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乳幼児期に音を聴く楽しさを育てたい!

もう、ずいぶん前になりますが、ある研究会で、聴覚活用分野の第一線で活躍されてきた当時、筑波技術大学学長の大沼直紀先生の講演をきいたことがあります。早期から聴覚活用をした成人聴覚障害者と親が、今どのような思いで暮らしとその当時の教育を振り返

大沼調査.jpgっているのかいったことを調査した結果の報告です。

人工内耳が出現する前、0~2歳代の早期から補聴器を装用し、聴覚を活用する教育を受けてきた20歳~30歳代中心の90dB以上の成人聴覚障害者約102名を対象に行った調査です。そのうちの9割の人は、大人になっても補聴器を装用して生活していること、8割以上の人が手話の必要性を感じていること、本人達は、「音声言語を聴く」ための聴覚活用というよりは、音が聞こえてくる安心感や、危険認知、音楽を楽しむというように、「ことばをききとる」こととは少し違ったレベルでの聴覚活用の意義を感じているということがわかったということでした。

 

 これまで、高度難聴者本人達に話を伺うと、「補聴器をすると耳鳴りがしてつらく、ある時期から使わなくなった」「補聴器をつけていても自分には何の意味もない」「つけている方が負担がある」と言う人もいれば、「つけていないと不安」「高等部時代はずしていたが、子どもが生まれてから、少しでも赤ん坊の鳴き声を聞きたいと思い、寝ている時も補聴器をする

補聴器.jpgのサムネール画像ようにした」「好きな歌手のCDを聴くとホッとする」「もう身体の一部になっていて、自分には必需品、場所によって補聴器を使い分けている」・・・というように、高度難聴といっても実に様々な本人達の声を耳にしてきました。聴力レベルも、聴覚活用の様子も一人ひとり皆違うわけですから、補聴器の装用や聴覚活用の必要性等について皆違う思いがあるのは当然のことでしょう。このように、いつか本人が、自分自身で選択し、判断する時期が来るのだろうと思います。


〇乳幼児期に音をきく楽しさを!

このようなことをふまえた上で、子どもが小さい時期は、本人にとってつけることが心地よい、何か意義が感じられる方向で装用支援をしたいものです。そのためには、まず

補聴器の音が大きすぎず、小さすぎない、適切な音が入るような補聴器の調整を確保したいものです。その適正なフィッティングのためには、年齢が小さければ小さいほど、聴力検査の結果以上に、日常生活の中での聞こえの反応の様子が有力な情報になります。家族の方にきちんと見て、報告してもらうことが大切なのです。そして、適切な補聴器のフィッティングがされた後は、

子どもにとって意味のある、意味があるととらえやすい音を

補聴器楽しい.jpgどのように届けるか、といった工夫が求められていくでしょう。

子ども達にとって、補聴器をつけ始めてしばらくは、入ってくる音や声はすべて雑音です。私達聴者も同じです。初めて聴く音にはイメージを持てない、あれっ?何の音かな? そんな経験ありますよね。鳥の鳴き声を聴いて、なんの鳥が鳴いているのかそのイメージが持てる人、持てない人がいるのは、その鳥を知っているか知らないかという経験の差がはっきり出るからです。このように考えると、きこえにくい子ども達は、もっともっとかすかな聞こえの中で、その意味をイメージしようと学習しようとしているわけですから、一手間、一工夫は必要になってくるわけです。 ききやすい、きいてわかりやすい、きいてイメージを形成しやすい音声言語の投げかけや、環境音や音楽の聞かせ方を配慮し、雑音と意味のある音の区別が感じられるよう、周りの大人は聴覚活用をしやすい状況を作っていかれるとよいと思います。

 

 0dB、10dBの音が聞こえる聴者と、補聴器をつけて50、60dBがやっと聞こえ、しかもひずみもある音をききとる高度難聴者が、同じ声や音の大きさで、意味をとらえたり、楽しんだりすることは難しいものです。「少し大きめの声、音」が必要と言われるのは、最も小さく聞こえる音の大きさがそもそも違うからです。「いぬ」というよりは「ワンワンだよ~」、「のむよ」というよりは「ゴックン、ゴックンしよう」といった、リズムや抑揚が特徴的な擬態擬声語を入れての話かけの方が子どもは、聴覚的な情報をとらえやすく、「聴こう!」という気持になるのではないかと思います。高度難聴の子ども達は、「ワンワン」の「わ、ん」という一音一音を聞いているのではなく、そのリズムや抑揚(プロソディー)を聞いていたり、「お、 か、 あ、 さ、 ん」の五つの音を聞いているのではなく、「オ、アー、ア」といった三つの母音に聞こえていたりするかもしれないのです。また、私達は伴奏をする時に、ジャン、ジャン、ジャーンと、なるべく和音を使った伴奏を心がけますが、音楽もメロディーよりはリズムを強調した奏で方の方が聞きやすい、楽しみやすいと言われています。おうちのチャイムの音が補聴器から入る大きさであれば、鳴る度に「あれ?なんだろう?」と傾聴させ、いっしょに玄関まで行って、大好きなパパの帰宅を迎える、そのような「ただ聴くだけではない」好きな人の帰宅と結びつけた、音にまつわる体験活動を丁寧に繰り返してこそ、「聴きたい」気持ちが育、聴覚が活用されるようになるものです。

 

〇きこえのテストでなく、振り向く喜びを・・

音を聴く楽しさ①.jpgきこえにくい子どもの「聴く」気持ちを育てるためには、難聴が高度であればあるほど、聴者と全く違う音声情報が届けられていることを私達大人がよく自覚することが大事だと思います。補聴器は、ただつけるだけでは、ずっとつけていたいと思えるような意義あるものとはなりません。音のイメージは、入ってくる音が何の音(声)かな、どのような音(声)かな、どうやって奏でられた音かなと音源そのものを見たり、触れたりしながら「聴く」体験を繰り返し、作り上げられて音を聴く楽しさ②.jpgいくものです。SNSにはときどき、親御さんが、子どもの名前を「○○ちゃ~ん!」と呼んで振り向かせることを何度か繰り返し、そのうち子どもが振り向かなくなるという動画がアップされたりしていますが、音がきこえて振り向いた時、そこになんの楽しみも喜びもなければ振り向く気持ちは失せてしまいます。そばにいて、その「聴く」体験をいっしょに喜んだり、楽しんだりして、共感しながら関わる大人の存在がやはり必要です。「音を聴くってこんなに楽しいんだ!」と子どもが思えるよう、私達はよりよい応援者になりながら、子ども達の聴覚活用を育んでいきたいものだと思います。

右の事例は、手話からスタートした子どもがだんだんと聴覚も活用し、発語もできるようになってくる頃の子どもの様子です。手話を使うことで会話の内容が理解でき、そこに音声も伴ってくる時期は、だいたい1歳後半の頃です。


┃難聴児支援教材研究会
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