識や概念、思考力を伸ばすことにつながるからです。そして、それらの総合的な結果として得た語彙力が読みの力を支えているということなのだと思います。

次のような質問をいただきましたので紹介します。

 「現在2歳の高度難聴児です。1歳初めころから手話を始め、1歳6か月で手話の初語が出ました。今は手話で会話していますが、まだ文字も指文字もわかりません。日本語はいつ頃から、どのようにして身につけていくのでしょうか?」今日はそのことについて書いてみたいと思います。

 

 最近は新生児聴覚スクリーニング(以下、新スク)が広く行われるようになり、0歳代後半には相談機関を訪れる保護者が増えてきました。また、新スクを受けなくとも、高度難聴であれば1歳半健診あたりで発見されるのが一般的です。

  手話初語の獲得時期.jpg支援機関にもよりますが、手話を使うことを積極的に勧めるところであれば、手話のスタートも0歳後半から1歳代で、そうした子どもたちは、1歳前後から1歳半頃には、聴力に関係なく手話の初語が見られるようになります(右図はあるろう学校2校の新スク受診の子ども21名のうち聴力別の4名の手話獲得の状況です)。

その後、1歳半前後の「語彙爆発」の時期を経て手話の語彙が増え、2歳の誕生日を迎える頃にはだいたい300語くらいの語彙を獲得します。ここまでは聴児の音声言語獲得のプロセスと同じです。ただ、聴こえない・聴こえ 獲得語彙数.jpgのサムネール画像にくい子は、音声言語での語彙爆発はあまり起きないようです(*研究論文を見たことがありません)。1歳代においては、早期に補聴器や人工内耳をしてもまだ音韻表象が曖昧にしか認識できないので語として記憶されていかないのが主原因ではないかと考えられます。因みに聴覚・音声の みでスタートした場合は、音声日本語が増えていくのは難聴レベルの聴力の子でもだいたい2歳以降になるので語彙獲得に関しての時間的ズレは手話と比べて1年以上の差ということになります。この差は単に語彙量の差ではなく、ママやパパとの「ことばでのやりとり」ができるかどうかということに 手話の獲得事例S児.jpgのサムネール画像関わることで、ものごとの概念の獲得や知識獲得の差、人との関わり方などの差にもなってきます。手話からスタートすれば、言語の違いはあってもその発達は聴児の発達の姿と変わらない、いやむしろ 豊かであることが右の事例からもわかります。その後、手話を日常 1歳児の手話の獲得事例C児.jpgのサムネール画像的に使っていれば、単語から二語文、三語文、多語文へと順調に手話での会話ができるようになっていきます。

 

(*発達早期に手話を使うメリットについては下記を参照。「手話を使う幼児の言語発達の豊かさ」 http://nanchosien.com/10/07-4/ )

 

 

〇日本語はいつ頃から獲得されるか?

 手話を使い続ければ手話での会話は当然豊かになっていきます。そして手話で考える力も発達していきます。では、日本語はいつ頃からスタートすればよいのか、これについては、考え方がいくつかあります。

 

〇聴覚(口話)

一つの考え方は、聴覚(口話)法の考え方で、手話は音声言語獲得を妨げるという理由で手話を使わず最初から音声言語の獲得を目指すという考え方。いろいろな要因(子どもの知的能力、聴力、家庭環境、保護者の子と関わる時間・ゆとり、関わり方等)が複雑にかかわってくるので一概に言えませんが、言語獲得時期も遅くなり、補聴器や人工内耳の装用域値がいくらよくても言語情報の入り方は決して聴児と同じようにはいかないので、かなり保護者が意識的に努力しないと、"double limited"(日本語も手話も不十分なままになってしまう)になるリスクが大きいので私はお勧めしません。因みにわが国では手話を使うと音声言語の獲得ができないという言説が流布し、それを信じている専門家も多いですが、根拠がありません。それを証明した研究論文も見たことがありません。ただ、保護者の方からみれば「ある程度聴こえて話せれば゛障害"がなくなるのでは」と思いますし(聴児になるわけではありませんが)、「社会はみんなきこえる人だから手話など覚えても使えない。それより話せた方が社会に適応できる」ということで、この方法に魅かれる気持は理解できます。話せた方が社会の中での利便性は確かにありますが、きこえの限界は変わりません。そのため本人は、「きこえないありのままの自分」に自信が持てず、どこまでいっても決して聴者に追いつくことはない音声言語コミュニケーションの不全感を感じ、聴者への劣等感などから、心に及ぼす心理的なマイナス面も決して小さくはないことを知っておく必要があるでしょう。

こうした、きこえない子の心の問題については、『聴覚障害者の心理臨床1,2』(日本評論社)、『きこえない子の心・ことば・家族』(明石書店)などを参照してください。

 

〇手話 

二つ目の考え方は、手話だけで幼児期を過ごし、手話でしっかり考える力や人と関わる力を育て、日本語は小学生から始めればよいという考え方です。これも私はあまりお勧めできません。確かに手話言語力は育つでしょうし、「聾者」としての"identity"(アイデンティティ)も育つと思います。ただ、難点は日本語習得の開始が遅くなる(3年くらいの差が出る)ことと、手話から日本語習得の方法論が未だ確立していないこともあり(そのような研究論文も実践論文も見たことがありません)、日本語習得が十分に進まず、教科書が自分で読めない状態になるリスクが否定できないからです。

 

日本語の獲得時期.jpg〇手話・口話併用

では、三つめの考え方はどうでしょう。これは手話からスタートして手話でやりとりする力をつけ、その後、聴覚活用のできる子たちは2歳くらいから音声言語を併用できるようになり、聴力の厳しい子たちは主に指文字で、3歳くらい(つまり聾学校幼稚部入学前後)から日本語を指文字や文字、音声を同時に併用しながらスタートし、手話と日本語の二言語獲得を目指すという方法です。この時の手話とは、日本手話も音声併用のいわゆる口話併用手話も含みます。因みに、音声言語を獲得するためには手話を排 二重符号化の効果.jpg除したほうがよいという考え方に対して、実際には視覚(手話)も聴覚(音声日本語)を併用したほうが日本語自体よく覚えられるというのが認知心理学の考え方です。これを「記憶における二重符号化の効果」と言いますが、ことばを覚えるには、一つだけの方法でしかもあいまいな情報入力によるよりも、いろんな手掛かりを使ったほうがことばは記憶しやすいという、当たり前のことを言っているにすぎません。

 

聴覚活用タイプ.jpg 私はこの方法で20年以上実践し、これがいちばん今のところリスクが少ない方法だと考えています。すなわち手話も日本語も両方とも獲得できる方法だと思います(それについてはこのHP「9歳の壁を越え始めたきこえない子どもたち」下記参照)。

http://nanchosien.com/papers/

 

