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「難聴理解授業」~小学校に通う難聴児支援の第一歩 

 先日、聾学校、難聴学級、通常学級に通う子どもの保護者と教員、支援者が一堂に集まって話し合う年1回のイベントがK市で開かれました。そこでのパネルディスカッションで出されたのは、地域の学校に通っている子どもたちが必ずしも情報保障が十分とは言えない教育環境の下におかれている現状です。

例えば、地域の普通小学校に通っている子どもの保護者からは、「教室の席に配慮してほしい」とあらかじめ要望していたのに出席番号順で一番後ろの席になったとか、「指示などはできるだけ板書してほしい」と要望しても「30数人のクラスの児童をみているので無理」と断られたとか、「難聴理解授業をやらせてほしい」と要望してもなかなか受け入れてもらえなかったなどさまざまな問題点が出されていました。

また、通常学級の巡回訪問を実施しているSTの方からは、難聴の子どもたちは騒音状態の中に置かれていることが多く、グループ学習では子どもの発言はききとれず配慮もないこと、せっかく「ロジャー(FM波を利用した補聴援助機器)」を使っていてもグループ学習などでは有効に活用されていないこと、ききとれなかったりわからなかったりしても難聴児本人から「わからない」と言いにくい雰囲気があることなどが出されました。さらに、「ロールモデル」としての成人難聴・聾者に出会うチャンスがないことや多様な難聴児集団の必要性なども話されました。

 

〇「参加」するために「合理的な配慮」は必要

配慮を求めることは「特別」なことか?.pptx.jpg右の絵は、「平等」と「公平」(日本語訳が適切かどうかわかりませんが)とをわかりやすく示した絵です。例えば、教室でロジャーを使うことや必要事項を板書すること、あるいは英語のヒアリングで字幕スーパーを使うことなどを、「逆差別になる」とか「あなただけ皆と違う特別なことはできません」と断るのが左の「平等」の絵です。同じ場面(絵では皆と同じように野球観戦と楽しむ)に参加するために、必要な配慮(合理的配慮)をするのが右の「公平」の絵です。他のきこえる子と同じように授業に参加するために適切な範囲での配慮をしたのが右の絵ということになります。

 このような、障害ある人に対して、配慮すれば差がなくなり、同じ場面に参加できるようになる、ということを実現するために制定されたのが「障害者差別解消法」(2016年施行)です。この法律のキーポイントは「合理的な配慮」ということで、ちょっと努力すれば実現できることをやろうということです。ですから、学校は(とりわけ公立学校は義務として)障害ある子どもからの何らかの配慮の求めに対して、以下のことが求められています。

①障害ある子どもの状況に応じて、

②他の児童と同様に教育を受けるために、

③過度な負担にならない範囲で、

④障壁になることの解消に向けた配慮を行うこと

合理的配慮に欠ける例.pptx.jpg 

こうした配慮をこの法律では「合理的な配慮」といっており、初めに述べたような「指示事項を板書する」とか「教室の席を前の方にする」とか「授業で先生が補聴援助機器を首から掛ける」といったことは、少しだけ配慮すればできることですから「合理的配慮」の範囲にあると言えます(右表はろうあ連盟がまとめた『合理的配慮に欠ける事例』)。

 

〇「障害理解授業」の必要性~私自身の経験から

さて、難聴という障害は、周りから理解されにくい障害です。また、本人自身も自分が何をどこまでわかっているのかが自覚しにくい障害です(自分でこれなら100%わかるというコミュニケーション手段すなわち手話・指文字・文字などの視覚的手段がない限り、補聴器をしても人工内耳をしても音声だけで100%のコミュニケーションにはならない。聴者からみて80%位の理解であっても本人にはそれが常に100%だから自己理解が難しい)。

情報疎外が語彙獲得を阻む.jpgこのような「わからない」状態がずっと続いていくと、子どもはだんだんと「わかろう」とか「知りたい」とか「尋ねよう」いった気持ちが失せていきます。ただ、わからないままに教室で座っているだけになっても、この子たちは立ち歩くこともないので「手がかからず」、わからなくても周りをみて遅れながらも同じ行動をとれるので、担任も「とくに問題がない」と思い、放置されることが多いです。右図は家庭の中で情報から疎外された難聴児の姿ですが、これを学校の教室に置き換えても同じです。

〇『難聴理解かるた』を使って

難聴児は自分を理解している?.jpgこのような子どもと会って「何か困っていることない?」ときいても、たいていは「別に・・」「特にない・・」「大丈夫・・」と答えます。何がわかって何がわからないかもよくわからず、自分が実際に困ることがあってもどうすればこの状況が解決できるのかもわからないのです。

しかし、このような子どもに、難聴学級・通級指導など個別の場面で、『難聴理解かるた』を使って「こういうことある?」と尋ねたり、かるたの絵を一つひとつ見ながら「よくある」「時々ある」「あまりない」「全く

こんな経験ある?.jpgない」などに分けて分類させると、「ぼくの場合は・・」と、少しずつ自分のおかれた状況や困り感に目を向けるようになります。そして、こんな時にはどうすればいいと思うか、自分の困り感をどうすれば解決できるかを一緒に考えていきます。さらに「難聴理解かるた」にはないけれど自分にはこういうことがあって困ったなどのことがあれば、そこから解決の方法を考えたり、クラスのみんなにもわかってもらおうと自分自身の「難聴理解かるた」をつくったりします。

このような難聴児自身の自己理解を進めながら母学級での難聴理解授業につなげていきます。ただ、高学年児童ならこのような取り組どうすればいいと思う?.jpgみができますが、低学年の児童ではまだそこまでは難しいので、低学年の場合は、担任と保護者の協力を得て母学級での難聴理解授業に取り組みます。

保護者に話してもらう中身は時間にもよりますが、わが子が生まれたときの思いやどのように育ててきたか、子どものよさとか将来の夢など、また、どんなときに困るのか、そういうときにどう手伝ってもらえるとたすかるかなどでしょうか。こういった内容を紙芝居などにするのが低学年の子にはわかりやすくベストです。また、子どもたちからの素朴な疑問・質問にも答えてもらうとよいと思います。

例えば、よくある質問は・・

難聴理解授業の進め方.pptx.jpgのサムネール画像①耳にかけているのは何?

②補聴器していればはっきりきこえているんでしょ?(めがねみたいに) また、どこからでもきこえるんでしょ?(後ろからでも、数メートル離れていても)

③話せるのだからきこえているんでしょ?(話せない人は手話を使っているから)

④どうしてうまく話せないの?(発音が悪いの?)

⑤大きな声で区切って話せばきこえるんでしょ?(た・ろ・う・く・ん、と)

⑥みんなと同じにやれているから困っていないよね?

⑦どうして、別の学級や学校(通級)に行っているの? など

 

どんな配慮が必要?①.pptx.jpg

 右の二つのファイルにある4つの場面。このままでは難聴児は聞き取れません。では、どのような配慮が必要でしょうか? ここで必要とする配慮は、ほんのちょっとした手間をその子にかけるかかけないかの範囲ですし、その子がわかることはみんなにとっても役立つことが多いです。その利点も知っておきたいですね。(木島)

 

どんな配慮が必要?②.pptx.jpgさて、本会では、ここでも引用した『難聴理解かるた』(1,900円)と『難聴児はどんなことで困るのか?」(700円)という冊子を出版しています。この冊子は難聴児の困り感を本人、保護者、専門家の立場からわかりやすく解説した冊子です。ぜひ、参考にしていただければと思います。

HP>出版案内③「難聴理解かるた」参照

nanchosien.com/publish/cat57/



┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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