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マスクをつけて授業!~学校で難聴児にどう対応すればよいか?

 る中学校の先生から以下のように質問をいただきました。今後、緊急事態宣言が解除され徐々に学校が始まると思いますが、当面はマスク着用が必須となると、難聴児にとっては学校が始まる喜びだけでは終わりません。相手の口が見えないとコミュニケ―ションに困りますから。とても大事な問題なので質問を引用させていただき、その対応を考えてみたいと思います。


「私は中学校の教員です。今年度から1年生で難聴の生徒が入学してきます。その生徒は両耳中等度の感音性難聴で補聴器をつけています。聞き取るときは補聴器と読話で理解しているようです。複数で話をする時は誰が話しているのか口の動きで確認しているらしいのですが、現在全員がマスクをしているので、誰が話をしているのかわからないそうです。また、本人はわかりたいと思っているが早いテンポになればどんどんついていけなくなってしまうのが悔しいそうです。
 公立学校でできる支援にはどのようなものがあるか教えていただきたいです。今は透明のフェイスシールドを準備しています。しかし、周りの生徒全員につけさせることもできない状態です。どのようにすればよいのか教えていただければ嬉しいです」

 新型コロナの影響は、難聴児・者のコミュニケーションに大きな影響をもたらします。中等度難聴といえども聴覚だけで複数の人と会話することは困難です。ではどうすればよいのでしょうか? 

 

1対1や少人数での会話は・・

生徒が常にマスクをしている状態では、難聴生徒は1対1の会話場面でも相手の口を読むことができません(マスクをしていなくても2~3メートル離れたら読話は難しい)。この場合は、簡単なことなら単語の空書や身振り、指文字(覚えてもらうと便利)、きちんと伝えなければならないことは文字での筆談、スマホの音声翻訳アプリなどの方法での対応が必要でしょう。

それから、この生徒はかなり聴覚や読話が使えているようで、集団での雑談にもある程度ついていけているようです。しかし、最初は自分のことを気にしてくれていても話が盛り上がってくれば、忘れられてしまいます。そうすると話題からこぼれてしまう。それが本人には悔しい。では、悔しい思いをした本人はどうしているのでしょう? 私たちは簡単に「わからなかったら、わからないと言いなさい」と言いますが、話が盛り上がっているときに「もう一回言って」というのは場の空気が読める子にはとても難しいことです。難聴児・者は常にこの問題に悩まされます。他愛もない雑談であれば聞き流せば済むのかもしれませんが、他愛もない雑談だからこそ交じっていたいという本人の気持ちも理解できます。音声だけの会話にはこの問題はどこまでもつきまといます。それに本人がどう対応するかはこれから考えていかなければならない問題でしょう。


〇教室での授業は・・

 教室での授業の場面は、距離や角度、広さ、騒音の有無、多人数といった問題でさらに

教室での情報保障①.jpg他者の発言理解は難しくなります。

①先生が生徒全体に質問する→②生徒が挙手する→③先生が特定の生徒を指名する→④指名された生徒が自分の考えたことを話す、という授業パターンでの流れを考えてみます。難聴生徒は、通常、①は、先生の声と口形を読み取れる位置に座っていると考えると、それなりに理解できるでしょう(フェイスシールド着用です)。②③も見ていればわかります。しかし、④での指名された生徒の話す内容は、マスクをしていますし、さらに距離や方向の問題もありますし補聴器だけでその発言を理解することは困難でしょう。その場合はどうすればよいでしょう?

 

⑤先生が再度、その生徒の応えた内容を要約して難聴生徒に伝える(口話通訳)ことがまず必要でしょうか。これは面倒で時間がかかると思われるかもしれませんが、30~40人の中には必ずゆっくり気味の生徒もいますから、彼らの理解にも役立つと思います。できれば、簡単にでもよいので理解の手掛かりになる板書をしてもらえると難聴生徒はたすかります。また、先生に「ロジャー」などのFM補聴システムを使ってもらうのも援かります。多少の騒音でも先生の声がクリアにききとれます。

 

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〇その他の場面での配慮

Q1.教室で難聴児が座る位置は?

 通常は、明るい光を背にできる窓際か中央あたりの1~2列目あたりが、先生にも近く、全体を見渡せる位置なので好まれます。生徒の好みもあるので本人にきくのがよいと思います。

 

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Q2.先生の話にどんな配慮が?

 黒板の方を向いて話されると先生の口形は見えません。板書しながら話すことは避けてほしいです。難聴生徒に顔を向けて口形を見せてください。また、その生徒がノートをとっているときに話すのもNGです。顔を上げてちゃんと先生の方を向いているときに話して下さい。

 

教室での情報保障④.jpgQ3.机間巡視のときは?

 教室を歩きながら話されると先生の口形も見えないし、距離も遠くなり、ほとんどに何もききとれません。話すときは、面倒でもその子の近くで顔を向けて話して下さい。

 


Q4.教室の後ろの児童の発言は?

 

教室での情報保障⑤.pptx.jpgのサムネール画像教室の後ろのほうの子どもが何か言ってもわかりません。先生が再度児童の発言を復唱してあげてください。

 


Q5.グループでの話し合いは?

 発言者は挙手し、難聴生徒が発言者を確認してから、口形を見せて話させてください。(マスクとれない場合は別に補助の先生が必要になると思います)。また、複数の生徒が同時に話すとわからなくなりま

教室での情報保障⑥.jpgす。順番を守って話すのが鉄則です。少人数なら「ロジャー」の活用も可能です。

 

教室での情報保障⑦.jpgQ6.校内放送は?

 突然の校内放送はききとれません。スピーカーには口形もありませんし、機械音は人の声と音質が違います。また休憩時間などは周りの騒音もあります。近くにいる人が、文字なども使って「通訳」することが必要です。

 

 


Q7. 校長先生の講話、どういう配慮が?

 

教室での情報保障⑧.jpg距離の問題、反響音、マイクの音質などまずわからないことが多いです。FMマイクの使用、文字カードなど理解の手掛かりとなる視覚情報も使ってほしいです。横に要約筆記の先生がつくとか、手話がわかる生徒であれば、ぜひ手話通訳をつけてほしいです。

 

〇そのほかの場面では・・

 学校では難聴生徒の苦手な場面がほかにもたくさんあります。このような場面でどう配

教室での情報保障⑨.jpg慮ができるか、生徒と相談しながら考えていただけるとありがたいです。

 最後に大事なことは、難聴生徒が本当に理解できたかを確認してください。もし本当にわかったかどうか不確実だと思ったら、その難聴生徒に理解したことを再度復唱させて下さい。

 

〇障害ある子どもたちのために力を貸して下さい

 「いろいろありすぎて面倒。忙しくてやっていられない」という先生もいらっしゃいます。それも理解できます。今の教育現場とくに中学校がどれほど多忙であるかもわかります。ですから一度に全てではなく、できることから一つだけでもかまいません。

 この生徒のために何かできることはないか。そう考えていただける気持ちは、必ずその生徒だけでなくほかの生徒たちにも伝わるはず、と思います。中学時代は長い人生の中でほんの一瞬かもしれませんが、先生の熱意と誠実さを体験した生徒たちの心の中には、これからの人生を支えていく上で大切な、一人一人を大事にする心が育まれていくと思います。


参考図書・教材】

「難聴児はどんなことで困るのか?」 700

「難聴理解かるた」1,900

「新版・きこえにくいお子さんのために」1,000



┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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