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「お茶の間の孤独」から生ずること

〇100%情報が保障される会話とは?

デフファミリー(両親が聾者である家族)では、家族全員が手話で会話をしています。子ども達は手話で会話をする両親に育てられているので、当然、手話を母語として育っています。先日、あるデフファミリーのお母さんがこうおっしゃいました。「この前、お父さんととても大事な、子ども達には聞かれたくない話をしていたんです。ところが、それを子どもは見ていたんですね。学校の話だったのですが、子どもはその話をいつのまにか知っていて、私に話してくるのでびっくりしてしまいました。きっと私達の会話を見ていたんですね。」と。

聴者の家庭でも同じように、両親の話、親と兄弟の話、それがひそひそと、こっそり話されるほど、子どもは何の話だろうと興味津々、盗み聞きしてしまうことはよくあることです。聞こえにくい子ども達にも手話という言語があれば、こうした「盗み見」ができ、情報を収集することができることを示しています。(ここで言いたいことは盗み見の是非や盗み見をされないために手話を使わない方がよいということではなく、情報が常に100%入ることの大切さです)。

 

〇WISCⅣ「言語理解」の結果から

話は少し飛びますが、先日、ある聾学校小学部5年生15名を対象にWISC(ウィスク)という検査をやりました。この検査はその子どもたちが5年前の年長さんの時にも一度やっています。その時の検査結果と比較してみて、改めて気づいたことがあります。それは、15名の「言語理解」平均合成得点(IQ)は、年長さんの時と比べて1%水準の有意差で大きく伸び平均IQ100に達しているのにも関わらず、「言語理解」を構成する5つの下位検査、①類似、②単語、③理解、④語の推理、⑤知識のうち、①~④がそれぞれ伸びている(②単語と③理解は有意差のある伸び)のに、唯一、⑤の知識だけが前回の平均より下がっていたことです。評価点にしてマイナス1.6IQにして10くらい下がったことになるでしょうか。これには正直、驚きました。他の4つの下位検査がいずれも伸びているのですからよけいにそうです。

「知識」という下位検査は、例えば「日本で一番高い山はどこですか?」といった誰もが知っているけれど、だれも教えたことのないような常識的な一般知識がどの程度身についているのかをみる検査です。そうした一般常識的知識が、きこえない子たちは、同年齢の子が普通にもっている知識量より少ないということになります。テレビの字幕、スマホ、タブレット、様々な電光表示、最近の情報機器の発達は著しいものがありますが、それでもきこえる子ときこえない子では、持っている情報量・知識に差が出るのです。私たちのもっている「常識」と言われている知識には、ふだん話題にすらならないこともたくさんあります。それはきこえていればいつかどこかで聞きかじっていたり、いつの間にかなんとなく知っていたということも多い知識です。そしてそれを知らないと、常識がないとか言われてしまうことも少なくありません例えば小学生なら「日本で一番高い山は?」とかは誰でも知っている知識ですし、中高生なら「日本で一番人口の多い都道府県は?」とか「日本の総理大臣は?」などもそうでしょう。 きこえない人が「常識がない」とか「空気が読めない」とか言われることがあるのは、こうした普通きこえる人なら誰でも知っているけれどとくに誰かが教えたというわけではない知識が身についていないことがあるからです。

このような結果をみると「情報は自分から取りに行くもの」だということばが改めて思い出されます。小学校5年生ならその大事な意味をそろそろ自覚させていく必要があるのだなとも思いました。また、同時に、家庭の親御さんたちも何気ない情報こそ落ちまくるという意識をもっていただくことがとても大事だと改めて思いました。

そういう意味では、まずは家庭内での情報保障環境の見直しをし、デフファミリーに学ぶ必要があると思います。デフファミリーでは家族の会話が「手話」という共通言語で保障されているので、気をつけて見さえすれば、どんな所にいても目から情報が100パーセント入ってきます。


 どんなことに気をつけるか?

家庭の会話はききとれない.jpgでは、聞こえない子どもが聞こえる家族の中に一人いる場合は、どのようなことが起こっているのでしょう。そのことをまず自覚する必要があるでしょう。聞こえない子どもが、3メートルも離れた所にいる時、お母さんとお父さんが話している会話はまず耳からは入らないでしょう。また、テレビを見ながら、ゲームをしながら聞いている「・・ながら聞き」も聞こえる子は自然にやってのけているわけですが、聞こえない子にとってそれは難しいことです。また、家族が同じ部屋の中のあちこちにいて、音声言語がとびかう会話の中で、今お母さんがしゃべった、それに対してお兄ちゃんが応えた、次にお父さんがなんか言っているなどという、声を聞き分け、どんな会話が繰り広げられているかを知ることは、聞こえない子にとっては難しいことです。こうしたことが、家族の中で理解されず、配慮されないままに育った時に「お茶の間の孤独」ということが言われるようになるわけです。聞こえる立場の人が、聞こえない子どものこうした立場を気づいたり、理解したりすることは簡単なようで実はなかなか難しいことです。とくに昨今は人工内耳が普及し、2,3人の会話の中で音声言語で会話が成立するようになると、ますます情報が落ちていることが見えにくくなります。ですから、お子さんが幼ない時に、ご両親にしっかりとこの意味を理解してもらうことが大切だと思います。それが真の意味での家族の幸せ、聞こない子どもにとっては家族の中に居場所があり、自分が愛され尊重されていること、そして周りへの信頼感や積極的にかかわっていく意欲、自分自身を肯定する気持ちを育てることにつながるでしょうし、子ども自身の豊かな知識・情報の獲得を保障することにもつながるのではないかと思います。

まずは私たちもデフファミリーと同じように、きこえる家族の中でも手話をつけながら皆で会話する習慣、手話で色々な話ができるよう力をつけることが大切です。デフファミリーのようにはならなくても、少しずつ、長期計画で家族皆で育ちあえばいいと思います。見えにくい心の育ち、心のあり方にかかわる問題であるだけに、聞こえる立場の者からはなかなか気づいてあげられないかもしれませんが、きこえない子たちが大好きな家族の中でさびしさやあきらめを感じないよう、また豊かな知識が身につくよう、聴こえない乳幼児を持つ親御さんたちには今から少しずつ準備していっていただきたく思います。

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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