ただ、手話は自然獲得できる言語ですからいいのですが、日本語(音声言語、指文字・文字)の習得に関しては、日々の生活の中でどのように、どの程度、使うのかという点で、家庭の状況が反映されるのも事実で、母親が就労していない家庭なら子どもと関わる時間があるのでよ 指文字タイプ.jpgいのですが、経済的に厳しく保育園に入れなければならない家庭では、園での音声言語環境からの日本語入力では、簡単な日常会話の域を出ません。そのような場合は、家庭でのコミュニケーションに相当の配慮と工夫が必要になります。また、難聴児や人工内耳の子は、ある程度耳が使えるということで、幼稚園や保育園に通うことも多いのですが、同じような問題に直面します。確かにこのような子たちは日常会話(生活言語)レベルの音声言語は獲得できます。問題はその質で、日常会話は、具体物や相手の仕草・表情、話し方といった多くの非言語情報によって支えられており、文脈が共有されていれば単語だけでも通じますし、わからなければ相手が直接聞いてくれるなどにも支えられて成り立っているので、主述が正しくなかったり助詞の欠落などがあっても伝え合えます。そのことから、「聞こえて話せているから大丈夫」と思われがちですが、ふつうの生活環境で暮らし会話しているだけでは、深く考えたり学ぶためのことばである、いわゆる「学習言語」を身につけるためには不十分です。

(*以下「生活言語と学習言語」を参照)http://nanchosien.com/nyuyou/13/

 

〇大切なのは生活言語(日常会話のことば)から学習言語(考える・学ぶためのことば)へのステップアップ!

 このホームページでも、14か月で手話の初語が出て、2歳で人工内耳を装用、その後、音声での会話ができるようになって安心し、年中の秋に、子どもに上位概念のことばを聞いてみたところ、「果物や野菜の中の一つ一つのものの名前はたくさん知っているのに分類もできないし言葉でも説明できない」ということを知ったという事例が紹介されています

(*「ことば絵じてん作り楽しんでいます!」参照 http://nanchosien.com/10/1/)。

  生活言語から学習言語へ.jpg

よくおしゃべりできるのに、ことばを思考や操作の対象として取り出し、カテゴリーで括ったりそのカテゴリーの名称(野菜とか果物とか)を知らない。「りんごってどんなもの?」と尋ねても答えられないという問題、これが幼児期の生活言語から学習言語へのレベルアップの課題で、ここが、日々、音声言語で会話を積み重ねていればOKという、単純な問題ではありません。ですから、家庭においても、単に生活に必要なやりとりをして終わるのではなく、やりと レベルアップの手立て.jpgりの質を高め、子どもにことばで考えさせる力をつけなければならないのですが(これは子どもの聴力の軽重とは関係ありません)、そのための会話の仕方の工夫や余裕をもってかかわる時間の確保が必要になるのです(これを保育園や幼稚園に望んでも難しく、1対1の関係がつくれる家庭でやるしかありません。そのための工夫として例えば15分を1区切りとして、15分単位のかかわりを1日のうちで何回か持てるようにします。この時間内で「ことばあそび」をしたり、「絵日記」を描いたり、「絵本の読み聞かせ」をしたりする)。絵日記や絵本の読み聞かせ、ことば絵じてんの作り方、会話の工夫の仕方などについては『どうすればことばが育つか?~9歳の壁を越えるために』,900円,全国早期支援研究協議会発行を参考にしてください。http://nanchosien.com/publish/

 

 

〇学習言語へのレベルアップのための5つのポイント 

幼児期から学童期にかけての日本語獲得課題.jpgのサムネール画像また、生活言語から学習言語へのレベルアップをしていく時に、いくつかのクリアしなければならない課題があります。(右図参照)

 

まず一つ目は音韻意識の問題。これにはワーキングメモリーの課題が関わってきます。

http://nanchosien.com/nyuyou/post_106.html

 

二つ目は語彙の概念・カテゴリー構築の課題です。

これについては本HPの「ことば絵じてん作り」「ことばのネットワークづくり」を参照してください。

http://nanchosien.com/papers/cat33/

 

三つめは語彙の量とくに動詞語彙数の課題です。

これについては本HPの「絵でわかる動詞の学習」を参照してください。

http://nanchosien.com/09/09-1-1/09-2/ 

 

四つ目はメタ言語意識の課題。これは、自分の経験と絡めて日本語(生活言語)を獲得してきた段階から、ことばを対象化して取り出し、そのことばを操作したり(例:言葉遊び)一般化・抽象化した辞書的な意味で使用できる日本語(学習言語)へとレベルアップの課題(例:小1国語『じどう車くらべ』に出てくる「しごと、やくわり、つくり、はたらき」といった抽象的なことばの意味が理解でき、こうしたことばを使って、自動車の特徴を説明できるとか、クレーン車の「じょうぶなうで」「しっかりした足」という比喩を理解できる力など)。(*「生活言語と学習言語」を参照)http://nanchosien.com/nyuyou/13/

 

 そして五つ目は文法的課題です。日本語の基本文型の習得と助詞と動詞活用の課題。これはそのまま学童期の課題として引き継がれます。これについては「日本語チャレンジ」や「文法指導順序」を参考にして下さい。http://nanchosien.com/09/09-1-1/

 また、年中児に、視覚教材を工夫して、家庭で日本語学習の取り組みを行なった下記の事例は参考になるでしょう。この事例の家庭では、ことば絵じてん作りの活動から始めて、助詞の学習、動詞受動文、比較表現、自動詞・他動詞の学習、そして名詞修飾構文などに取り組み、非常に大きな成果(「絵画語彙検査」や「Jcoss日本語理解テスト」「WISC」等で数値的な成績向上)をあげた事例です。(*「視覚教材で楽しく日本語を身につけよう」参照  http://nanchosien.com/papers/04-4/ )

支援教材.jpgのサムネール画像

 だいたいこのようなプロセスを経て、日本語の学習言語の基礎が獲得されていきます。

この5つの課題については長くなるのでここでは説明できませんが、このHPのそれぞれのところで説明していますので参照して下さい。また、これらの課題をクリアするために作成したテキストや冊子をぜひ参考にしてください。

*以下、出版物紹介コーナー

http://nanchosien.com/cat21/

ある聾学校の乳幼児相談0歳グループのお母さんが、育児記録にお子さんの気持ちを表した「代理日記」を書いておられます。そのママは、書くことで「Kにとって今日が良い一日だったかどうか」というのを考えながら過ごしていきたいのだそうです。

