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インテグレーション幼児・児童に必要な園や学校での配慮とは?

最近、地域の普通幼稚園・保育園(以下、普通校)や小学校に通う子どもいわゆるインテグレーション(以下、インテ)が増加する傾向にあります。聾学校がよいか普通校がよいか学校自体の長所・短所がありますし、家庭の条件やその子どもの特性もあるので一般的にどちらがよいとは言えません。ケースバイケースで、その時々で考えていくしかあり

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ません。ただ、私個人としては、聾学校が通学できる範囲にあり、毎日通える条件が満たせるのであれば、聾学校の方が子どもにとって安心できる環境(100%見てわかる手話のある環境なので勉強もよくわかるし、友達とも心置きなくおしゃべりできる、冗談の言い合える環境)だと思うので、まず聾学校をおススメします。例えば右の図のような、先生の言うことはわかるけれど次々と発言する子どもの話した内容はさっぱりわからない、ということは手話のある聾学校ではあり得ないからです。最初の導入と最後の結論だけわかり、そのプロセスがスカスカということは、100%見える環境の中では起こりません。でも、見えなくてもそれでも勉強なんとかなっているよ、というのは教科書や参考書があるからです。授業中の友達の発言がわからなくても教科書さえあれば勉強の中身はわかる。それでなんとかなっているわけです。

 

〇「聾学校ってレベル低いよね・・」

「聾学校に行くと言語力がつかない。勉強が遅れる。手話しか使えなくなる」とおっしゃる医師やSTの方がおられます。しかしそれは事実誤認です。『手話で育つ豊かな世界』(出版物紹介欄参照)をぜひお読みください。この本に登場する手話を使う某公立聾学校(国私立ではありません)の大学進学率は201620205年間平均で58%です。聴児の全国平均56%(2019)よりも高いです。毎年行われる全国学力テストの結果も乳相・幼稚部・小学部とあがった子どもたちは、例年、算数も国語も全国平均点より高いです。

また、「きこえないと音楽とか楽しめないでしょ」とおっしゃる医師やSTの方もおられます。これまた事実誤認です。この聾学校小学部児童の人工内耳装用児は全体の15%。高度・重度難聴で補聴器の児童が60%以上を占めますが、でも子どもたちは音楽が好きです。そして、この聾学校は4年連続で「日本学校合奏コンクール」で都道府県代表となり銀賞をとっています(特別支援学校の中では全国大会に出場しているのはこの聾学校だけです。ただしさすがに金賞受賞はまだ未経験ですが・・)。これが「100%見てわかる勉強、100%見てわかるコミュニケーション」がもたらす豊かな可能性の結果です。自己肯定感と手話。聴力はあまり関係ありません。

 

〇聾学校に通えない場合の支援は・・

さて、それでも聾学校に通える条件がない子どもたちもいます。その場合は、地域の小学校に行くことになります。このような子どもたちを支援する場として難聴学級がありますが、聾学校からも地域の小学校や園に行き、担任の先生や通級する難聴学級の先生方と懇談する機会をもったりすることが必要です。きこえない、きこえにくいということを配慮してもらえるよう、子どもが在籍する機関の担任を支援することです。この「配慮すること」をやっていただくために、その前にしなければならない大事なことがあります。それは、「聴覚障害を理解してもらうこと」です。しかし、実際には、きこえない、きこえにくいということはどのようなことか、一般の方々に理解してもらうことは、なかなか大変なことです。盲や身体障害の方は目で見てわかる障害ですが、聴覚障害は見た目ではわからないので、特別に何か配慮が必要というようにはまず思えないでしょう。特に、軽・中度難聴や人工内耳装用児であればペラペラしゃべっているので、一般の方々には、きこえない、きこえにくい子どもだということがわからなかったり、忘れられてしまったりすることがあり、併せて必要な配慮も忘れられることが多々起きてくるわけです。

そこで、きこえない子たちは、このようなきこえの状況に置かれているということ、このような誤解を受け困ることもある、というように、しっかり理解してもらわないと「だったらどうすればいいか」という解決策、打開策を考える段階には進みません。ですから、『きこえない、きこえにくい』という障害をきちんと理解してもらうことに時間をかけなければならないのです。

