全国の難聴児のための早期支援、聴覚障害教育の情報提供、教材などの紹介を発信します。

言語力・思考力のアセスメント~その3・6~7歳頃に行うアセスメント

前回(その2)は、幼児期の認知発達段階である「象徴的思考期」(2~4歳)から次の段階である「直観的思考期」(4~7歳)への移行期にある、難聴児が躓きやすい最初のハードルとそのチェック方法について述べました。ここから躓くとそのあとの発達にも影響するので、以下、再度、要点を抑えておきましょう。

 

〇豊かな概念とシンボル機能(イメージ)を身につけるために

子どもは、2歳前後にことばを獲得(ものの名前が同じ性質をもったものの集まり=カ

生活言語から学習言語へ(認知発達関連).pptx.jpg

テゴリーにつけられた名前であることを理解します。本来の言語獲得はこのことを指します)しますが、その頃から頭の中にもの(例:りんご、クレヨン、自転車など)やこと(例:散歩、買物、お風呂など)の名前やそのイメージ(=symbol)を頭のなかに記憶・保存し、あとで取り出して使うことができるようになります。しかし、難聴児はそれらのもの・ことの概念が拡がりに欠け、記憶イメージも弱い傾向があります。そのため、大人との11での丁寧な関わりの中で、ことばとイメージを拡げる手助けをする必要があります。そして、この点をチェックする方法として、以下の2つをあげました。


    『太田ステージ』のstage-2後半「見えないものの大小の比較」(例「机と鉛筆

太田ステージ・StageⅢー2問題.jpg

ではどっちが小さい?」など)・・・頭の中の記憶表象(symbol)を使って比較の概念が獲得されているかどうかをみる(つまり、「比べる」ということが理解されており、記憶されているものの概念が確かなものであれば、大きさの比較もイメージの中でできる)。

*もしここ(Stage-2後半)で躓いている場合、StageⅢ―2前半「〇の大きさの比較」を実施し、目の前にある図形の比較ができるかどうかをみる必要があります)

 

    『質問応答関係検査』の「類概念」の問題・・・同じ性質を持ったもの(=ことば・下位概念:例「りんご、バナナ、みかん」)が集まって、より大きな括りをもったことば

質問応答関係検査項目.jpg

(=上位概念:例「果物」)になるということば(の構造)が獲得されているかどうかをチェックします。ここも難聴児のとても苦手なところです。きこえない子は、「犬、猫、牛、ぞう、きりん」など"見える"ものの名前・概念は獲得できるのですが、上位概念である「動物」という"見えない"ものの名前・概念の獲得は苦手です。教えていないけれどどこかで聞きかじって知っているというきこえる子のような偶発的な学習はできないからです。


このようなチェックによって、4歳頃(年少・年中の頃)に比較概念や概念カテゴリーが獲得されているかどうかをみることによって、頭の中で操作するシンボル(イメージ・ことば)やものごとの概念の発達の様子がわかります。もし、ここで躓いているのなら、ものごとの概念をしっかり持てる広げる活動やかかわりを丁寧に行います

病院に行ったこと.pptx.jpg

一例を挙げれば、子どもが風邪をひいて病院に行ったのなら、後日、「病院」というタイトルで「ことば絵じてん」を作って、お医者さん、看護師さん、体温計、聴診器、薬といった絵を貼って「病院」の概念がわかるページを子どもと会話しながら一緒に作ったり、「絵日記」の中で体験を振り返りながら、絵や写真、薬の袋、文字等を使って、お医者さんとのやりとり、その時の自分の気持ちなど、出来事(ストーリー)を短い文でまとめて体験を「書きことば」にしたりします。さらにまた、質問カードで「病院ってどんなところ?」「お医者さんって何する人?」「病気ってなに?」「体温計ってどんなもの?」などのクイズの問題を作って、なぞなぞやクイズなどことばあそびをする教材を作り、そのものごとの概念を説明する(言語化する)練習をしたりします。このような活動が、その後に続く発達の節目でみる「類似」(WISCⅣ)「類概念」(質問応答)や「単語」(WISCⅣ)「語義説明」(質問応答)の課題をクリアする力に繋がります。

【注】stage-2後半だけでなく、前半の「〇の大きさの比較」でも躓いているのであれば、同じもの違うものの理解ものの名前の獲得などさらに基礎的なsymbolと概念の形成から始める必要があります。

 

〇幼児期後半(6~7歳頃)にチェックしておきたいこと

さて、前置きが長くなりましたが、今回(その3)と次回(その4)は、その後の発達の節目である、「直観的思考期」(4~7歳)から「具体的操作期」(7~11歳)にかけての認知・言語発達の視点とチェックの仕方について考えますが、今回は、前回アセスメントしたsymbol機能や概念化の力が、次の節目(二つ目のハードル)である生活言語から学習言語への移行時に必要な力としてどう育っているか、そのアセスメントの方法についてみてみます。

 

〇直観的思考期(幼児期後半)から具体的操作期(児童期前半)の認知・言語の発達は?

