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「視覚処理優位」タイプの子どもへの対応~年長児WISCⅣから

きこえない子どもたちとくに聴力が100dB を超える重度難聴児の中には、WISCⅣの

WISC視覚優位タイプ①.jpg「知覚推理」と「処理速度」がいずれも合成得点(IQ100以上で、「言語理解」と「ワーキングメモリー(以下WM)」が80以下のいわゆる「視覚処理優位」のタイプの子どもたちが少なからずいます。これまでに実施した年長児100人のうち2割くらいがこのタイプでした。そしてこの子たちの平均プロフィールを描くと、右表のようになります。この子たちは視覚的な教材等を有効に活用して言語理解の力を伸ばしていくことが必要で、このままにしておくと小学校以降の読み書きの力に遅れが出てしまいます。

 

〇全体的なプロフィールから

 まず、全検査IQFSIQ)を見ると88でやや低め(平均下~平均)です(合成得点IQは聴児の平均値が100)。また、4つの指標ごとの合成得点をみ

WISC視覚優位タイプ②.jpgと、知覚推理(PRI111、処理速度(PSI110で非言語性の指標得点はいずれも平均以上です。一方で言語理解(VCI74WMWMI68と言語性の指標得点はいずれも厳しく、合成得点の差は30くらいあるので、全検査IQだけから子どもの全般的な発達水準を判断することができません(指標得点間に23以上の差がある場合は一元的に解釈はしません)。

 また、FSIQに代わる一般知的能力指標(GAIPRI+VCI)もPRIVCIとの差が37と大きくこれも全般的な発達水準について判断する指標にはなりません。

 このような場合は、それぞれの下位検査ごとの評価点をみます。そこで「評価点プロフィール」を見てみると(補助検査である算数を除く)、評価点差はいずれも5以下なので指標として一元解釈をすることができます。

 

〇視覚処理優位タイプの子の強さ・弱さは?

さてまず全体的に言えることは、この視覚処理優位タイプの子(PRIPSIVCIWMI)たちは、初めて出会う視覚情報でもそれらの情報を的確に読み取り、それらの情報を分析したり物事の関係を考えたりなど論理的な思考ができる力をもっています(知覚推理)。また、目標や方法が明確な視覚的作業課題には素早く的確に対応する力ももっています(処理速度)。このような得意な視覚的処理能力を活用して弱い部分を高めることが重要です。

 では、弱さのある面とはどのような面かというと、語彙に関する知識やその語について説明する力(単語)、語の共通の概念(上位概念)を推論したりカテゴリーで括ったりする力(類似)、生活の中で得た知識を活かし具体的な問題を解決する力(理解)などです(以上、言語理解)。また、聴覚的な情報や言語情報を記憶にとどめたり、その情報を頭の中で操作すること(WM)は苦手です。

したがって、ことば(手話であれ音声言語であれ)による指示や説明だけでは、内容を忘れたり、要点を頭の中で整理できなかったりするので、図・表・メモなどの視覚的手段の活用、指示の繰り返し、復唱などの習慣化が不可欠です。

〇視覚教材を駆使してことばの力を伸ばすには?

数字・文字などの言語的な記号を頭の中に浮かべそれを操作する力は小学校以降の学習にどうしても必要な力です。その力が弱いとどうしても学習が遅れがちになります。そこで得意な力を活かしつつ言語面の力をレベルアップをしていく必要があります。

そこで言語理解の下位検査項目について、どのような手立てをとっていけばよいか考えてみたいと思います。

 

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①言語理解「類似」

視覚処理優位タイプの子たちは、知覚推理指標の中の「絵の概念」には的確にこたえることができます。例えば「りんご」「バナナ」「ぶどう」「キャベツ」「ニンジン」の絵をみて、それらをカテゴリーに分ける力をもっています。しかし、カテゴリーで括れても、それらがことばで「野菜」とか「果物」と言えるかと言えばそうとは限りません。カ

テゴリーの名前を知らないこともあるのです。モノWISC視覚優位タイプ⑤.jpg(ことば)は、似たものが集まってカテゴリーを作り(果物)、さらにそれらがより抽象度の高い共通のカテゴリーでくくられていきます(農産物)。このような階層構造をもったことばの集まりの下位のほうにあるのが「乗り物」「食べ物」「動物」「履き物」「文房具」といったカテゴリーです。このようなカテゴリーという仕組みが理解できるためには、モノとモノとを比べて「同じところ」(概念)を取り出せることが必要で。「類似」はそこが理解できているかどうかを問う問題です。


★このしくみを視覚的に理解できる取り組みが「ことば絵じてんづくり」であり、絵を使ったワーク『ことばのネットワークづくり』(本会発行)です。

nanchosien.com/publish/cat58/


②言語理解「単語」

 

WISC視覚優位タイプ⑦.jpg単語問題は、ことばの意味や概念をことばで説明できる力をみています。ことばをことばで説明できることは、言語の持つ最も重要な機能の一つです。学習とは、ものごとをことば(言語・記号・数式)を使って説明することです。しかし、日常生活の中では「ジュースちょうだい」という会話はしてもわざわざ「ジュースって何?」など尋ねることはまずないでしょう。生活の中でのコミュニケーション機能(生活言語)から、文化や歴史、芸術、科学的概念や知識などを伝えていく機をもったことば(学習言語)へとレベルアップを図るためには、あえて、このような働きかけをしていくことが必要です。

 ★ことばをことばで説明する力をつけるには、「なぞなぞ」がいちばんです。視覚処理タイプの子には必ず絵カードや文字カードを

WISC視覚優位タイプ⑧.jpg使って「見てわかる」ようにします。

 






③言語理解「理解」

「単語」がことばのことばでの説明であったのに対して、この問題は生活の中で得た知識

活かして、ある行為の理由、仮定の出来事に対するその対応の仕方などが説明できるかどうかをみています。

★視覚処理優位の子どもたちは、ことばを使ってやりとりする力が十分ではないので、具体的な生活場面の中で、子どもが日々経験し

WISC視覚優位タイプ⑨.jpgていることについて「考える練習」をするのがよいと思います例えば「毎日、風呂に入るのはなぜ?」「家を出るときになぜ鍵をかけるの?」「朝、おはようとあいさつするのはなぜ?」などの質問を文字カードにしておき

す。そしてそれについて理由を的確に説明できるように練習するとよいでしょう。

 

 

 このように視覚処理優位の子どもたちには、絵や写真、文字・文カードといった視覚教材、また、絵日記やことば絵じてんなども有効に使って不得意な言語理解の力や

WISC視覚優位タイプ⑩.jpgWMの力を伸ばすようにするとよいと思います。

(*今回はWMについての取り組みは省略しました)

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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