だれでもわかる日本語の読み書き第33回「二つの受身文の作り方~直接受身と間接受身
受身文は、生活の中でもごく自然に用いられ、私たちにとってはなじみ深い表現の方法です。たとえば、兄に叩かれた弟が、泣きながら「にいちゃんに ぶたれた~!」と言ったりします。
この文は詳しく言うと、主語は「ぼく」で、会話の中では省略されています。もし、これを能動文にすれば「にいちゃんが ぼくを ぶった~!」で、「にいちゃん」を主語にすることで、にいちゃんの行為をやや客観的な位置から言っていることになります。しかし受身を使って、主語を自分にすることで、「泣いている自分に注目して!」と訴えているわけです。
〇受動文は教科書でどのように使われているか?

では、教科書の中ではどのように用いられているでしょうか。以下は光村図書の3年下の「すがたを変える大豆」の一部です。ここでは、大豆に焦点をあてるために、一貫して「大豆」を主語にして受身文で表現されています。「大豆のことを注目してね!」という意図が感じられる文章です。
また、その下の図は、教育出版(1年上)「だれが、たべたのでしょう」の一節です。

右頁では、「まつぼっくり」に着目してほしいという意図から、「(まつぼっくりの中には)まわりがかじられたものもあります」と、「まつぼっくり」を主語にした受身文(主語は省略されていますが)を使っています。しかし、左頁では、「まつぼっくり」から一転して視点を「りす」に向けてほしいために、「りすが まつぼっくりを たべたのです」と、「りす」を主語にした能動文が使われています。
〇言語は、動作をする人を主語にしたがる
一般的に言語は、動作をする人を主語にすることが多いですが、しかし、主人公が動作を受けている場合、どちらを優先するかで、動作を受けている主人公を優先して受動文を使うことがあります(上記『すがたを変える大豆』)。能動文にすると日本語としては不自然であったり、筆者のいちばん言いたいこととずれてしまうことが起こるわけです。このような場合、日本語では行為・動作の対象となる語を主語にもってきて、主語について言いたいという受動文をつくることが多いです。引用した教科書の例からもそれがわかります。
〇立場・視点の変換は難聴児は苦手
このように、受動文は教科書の中ではかなり早い段階で出現しますが、その意味や使い方は日本語の使い方に習熟していないと難しい構文です。そのため、受身文で書かれてい

る文がきこえない子に正確に理解されているかというと、それはかなり難しいです。
右の資料は、Jcoss(日本語理解テスト)という検査での各検査項目の通過率です。「通過」は、各検査項目にある4問とも全部正解した時その項目について「通過した」と評価します。また、児童10人のうち10人全員が、その項目について通過していればその項目の通過率は100%、一人しか通過していなければ通過率10%と評価します。
グラフから受動文(受身文)についてみてみると、聾学校低学年の受動文の通過率が17%、高学年が28%であることがわかります。つまり、半分以上の児童が受動文が「わからない」ということになります。では、なぜ、きこえない子にとって受身文は難しいのでしょうか?
〇受身文は、なぜ間違うのか?

J.cossの結果を分析すると、受身文の難しさに、以下の3つの点があることがわかります。
①視点の転換が難しい(関係性の理解)・・・能動文と受身文の関係は、同じ行為・動作について立場を変えて言っているだけなのですが、この立場の転換ということが難しいのです。これは認知的な発達とも関係していて、まだ「自分中心」の思考から抜け出せず、「他者の視点」になかなか立てないのです。一般に「自己中心性」から脱却する時期は、7~8歳と言われていますが(Piaget「具体的操作期」)、難聴児は、この段階に到達するのが聴児に比較して遅くなる傾向がみられます(*「心の理論」(アンとサリー)課題の到達が3年生以降になる子が多い)。
②助詞が習得できておらず、受身文での助詞の変換が困難。
③動詞の活用が習得できておらず、受身形を知らない。
①については、文法指導だけで解決できませんが、②③は文法指導の中で行うことです。以下、2つの受身文についてYouTube動画で学習したいと思います。
〇受身文の指導はまず直接受身文から

受身文には二つのタイプがありますが、低学年では、わかりやすい「直接受身文」を学習しますが、もちろん、その前に、「~が~を+動詞」(基本文型Ⅱ)や、「~が~に+動詞」(基本文型」Ⅲ)を学習し、理解しておく必要があります。また、動詞の活用表を用いた1~3グループ動詞の活用についても学習しておく必要があります。そのうえで受動文の指導となりますが、受身文の動詞は、動作を受ける側に立った表現の仕方ですから、それに慣れるためには『絵でわかる動詞の学習』の中にある「受動文(受身)」のワークを使って練習するとよいでしょう。

〇間接受身文は、中・高学年で
もう一つの受身文は、「間接受身文」です。ここではわかりやすくするために「めいわく受身文」という言い方をしています。この受身文は「めいわく」の意味がこもっていることが多いからです。
ア.「雨が 降った」(能動文)⇔「(私は) 雨に 降られた」(受動文)
イ.「(電車の中で)子どもが 泣いた」(能動文)→「(電車の中で)(私は) 子どもに 泣かれた」(受動文)
上の2つの能動文には、迷惑を受けている「私」は表現されていませんが、受動文にすると「(迷惑を受けている)私」という主語が出てきます。これを「隠れた主語」と言っています。
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