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J.cossでわかる子どもの読みの方略(2)

 前回、助詞や動詞の活用が習得されていない時、子どもはどのように文を読んでいるのかお話ししましたが、今回はその続きで、位置・空間関係の語が未習得のときと文の構造とくに名詞修飾のしくみがわからないときに子どもはどう文を読んでいるのかについて書きたいと思います。

 

(1)位置・空間用語や助詞がわからない時の子どもの文理解の仕方~J.cossNO12「位置詞」

この項目は、例えば「メガネは 箱の そばに あります」というときの、ものの位置関係をあらわす「そば」という語が理解されているかどうかということがひとつあります。ものとものとの位置関係を表すことばは、一般的にきこえない子は苦手で、例えば「そば・淵・となり・よこ・ななめ・近く・遠く・前・真ん中・うしろ・左・右・まわり・あいだ」などの語を生活の中で使って身につけていく必要があります。

また、もの同士の関係は相対的な位置関係なので、これにも前回述べた「視点の転換」が関わってくることがあります(例えば自分の右にいる人がBさんとすると、自分はBさんの左にいることになり、この相対的な関係性の理解が難しい)。

 さて、J.cossの「位置詞」では、位置関係の用語よりもむしろ助詞「は(が)・を・の・に」が理解できているかが大きな要素です。では助詞のわからない子たちは、どのように文を読んでいるのでしょうか? 

位置詞①.pptx.jpg例えば、問題文「四角は 丸の 中に ある」(図参照)では、「四角、丸、中、ある」から、まず「四角」を読んで、(四角がどうしたんだ?)と考えますが動詞や形容詞はそこにはないのでとりあえずおいておき、次に述部の「ある」から考えて述部に近いほうの【丸、中、ある】に着目して、(丸がなかにあるんだな)とイメージします。そしてその解釈した部分と先頭の「四角」との関係を考えて、(四角についていうと⇒丸がなかにあるんだ)と考える子どもが多いです。(助詞がわからない子どもは「丸中にある」と考えるより「丸中にある」と考えます)

 しかし、「鉛筆は 箱の上に あります」の場合は、上記のような丸と四角といった抽象図形同士の関係ではなく具体的なモノの絵なので、子どもは絵を手掛かりにして(こっちのほうが自然だし、あり得るかなあ)という印象で判断することが多いです(不自然さの多い絵は選ばない)。

もし、前述したような思考を忠実に行ったとしたら、子どもの解釈は(鉛筆についていえば、「箱が 上に ある」んだ)という判断になるはずです。しかし、箱の下に鉛筆が潜り込んでいるのは(絵としてなんかヘン)→(正答ではないだろう)と考え、箱の上に鉛筆が載っている絵を選ぶ傾向が強いです。そのほうがありそうですから。そして結果として正答にはなりますが、文が正確に読み取れたわけではありません(抽象図形の位置関係より、具体的なモノとモノとの関係の絵のほうが正答率が確かに高いですが文から判断したのではなく絵から直感的に判断したと思われます)。

 

(2)複文がわからない時どう読む?~J.cossNO13「主部修飾」とNO17「述部修飾」で使う方略

 次に、一つの文の中に単文構造の文が複数入っている複文ですが、こうした長い文はまず単文単位に助詞ぬきで読むことが多いです。例えば、NO13「主部修飾」の場合はどうなるでしょう? 「馬を 追いかけている 男の子は 太っています」では、助詞抜きで

主部修飾.pptx.jpgは「馬、追いかけている、男の子、太っている」です。 このような長い文は、子どもはまず単文単位で読んでいきます。この例文には単文が二つ入っています。助詞抜きで「馬(主語)、追いかけている」と「男の子(主語)、太っている」です。この二つの文から全体を判断すると、添付ファイルのように、①の絵(馬が追いかけているぞ。男の子が太っているぞ)を選択することになります。

 名詞の前にあるフレーズは、「名詞修飾用法」と言い、その名詞を詳しく説明するときに、名詞の前に修飾句をもってくるのが日本語の特徴ですが、このしくみ(文法)がわかっておらず、助詞がわからない子たちはこのような方略を使って文を読み解釈します。

 

 ○J.cossNO17「述部修飾」でもこの方略が使われます。

述部修飾.pptx.jpg例えば図の下の例文「犬は 茶色い 馬を 追いかけています」の場合、名詞修飾の文法がわからない子は、文を「犬、茶色い」「馬 追いかける」に分けて考えます。図の下に示されているように、ある聾学校小学部の児童7名中5名はこのように文を分けて「犬、茶色い」とまず解釈しています。しかし、後半部分の文から、「馬()追いかける」とこの部分だけ正しく解釈した子どもが3名。「馬()追いかける」と主語として読んだ子どもが2名いることがわかります。

述部修飾②.pptx.jpgこの名詞修飾のしくみは、日本語のわかりにくさの一つで、日本語には関係代名詞のような明確な文法装置がないので、教えづらいところですが、品詞カードと構文図を使って指導することができます。

右の図の例文「鉛筆は黄色い本の上にあります」を「鉛筆は黄色い。本の上にあります」と解釈したとして構文図に書き入れると、述部に「黄色い(形容詞)」と「「あります(動詞)」の二つが並置されることになります(下・左図)。しかし、一つの文の中に述部は最後に一つだけくるのがルールですから、途中にある「黄色い」の位置が間違っていることは明らかです。では、「黄色い」はどこに持っていけばよいでしょうか? これは、「本」の前にもっていき、本を修飾する名詞句と考えるしかありません(下・右図)。

文の視覚化.pptx.jpgこのように文の語を品詞カードにして、構文図に並べてみることで文の構造を視覚的に明らかにすることができます。まさに「百聞は一見に如かず」で、右図の例文のような、どこがどこにかかっているのかわからないような複雑な文でも実にシンプルな形になっており、日本語の基本的な文型である「~が~を+動詞」が二つ使われているだけの複文であることがわかります。因みに「ベビーカーを押しているお母さんが、走っている男の子を 追いかけるの」をというのは、「追いかける+の」という名詞構成語を修飾している名詞修飾節で、大きく黄色く囲っている部分を大きな名詞」と呼んでいます。詳細TOP>日本語文法指導>構文・接続詞の指導>文を詳しくする方法(大きな名詞の作り方)をご覧ください。

〇子どもの読みの方略を知れば誤り方の指導ができる

 J.cossについて、助詞や動詞の活用、複文(名詞修飾)構造など、文法がわからないとき子どもはどのような方略をとっているのかみてきましたが、このように分析ができると、なにをどう指導すればよいのかがわかります。とくに文の理解には助詞が大きくかかわっていることがわかります。ではそのためにどういった指導をすればよいのでしょうか? 助詞を指導するノウハウを明示したテキストは、本会発行の『きこえない子のための新・日本語チャレンジ』が日本で唯一のテキストです。ただ、学習にあたっては子どもだけにやらせておいても助詞は身につきません。大人(指導者や保護者)がまず助詞についてよく理解し、子供と一緒にテキストを使って学習していくことが必要です。教科書に出てくる文がまだ比較的簡単な1,2年生のあいだに助詞がわかるようになればベストです。そのアセスメントのためにはまず「助詞テスト」をやってみてください(TOP>発達の診断と評価>助詞テスト参照)。助詞テストで80点以下なら助詞の意図的な指導が必要です。

┃難聴児支援教材研究会
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