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一側性難聴児を育てている保護者の方へ

側性難聴は、新スクが普及するにつれて多く発見されるようになってきましたが、言語獲得が困難ということは基本的にはないので、耳鼻科やその後の療育できちんとその対応について説明してもらえないなどのことがあります。

一側性難聴困りごと②.jpgのサムネール画像しかし、社会に出た本人たちはそれなりに困り感をもっていることも多く、トラブルが起きたり、その結果、本人たちも心理的に疲れてしまったり、説明がしにくく説明してもすぐに忘れられてしまうなどのことから、自己開示(カミングアウト)することをあきらている人も少なくありません。本人たちがカミングアウトしたくても、それを受け入れる環境がないと難しい。きこえる側、社会の側にもその体制が必要なのです。そのためにはまず一側性難聴ってどんな障害なのか? 本人たちはどういうときに困るのか? どんな配慮が必要なのか? そうした一側性難聴と一側性難聴困りごと③.pptx.jpgいう障害について私たちも関心をもつ、ということがまずは必要です。


以下の文章は、ご自身が一側性難聴であるT先生(当時京都市内中学校難聴学級担任、現大学教員)に十数年前に書いていただいた文章です。当事者の話として、とても具体的でわかりやすい文章なのでぜひ紹介したいと思います

    

一側性難聴児をおもちの保護者の方へ

自身は右耳は正常ですが、左耳は100dB以上,まったく使えていません。私の出身はH市内。発見は小学校入学時の検診。理由は不明。状況証拠としては、4才のときに「小児リューマチ」で数ヶ月入院、というこれだけ。検診時の発見なので、親は日常で自分が気がつかなかったことをかなり悔い、H大学付属病院などいろいろつれて回りましたが、医者も『薬が原因なら、両耳やられるケースが多いので珍しい』とはいったけれど、結局原因はわからないままでした。

 私自身の記憶はといえば、「左が聞こえない」という意識は全くありません。小学校に上がったあとは「左が聞こえない」ことに気がついてはいましたが、それが不便だとは思ったこともない。ただ、聞こえる右耳を指でふさいでは、「ほんまにこうしたら聞こえないや」と思っていたことは覚えています。
 それから...。寝るときに同じ部屋に寝ている兄弟や親のいびきがうるさいときに、聞こえる右耳を枕にあてて寝る習慣があったこともよく覚えています。ただ、その後、母と左手を繋いで歩いていたりするときに、私がなんども「えっ、えっ」と右の耳を向けて聞き返すと、母が「そんな聞き返すのはみっともないからやめなさい」とよく言いました。子供心に、そうかと思い、「まあ、これは言うべきではないことなんだろうな」と思ってしまいました。
 

一側性難聴は隠せます。一般的な学校でのスクリーニングもちょっとした視線やなんとなくボタンをおすことでなんなく通過できます。(隠そうと思ったら)
 中・高とバスケットをしていましたが、背もそれほど高くないので真ん中を走ってボールを回す役でした。右にはさっとパスが出せるけど、左はちょっと苦手というか、遅くなる。結局レギュラーになれず、高校1年で挫折したのですが、それを自分の中では左耳のせいにしました。(本当は厳しい練習がいやだっただけなのだろうと思う)
 京都大学に入って2回生の時に、聾者であるWさん(現在T技術大学教員)と出会います。彼女は当時農学部から教育学部に転部し、「カミングアウト」した彼女は、周囲の学生に働きかけ始めました。50人という小さな学部でそのうち女子が123人。下宿をしていたこと、女子に流行りの河合隼雄心理学には興味があまりなかったこと、などの共通点があってかなり早い段階で、彼女とつきあい始めました。週に1度、彼女の下宿に集まり、手話を習い、大学と交渉し(ノートテイクや手話通訳)始めました。この時に初めて自然に私も自分のことを周囲に言うようになりました。
 

ここから始まって結局私もこの業界に足をつっこんだのですから、人生は面白いなあと思います。しかし、この大学の時の出会いはとても大事でした。
 今でもよく覚えている光景があります。大学卒業間近、2人とも進路やいろいろなことでちょっと重っ苦しい気持ちを抱えて、底冷えのする京都を歩いていました。舞っていた雪がふっとやみました。彼女が『静かになったね』と言ったので、私は「ほんと、静かになったね」と返しました。...考えてみれば、雪は音を立てて降らないので、『うるさかったのが静かになった』という言い方は当てはまらないのですが、その時に非常に自然にそういう気がした。若者特有の時期が彼女にも私にもあり、自分や周囲にハリセンボンだったときもあるのですが、この時の共感のようなものはとても大きかったと思います。