この「代理日記」を通して、Kちゃんのママは、子どもの気持ちを的確に読み取り、それをことばで表現されています。子ども目線で何を見ているか、何を感じているかがあまりに自然に、そしてきっとそうだろうなと思えるように想像し、書かれています。びっくりすると共に、微笑ましい気持ちでいっぱいにさせられます。以下に引用してみます。

 

「びょういんのせんせいが、はなをすすってくれた。こわかった。へんなきかい。いやだった。たいふうがきたから、ごごはママといっしょにあそんだ。たのしかった。

えほんをよんでもらった。さいきん、ママとはなれるとかなしくなる。パパもわたしのそばからはなれるとさみしくなる。 これ、あとおいだよね。 ほちょうきをはずそうとすると、ママがおこる。だから、はずさないの。だけど、きになるの。ママがいないとき、かんじゃえ!」(〇月〇日、11か月)

 

ごぜんちゅう、ひるねしてたら、ママ、いなくてびっくりした。わんわんないて、とびらのところにへばりついたよ。もうどこにもいかないでほしいな。ごごはたくさんの

しょうがくせいとせんせいにあそんでもらったよ。たのしかった。でも、みんな、ほっぺたつねったりさわったりするからいやなの。かなしくなるの。すこしこわかったけど、みんなにかわいいっていわれるとうれしいよ!よるはママとおふろにはいったよ。すこしおふろでみずあそびをしたよ。よるはぜんぜんねむくないのに、ママ、ねろねろとうるさかった。えほんよみたいし、あそびたいし、いやなの~。...コテン」(〇月〇日、11か月)

 

Kちゃんの代理日記には、「こわかった。」「さびしかった。」「かなしかった。」「いやだ。」「楽しかった。」「嬉しかった。」「びっくりした。」「うるさかった。」等、Kちゃんの気持ちがどうだったかが実に豊かに表現されています。この子どもの気持ちを読み取れていることが、ママの素晴らしい点です。この気持ちをその場その場で感じ取り、それをことばに表すことが「共感」に繋がります。ママの姿が見えなくなって、泣いていたKちゃんに「寂しかったね。」「ママがいなくて、悲しかったね。」とことばで伝えてあげることで、子どもは「私の気持ちをママはわかってくれた。」「まさにそうだったの。悲しかったの!」と共感してもらえたことで安堵し、理解してくれるママへの信頼を深めることができるわけです。「代理日記」に書けたことは、実体験の場から離れて、ママが一人冷静に振り返りをしている時に想像して書けたことだと思いますが、この想像をたくさんすることが、子どもの気持ちの読み取りの感性を鍛えることに繋がると思います。

 

ことばで表現する前の時期の子どもたちは、指さしや手差し、声や視線、大人の手を引く、大人の手をモノに近づけるといった直接動作で要求や伝達の気持ちを表します。直接的な動作や指()さしは読み取り、応答しやすいのですが、声や視線による伝達、要求の中には読み取りが難しい、気づきそびれてしまうものも少なくありません。子どもたちは自分の要求や伝達の意図がわかってもらえ、それに応えてもらえると、とても満足し、さらにまた発信をしようという意欲がもてるようになるものです。しかし、読み取ってもらえない、伝わらない、応答してもらえない不全感を重ねると、この人に期待はできないと子どもは諦め、人に伝える意欲をそがれてしまうことにつながりかねません。「何?何?」と外れてもいいので「ママはわかろうとしているよ。」というメッセージが伝わるような応答をしてあげることが大切です。

 

このような関わりをしていれば、だんだんと子どもから親御さんに視線はたくさん送られるようになってきます。子どもの興味に合わせて付き合う、遊ぶことをしないで、大人の意図に従わせようとすることが多かったり、子どもの気持ちに共感した語りかけや対応をしなかったり、子どもが色々発信してくることを無視したり、「待って」の繰り返しで応答が足りなかったりすると、子どもは親御さんを見ることが少なくなり、いざ親御さんが伝えたいことも伝わらない、受け止めてくれないという親子関係になってしまいがちです。つまり、親御さんが見てほしいと思ったら、親御さん自身が、子どもに合わせて付き合う努力をしなければいけないということになります。たくさん親御さんを見てくれるようになれば、親御さんの使うことば(音声言語、手話、指文字)や身振り、表情等に注目ができる子になり、モデルとなる親御さんのことばがだんだんと入るようになっていきます。ただ、この時に、子どもがせっかく見てくれても、親御さんが早口でボソボソしゃべったり、手話が使えなかったり、表情に乏しいというのでは、語りかけの内容は伝わらない、伝わりにくい結果となり、残念です。写真カード、絵カードも含めて、わかるように語りかける工夫をすることで、親子のコミュニケーションが徐々に成立するようになります。

 

「代理日記」は、こうした子どもの気持ちを読み取る練習にもなるところがとてもいいものだと思います。是非、子どもの気持ちを思いやり、想像しながら「代理日記」を時々でもつけてみることをお薦めします。書くことで、翌日のわが子の見方が変わってくるのではないでしょうか。(S記)

 

「どうして?」という疑問詞が子どもに理解できるようになるのは、5歳つまり年長さんの課題ということがこれまでの聾教育の中で言われてきました。しかし、手話を早期から使うようになってからは、3歳代で「どうして?」を理解し、自分でも使えるようになる子どもたちが出てくるようになりました。早くから言語(=手話は1歳前後から獲得できる)を獲得して、言語によるコミュニケーションができるようになり、考える力が育つ時期も早くなってきたからだろうと思います。保護者の育児記録から抜粋してみましょう。

 

【事例1】35か月

①(病院の待合室で、お友達が泣いているのを聞いて)K「あ、泣いてる!」Mどうしてだろうね。」K「鼻を吸うのがいやなのかなあ?」

②(お店で、寝ているクマかネコの絵のついたポーチを見て)Kどうして...」と言いかけ、「まちがえた!これ、だれ?」ときいた。

 

①は、Kが「どうして?」の質問に的確に答えている様子が書かれています。②では、自分で「どうして?」が使えるようになったKが、まちがえて使ってしまい、それに気づいて「だれ?」と言い直しています。おそらく、これまでにたくさん「だれ」「どこ」「なに」などの疑問詞を使って、豊かな会話を心がけてきたのでしょう。「どうして?」と訊かれて「○○だから~...」と的確に理由を答えられるようになってくるためには、原因→結果がわかり、結果の根拠を原因から説明できる力が必要です。

 

 

「なに?」を使う時期 

疑問詞にはいろいろとありますが、使えるようになる疑問詞にも順序性があます。例えば2歳頃から、きこえない子もきこえる子と同じようにさかんに「なに?」ときいてくる時期があります。「質問期」です。この時期は語の「爆発期」とも言い、ものには名前があることがわかるようになって、世の中にあるいろんなものの名前が知りたくてたまらない。だから「何?何?」と聞いてくる時期です。以下はその例です。

