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文法力は論理的思考力を高める~2022オンライン講演より

ある県の聾学校と難聴学級の先生方を対象としたZoomによるオンラインの講演会を開催しました。その講演会での前半は、主に象徴機能の発達と概念形成という視点から、その発達過程の見方について話しました。それについては下記をご覧ください。

http://nanchosien.com/cat67/2022zoom.html


今回は、日本語文法の指導とくに助詞と動詞の活用の指導がなぜ大切なのかという点について話したことを、その講演で使ったパワーポイント資料と共に掲載したいと思います。

 前回、「9歳の壁」を越えるために、赤ちゃんのときからもっている象徴機能(シンボ

生活言語から学習言語へ.jpg

ル)の発達が欠かせないということを話しました。とくに、自分中心の世界である幼児期=生活言語の世界、自分中心の世界から抜け出て、物事を少し客観的に見る目が育ってくることが、学習言語=教科学習の世界に入るために不可欠だということです。

 例えば教科書に出てくる学習内容は、自分のこととは関係ないこと、自分が経験したことのない知らない世界のこともあるわけですが、そうしたことが学習できるためには、他者視点で物事をみつめれらることが必要です。そして、他者視点で物事を見つめられるためには、自分の頭の中で、他人の考えていることを想像できることが大切です。「ママはどう考えているのだろうか?」という他者視点、「自分はママにどう思われているのだろうか?」という自己対象化の発達です。頭の中で動いているママのイメージも、2,3歳頃にやっていた「ママがお化粧するふり」「ママになりきってままごとをする」といったイメージ(象徴機能)も随分と複雑になってくる段階です。また同時に、この時期は、ことばそのものについても、頭の中にそのことばを思い浮かべて、ことば自体を対象化して操作できるようになってくる時期です。「ア」のつく言葉探し、しりとり、さかさことば遊びといったことばあそびはその典型です。また、かずについても頭の中にモノのイメージを浮かべて足したり引いたりできるようになってきます。こうした象徴機能の発達の上に、教科学習が可能になるつまり学習言語が習得できるわけです。

 

〇助詞や動詞の活用は、思考力の発達につながる

 さて今回は、思考の発達にとって日本語の文法の習得が欠かせないということ、とくに助詞と動詞の活用がわからないと論理的な思考ができないということについて話したいと思います。

日常会話の中では、ことば以外にいろいろと手掛かりとなる非言語情報、例えば、具体物、話題の文脈、相手の声色とか表情、しぐさなど沢山の情報があって相手の言いたいことを理解していますから文法的に正しくなくともつまり論理性があまりなくても十分に伝え合うことができます。しかし、その場に居合わせない相手にその場で起こっていたことを伝えるとなると、非言語情報は使えませんから、すべて、言語情報だけを使ってその場にいなかった人に伝わるようにしなければなりません。その時に例えば、助詞の使い方を間違えたらどうでしょう?

 ファイルの絵の下にあるように、「太郎花子叩いた」と「太郎花子叩いた」で

「が」と「を」の指導.pptx.jpg

は、まったく意味が逆になってしまいます。このように、11の「今、ここ」という場面でコミュニケーションするときに使うことば(生活言語)では助詞がなくてもあるいは間違っていても通じますが、第三者(他人)に伝えるときのことばは論理性が明確でないと相手に正しく伝えることができません。ということは、自分の頭の中に動いていることばも助詞を正しく使えていないといけないということになります。つまり、助詞が使えないと論理的思考ができないわけです。このことは、きこえない子が「9歳の壁」を越えて論理的・抽象的な思考をするためには絶対に欠かせないことだということになります。

 

動詞の活用のしくみ.pptx.jpg

  また、動詞の活用はどうでしょう? 例にもあげたように、動詞では、伝えたいことが多様にかたちを変えてそこに表現されます。例えば例文の中の「①させー②られー③ていー④たー⑤らしい」というのが動詞の活用になるわけですが、①「させ」②「られ」では、太郎がだれか他人に強いられているということがわかりますし、③「てい」では、一定の時間継続してることがわかります。また、④「た」では、過去のことだということがわかりますし、⑤「らしい」ということからは、自分が見たわけではないけれど、という意味が含まれていることがわかります。

 このように一つの動詞にはさまざまな意味が含まれ表現されているので、このそれぞれの要素を正しく理解できないと、正しく伝わらない、正しく理解できないということになります。

 以上のことから、ことばの文法的側面を正しく理解し使えるようになるということは、論理的な思考ができるということに直結しているということがわかっていただけたのではないでしょうか。そして、助詞と動詞の活用の苦手なきこえない子への文法指導の大切さが理解していただけるのではないでしょうか。

 以下、日本語文法指導について話した内容のPDFから一部抜粋して掲載しますので参考にしていただけたら幸いです。

 文法力の把握と指導.pdf

┃難聴児支援教材研究会
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