 

 さて、ちょっと個人的な話を長々と書きました。今は「一側性難聴」のことははっきり自覚できますし、不便なことをあげることができます。

音の方向がわからない
 40人の普通学級も教えているのですが、時々生徒のおしゃべりなどを注意するのに『ほらそこ!』と声の「質」だけで判断して当ててしまい、間違ったりすることがあります。
 道を歩いていて、車などの音がどこから来るのかわからないことも多い。いっしょに歩いている友達が腕を引っ張ってくれることもしょっちゅう。
 グランドを歩いていて「T先生!」と呼ばれると、360度回転してしまう。

雑音が不快
 授業でもなんでも「雑音」はなんとなく落ち着かない。今はどのクラスの授業でも年度の最初にこのことをはっきり言います。体育館のざわざわのなかでのエコーのかかっていそうなマイクでわんわんしゃべられるととても聞きづらい。

何より・・・宴会が苦手
 私は大の酒飲みで()友人ともビールやワインを片手にいつまでもおしゃべりするのが好きなのですが、大勢の「宴会」で多数のグループの会話に的確に入るのは苦手。私の宴会パターンは右隣に座る人をターゲットにしてとにかく一対一の関係にしてしまいます。飽きたら(失礼)その方を解放して次の方を呼ぶ・・または、宴たけなわになると席を自分で移動してねらった人の左に座ってまた一対一の会話を続ける・・というはた迷惑なパターン。

しかし、周囲に言わなければ「誤解」される。
 学校に勤め始めて若いうちは、何度も「あなたは勝手つんぼだ」というようないいかたを年配の方にされたことがあります。今は年度の最初の職員会議の昼、歓迎会を兼ねた昼食の席で簡単な自己紹介をするときに必ず言います。「左耳は聞こえません。愛の言葉をささやいてくださるのなら、右耳からお願いします」と。毎年言います。難聴学級の生徒にも言います。

 

 一側性難聴の統計というのは新スクなら確実にわかる可能性がありますが、前に書いたとおり、一般的な学校のスクリーニングでは必ずしもつかめないのではないでしょうか。しかし、意外に多いと思います。私の乱暴な感触では2300にんに一人ぐらい。現に今の学校にもいます。
 聞こえないか聞こえるかで分類されると「聞こえる」側です。私は自分が高校から合唱を続けていることもあり、音楽も好きです。微妙なハーモニーもわかります。ただ、モノクロとステレオの違いはわからない。
 学校の中で「音声情報」に苦労したことは先に書いた「雑音」状態以外にはそれほどありません。ただ、教室では音源にまたは中央に対して良耳が傾けられる席であることは望ましい。ということは、自分でそのことを先生なり周囲なりに言える力が必要と言うことですね。45人でのおしゃべりの時。私は立つ位置に非常に気を遣います。数人で食事に行くとき、座席をぱっと見て座りやすい位置(全体が右に来る位置)を選びます。どうしても左隣に人がいるときにはもう一度、「ごめんね、こっち側が聞こえないので」と言います。職員室の「島」も同じです。

 

 保護者には伝えたいことはたくさんあります。保護者・・というか、私のかつての「母」にという意味でしょうね。「あなたはあなたの要求を口にしてもいいんだよ」ということを言ってほしかった。「何度も聞き返してもいいよ」と言ってほしかった。
 その「伝える」力はやはり単に「知識」だけではつかないでしょう。今、目の前の聞こえにくい中学生(N中学難聴学級生徒)たちが、聞こえにくい自分に対してきちんと自信をもって仲間と連帯して生きていく為にも、「自分」ができつつある思春期に仲間と出会うことはとても大事なことだと思います。なおかつ、自分を内から支える「学力」をつけることも。私の今の問題意識はこの「集団」と「学力」の保障ということにつきます。
 

IMG_20200410_153744 (1).jpgのサムネール画像まり、通級であるとか、難聴学級という「場」でなくてもいいと思うのですが、その情報のネットワークの中にその子や親がいること。年に1度でもそういった仲間と出会ったり、少し上の人の話が聞けること(特に親にとって)。そういうことを保障するのが私たち専門家の一つの役割だと思います。

 

 以上が、一側性難聴T先生の手記です。

 最後に児童文学作品を紹介しておきます。突発性難聴により一側性難聴になった中学生をテーマにした作品で、日本児童文学者協会・長編児童文学新人賞を受賞した素晴らしい作品です。ぜひご一読いただければ幸いです。

『蝶の羽ばたき、その先へ』森埜こみち、2019

小峰書店、1400円+税

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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