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一体型・児童発達支援事業所(児発)を立ち上げたい!―難聴児のことばの発達と保護者の就労を支えるために―

〇‟子どもも仕事も"~両立をめざすのが時代の要請

これまで聾学校とくに幼稚部では、学校の授業などへの保護者の付き添いを求めてきました。「仕事を辞めて子どもに付き添ってね」と、多くの聾学校が(主に)母親に要求してきました。その結果、保護者の就労とくにフルタイムでの就労は極めて困難というという状況が続いてきました。「子どもをとるか仕事をとるか」という二者択一の選択を迫られ、「子どもをとるのが当たり前」といった暗黙のプレッシャーがあったのは否定できないと思います(例えば「聴覚障害児を育てたお母さんをたたえる会」などはその価値観を背後から支えてきたと言えます。今はお父さんも可ということらしいですが)。

しかし、今、社会のあり方は大きく変わってきています。もっと女性の社会参加を促進し、母親も仕事をしながら子育てができるようにしようという方向に社会は動き始めています。

共働きでの子育てが当たり前になり、福祉にも教育にもお金を使っている欧米諸国並みに(因みに日本の教育予算はOECDの中でほぼ最下位クラス)、もっと女性の社会進出を進めようということが時代の要請としてあります。また、現実的な理由として、20年以上に渡って私たちの所得は増えていない、つまり経済的に一向に豊かになってはいないというわが国の現実(これも先進国の中では最下位クラス)と、さらにコロナ禍なども加わり、夫婦共働きでないととても生活していけないという家庭の経済事情もあります。

 

‟子どもも仕事も"~両方を実現する難しさ

聾学校も社会のあり方と無関係というわけにはいきません。これまでのあり方に固執すれば聾学校に通う子どもたちは減少していくだけでしょう。と言うと、「別に聾学校の人数が減ってもいいよ。インテグレーションすればいいだけ。」という声がきこえてきそうですが、問題は、インテグレーション(幼児期においては地域の保育園・幼稚園、就学以降においては地域の小・中学校など)することで、どう、その子のことばの力、考える力、人と関わる力、自己肯定感など将来生きていく上での大事な力を伸ばせるのか、ということが子どもにとって大事な問題ですから、仮にインテグレーションするとしても専門的な教育を受ける機会はどの程度保障されるのか、そして、それは子どものことばの力を伸ば

うえで十分な機会・時間となっているのかということだと思います。保護者が家にいて、子どもと関わる時間が十分にあればそれはそれでよいのですが、今、問題になっているの

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は、こどもの発達保障と保護者の就労保障を同時に実現するにはどうすればよいのかということですから、「インテすりゃいいよ」というだけの話ではないのです。

右のSNSへの投稿のように、聴児の親子の場合ではあまり問題にならないような「難聴児のことばの発達」を、どう働きながら実現できるかという問題なのです。このSNSのお母さんもそれなりに生活の中で工夫され、がんばっているのですが、母親のがんばりだけに任せて、それれでほんとにいいの? ということなのです。

どのような「ことば」も(手話も日本語も)、人とのコミュニケーションの中で育つものですから、ことばの力を伸ばすためには、①きこえない子どもと関わる大人と、②共通の言語・コミュニケーション手段をもった子ども集団の存在が欠かせないのは事実です。  しかし、一般の地域の保育園や学童保育では手話は使いませんし、子どもたちみんなに話しかけられた音声日本語をリアルタイムに的確にききとることは、集団の中では難しい。かといって11で先生が難聴児に話しかけてくれたとしても、せいぜい「〇〇ちゃん、自分の××を取っておいで」といった指示程度の声掛け。それで子どもが行動できたら「ちゃんと話したらわかったね」となる。周りの子どもの行動にワンテンポ遅れて見よう見まねで判断して動いたとしても、最終的に行動出来たら「〇〇ちゃんはちゃんと適応できてますよ」となる。これで、その子のことばの力や考える力は伸びるのでしょうか?

「〇〇ちゃんはどうしてそう思ったの? 先生はね、~かなと思ったよ。」「じゃあ次はどうなるんだろうね。予想してみようか?」などといった、ある話題についての考えやイメージを膨らませる大人との個別的で丁寧な関わり・やりとり11で望むのは、難しいのが現実です。結局、地域の保育園や幼稚園では、①言語やコミュニケーション手段の問題、②施設側の人的なゆとりの問題、③支援・指導する側(先生)の専門性や指導力量の問題など、きこえない子がことばや思考力を育む環境という点で、限界があるのは事実です。

ろう学校に通わせたいか?.jpg

このような難しさを考えると、聾学校に通える条件が満たせるのならぜひ通わせたいという保護者は多く、最近実施した、ある聾学校でのアンケート調査(大都市にある乳相~小学部の公立聾学校,2022年実施)でも、聾学校で教育を受けることへの期待が右のグラフにも示されています。

とはいっても、聾学校は、ほぼ一日中というのは少ないとしても、「普段は来なくてもいいけど行事とか必要な時には学校に来てね」という聾学校は多いです。「全く付き添い要りません」という聾学校でも9時の登校と14時の下校だけは送迎が必要で、フルタイムで働く場合は、送迎支援のパートやアルバイトの方を別にさがさねばなりません。しかし、それもなかなか難しい(送迎だけでは仕事として金額的に見合わないなど)。そのため、送迎が大きなネックとなってパートタイムでの仕事にしかつけないというのが現状ですし、フルタイムで働いていれば、朝と午後に送迎をしてくれる方を探さねばなりません。さらに午後、迎えに行ったあとはどうするのかといった問題もあります。

 そのような課題を抱えつつ、それでも子どもを聾学校に通わせながらパートやフルタイ

就労したいか?.jpg

ムで働きたいという希望は圧倒的で、このアンケート調査でも、乳幼児相談・幼稚部・小学部在籍の家庭の実に99が「聾学校も就労も」という両立を希望しています。

(ただ、現状では保護者は様々な悩みを抱えています。上記アンケートの記述から一部抜粋しておきます。こうした悩みを解決するためには、「それぞれ自分で解決してね」と

今、困っていることは?.jpg

自己責任にしてしまうのではなく、皆で知恵を絞って、難聴児のことばの発達と保護者の就労の保障を社会の力で実現していくことが必要でしょう。では、具体的にどのような方法が可能なのでしょうか?