 

【事例2】 21か月

海の中の生物を描いていたら、Aがカニを指し、初めて「なに?」と聞いてきた。

 

【事例3】2歳3か月

最近質問することが増えてきた。「木、葉っぱ、ロッカー、門・・」片っ端から目にしたものを指さし、「なに?」ときいてくる。

 

【事例4】 24か月

私がよく「なに?」と聞いても「なに?」と真似して指をふるばかりだったが、今日初めて答えが返ってきた!! R「ぼっぼ、どこ?」とおでこに手をやり探すサイン。ママ「なになに探しているの?」R「ピーポーピーポー(救急車)」ママ「あっちの部屋じゃないかなあ」 R 探しに行き「バッバ(あったー)!!」普通に会話が成立し、嬉しかった。

 

【事例5】 2歳8か月

散歩をしていると目に映るものをことばや手話で表現してくれます。「信号は何色?」と私が聞くと「あかー、とまれ」と意味まで言ってくれます。

 

 

「だれ」を使う時期

では、「だれ?」はどうでしょう? ピンポーン(チャイムの音)→M「だれかな?」→子どもと一緒に玄関に行く→「あっ、パパ、お帰りなさい!」。といった会話をやってきているでしょうし、以下は、絵本『だれかしら』を読みきかせたときの記録から。

 

【事例6】 25か月

「H、これだれ?」ときくと、んー~と考えているのか考えていないのか。動物指人形を本の後ろに隠し、うさぎさんの耳、象さんの鼻、しまうまの大きな鼻などを本から覗かせ、 だれかしら.jpg「H、これだれ?」ときくと「うさぎ」「しまうま」と答える。最後は...ママ、ママが本で顔を隠し「H、私はだれ?」ときくと、ケタケタ笑い出しました。これでようやく本のポイントがつかめたようで、11頁ずつ丁寧に、「これだろう?」「うさぎさんかな?」とか、「わにさんだね~」「これはうさぎじゃないね」と楽しく読むことができました。

 

 

「どこ」を使う時期

「どこ?」はどうでしょう? 写真カードを使って買い物に行く時、「りんごはどこかなあ?」などと「どこ」という疑問詞を使ってきている きんぎょが逃げた.jpgでしょう。また、『きんぎょが逃げた?』とか『コロちゃんはどこ?』などの絵本でも、「どこ?」が使えます。さらに、「今日はここに行くよ」といって写真を隠し、「どこだと思う?」などと当てさせるのもよいでしょう。「どこ」という概念は広いので、いろんな機会に使っていくとよいと思います。

 

【事例7】2歳5か月

おばからメダカをもらい、家においたら「メダカどこ? あっ、いた!」と見つめている。

 

【事例8】2歳9か月

家のおままごとセットで遊ぶ時に大根のおもちゃを取り「大根はどこ?」と聞いてみると冷蔵庫から大根を持ってきて「いっしょ」といって喜んでした。「やかんはどこ?」というと、私に「おいで」と言って、やかんの所に連れて行き「いっしょ」と嬉しそうにいっていた。

 

こうした繰り返しの中でだんだんと「何」「誰」「どこ」といった疑問詞の意味を理解し、子どもも自分からも使えるようになっていきます。

さて、基本的な質問のことばに答えられるようになってきたら、「どうして?」といった質問にもだんだんと答えられるようになってきます。「どうして?」は、「何」「誰」「どこ」「何色」といった質問と違い、少しレベルの高い質問です。この疑問詞は、理由を問う質問であり、物事の因果関係を理解できる年齢に来ないと難しいものです。そして、その理由を説明するには、ある程度ことばで表現したり、思考したりする力が伴わないと難しいのです。「どうして?」の質問の答えについて考えた時に、原因―結果の状況がわかり、答えがわかっていて、明らかに理由が一つしかない【事例9】のような場合と、状況がわからないので、【事例1-①】のようにいくらでも理由(原因)が考えられる場合とがあります。

 

【事例9】3歳5か月

遊んでいるKに「お風呂入ろう!」と言うと、「あし[指文字]が痛いから入れない。」と答える。「どうして足が痛いの?」と聞くと、「蚊がブーンて刺したから痛い。」と答えた。「痛かったら、病院に行かなきゃダメだよ。今日は、たくさん汗をかいて遊んだよね。K、くさくなるよ。」と鼻をつまむ・・・と笑いながら話していると、「お風呂に入ろう!」とKから洋服を脱いだ。

 

【事例10】 3歳3か月

手話学習会の保育で久しぶりにママと離れて泣いたが、ママが戻ってきたら遊んでいて、嬉しそうに迎える。「どうして泣いたの?」「ママがいなくなったから泣いた」。

 

「どうして足が痛いの?」ときかれて、「蚊が刺した」というのは、状況がわかっているから答えることができ、答えも一つしかありません。【事例10】もそうでしょう。しかし、【事例1―①】のように泣いている子どもを見た時に「どうして?」と訊かれたら、状況がわからないので、いくらでも答えが考えられます。このような、いくらでも答えが予想できる場面は、親子の会話を広げ、深める上でチャンス場面にもなります。「おなかがすいたから泣いているのかな。」「お菓子を買ってほしいのに、ママがダメだって言ったから泣いているのかな?」「疲れて眠くなったから泣いているのかな?」「注射されると思って泣いているのかな?」...というように、ある程度親がリードしながら会話をふくらませ、推測する力、思考する力、表現する力をつけていくことができます。こうした、子どもが頭の中で考えたり、気持ちを揺さぶられたりしながら、ことばを使っていくチャンスを大事にしてほしいと思います。

もうひとつ紹介しましょう。以下の例は3歳になったばかりのT君とママのクイズでのやりとりです。

 

【事例11

 事例 3歳0カ月

M「りんご、ぶどう、トマト、いちごの中で仲間外れは?」

T「ん~・・・、とまと!」Mどうして?」T「とまとは野菜」

M「なるほど、もう一つ答えがあるよ。」T「ん~・・・わからない・」

M「ことば絵じてん見てみようか?」

T(パラパラめくって)「ぶどう!」 

 

T君はママと一緒に「ことば絵じてん」を作っています。そのじてんを使ってママはクイズを出すことを思いつきました。さて、皆さんはT君はことば絵じてんをめくって「ぶどう」という答えを導き出した理由がわかりましたか? 「皮の色」に着目した時、わかったのですね。仲間づくりは、なにも名前のあるカテゴリーばかりとは限りません。名前こそつけられませんが、「赤い皮の果物」という点に着目した時、確かにぶどうは仲間ではありません。このようなくくり方もできるんだという柔軟な思考力を育てることも大切ですね。

以上のように、質問のことばに答えられるようになることを通して、子どもたちは豊かな思考力や、表現力を身に着けていくことができます。どの質問についても、身近な大人が自問自答したり、家族の中でやりとりするモデルをたくさん見せたりすることで、質問にどう答えればいいのかということばの使い方を子どもたちは学んでいくことができます。手話を使うことによって、その成長の過程もこれまでよりずっと早くなっていることがおわかりいただけると思います。

 

自分らしく生きることを大切にした乳幼児教育相談

            ―ある聾学校乳幼児相談の実践からー

                     木島照夫(2015.2.28

はじめに

きこえない子の乳幼児教育相談(=聴覚障害児の早期教育)で大切にすべきこととは、なんでしょうか? 

