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難聴擬似体験と障害理解

はじめに001.png

聴覚障害という障害について説明してくださいと言われると、何からどのように説明すればよいか困ってしまいます。
まず、見た目では、聞える人と区別がつかないし、行動・動作に問題があるわけでもない。
肢体障害や視覚障害は、その障害が目に見えるし、その不便さもある程度体感することができる。しかし、聴覚障害は目に見えない。
たとえ耳を塞いでみても自分の声はきこえる。
たいした障害ではないと思う人が多い。
そこで次のような質問をしてみます。
「もし・・・」(図参照)

これはある大学でずっと昔にある先生がやった質問調査です。そうすると図の①から⑥の順番になった。「聾」というのは軽い障害と思われがちだということがこれからもわかります。

 1.実際にあったこんな誤解002.png

ですからこんなことが起こります。
ある難聴の子が幼稚園の砂場で友達と二人で何やら話しながら遊んでいました。
そこにだれか別の男の子が加わってきました。
さらにもう一人加わりました。みんなおしゃべりしながら楽しそうに遊んでいる。と思いきや、難聴の子はスーッと砂場を離れ、滑り台に行ってしまいました。
先生も特に気にした様子はありません。
遊びが変わることはどの子でもよくあることです。私はあとでその子にきいてみました。
「砂場楽しかったんでしょう?でも○○ちゃんは滑り台に行って一人で遊んでいたね。どうして?」
「僕は○○ちゃんと二人で遊んでいるとお話がわかるのだけれど、3人とか4人になると、誰が何を言っているのかわからなくなるんだよ。だから、他のお友達が入ると、僕がぬけちゃうんだ。」 
外から見ているだけではなかなかわからない姿ですね。

 2.きこえにくい人(「難聴者」)の悩みとは?003.png

社会に出てからの軽中度難聴者は日本語や学力から起こってくる問題よりも、人間関係やコミュニケーションから起こってくる問題が大きいようです。
ですから、精神的に悩み苦しみをもつ人の割合が高い。
そして、そこには自分のきこえなさ・難聴というものを自分でどのようにみているかという障害に対する価値観、障害認識が絡んでいることが多いです。
そして、その障害認識を生んだ家庭の価値観や教育や医療の問題がその背景にあるわけです。
一方、高度・重度難聴いわゆる聾児・聾者の問題は、日本語・学力という問題が一つあります。
日本語の読み書きの問題は、どのような仕事につくのかという職業選択の問題や経済的な問題に関わります。
学力というのはよく「9歳の壁」といわれますが、これは考える力に関わっています。
要するに論理的に考える力がなかなか身に付かない。
だから問題に直面してもその問題を考えて解決していく力がない人も少なくない。それだけじゃない。
かつての聾教育つまり口話法というのは、「きこえる人を目標に努力を強いる教育」でしたから、きこえる人への劣等感をはぐくみ、自分から積極的に何かをやっていく意欲や能動性を育てなかった。
受け身を強い、きこえる人の指示に従って動く人間であるよう教育していたわけです。
以前にOさんという聾の人がおもしろい経験談を語っていました。Oさんは聾学校出身。
ある時、きこえる兄弟が通っている中学校の運動会に行った。
そこで父兄・地域が参加する綱引きにかり出された。さて、Oさんはそこで面食らってしまった。
きこえる人たちは「よーいどん!」の合図で、一斉に「よいしょ、よいしょ、よいしょ」と互いに引きあう。
当たり前なのだが、聾学校の綱引きとは全く違った。
聾学校では、旗をもった一人の先生の旗振りに合わせて、「そーれ」と赤組が引いたら、白組は引きずられないように踏ん張って待つ。
次は白組が「そーれ」と引く。赤組みは待って踏みこたえる。
そして次は赤・・というように、一人の先生の旗振りに合わせて交互に引くのだ。
ここに聾教育のあり方がよく現れている。
綱引きですら、「きこえる人の指示に従って」引くわけである。

 3.「難聴」を体験してみる

話が横に行ってしまったので元に戻して、ここから少し体験を通して、難聴によって生じるもっとも本質的な問題について考えてみましょう。
まず、最初に音をきいてもらいます。音にひずみがある感音性難聴のきこえの状態です。
なんと言っているかちょっと聴き取ってメモしてみてください。
最初は軽度難聴の人のきこえのシュミレーション。
二つ目は、重度難聴の人のきこえのシュミレーションです。
音の大きさとひずみの状態、さらに周囲の騒音の状態を変えて同じことを3回しゃべります。
―(体験)―
さあどうでしたか? ききとれたでしょうか? むずかしいですよね。
これはあくまでシュミレーションですから、実際には、一人一人ちがうでしょう。
でも、感音性難聴ではこのような音のひずみがあるといわれていますから、いくら補聴器をして音の大きさを大きくしても、正確に聞き分けることは難しいわけですね。
「補聴器はめがねみたいなもの」と思っている人もいますが、全く違います。
かけても音がはっきりするわけではありません。
004.png
つぎに難聴者のコミュニケーションを体験してみましょう。
グループに分かれて、話し合いをしてみます。
やり方は(4)の図のような方法です。
 ―(体験)―
さあどうでしたでしょうか? 
今、体験したことを少し話し合ってみましょう。
―(グループで話し合い)-
今、体験していただいた通り、きこえないことから周りの人とのコミュニケーションが難しくなり、結局、人と関わろうとする意欲・気力が失せ、疎外感を味わい、無気力・無関心となっていくことがおわかりいただけたと思います。

