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だれでもわかる日本語の読み書き20~きこえない子はなぜ、助詞が苦手か?そして指導方法は?

今回の動画は指導者用動画なので、テキスト・問題プリントはありません。YouTube動画は下記のURLからご覧下さい。


https://youtu.be/Mni3Kuz41Tc


★解説

・助詞の誤り~低学年児童の日記の中から

きこえない子たちにとって苦手な品詞のひとつが助詞です。右のファイルは、聾学校小学部低学年児童の助詞の誤りの例ですが、こうした誤りについて、子どもが理解できるよ

聾児はどこで躓くか?~日記.jpgのサムネール画像

うに説明し納得させるためにはどのようにすればよいでしょう? これまでの長い聴覚障害児教育は聴覚口話法でしたから、いわゆる自然法の中で「なんども会話の中で繰り返していればそのうちわかる」指導で、その方法が確立されていませんでした。ですから日記に赤を入れて書き直させるという「指導」しか行われてきていませんでした。実際、ここに例示した助詞の誤りに対してもただ誤りを指摘するだけで、指導はなされておらず、赤を入れて教師の考える「正解の文」が横に書かれているだけです。

                                                

・助詞は、なぜ、身につかないか?

きこえない子の日本語習得上の難しさは二つあり、ひとつは動詞の活用、もう一つは助詞です。助詞の習得困難さの理由はいくつかあります。以下にその理由をあげてみます。

①日常会話の中で助詞はしばしば省略される(「ねえ、学校?」「いや、病院」など互いに文脈が共有されていれば日本語は単語だけで会話できるからです(ここが英語と違うところです)。

②助詞には一文字のものが多く(が、を、に、で、と・・)瞬間的に発音されかつ音圧も弱いため聞き取れないことがあります。また、口形が同じ助詞が多く、ぼそっと言っても区別しにくいです(「ママ」「ママ」「ママ」、「学校」「学校」など)。

③助詞は名詞や動詞などと違って、前の語と後ろの語との関係を表示する機能を持つ品詞(機能語)です。そのため、文の中でしか学ぶことができません

 

・会話の中で助詞を身につけるために大切なことは?

日常会話の中で助詞を身につけるためには、できるだけ正しい文で会話することと助詞を視覚でも提示することです。例えば、「ねえ、学校?」だけではなく、「ねえ、今日 学校 行くの? それとも 病院 行くの?」などと、主語や目的語などを省略しないこと手話を併用し、助詞は指文字で表出するなどの配慮が必要です。また、ある程度の聴力と読話も必要です。

 

・文の中での助詞の指導は?

では、書きことばの中で助詞は、どのように指導すればよいのでしょうか? 助詞にも格助詞とか副助詞とか接続助詞とかいろいろありますが、まずは、きこえない子が躓きやすい一文字の格助詞「が、を、に、と、で」を取り上げて指導します。

助詞が必要な文.jpg

格助詞は、客観的な事柄を述べたり理解するためには欠かせない品詞です。とはいっても文の中には、助詞がなくても意味がわかる文もあります。例えば、右図の上の①のような場合です。このタイプの文なら助詞がわからなくても、単語さえわかれば理解できます。「たろう✖ ラーメン✖ 食べる」でも「ラーメン✖ たろう✖ 食べる」でも、きこえない子は、単語から文の情景・イメージを描くことができます。

しかし、下の②の文はどうでしょう? 「たろう✖ はなこ✖ たたく」「はなこ✖ たろう✖ たたく」。日本語の文法ルールが語順によって前が主語で、後ろが目的語と決まっていれば、前者の主語(動作主)はたろう、後者の場合ははなこが主語(動作主)になるでしょうが、日本語は語順によって主語(動作主)は決まらず、名詞にくっついた助詞によって主語か目的語か、意味がわかるルールなので、助詞がないとどっちがどっちかはわからないのです。そのため、助詞がわからないと、文が理解できません。


・子どもたちの助詞理解度の実態は?

右のグラフは、Jcoss(日本語理解テスト)の文法項目別の通過率を示した図です。この検査には文法項目が20項目あり、それぞれの項目に4問ずつ問題があります。この4問とも

聾児はどこで躓くか?~jcoss.jpg

正解のとき、その項目は「通過(パス)」と言います。その通過率を示したのが右のグラフです。通過率とは例えば10人のうち5人が通過すればその問題の通過率は50%です。2つの聾学校の通過率が20の項目別に示されています。 

この中で左から6番目の「3要素結合文」というのが、上に述べた①のタイプの文(非可逆文といいます)です。このタイプの通過率は、2つの聾学校ではほぼ50%ということが読み取れます(低学年聴児の通過率は90%近いですから、これは使われている文の中の語彙力の差です)。これに対して7つ目の「置換可能文(可逆文)」が上に述べた②のタイプの問題です。このタイプの問題は助詞「が、を」の意味が理解できていないと正答できません。この問題の通過率20%。つまり5人中4人は助詞「が、を」が理解できていないことになります。

Jcossの項目の7番目以降の問題をみると、どの項目もいずれも通過率は低いです。助詞「が、を」がわからないわけですから、そのあとに続く項目の文を読んで理解することは極めて困難だということです。繰り返し読んでいれば自然にわかるようになるというレベルではないのです。この「自然にわかる」という理屈が通用するのは助詞が8割以上わかっているときで、「ときどき助詞を間違える」くらいであれば、あえて助詞を取り上げて指導する必要はありません。それこそ、「そのうちわかってきますから心配要りません」。

助詞指導の効果.pptx.jpg

 でも、そうでない子どもたちには、指導が必要です。そして指導をすれば必ず伸びます。右のグラフはある聾学校でたまたま文法指導をしたグループとしなかったグループでの助詞テストの結果です。指導期間は半年だったのですが、助詞の意味・用法と手話表現を組み合わせた指導によって効果があることが証明されています。

(因みに、別の研究でもこうした結果が出ています。『聴覚障害児への「手話助詞」を用いた格助詞指導』大鹿綾、広島大学大学院教育学研究科附属特別支援教育実践センター参照)

 以上のことより、このYouTube動画では、基本的な助詞の使い方について「助詞手話記号」を使って学習していきたいと思います。なお、助詞「が」と「を」についてはすでに学習しました。今後、助詞「に」「で」「と」などについて学習していく予定です。


○参考になるホームページの助詞関連箇所

・TOP>日本語文法指導>助詞の指導

http://nanchosien.com/09/09-3/


○幼児期の日本語指導教材と実践例

・視覚教材で楽しく日本語を身につけよう!

これは難聴児年中さんの家庭で助詞記号や品詞カードを使ってあそんで成果をあげた事例の紹介です。

http://nanchosien.com/papers/04-4/post_110.html


・「助詞カード』であそぼう!」

 これは助詞を使った幼児のあそびの紹介。助詞カードを作成して、いろいろなモノに当てて楽しく遊ぶ方法です。助詞入門の効果的な方法です。

http://nanchosien.com/papers/04-4/post_164.html

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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