いつかはきこえる社会に出ていくのだからきこえる子と同じように、ということもわかりますが、私はその前に、まず、わが子に対して「きこえなくてもきこえていてもそのままのあなたが好き」と思えるような支援を大切にしていきたいと思っています。親子で100%わかりあえることを大切にし、自分のことをわかってくれようとしている、そんなママやパパの姿を見て、「ママ、パパ、大好き!」「自分のことも大好き!」といえるよう、自己肯定感を持てる子に育てたいと思っています。そのために大切なことは、自己肯定感をもったきこえない人(成人聴覚障害者)との出会い、きこえない人のことば(=手話)との出会いが大切であると考えています。

 

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(1)きこえない人との出会い

成人聴覚障害者との出会いには、いろいろなよさがあります。この子は大きくなればこの人のようになるんだというモデルであり、きこえない子への関わり方も学ぶことができます。そうした出会いは、保護者に安心感をもたらします。

手話との出会いも大事です。私が関わっているある聾学校の乳幼児相談では隔週で入門コースと初級コースの手話を行っています。また月1回、成人聾者の先生による手話教室もあります。だいたい一人月3回程度手話が学べる時間が保障されています。また0歳児クラスでは、学校に回数来ることが大変な親御さんのため、0歳児クラスのための手話教室を1時間程度やってもいます。手話教室では声を使わないで、手話の表現に集中してもらうようにしています。冗談の大好きな成人聾者の先生はとても人気で、笑いの絶えない教室です。

 

○発達早期に手話を用いるメリットは?

手話のよさは、獲得時期が早く、きこえる子の音声言語獲得の時期と変わらないということです。わが子に聴覚障害があることがわかり、どうやってコミュニケーションをとってよいのかと悩んでいる保護者には、手話は、「わが子と通じあえる!」という喜びと大きな安心感をもたらします。それによって、親は、見失いかけていた子育てへの自信を取り戻し、子育てが楽しい!と感じられるようになっていくことが多いです。 nyuso2.png

親が子育ては楽しいと感じることができれば、当然、子どもはその親の眼差しから愛情を感じ取り、「自分は受けとめられている」と感じるでしょう。それは、その子どもが、聴者ばかりの家庭・家族の中にあっても、自分の「居場所」を感じることに繋がります。人間にとって「居場所」は、とても大切なもので、自分の「居場所」が感じられてこそ、子どもは、自分はきこえない自分でよいという「自己肯定感」をもつことができます。このような、心理的な面からの手話獲得の意義は、乳幼児期という、人への基本的信頼を育てる時期において、とても大きな意味があると思います。

また、早くから手話という言語でコミュニケーションできるということは、その言語を使って、きこえる子と同じようにいろいろなことができ、さまざまな力を身につけることができるということです。早くから手話を使うことで、それが可能になります。物事に対する理解力や知識の獲得、人と関わる力、他人の心情を察する力などは、お互いに100%通じあえることばがあって育つものだと思います。そして、そうした力は、将来の読み書きの力のベースになるものだと思います。

 

○発達早期に手話を用いていくと・・

発達早期から手話を用いていったあるお子さんは、1歳3ヵ月の時、ママとおばあちゃんとお散歩に行ったときに「ばあちゃん、あそこ(指さし)、テディーベア(熊の手話)、ある(高いところから両手を振り下ろす手話)」と伝えたり、2歳の時には、友達同士で、たまたまある先生がクラスにビデオを撮りにきてくださった時に、A「あのおじいさんは誰?」B「知らない。」と子ども同士でやり取りをしていたり、またつい先日のことですが、3歳児さんとこんなエピソードがありました。 nyuso3.png

乳幼児相談の担当者が、給食を食べる食堂で小学部の席に座ったところ、Cちゃんが「どうして、小学部に座ってるの?」と尋ねてきました。このお子さんは、3月に乳幼児相談の2歳クラス(ひよこ組)を卒業して以来、「私はリス組(幼稚部年少組)になった」といつも自慢していたのです。担当者が「Cちゃん、先生は小学部になったの。幼稚部の椅子は小さいから嫌。先生は大きいから小学部。給食をたくさん食べて大きくなって小学部になったの」と自慢すると、Cは「もうっ!」とほっぺを膨らまして悔しい顔をしていましたが、そのうち、こう言い返してきました。C「私のパパは大きいの。だからCも大きくなるのよ。」まさかそんな風に言い返してくるとは思わなかった担当者は、あっけにとられていると、この人、分かってないという顔をしてもう一度C「私のパパが大きいの知ってる?だからCも大きくなるに決まってるのよ!」とにんまり。あ然として言い返す言葉もありませんでした。

 手話を使っていなかった頃を思い出しながら、3歳児で果たして「小学部」という言葉を使っていただろうか、私の言ったことに対して自分で反論を考えて、お父さんの話まで引き合いに出してくるなんて、そんなことできる子がいただろうか?大人との会話、子ども同士の会話、全てみえる手話でのやりとりの中で、人と関わる力も考える力も育つということを実感しました。

○手話の獲得過程~保護者の育児記録より

nyuso4.png聞こえないお子さんの手話の獲得過程です。0歳後半から手話への注視が広がります。6~7ヶ月でママが表現する手話をよく見ている様子がのっています。

 早いお子さんでは、10か月前後で初語が出ます。あるお子さんは、10ヶ月で「くつ(靴)」を表現し、1歳4か月では「何?」という疑問詞を使うようになりました。その少し前の1歳3ヶ月の時には「ばあちゃん、あそこ(指さし)、テディーベア(熊の手話)、ある(高いところから両手を振り下ろす手話)」と単語レベルの表現から単語の連鎖の表現も出てきています。この頃理解語彙は104、表出語彙は76語ありました。 nyuso5.png

1歳代になると、切り身の魚と、水族館で見た魚が同じものだと捉えている様子が見られます。また、語の獲得の途中では、語の理解の誤りの場面もあります。これはきこえる子も同じです。「ワンワン」を知ったら、猫を見ても「ワンワン」というのと同じです。