 


〇「専門的な教育・支援」と「就労」をどのように実現するか?

まず私たちは「子どもをとるのか就労をとるのか」といった二者択一の価値観から抜け出すことが前提です。また、聾学校は「母親は仕事をやめて子どもに付き添うのが当然」といった考え方を改めることも必要です。ただ、すでに書いたように、難聴児のことばの力を伸ばすためには、その成長発達を支える(専門的な力量をもった)大人の存在と共通の言語・コミュニケーション手段を使って自由に言いたいことを言い合い、互いに切磋琢磨し合える子どもの集団(とくに小学部以降)が必要です。少なくとも聾学校に通い、子どもが学校にいる時間帯(学校の時間)はそうした保障が可能でしょうし、小学校へのインテグレーションで難聴学級が校内にある場合も、ある程度上記のことは満たせるのではないでしょうか。

問題は、放課後(下校後)と長期休暇中などの時間帯です。子どもと11で関われるこの時間帯とくに幼児期においては、親(大人)は子どもと一緒に遊び、買物をし、料理をし、絵日記を書き、絵本を読み、おしゃべりすることを通して、子どものことばの力(とくに日本語)を育んできたのは事実ですし、就学前にあたる幼児期でのこの時間帯の意味は非常に大きいと言えます。しかし、就労とくにフルタイムで仕事をしている家庭の場合は、こうした親子での関わりの時間を、毎日、日中にもつことはまず不可能です。親に代わって支援できる大人の存在がやはり必要です。では、どうすれば放課後(含長期休暇)の時間帯にそれが出来るのでしょうか?

 

〇児童発達支援事業という枠組みのなかで

 今、厚労省と文科省が連携して、難聴児の切れ目のない支援を実現するために、添付した図のように、各自治体ごとで医療・療育・聾学校・行政など関係機関が連携して連絡協

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議会を作ったり、難聴児の保護者が困らないようにいつでも相談できる機関を作ったり、難聴児の支援・指導ができる発達支援事業所を整備したりなど、さまざまな支援事業が自治体ごとに計画立案されています。そして、この図の中の「中核機能イメージ」というところに、難聴児の支援ができる児童発達支援事業所・センターというのがあり、3つのタイプの事業所が挙げられています。児童発達支援事業所(以下、児発)というのは、厚労省管轄の施設で、相談・支援だけをやっているところもあれば、放課後デイサービスなどもあわせて実施しているところもあります。  これらの児発のうち図の左の「一体型」というタイプの児発は、聾学校の「空き教室等の利用を想定」とあります。聾学校の空き教室を利用して児発を立ち上げ、この児発の事業の中に、外部からの個別の相談・支援だけでなく、幼児の放課後預かり(=児童発達支援事業)と児童・生徒の放課後預かり(=放課後等デイサービス)を含めて実施することも可というタイプのものです。実際に、このタイプの事業所は、久留米聴覚特別支援学校(福岡県)と熊本聾学校にあります。

これらの児発(一体型)は、①聾学校の空き教室を利用、②幼児・児童・生徒が一定数在籍(1020名程度)、③保育所や学童保育のような放課後預かりを難聴児に特化して実施という点で共通しています。こうした施設を立ち上げることで、子どものことばの力を伸ばすことと保護者の就労を同時に保障することが可能になると考えられます。

 また、図の真ん中にあるのは「連携型」というタイプの児発です。これは従来型の「難聴児通園施設(現在は児発で統一)」もあれば、東京にある「あーとん塾」のような難聴児に特化した児発もあります(定員の関係で毎日利用は難しいようですが)。ほかにもこのタイプの事業所はあるかもしれません。

 

〇「一体型」か「連携型」か?

 それぞれの地域・聾学校にはそれぞれの事情があるので一概に言えませんが、聾学校に一定の人数が在籍しており、空き教室があるのなら「一体型」の事業所を立ち上げ、そこで幼児・児童・生徒の放課後の預かりが可能ですし、移動の負担がない分、安心です。とくに東京のような都会にある聾学校では、簡単に土地・施設の入手が出来ないので、「一体型」にはメリットがあります。一方で子どもの数が限られていたり空き教室がない聾学校では、比較的近い所にある児発との「連携型」が可能かもしれません。

 また、通常学級や難聴学級等に通っている小学校の子どもたちも、難聴児を受け入れている児発で小集団の活動など可能になるかもしれません。

いずれにせよ、これからの時代は、女性の社会進出、保護者の就労を保障すると同時に、子どもの成長・発達を保障する難聴児に特化した放課後預かりタイプの児童発達支援事業所がもっと必要になってくるのではないかと思います。

国が進める「切れ目のない難聴児支援」を真に有効なものにしていくためにも、週1~2回でも毎日でも利用でき、幼児・小学生だけでなく中・高校生も含めて、それぞれの子どもや家庭のニーズに合わせて利用できる発達支援事業所や放課後等デイサービスを作りたいと、思っています。

ぜひ、全国での児発の情報など教えてください。 木島照夫記

nanchosien@yahoo.co.jp


┃難聴児支援教材研究会
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