全国の難聴児のための早期支援、聴覚障害教育の情報提供、教材などの紹介を発信します。

新スク後、2か月からろう学校へ~そこで学んだことは?

 今回は、新生児聴覚スクリーニングで「リファー(要再検査)」となり、「子どもとのコミュニケーションがとれないのでは?」という不安を抱えて、生後2か月(確定診断前)の時、ろう学校乳幼児相談を訪れた保護者が、難聴の有無を越えて変わらぬ子育ての基本である、わが子の目線に寄り添うことや生活リズムを整えることの大切さを学んだり、難聴者ロールモデルである相談スタッフや同じ難聴児をもつ先輩保護者から子どもとの関わり方や手話でのコミュニケーションの大切さを学んでいった事例を紹介します。結果的にお子さんは高度難聴であったわけですが、子どもとの関わり方の基本を学んだおかげでその後の親子の関わりはスムーズで手話での初語も出て、順調に育っています。以下、保護者の手記です(一部割愛)。


〇わが子と通じ合えるのだろうか?~不安を抱えていた新スク後の私

産休に入って2日目の夜に破水。病院で切迫早産と診断され、早産児を受け入れ可能な別の病院に救急車で運ばれ、そのまま緊急帝王切開。そんな風にスリリングに生まれてきたわが子が、NICUGCUに入院している一カ月に受けた新生児スクリーニング検査(以下、新スク)回数は5回に及びました。母子手帳の新スク結果を書き込む場所は、欄外まで「〇月〇日 左右リファー」の文字で埋まりました。わが子が先天性の難聴であることは、精密検査を待つまでもなく、明らかであるように私には思えました。

当時、私が感じていた一番の不安は、わが子とコミュニケーションが取れないかもしれない、ということでした。


〇はじめて、ろう学校乳幼児相談へ

もやもやとした気持ちを抱えながら、初めての育児に四苦八苦している中で、都立ろう学校の乳幼児相談の存在を知りました。初めて学校を訪れたのは、わが子が生後2か月の時でした。クリスマスイブの日、担当のお二人の先生にお会いできたこと、頭がパンクしそうになるほど難聴児の育児のお話を聞かせてもらえたことは、私たち家族にとって、とんでもなく大きなクリスマスプレゼントとなりました。

 さっそく年明けの1月から、アンダー0歳枠で、ひよこ組0歳児クラスのグループ活動に参加させてもらうことになりました。活動の帰りの道すがら、また次の日以降も、ふとした時にグループの時の話を主人とするくらい、毎回毎回、多くの刺激を頂きました。他のお子さんたちやママたちの笑顔と明るさ、そして良好な親子関係がまぶしくうらやましく思えました。また、ロールモデルの先生の人間的魅力に、毎回魅せられていました。感心しているだけではいけないと、皆さんが実践されていること、心がけていることを、自分たちの暮らしに取り入れていきました。

 

〇まずは、わが子の目線に寄り添ってみた

まずは、とにかくわが子をみて、なぜだろう、どうしてだろうと想像するようにしました。例えば、わが子はバスが好きです。散歩中にバスを見かけるたび、私や主人を見上げてくること。見上げてくる顔が笑顔なこと。「あぁっ」と大声を出すことなどから、きっと好きなのだろうとわかります。でも、どうしてわが子はバスが好きなのでしょうか。わが子の目線までしゃがみ、走っているバスを見てみると、なるほど、理由が分かる気がしました。大きなタイヤ、その上に乗る長い車体。昼でもピカピカと光るライト。それらは乗用車と比べると、とんでもない迫力なのです。そんなすごいものが、割と毎日、何台も自分のすぐそばを通り過ぎていくのです。「おお、なんだこれは。かっこいい」と、わが子は思ったのではないかと想像できました。

同じように、夏の急なスコールは、私からすると「勘弁してくれ」ですが、わが子からしてみると「空からものすごい量の水が落ちてきて、自分の体を打ってくる」面白おかしい体験ですし、雪は「思わず手を伸ばしてみたくなる白いふわふわしたもの」なのだろうと思います。

 