この時期は、5、6歳から発達してくる「メタ認知機能(自分や周りの出来事を振り返り客観視する力)によって、「自己中心性」から「脱中心化」へと向かう発達の節目の時期であり、また、言語面からみると「生活言語から学習言語へ」という移行期にあたります。とくにきこえない子にとっては、日本語の語彙・文法力の習得という課題も加わって、きこえる子以上に高いハードルになるので、ここをしっかりと越えていけるように支援する必要があります。以下、まず、直観的思考期と具体的操作期の発達の特徴をみてみます。

    直観的思考期(4~7歳)

幼児は、自分と自分を取り巻く外界との区別がまだできないのが特徴です。そのため、自分以外の視点から物事をみることができません。これを「自己中心性」と言っています。このことはモノだけでなく人に対しても同様で、相手の立場に立って想像することができないので、自分の知っていることは当然相手も知っているだろうとか、他の人が自分と同じ出来事を経験し、同じ感情を持っているだろうと思いこみます。また、ものごとの最も目立つ側面(見た目)に注意が向き、それ以外の部分に目を向けることができません。例えば、広口の瓶の水を細口の瓶に移すと、水の量は変わっていないのに、「水が増えた」と思います。まだ、客観的な判断はできないのです。


    具体的操作期(7~11歳)

しかし、家族以外の大人や子どもたちとの出会いなどを通して会話能力や他者への共感性を発達させたり、自分の感情や行動をコントロールしたり、自分のことを客観視できるようになったり、ものごとの原因と結果の関係を理解したりといったやや複雑な思考や心理的な面での成長がみられるようになると、幼児期の「自己中心性」の思考から抜け出して、自分が知っていることと他者の知っていることとの区別がつくようになり、見かけの変化に影響されていた思考から客観的な判断ができるようになり、数、量、重さの保存の概念といった科学的な概念の基礎が育ってきます。しかし、こうした発達が遅れがちなのが難聴児です。シンボル機能や概念形成の発達の遅れ、大人や子ども同士での会話や関わりの不足、外界から情報を摂取することへの制限などさまざまなマイナス要因が重なるからだと考えられます。

 

〇生活言語から学習言語へどうレベルアップするか?

 「自己中心性」から「脱中心化」へという認知発達に即して言語の発達を考えると、「生活言語」から「学習言語」へのレベルアップとは、自分自身との関連でことばを理解し使っている段階(=自己中心性の段階)から、自分の経験から離れてことばを客観的・一般的に理解し使える段階(脱中心化の段階)へのレベルアップということができます。

生活言語と学習言語.pptx.jpg

「前概念的思考期」(0~2歳)から「直観的思考期」(4~7歳)にかけて育ってきたsymbol機能は、5~6歳の頃に発達してくる「メタ認知機能」の力を借りて、頭の中に自由にイメージ、文字、数字、記号などを浮かべて、それらを頭の中で操作する力として伸びてきます。例えば、「しりとり」や「さかさことば」「なぞなぞ」「クイズ」などことばやイメージを頭の中に浮かべて質問に応えたり、頭の中で文字を動かして問題に答えたりできるようになってきます。また、もののイメージ(symbol)を浮かべてそれらの共通概念をさがしたり、ものごとの概念(ことば)を別のことばで説明したりできるようになります。こうしたメタ認知機能をもったことばの力の育ちをみることができるのが、以下の2つの検査です。


(1)     WISCⅣ「類似」(または質問応答関係検査「類概念」)

(2)     WISCⅣ「単語」(または質問応答関係検査「語義説明」

*これらの検査についてはすでに以下のところで詳しく説明していますのでぜひそちらを参考にして下さい。

HPTOP>発達の診断と評価>WISC>幼児の認知・言語の力を伸ばすポイントは?~豊かなシンボルと概念形成

http://nanchosien.com/10_1/10-2_wisc/post_246.html

 

上記のWISCⅣ「類似」と「単語」によってわかる力は、(ア)それぞれの語を自分の体験から切り離して対象化・一般化できる力、 (イ)それぞれの語(ものごと)の概念の豊かさ、 (ウ)概念間の比較や共通概念が抽出できる力、 (エ)上位・下位概念など構造化された語彙の体系(「心的辞書」)、(オ)ことば・概念を別のことばを使って説明できる力などです。

そして、この二つの検査によって測る力が、学習言語段階での書記日本語の力の土台に

類似・単語と読書力の関係.jpg

なっている力です。そのことは、聾学校幼稚部年長児に実施したWISCⅣの「類似」「単語」の結果が、小学部高学年でのReadinTestの読書偏差値の結果と強い相関がみられることからも理解できます(右グラフ参照)。ですから、この二つの検査で課題がみつかったら、ぜひ、絵日記、ことば絵じてん、ことば遊び、絵本の読み聞かせなど、さまざまことばの活動を通して、上記①から⑤の力をつけていっていただきたいと思います。

 

類似が苦手な子への支援.jpg単語が苦手な子への支援.pptx.jpg

 以上、今回は、生活言語から学習言語への発達の節目にある、2つ目のハードルのうち主に「言語」に焦点をあてて説明しました。次回は、「直観的思考期」から「具体的思考期」への発達の節目となる「脱中心化」をどのような検査からみるかについてお話ししたいと思います。

 

 


┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

〒145‐0063
東京都大田区南千束2-10-14-505 木島方
TEL / FAX:03-6421-9735

mail:nanchosien@yahoo.co.jp