 4.聴覚障害のバリアとは?005.png

さて、障害には次の4つがあると言われます。
聴覚障害に関してもさまざまな現実的な障壁があります。

①物理的バリア~電光掲示板
②制度的障壁~車の免許、医師免許、薬剤師免許など
③文化・情報面でのバリア~通訳、ノートテーク、テレビ・映画の字幕
④心理的バリア~人間の心の問題とつながっている。

これらの障壁のうち、聴覚障害が引き起こす最も本質的で深刻な障害は④ではないかと思います。
昨今、いじめから自殺する子どもたちが社会的な問題になっていますが、自殺するほどの絶望感は、多くの場合、人間関係がその根っこにあることが多いです。 006.png
それほどに私たちは人間関係の中で生きていて、そこから疎外されることに耐えられないと感じる。
とくに、その集団が自分にとって身近で関わりの深い人間関係があればあるほど、その集団から受ける疎外感は当然つよいものになる。
では、人にとって最も自分にとって大切な集団とは? もちろん、家族ですね。
家庭の中での孤独。これが一番つらい。周りの家族は楽しそうに会話しながら食事をしている。
自分だけわからない。黙々とご飯を食べて二階の自分の部屋に行く。
自分だっておしゃべりに加わりたい。「何?」ときいても「あなたには関係ない話だから大丈夫」。
家族がみて笑っているテレビ番組。「何?何がおかしいの?」ときく。「今いいところだから後でね」。
土曜日の夜、家族でファミレスに行く予定だった。ところが近所でお通夜があり中止になった。
予定変更が本人に伝えられていない。本人は楽しみに待っていた。
「あ、ごめんね。言ってなかった?お父さんがお通夜に行くことになって中止よ。」
いつも聞こえる家族だけで予定が決まり、その結果が伝えられるだけ。
家族の中で自分は存在しているのだろうか?

前にいたろう学校で手話を使い始めた90年代。子どもたちは学校で手話を習得していきました。
手話を使うと子ども同士通じ合えるようになり、友だち意識も強まります。
ある時、デフファミリーの子が転校してきました。007.png
その子と友達になった子がデフファミリーの家に泊まりがけで遊びに行った。
帰ってきて、その子は母親に言いました。「ぼくはA君のうちの子になりたい。
A君のうちはみんな話が通じる。ぼくの家は通じない。」それをきいた母親は愕然としました。
その子は80dB台の聴力で音声言語でよく会話できる子です。
お母さんもよく通じていると思っていました。ですから非常にショックだっただったわけです。
それから10数年たって、多くのろう学校で手話を使うようになりました。
かつては口話法の学校だったOろう学校も手話を使うようになり、今では医療機関から「手話ばかり使っている。ことば(音声言語)をしゃべれなくなる」などと悪口を言われます。
「手話ばかり使っている」というのは事実とは違いますが、手話をまず大事にするということはとても大事なことだと思います。

 5.インテグレーションについて

次は、普通の学校での障害理解の問題についてです。 008.png
今、人工内耳をする子が非常に増えて、同時に人工内耳をしてインテグレーションしていく子どもも増えています。
それは病院で「聾学校にいると話せなくなる」とか「9歳の壁が越えられなくなる」とか言われて、信用してインテする子が増えていることが大きな要因の一つです。
医師の中には「人工内耳を勧めない聾学校は犯罪的だ」とまで言った人もいます。
人工内耳もインテも一つの選択ですから、それを聾学校がどうこういうべき立場ではないと思いますが、ときとしてインテのツケは後々に非常に大きな借金となって本人が支払わされることがあります。
そのリスクを考慮しつつ、親はインテを考える必要があるわけです。
私はあとになるとなかなか取り返しがつかない例をこれまでに沢山みてきましたが、そのような話をしても、親はやはり「わが子は別」と思うのですね。
では、インテした子にはどんな支援が必要でしょうか?
最後に、その支援の方法について話して終わりにしたいと思います。
(以下の内容は、『難聴児はどんなことで困るのか?』および『難聴理解かるた』をみてください。)

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(2013.2 木島照夫)