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「子どもの言語・認知の力をどう把握するか?」~2022オンライン講演より

 上記のようなタイトルで、ある県の聾学校と難聴学級の先生方を対象としたZoomによるオンラインの講演会を開催しました。その講演で使ったパワーポイント資料を掲載します。

〇認知発達~象徴機能(シンボル)をみることの大切さ
「9歳の壁」について.jpg

  

 今回のタイトルは標記のようなものですが、「言語」だけでなくわざわざ「認知」の力を、といっているのは理由があります。

  これまで、聴覚障害教育では、音声日本語の獲得(生活言語)⇒書記日本語の獲得(学習言語)をどう伸ばすかということに力を注いできたと思います。しかし、その結果はどうだったのでしょうか?

 右の図のように「読み」の力において、グラフの横軸の各学年に対して、縦軸の読書学年は4~6年の高学年でも読書学年は4年生を越えていない、これがこの半世紀におよぶ聴覚障害児教育の現実と言えます。これがいわゆる「9歳の壁」といわれる現象です。

 ことばを変えて言えば、コミュニケーションのためのことば(生活言語=話しことば)のレベルから、学ぶためのことば(学習言語=読み書きと思考のためのことば)のレベルに到達できていないということです。

  なぜこのような現象が起きてくるのでしょうか? 

 

卒業生進路.pptx.jpg

私は、一言で言えば「教育の仕方がどこか違っていたから」だと考えています。その証拠に下の表のようにある公立聾学校(私立・国立ではありません。念のため)の小学部を卒業した子ども(この聾学校は小学部までしかありません)たちは、その後、半数以上が大学に進学しているからです。もちろん大学進学が全てというつもりは毛頭ありませんが、一応こうした事実からも「9歳の壁」は半数以上の子が超えていると考えてよいと思います。またのことは別の検査や文科省が行う学力テストの結果からも証明できます。

  では、この学校ではどういう教育をしているのでしょうか?  こうした要因として「人工内耳の子が増えたからでは?」と考える人もいますが、学習言語は聴力のよしあしやきこえて話せるかどうかといったこととは全く関係ありません。

 その要因の一つは、0歳から手話を積極的に使っているということです(手話の種類は問いません)。手話を取り入れるメリットの一つは、よい親子関係が早い時期につくれることです。この学校では子どもがきこえない子だということを否定しません(もちろんきこえを改善すること=補聴器をつけることも否定しません)。子どもは基本的に生まれて自分のありのままをまるごと認められるわけですから結果的に自己肯定感が育ちます。自己肯定感は子どもを積極的・意欲的にします。それが言語も認知も人と関わる力も結果的に伸ばします。

 もう一つ手話のよいところは、手話は言語であるということです。言語はだれにも通じる公共性をもった最高レベルの象徴機能(=表象・シンボル)です。言語を持つことで他者(赤ちゃんの頃はママ、パパ)と通じ合うことができます。通じ合えるということはいっしょに同じものを見、同じ体験をし、それらについて自分の言いたいことや自分の思い・考えを互いに伝え合えるということです。互いに伝え合えるから考える力も育つのです。手話ならきこえない子も1歳からスタートできますが、音声言語だけの場合はもっと初語の発生時期は遅くなります。補聴器をつけても人工内耳をしてもだいたい2歳頃。つまり1年の差が生じる。たかが1年くらいの差と言ってはいけません。赤ちゃんの時の1年間の差は、大人になってからの1年間の差とは意味が違います。言語の力と認知の力を早い時期から並行して伸ばすことができるのが手話という言語です。

 いま、認知の力と言いましたが、認知の力のコアは象徴機能です。象徴機能とは、実物の代理物・機能と考えていただけたらよいでしょう。赤ちゃんは生後6か月を過ぎると頭に

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中にいろいろなことを記憶することができるようになります。どうやって? まだ言語はもたないわけですから、それは非言語的な映像・イメージと考えられます。ですからこの頃から「写真カード」が使えるようになるわけです。自分の体験したこと例えば新幹線に乗って楽しかった体験は、新幹線の写真をみれば思い出せる。このとき、写真や自分の頭の中に浮かぶ映像は、実物の代理である「象徴(シンボル)」です。また、こうした楽しかった新幹線の体験は、積木を新幹線に見立てたり、ママと一緒に紐を新幹線に見立てて「ピー、シューッ」などと再現して遊んだりもします。この時、積木やひもは新幹線の代理物ですから「象徴」です。そして、こうした象徴が発達し、やがて「しんかんせん」という日本語や手話という言語に替わっていきます。積木やひもは自分の中での象徴ですから他の人には通じないかもしれませんが、言語であればだれにも通じます。この誰にも通じるということがとても大きな意味があるわけです。1歳頃、きこえない子は音声言語はまだ持てない。それは入力される音の情報はまだ音の塊に過ぎないからです。例えば「イヌ」も「イス」も「いく」も子どもの頭の中では「イウ」レベル。音韻が100%区別できないと言語は獲得できませんから、まだまだ時間がかかるわけです(非言語的映像による象徴機能の時期がしばらく続く)。それに対して手話は視覚言語で、手話にも音韻(というのも変ですが)があり、手話の音韻(手の形、手の位置、手の動きの方向性の3つ)はちゃんと見て区別できるので、言語として獲得できるわけです。ですから子どもはその言語を使って親子でコミュニケーションしながらことばもあたまも発達させていくことができるのです。これが早期に言語をもつことのメリットの2つ目の意味です。