2歳代から3歳代には、「質問期」「語彙爆発」の時期もあります。何でも「何?何?」と聞いて知りたがるなどです。これもきこえる子と同じです。

 

○日本語の獲得は・・・ nyuso6.png

 日本語の獲得については、だいたい2歳代に始まります。指文字や文字に興味をもつ、音声を使うなど、使うことばのモードは、その子によっていろいろです。事例7の子どもは、2歳1ヵ月の頃に、文字に関心を示しました。

 

 

中等度難聴のお子さんは、音声が使えるようになってき ます。事例8の子は、音声を使いながら「ズボン、はきたーい。」(手話+音声)。「Kのズボンはここにあるよ、これをはいたら?」と言う nyuso7.pngと、自分で履いていた。履けると、今度はズボンの前後を確認して私の顔を見る。「マーマー、ちがう?大丈夫?」。「大丈夫だよ、ちゃんと履けているよ。上手に履けたねぇ」と手話で答えると「大丈夫ねー?」と答える様子があります。また指文字への関心も強くなり、自分の大好きな飲み物「カルピス」とか、友達の名前、自分の名前、そして、ママから教わった「さくら」などを表現してる記録もあります。

 

○再現あそびの始まり

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2歳代には、イメージして自分でどんどん表現している記録もあります。事例10のお子さんの目の前にはおそらくママがご飯を作った後に起こることが映像のように出てきて、それをどんどん言葉にしているようです。

 

3歳代にはごっこ遊びや表現遊びが広がります。保育園でのお迎えの様子で、普段のママの様子を楽しく再現しています。学校ごっこも子供たちが大好きな遊びのひとつで、学校の絵本読みの様子から、ママを座らせて再現したり、そんな様子も見えます。

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○「どうして?」

3歳代には、「どうして?」や、「~だから(理由)」という表現もできてきます。昔の口話法の時代では、5歳前あたりと言われていた「どうして?」という、理由をたずねる表現も、今は、早い子では2歳児クラスの終わりには、「どうして?」と理由を聞いたり、「どうする?」という質問に「○○だから○○する」と答えてくれたりします。

 

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○子ども同士の会話~3歳児(年少)になると・・・

事例15は、幼稚部の子どもたちが給食の最中に活発にしていた会話です。Aちゃんの話した驚きの体験から、それについて尋ねたり、自分の考えを言ったり、 nyuso12.pngそして自分の経験に照らし合わせて、それぞれそれに関連した自分の話をしています。こうして、手話を使って自分たち同士で自由に話しながら、そこから情報を得ていろいろな知識を身につけたり、自分の考えを相手に伝えたりする力が育っていきます。

 

 

 

 

(2)乳幼児教育相談の実際

 乳幼児教育相談での活動ですが、家庭訪問、個別相談・活動、グループ、聴覚管理、保護者教室、手話教室などがあります。

○家庭訪問支援 nyuso13.png

まず、0歳児の家庭訪問支援ですが、私たちの施設では、重複のお子さんや月齢の低いお子さんなど、電車で通学することが困難な親子も多いため、このような支援を行っています。また、小さなお子さんの場合家庭での生活が基本であり、学校に数多く通うことよりも家庭でどう過ごすかが大切になってくるため、家庭訪問での支援が大切になります。家庭訪問支援は、保護者のニーズだけではなく、医療側のニーズも強くあります。障害が分かったばかりの不安定な時期に、保護者が一番安心できる家を訪問することが、その後の保護者の気持ちの安定や、母子関係の安定につながるからです。

保護者の感想ですが、どの保護者も家庭訪問支援が良かったという感想を持っています。また普段学校に来ることがなかなか難しい祖父母の啓発にもつながり、家族で同じ思いを持って子育てにあたることができたという感想を言っている方もいます。

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○個別相談

個別の相談は一人1時間半です。ここではお子さんの発達に合わせた遊びを、保護者と支援者そして子どもの3人で行います。遊びが基本です。

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○グループ活動

私達の施設では、各年齢の相談人数が多いため、各年齢ごとに担任が一人います。またグループ活動には各年齢に成人聴覚障害者が入っています。ろうの先生と相談をして、楽しい遊びを行っています。

遊びを支援者が提案して遊ぶやり方では、保護者もどことなくお客様になってしまい、お母さんたちが心から遊びを楽しむということが難しいため、今は、子供が大好きな遊びを保護者に提案してもらい、リーダーになってもらって遊びます。ヒーローごっこをしたり、電車ごっこをしたり。遊びに使う道具をみんなで作ったりします。 nyuso16.png

 

○ロールプレイ

個別活動から、小グループを作って支援をすることがあります。これは、遊びが苦手で、いつもなかなか子どもと向き合えることができないという保護者のための活動です。保護者同士でロールプレイをすることもあります。お母さん役に子ども役、「ほかの親御さんがこんなふうに子どもとかかわっているのかと改めて勉強になった」そんな感想を話してくれたりします。また、遊びを客観的に振り返るため、ビデオ撮りをして一緒に見ることを何度も積み重ねます。振り返りのときには、お互いのビデオをみながら、良かったことを出してもらうようにしています。先日、あるお母さんが、こんな育児記録を出してくれました。「先日Bちゃんのママと水族館に遊びに行きました。今まではなかったのに、 nyuso17.pngA子からBちゃんのママに近づいて、楽しそうに関わろうとする様子が見られました。子どもと一緒に遊ぶ経験って本当にすごいなと思いました」という内容が書かれていました。

 

 

 

 

 

 

○保護者教室

保護者教室では、多様な情報提供ができるように配慮しています。成人聴覚障害者の方にしても、聾者、軽度・中等度難聴者、人工内耳装用者、聾学校出身者、普通校出身者・・といろいろな方から話をききます。

また、先輩保護者の講演でも、いろいろな方を呼んで話してもらいます。医師や言語聴覚士の方の話なども入れます。回数はだいたい月2回くらいです。

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○マイノリティ体験・擬似難聴体験

きこえない子をもつ親御さんに必ず体験してもらうことがあります。一つは、ろう者の中に聞こえる人が一人入って、100%情報が届かない体験をしてもらい「マイノリティー体験」です。よく、ろうの方が「子どもの頃、家庭の中でも孤独感を感じていた、という話を聞くことがあります。ただ講義で聞いていてもどんな気持ちだったのということまではなかなかわかりません。この体験をしてもらうと、それがどういうことなのかすぐに分かります。「わけが分からず、うなづいてしまっていた」とか「みんなが笑っているから笑ってなんとか場になじもうとしていた」、「自分はこの場にいらない存在なんだ。そればかりが頭の中で回っていた」・・・そんなことを話される保護者の方がいます。相手の立場を知り、相手に寄 nyuso19.pngり添った関わりとはどういうことかを体験していただくための取り組みです。

二つ目の「難聴擬似体験」も年2回くらいやります。

 

(3)乳幼児相談及び幼稚部教育の成果は?

