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難聴幼児の認知発達をとらえるものさし~太田ステージについて

 きこえない子どもとくに幼児期の認知の発達(=象徴機能の発達)をとらえる尺度として「太田ステージ」という検査があります。これはもともとはASD(広汎性発達障害・自閉症)の実践研究の中で開発されたものです。ASDの子どもの発達をとらえる上で認知発達という視点は欠かせないということでピアジェの認知発達理論をベースに、小児神経科医の太田昌孝先生が開発されたものです。

 

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  この検査は、シンボル機能(象徴機能)がまだ認められないStageⅠから、ピアジェがいう「具体的思考期」に入るころまでのStageⅣまでの、大きく5つのStageに発達段階を分け、さらにその中がいくつかに段階分けされています。(右引用頁参照)

*StageⅤはピアジェのいう「具体的操作期」以降になります。

 この検査の長所は比較的短時間に検査が実施でき、子どもの認知発達のおよその段階がわかることで、筆者も時々使っています。

 難聴幼児の場合、定型発達の子どもでも、頭の中にしっかりとモノのイメージが描けない子どもがいます。絵や映像、文字、数字などの象徴機能(実物の代理機能)が十分に発達していないのです。象徴機能が十分発達していないと、生活言語から学習言語へのレベルアップが難しくなります。頭の中に自由にことば(=文字・指文字など)や数字を浮かべて、それらを操作できないと抽象的な思考は困難です。

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この太田ステージでは、そうした象徴機能の発達の様相をとらえることができます。例えば、StageⅢ―2後半の「頭の中でモノの大きさが比較できる」という項目は、「バスと自転車とでは、どっちが大きい?(小さい?)」といった頭の中でモノの大きさがイメージできる(比較概念がわかる)問題となっており、まだまだモノが頭の中で比較できない子どもには、具体物と出会う経験とその言語化がもっともっと必要だということがわ

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かります。そして、この力は、モノを仲間として括ってその括りに名前をつけるなどの「類概念」の発達や概念形成のレベルアップにつながっていきます。

さらに、StageⅣ前半の課題である「空間関係」の問題は、位置をあらわすことばがどれだけ理解でき身に付いているかをみることができます。例えば「積木の上にさいころを置いて下さい」という指示は、「~の上」という位置関係をあらわす言い方が理解できているとクリアできます。しかし、「さいころの上に積木を置いて下さい」という質問は、クリアできるとは限りません。積木の上にさいころを置くのは質問としてもある意味自然ですが、さいころの上に積木を置くのは、不自然です。ですから正確に日本語が理解できていないとこの問題をクリアできません。

空間関係・位置関係の言い方にはいろいろあります。上・下・中、前・後ろ、横、すみ、かど、そば、近く・・・。こうした言い方になじんでいないのが難聴児の特徴です。日常生活の中でも「そこにあるでしょ」とか「それ、とって」「そこ置いといて」とか、場面を共有しているところでは代名詞や指差しで済ましてしまうことも多いです。「上から二番目の引き出しね」とか「~の横においてね」など言葉で正確に言い表すことの大切さにこの問題から気づくことができます。

また、StageⅣ後半の「保存の法則」は、年長さんにはぜひやってみてほしい課題です。縦に細いグラスに入ったジュースを底の広いグラスに移したとき、「多くなった」と答える幼児は、まだ「見かけ」にごまかされてしまい、「質量保存の法則」が理解できていない段階です。この段階は、通常7~8歳と言われているのでもちろんできなくてもかまいませんが、まだまだ「自己中心性」のまっただ中にある発達段階と言えると思います。

なお、検査道具は自前で作る必要がありますが、その作り方は以下の書籍に載っています。また、評価の仕方なども詳しく載っています。

『太田ステージによる自閉症療育の宝石箱』永井洋子・太田昌孝著、日本文化科学社

『StageⅣの心の世界を追って』永井・太田・武藤直子、日本文化科学社


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