 このようにきこえない子も手話を使って認知能力を発達させることができますから、2歳頃には聴児と同じように本格的な概念形成の段階に入っていくことができるのです。こうした認知発達の段階を比較的簡単に把握できるのが「太田ステージ」や「質問応答関係検査」です。ちゃんと認知発達や生活言語段階から学習言語段階にステップアップするときに必要な象徴機能の発達のポイントが抑えられています。順番に書くと以下のようになります。

 

〇生活言語段階(乳児~幼児期前半)での象徴機能の発達をとらえるには?

  ①モノに名前があることがわかる(2歳前後)・・・モノ(ことば)はカテゴリー

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(概念)をもっていることがわかる。これが最初に抑えるべきポイントです。太田ステージではStage2です。2歳での言語獲得のポイントを押さえておき、3歳以降になったら「質問応答関係検査」の「類概念」によってこの力が順調に伸びて、ちゃんとモノの類概念が形成されているかどうかをチェックします。ここで躓いていると語彙を増やすことができなくなるので、ちゃんとチェックし、不十分なら「ことば絵じてん」作りをするとよいです。また、このモノ(ことば)のカテゴ

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ーが作られていてそれらのモノ同士の共通概念を取り出すことができるかどうかは、5歳以降のWISCで確認します。「類似」は「質問応答」の「類概念」よりレベルが高いです。頭の中にモノの概念が豊かに形成されていないと共通概念を言葉で取り出すことができないからです。これができない難聴児は、『ことばのネットワークづくり』(本会発行・2022年文科省特別支援教育一般図書指定)などによって再学習します。ここ(5~6歳)がことばのカテゴリーに関する最終チ

WISC類似.pptx.jpgのサムネール画像

ェックポイントになるので見逃さないようにします。ここを見逃すと上位・下位概念が

成されないために将来的に抽象概念が習得できなくなることと語彙の拡充が困難になります。

 

  ②目の前の丸の大きさの大小がわかる(比較概念・概念形成の芽生え・3歳半頃~)・・・比べることの意味がわからない難

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聴児も時々います。できない子には、生活の中でのモノの比較(大小・長短など)を「大きいね、小さいね。どっちが長いかな?比べてみよう」など楽しくやることが大事です。

 

  ③目の前にないモノの大小が頭の中にイメージして比べることができる(4歳頃~)。・・・頭の中でモノの大きさ(たとえはスマホと冷蔵庫)が比べられるのは、頭の中にそのモノの映像(象徴)が浮かび、大小がわかるのは比較することの意味がわかり、そのモノの概念がしっかりと記憶されていないとできない。ここで躓く難聴幼児も少なくないです。

 

  ④生活言語段階から学習言語段階への渉りのチェック

 

生活言語と学習言語.pptx.jpg

質問応答関係検査の中の「日常的質問」は生活言語レベルでのやりとりができるかどうかをみる問題です。自分に関する実際のことなので通常は応答できる子が多いですが、音声のみだと聞き取り自体が困難なために「できない」こともあるので要注意です。

 また、その後に続く「なぞなぞ」「仮定」「類概念」「語義説明」「理由」などは、自分の経験を離れて、ことばそのものの意味を理解し説明できる段階すなわち「学習言語」段階に入りつつあるかどうかをみる問題です。ここをしっかりチェックしておくことが就学前にやることです。課題がある場合は、言葉自体を取り出してそのことばを操作したり考えたりできるよう、「なぞなぞ」「連想ゲーム」「クイズ」「しりとり」「反対ことば」「さかさことば」などのことばあそびの類をしっかりやります。また、考える力を伸ばすためには単なるルーティンなやりとりに終始するのではなく、子どもの思考を耕すようなやりとりをたくさんすることです。

 

 幼児期の発達の様子をしっかりチェックし課題がある場合は、それに応じたさまざまな活動を楽しくやって課題をクリアしていきます。もし発達段階的に下の課題が積み残されているのであれば必ずそこからやり直します。発達は基本的に順番にしか進まないので下のことができていないとその上の発達は積みあがらないので要注意です。

 今回、このオンライン研究会では難聴学級のある先生の実践を事例として紹介しましたが、ことばのカテゴリーの再構築からやり直し、ことばのネットワークづくりや日本語文法指導をその上に積み重ね、子どもが飛躍的に伸びた実践を紹介しました。短期間のうちに「絵画語彙検査」は47カ月から97か月の5年分の伸び、「Jcoss(日本語理解検査)」は、8項目(年長レベル)から19項目(小高レベル)まで伸びています。子どももとても自信が出てきて、通常学級の中でも積極的になり活き活きと学校生活を送っているようです。


最後に今回のオンライン講演で使ったパワーポイント資料のPDFを下記に掲載しておきます。見ていただけたら幸いです。


┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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