 

〇難聴理解と難聴児への配慮

まず、一般の方々がどのような誤解をしているのか考えてみましょう。まず、「補聴器をつけていれば自分たちと同じようにきこえている」と思っている方は多いものです。眼鏡をかければよく見えるようになる感覚で、補聴器も同じと捉えるわけです。しかし、感音性難聴の場合、耳から入ってくる音声は、歪んでいたり、ぼやけていたりすしますし、騒音下ではまさに騒音に負けて、必要な音声がよくきこえない、全くきこえないという状況におかれていることが理解されないわけです。ですから、難聴児(者)が下を向いていようがうるさい所であろうがおかまいなしに、つい音声で話しかけて通じた、伝えたと思ってしまう人たちがたくさんいるわけです。そして、「補聴器をつけていれば、どこからでも音が入ると思っている」と思われている。つまり、基本的に、補聴器が1m以内の所から音が入るように調整されているものであることを知らなければ、離れた所からでもつい呼びかけられてしまう、そんな状況におかれるわけです。

また、「みんなと同じように行動できているから、何も困ることはない。」と思われている。たとえば、みんながクレヨンを取りに行ったから、自分もクレヨンを持ってくる、こうした行動は、難聴児にとって言語指示がわからなくても、周りを見て状況判断すればできる行動です。それを見て担任の先生は、何の問題もないと判断してしまうわけです。しかし、実際それでいいのかというと、そんなはずはありません。いつ、何が、どこで、どのように始まるのかといった言語による理解がされないままに、見よう見まねでそのことが始まるのは、本人の立場にしてみればとても不安なことです。本人にわかるような言語指示で、確実に伝える配慮をしてもらわなければなりません。

さらに、「1対1の場面で、音声言語でしっかりコミュニケーションができるので、誰とでも、どんな場面でも音声言語で通じあえる」と思われることもよくあります。子どもにしっかり関わってきたお母さんもこのような誤解をすることがあります。しかし、実際には、難聴児にとって、話し手の声や口形に注意が向けられて初めて音声言語がわかるのであって、3人以上の会話で、音声言語がとびかう時に、その声を追い切れず、誰が何を話しているのかわからなくなるという音声でのコミュニケーションの限界が理解されないことはけっこう多いものです。ですから、グループでの話し合いの配慮も理解してもらう必要があります。

このように、難聴児(者)のきこえ方、補聴器や人工内耳の効果と限界、集団コミュニケーションの限界をきちんと理解してもらって初めて、以下のような配慮を要望できます。

「大きめの声で、ゆっくり話してほしい」

「目が合って、話し手に注意が向けられてから話しかけてほしい」

「後ろから、横から呼ばずに、必ず肩を優しく叩いて、振り向いたのを確認してから話しかけてほしい」

「騒音を減らすために、椅子にテニスボールをつけてほしい」

「3人以上の会話になると、誰が今話しているのかがわからないので、合図してから話してほしい」

「ことばでわかって行動しているか、状況判断で行動しているかをきちんと見てほしい」

「教室を歩きながら話さないでください」

「できれば手話や指文字を使ってほしい」・・・といったお願いの意味が実感され、配慮しなければなあという意識につながるわけです。それでも、クラスの環境は様々であり、20人とか30人の中の一人のためのお願いですから、ベストな支援が保障されるとは限らず、後は、祈るばかりというのがインテグレーションの現状でもあるわけです。しかし、少しでもより良い方向に環境を整えることが私たち大人の役割なのだろうと思います。

 

☆参考になる図書(出版物案内へ)

『難聴理解かるた』 (本会発行・1,900円) 

『難聴児はどんなことで困るのか?』(本会発行・A5版700円)

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 難聴児に関わる方に、難聴児の困り感がどのようなものかを知っていただき、どのような配慮が必要なのかを考えていただくためにかるたにしてみました。また、担任の先生にも難聴児のことを知っていただくために冊子にもしました。これらの教材・書籍を使って普通学級で「難聴理解授業」をすることもできます。

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『指文字表』

指文字もクラスの友達に覚えてもらうと便利です。筆談は道具がないと難しいですが、指文字はからだ、いや指さえ動けば簡単なことが伝えられます。

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┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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