 乳幼児教育相談に、長い人では0歳児クラスから2歳児クラスまでの3年間通い、その後、大部分の子どもたちは幼稚部にそのままあがり、幼稚部で3年間の教育を受けます。その合計6年間の間に(もちろん、子どもによって在籍期間は違いますが)日本語の力や思考力はどのように伸びていくのでしょうか? 

 

Jcoss(日本語理解テスト)では・・・

nyuso20.pngその伸びをJcoss(日本語理解テスト)を用いて調べてみました。年長児後半の段階で、全体的にどこまで伸びているのかを「平均通過項目数」で調べました。平成21年度の幼稚部の年長さんは、平均5.6項目の通過でした。まだまだ語彙の数が不足していて、きこえる子でいえば年少児のレベルでした。しかし、5年後の26年度は平均8.5項目通過しています。これは、ほぼきこえる子の年中児のレベルです。ただ、この中には重複障害を併せ持つ子も含まれています。その子たちを除いたいわゆる定型児だけでは、通過は9.5項目となり、きこえる子の年長前半のレベルです。その前年の25年度は9.9項目通過でした。このことから、年々、日本語語彙・文法力は、伸びていることがうかがわれます。

nyuso21.pngその下の3年を一つのまとまり(区切り)として、平均通過項目数がどのように伸びていくかを示した図をみると、年を追うごとに成績が向上している様子がみられます。現在(26年度)は、水色の折れ線グラフで示された数値です。この3年間の幼児の平均通過項目数は、年少の時2.7項目、年中の時5.1項目、年長の時8.9項目になります。

私たちは、Jcossで「7項目通過」をだいたい幼稚部終了時の到達目標として設定していますが、その目標は、最近はほぼ達成できるようになってきたと考えています。

 

WISC(知能検査)では・・・

  nyuso22.png私たちは、年長児を対象としたWISC検査を夏休みまでに実施することで、子どもの認知や思考の力を診断し、そこからわかった課題を保護者に返して、家庭で取り組んでもらうようにしています。

 ここでは、平成20年度から24年度までWISCⅢを実施した時期の年長児47名と、WISCⅣを使うようになった2526年度の年長児19名に分け、結果がどのように違うのかをみてみました。

 厳密に言えば、検査内容が異なるので単純には比較できないのですが、24年度以前に実施したWISCⅢ47名の「動作性IQ」の平均値と25~26年度に実施したWISCⅣ19名の「知覚推理IQ」の平均値を較べましたが、そこには差はみられませんでした。大ざっぱな言い方ですが、子どもが元々持っている非言語性の認知には、差はないと言ってよいと思います。

nyuso23.png しかし、いわゆるⅢの「言語性IQ」とⅣの「言語理解IQ」においては、差がみられました。その差はどこにあるのでしょうか? 言語性下位検査のうちⅢにもⅣにも共通にある検査項目「類似」「理解」「単語」「知識」、それといわゆるワーキングメモリー検査項目「算数」「数唱」の合計6下位検査を評価点(20点満点で10点がIQ100に相当し、評価点が1違えばIQでは5~7程度の違いに相当する)によって較べてみました。それによると、Ⅳの直近2年間の幼児のほうがいずれの項目においても高い傾向があることがわかりました(ただし、これらの項目のうち有意差がみられたのは「類似」だけでした)。このことから、言語的な思考力という面では、だんだんと伸びる傾向にあるということがわかりました。

 右上のグラフは、縦軸に「動作性(知覚推理)IQ」を配置し、横軸に「言語性(言語理解)IQ」を配置したときの、それぞれの子どもの分布を点で示したグラフです。また、赤色の点はJCOSS通過が「単語」レベル(通過3項目以下)の幼児、黄色は「語連鎖」レベル(同4~6項目)の幼児、水色は「文法」レベル(同7項目以上)の幼児であることを示しています。

24年度以前の子どもたち(WISCⅢ実施の時代)は、グラフの左上に分布している子が多く、動作性は定型(IQ90以上)ですが、言語性が厳しい(同90以下)子が多いことがわかります。Jcossでも、言語性が厳しい子たちに赤色や黄色の子が多いのもわかります。この子たちは、言語的思考の力も弱く、日本語語彙・文法力もまだまだの子たちで、平成24年度以前は、6割の子たちがそうだったのです。 nyuso24.png

 しかし、平成25年度以降の子どもたちは、右上に寄っている子たちが多くなっています。「知覚推理」「言語理解」ともにIQ90以上のいわゆる定型児が多く、Jcossにおいても水色の「文法」段階に達している子たちが多いことがわかります。つまり、言語的思考の力も、日本語語彙・文法力もどちらも伸びている子たちが大半を占めるようになってきているわけです。もちろんそれは、乳幼児相談3年間の支援・教育という土台の上に、幼稚部3年間の教育とで築いた、6年間の支援・教育の結果なのだと思います。

 

○成果と課題

上記のような結果から、次のように考えます。

まず、乳幼児教育相談(0~2歳)の段階において「きこえないこと」を肯定し、「手話」を言語コミュニケーション手段として身につけることから出発します。そうした支援・指導の中で、子どもの「コミユニケーション能力」や「自己肯定感」「自己有能感」を育てます。そして3~5歳のあそびを大切にした幼稚部教育の中で、人とかかわる力、自分の頭で考える力、日本語の読み書きの基本的な力をつけていきたいと考えていますが、そうした方向性が、基本的には間違っていないということを立証しつつあると考えています。 nyuso25.png

ただ、その子たちが、幼稚部を卒業して小学部に入学し、その後、日本語の読み書きの力や学力をしっかりとつけられるようになるのか、まだまだこれから検証していかなければなりません。ただ、これまでの検証では、Jcossで7項目以上の文法段階に達しており、かつWISCで動作性・言語性IQ90以上の子たちは、NRT(標準学力検査)国語の偏差値45以上の5段階評価3以上をとる可能性が高いことがわかっています(共に相関係数0.7以上)。今後、小学部に入ってからのそうした学力の伸びも検証していく必要があると考えています。

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1.準備するもの
・A5サイズのルーズリーフとバインダーを用意しましょう。
 インデックスシールも用意してね。

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2.新聞の折り込み広告や商品のカタログなどを集める

・絵に文字がかぶらないのは生協や無印良品のチラシ。

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3.チラシを切り抜いて、仲間ごとに分けたページに貼ります

