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幼児期の言語力は、学童期の読みの力にどうつながるか?

ある保護者の方から「幼児期に身につけた言語力は、小学生以降の読み書きの力につながっていくのでしょうか?」という質問をいただきました。

幼児期の言語力をどう定義するかにもよりますが、ここでは客観的な数値として理解いただくために、言語力を日本語の語彙・文法力と言語による思考の力という二つの力からなるものと定義して、ある公立聾学校幼稚部における、①年長修了時のJcoss(日本語理解テスト)通過項目数(日本語語彙・文法力)と②年長時WISCⅣ「言語理解」の合成得点(VIQの2つと、これらの2つの検査結果が、③聾学校小学部中・高学年(3~6年)時の読書力検査偏差値にどうつながっているかについてみてみたいと思います。ある公立聾学校の2018年の3~6年児童30名の結果から考えてみます。なお、Jcossについては、本HP>発達の診断と評価>J.cossの「Jcossとは?」を参照。WISCについては、同>WISCを参照してください。

 

〇語彙・文法力と読みの力(Jcoss通過項目数と読書偏差値)

年長時Jcossと読書力.jpgまず、年長修了時のJcoss通過項目数と小学校中・高学年時の読みの力(読字・語彙・文法・読解)との関係ですが、右図に示すように、相関係数はΓ=0.74で非常に高い数値を示しています。このことから、幼稚部修了児の語彙力・文法力が小学部での読みの力にそのままつながる確率が非常に高いことがわかります。

読書力検査の偏差値とは、偏差値でほぼ55以上なら該当学年より上の学年の読みの力(上学年)を、45~55の範囲であれば該当学年(対応学年)の読みの力を、45以下であれば該当学年以下の読みの力(下学年)にとどまっていることを表しています。このグラフからわかることは、該当学年の読みの力すなわち読書偏差値45以上の児童は、幼稚部年長の時にJcossの通過項目数は6項目以上(読書偏差値50以上の児童は年長時Jcoss7項目以上到達)に達していたことがわかります。このことから、幼稚部年長修了時の目標としてJcoss7項目以上つまり文法段階到達を目標にすることの妥当性が理解していただけると思います。(*このことから直ちに、年長時に6~7項目に達していなければ、学年対応以上の読みの力は身につかないということにはなりませんが、Jcossの通過項目数が6項目以下にとどまっているということは日本語の語彙数が少ないということなので、小学生になってから改めて日本語の語彙を増やしていくことになります。しかし小学生になると、家庭においても学校の宿題に追われますし、漢字を覚えたり計算の仕方を覚えたりなどが中心になり、幼児期のような子ども中心・生活中心の中で体験したことを親子で絵日記やことば絵じてんにしていったり、言葉遊びをしてことばを増やしていくようなやり方ができにくくなります)。

 

〇言語的思考力と読みの力(WISCVIQと読書偏差値)

  WISCVIQと読書偏差値.jpg 次に、WISCⅣの「言語理解」合成得点(VIQ)と読書偏差値との関係ですが、これらの相関係数もΓ=0.71と、Jcossと読書偏差値との相関と同様に高い値を示しています。

「言語理解」とは、「類似」「単語」「理解」という3つの下位検査を総合したもので、内容としては以下のようなことです。

 

「類似」・・・二つのモノとモノをことば(日本語・手話)で提示し、それらのモノの概念がどのように類似しているかを答えさせます(例「りんごとバナナの似ているところは?」)。すなわちモノの概念を比較したりそのモノをまとめた上位概念の名称を理解しているかどうかがわかります。

「単語」・・・絵を提示してその名称を答えること(日本語)と単語をことば(日本語・手話)で提示してその意味を答えさせます(例「りんごってどんなもの?」)。モノ(ことば)を適切にことばで説明できる力がわかります。