〇君の考えていることってこういうこと?~気持ちを込めて大きくリアクション

わが子の様子から、その思考や感情を推測し、その理由も考えてみる。そしてそれは、聴覚情報を除いても成立するかを確認してみる。繰り返していくにつれ、何となく、わが子が好むものや興味をひくものと、その理由が分かってきたように思います。また、その推測に基づきながらわが子にリアクションを返していくことで、わが子がこちらを見てくれる頻度、見続けてくれる時間が増したように思います。とはいえ、まだまだ分かってあげられずわが子を怒らせることも多いので、子どもに目線と気持ちを合わせて声掛けしていくことは、今後も大きな課題です。ちなみに、わが子へのリアクションは、表情、体の動き、声量に留意しました。とにかく大きくリアクションを取ることを基本とし、喜怒哀楽が目や口の形、体の動作で伝わるようにと意識をしました。お手本は、わが子が大好きな担当の先生です。子どもにもわかる大きなはっきりとしたリアクションをしてくれるから、わが子は先生が好きなのだろうなあと、たくさん「真似ぶ」ことをさせていただきました。

 

〇手話をやったら、1歳で手話の初語が出た!

先輩ママとお子さんとが、手話を介して意思疎通を図っている姿が刺激となり、手話学習にも打ち込みました。言語を自学で学習するならまず単語だろうと、『新・おやこ手話じてん』の単語を丸暗記。単語の次は文法や文章読解だろうと、NHKの『みんなの手話』を見たり、書籍『パパといっしょにハッピーサイン』を読み込んだりしました。大叔母との関わりで、...というよりも、関われなかった自分としては、頑張らないわけにはいきませんでした。1歳を過ぎてからはわが子からも手話表現が出てくるようになり、やってよかったととてもほっとしているところです。ただ、まだまだ成人ろう者の方と会話するには圧倒的に手話力不足ですし、侑に伝わりやすい表現や言葉のチョイスにも課題ありなので、引き続き先生方から教わっていけたらと思っています。

 

〇生活リズム~子どもが予測できることの大切さ

そのほか、継続的に行ったこととしては、わが子の生活リズムを整えることと、生活の記録をつけることです。

一つ目の生活リズムについては、特別なことをするというよりは、朝起きてから寝るまでの中で、出来るだけ「いつもの」を増やすということを意識しました。次に何が起こるか分からない状態というのは、大人であっても不安に感じるものです。ましてわが子はまだ幼く、耳の聞こえにくさもあるのです。なおさらだろうと思い、パターン化、固定化できるものはどんどんしていきました。ご飯の時間、遊ぶ時間、寝る時間を極力変えずに日々を過ごしています。おかげで、ずっとわが子は早寝早起き大食漢。体調を崩したこともほとんどありません。

 

〇日々の記録を書くこと~子どもを見る目を育てたい

 二つ目の生活の記録については、書き始めた低月齢のうちは何を書こうか困る日も多かったです。ですが、「寝る前に生活の記録を書く」ことを意識して毎日を過ごすことで、徐々にわが子の変化が目に留まりやすくなりました。今では、毎晩主人と「今日の生活の記録に書きたいこと」をテーマに会話をし、その内容を書いたり書いてもらったりする習慣が定着しました。また、担当の先生からの赤入れも大きなモチベーションでした。わが子の様子について時に共感し、時にアドバイスをくださり、ありがたかったです。

 

〇人間的な魅力ある子に育てたい

最近になって、「わが子は耳『が』聞こえにくい」のではなく、「わが子は耳『は』聞こえにくい」のだ、という風に考えるようになりました。

わが子は目が見えますし、味の違いも分かる子ですし、何でも触ってしまう手も、もうすぐ一人で歩いてしまいそうな足も持っています。よく笑って泣いて怒って、毎日楽しそうに生活しています。人や物の好みも出てきており、それを表情や体の動きで表現できます。

児童館のスタッフさんも、コンビニの店員さんも、工場の守衛さんも、わが子に好意を寄せてくれ、笑顔を向けてくれます。わが子には、他人に好意を寄せてもらえるだけの魅力があります。もう私は、「わが子とコミュニケーションが取れないかもしれない」と不安に感じることはありません。反対に、今日、わが子は何をやってのけてくれるだろう、明日はいったいどんなことを伝えてくれるだろうと、楽しみに思いながら日々を過ごせています。

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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