・仲間はなんでも良い
 例えば、「りんご」は、《果物》《食べ物》《木になるもの》《デザート》から《農家・農業》《青森県の農産物》《植物》など、いろんな「仲間」で分けることができます。
いろいろな仲間・カテゴリーで分けられることを知るのがとても大切なのです。

 ・子どもが興味をもったことから始めましょうimage010.png
 例えば、「さかな」に興味をもっている子には、《さかな》《海の魚と川の魚》《水の中の生き物》《食べられる魚・毒をもった魚》《すしネタ》《魚の取り方・穫れる場所》などいろんな「仲間」で分けることができます。
図鑑だけでなく、魚の話「スイミー」や「浦島太郎」のおとぎ話にもつなげられますし、実際に釣りを経験すれば絵日記にもつなげられます。
魚の絵を並べてすごろくを作ったり、起承転結を考えて魚の話を作ったりするのもいいかもしれません。

 

 

 

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4.途中であきらめないで続けましょう!

  image012.jpg下の絵を見てください。上の絵と下の絵から仲間になる絵を探してください。
答えは簡単。「木」ですね。
これは聴覚障害の有無にかかわらず、ほとんどの子がわかります。
絵で見ればわかるのですが、これがことばになるととたんに難しくなります。
「りんごとバナナはどこが同じ? どこが似ている?」ときくと、「う~ん」となってしまいます。
でも、「りんご、バナナ、バス、机、洋服、男の子、ぶどう」の絵をみて、「どれが同じ仲間?」と尋ねると選び出すことができます。
同じもの(果物)の概念・イメージはもっているのですが、うまくことばに結びついていないのです。
小学部以降になると、「ことばの概念化」ができることで、その概念を使って教科の学習ができるようになります。
例えば「果物の栽培農家のうち、りんごの生産額が最も多いのはどの県か?」という文の中には「果物」「栽培」「農家」「生産」など抽象的な概念をもったことばがいくつもあります。
こうした抽象概念の最もベースにあるのが、りんごやバナナ、ぶどうなどをくくる「果物」という概念化されたことばです。
これらの言葉はぜひ幼児期に身につけさせておきたい言葉・概念です(「乗物」「洋服」「動物」「調理道具」「電気製品」・・・)。
また、上位概念「果物」として括るだけなく、「酸っぱい食べ物」とか「好きな果物・きらいな果物」「春・夏・秋・冬に穫れる食べ物」などオリジナルなくくり方で、頭の中に「ファイル」を沢山もっていることが、その子どもの思考の豊かさを支えることにつながります。

5.ことばを使ったいろいろなあそびにつなげましょう!

いわゆる「ことばあそび」です。
ことばは、そのことばを使って様々な高度な活動ができることが大切です。
きこえない子は、ことばを知っていてもそれは「ものの名前」「場所の名前」を知っているだけで、そのことばを使いこなしていろいろな活動をすることが苦手です。
「りんご」を知っていても、「りんごってどんなもの?」と聞かれるとことばで答えることが難しいのです。子どもはりんごを頭の中にイメージしているのですが、それがことばになって出てきません。
「八百屋さんやスーパーに売っていて、色は赤いのや緑のがあって、形は丸くて、味は甘いけど少し酸っぱくて、皮はつるつるしていて、むいて食べるとさくさくして、おやつやデザートに食べる」などと答えることはとうていできません。
体験としてはあっても「ことば化」ができないのです。
「ことば化」とは、頭の中に辞書を作るようなものです。体験・イメージのファイルは頭の中にすでにあるのです。
それに説明の文をつけるのが「ことばのことば化」です。
それには「なぞなぞ」などのことばあそびがいちばんです。

 
image013.pngimage014.png6.絵本を読んだら、ちょっときいてみましょう!

子どもに短いお話を聞かせます。
「あとでどんなお話だったか教えてね」と言ったのにも関わらず。
答えられない子どもが多いです。一つは「ワーキングメモリー(短期記憶・作業記憶容量)が小さいことがあります。聞こえない子は聞こえる子のように「話をききながらメモをとる」ことはできません。
ですから、「覚えておく」という力も必要です。
その練習を、絵本の読み聞かせの中でやることもできます。
5W1Hやストーリーのキーワードを使ってきくのです。
しかし、必要だからといってテストするみたいに何度もやられるのはかないません。
本人に語り部になってもらって、それを家族みんなでききましょう。主人公は子どもです。
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7.絵本がない時の過ごし方!

寝る前に読み聞かせをしましょうといっても、適当な絵本がないときもあります。
そんなときはどうしましょう?きこえのよい子は歌をうたったりもよいでしょう。
絵なしに手話語りでお話をするのは、子どものイメージをふくらませます。
いろんな工夫をしてみましょう。

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8.ふだんの生活の中で、子どもに自分で「考え」させましょう!

これは簡単そうで難しい。
日々の生活の中では、必要なことが会話できればそれで用が足りるからです。
手話で通じればそれでよし。日本語あればなおよし。
しかし、聞こえる子と聞こえない子の情報量には雲泥の差があります。
ですから、「もう食べたの?」「うん、食べた」だけで終わりにしていては、考える力はつきません。
そこが聴覚障害教育のいちばん難しく、大変なところでしょう。
ですから、「考える子」に育てたいと思ったら、子どもに「考えさせる」しかありません。
「ああしなさい」「こうしなさい」「それはだめ!」ではなく、「どうしたらいいのかな?」。
そのためのやりとりのコツをピックアップしてみました。

~考える子どもに育てる会話のコツ~

 ①「どうせわからないから」ではなく、できるだけことばで説明し、会話を見せる習慣を
  家族含めてつけましょう!
  子どもの情報不足を補い、幅広い知識をもった、「空気の読める子」に育てるには
  それしかありません。見せたくない会話は別のところで。

②子どもに尋ね、ことばで説明できるように習慣づけましょう。
  それは「どういうことなの?」「どうしてそうなったの?」

③子どもがうまく説明できない時は、説明の仕方を教えましょう。
  ◆5W1H・・「いつ」「どこ」「だれ」「なに」「どうして」
  ◆時間経過・因果関係・・「はじめに」「次に」「だから」「でも」「それから」「最後に」
  ◆意見・感想・予想・・「どうなるかな?」「どう思う?」

④予想したり、仮定して考えさせる
  
「~だから~だろう」「もし~だったら」「例えば~なら」

⑤うまくいかなかった時は、問題解決の方法を考えさせる。
  
「どうしてうまくいかなかったのかな?」「どうすればできるかな?」

⑥ものごとの共通点や相違点を考えさせる。
  
「それはどこが同じなの? 似ているの?」「どこが違うの?」

⑦手話ニュース・子ども手話ニュースを見る習慣をつける。
  近所のできごとなど、身近な話題について話し合う。

  自分の考えをもてる力、自分の考えを伝える力をつける。