「理解」・・・日常的な問題の解決や社会的なルールなどについての理解についてみます(例「食事の時にコップの水をこぼして隣の人にかかった時どうする?」)。このような時にはこうすればよいと、自分のもっている知識を使って適切な対応ができるかどうかがわかります。

 

以上の3つのことから、「言語理解」とは、ことば(手話・日本語)を自分の頭の中で思い浮かべてそのことば(概念)を操作したり、別のことばで定義づけたり、ことばで考え、他の人にことばで説明できるなどによって、言語を自分の生活から切り離して取り出し対象化・一般化したり、一般化・抽象化された辞書的な意味をもつことば(協約化した言語)を使ってさらに抽象的なことを学ぶ力の土台が、その子どもに形成され始めているかどうかをみています。これらの言語的思考の基礎力と読書力偏差値との間には高い相関があるということです。そして、グラフから、ほぼ年長時にVIQ90前後以上に達していた子どもは、読書力偏差値でも「対応学年」以上に達していることがわかります。

 

〇幼児期に何にどうとりくめばよいのか?

  動詞の特徴.jpgJcoss7項目に達していないということはどういうことでしょうか? 一言でいえば「日本語の語彙不足」です。日本語の語彙には名詞、形容詞、動詞、副詞いろいろとありますが、全体的に語彙が足りないのです。中でもとりわけ少なくて、読みの力に大きく影響するのは「動詞」の語彙不足です。名詞だけいくら沢山知っていても文にはなりません。

ですから、動詞の語彙数をどう増やすかということを考える必要があります。ところがやっかいなことに動詞は、ある動詞、例えば「持つ」という動詞がそこに存在し、みることができるわけではありません。そこが 動詞ビンゴ.jpg「かばん」などの事物名詞と違うところです。また、動詞は、言いたいことに合わせて複雑に変化します。「持つ・持っている・持った・持たない・持っていない・・・」。そこ語彙をどうやって増やすかという工夫が必要になります。

「そろそろ学校に行くよ」と子どもに伝える時に手話で、/学校/ /行く/ だけではなく、指文字で「がっこう に いくよ」と綴るとか、絵日記で「昨日、おばあちゃん家に(   )」と空欄にして何が入るか考えさせるとか、手話も使って「立つー座る」など反対言葉遊びをするとか、日本語(手話)を提示して手話(日本語)で応える遊びをするとか、動詞を使ってビンゴをするとか、手話の絵を見て日本語に直すプリントをするとかいろいろな工夫が必要だと思います(上図「動詞の特徴発見」「動詞ビンゴ」の教材例は「絵でわかる動詞の学習」所収。)。

  考えさえる会話をしよう1.jpg

 また、WISCの言語理解の力を伸ばすためにはどうすればよいのでしょうか? これについては、とくに「メタ言語意識」や「語彙の概念カテゴリーの構築(ことばのネットワークづくり)」などが必要です。「本HP>乳幼児期・学童期>日本語はどのように習得されるか>学習言語へのレベルアップのための5つのポイント」などを参照してください。

 

 また、日常会話の工夫も必要です。右にあげたことは、きこえる子にはそんなに意識してやることでもないでしょうが、き 考えさえる会話をしよう2.jpgのサムネール画像 こえない子には意識して取り組むことが必要なことがらです。 このような意識的な会話の工夫によって、子どもの「考える力」を高めることができます。ルーチンの会話で日々終わってしまわないよう、ちょっと意識していくことです。 考えさせる会話をしよう3.jpgのサムネール画像のサムネール画像

 

 

 

 

 

【参考図書】 どうすればことばが育つか_0001.jpgのサムネール画像

『どうすればことばが育つか?~ 9歳の壁を越えるために』

(全国早期支援支援研究協議会発行)900円

絵日記の書き方、ことば絵じてんの作り方、絵本の読み聞かせ、ことばをひろげる関わり方など、ことばの力を伸ばすための幼児期に取り組むべきことのノウ・ハウが書かれている。

本HP>出版案内(早期支援)参照

http://nanchosien.com/publish/