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J.coss(日本語理解テスト)とはどのような検査か?

J.coss(ジェイコス)を難聴児にどのように使えばよいですか?という質問が、難聴児を指導しておられる方からありましたのでお話ししたいと思います。

J.coss検査のしくみ

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 ファイルの例に示すようにこの検査は、20の文法項目があり、それぞれの文法項目の中には4つの問題が配置されています(20×4=全問題数80)。問題文を読んで(幼児なら読んでもらって)その文に合う絵を4つの絵のうちから1つ選びます(4択)。各項目の中の4問が全部正答の時、その文法項目は「通過」とみなします。3つ正答では「通過」にはなりません。4問全問正答時のみ通

Jcoss2.pptx.jpg過としているのは、偶然にあたる確率をできるだけ排除するためと思われます。

 

J.cossの効用と限界

 この検査のメリットについてです。この検査の適用年齢は3歳(2歳児クラス)~65歳となっています。難聴児でも3歳幼児(乳幼児2歳クラス)から使うことができます。J.cossは音声日本語や文字・指文字日本語で問題提示をすることが基本ですが、日本語ではまだわからないけれど手話ならわかるとい

Jcoss4.pptx.jpgう幼児や重複障害のある幼児などにも手話に変えて使うことが可能です(その場合、手話の理解力の測定になります)。

 一方この検査の限界ですが、この検査で測定できる日本語の力としては、小学校3、4年生くらいまでの日本語の文法力です。つまり、3歳から910歳くらいまでの日本語の語彙・文法力を測定するのに適した検査ということになります。ということは難聴の幼児から小学生あたりの日本語力を測定するにはこの検査はとても使いよいということになります。それがJ.cossが全国の聾学校や難聴学級で広く使われるようになった理由だろうと思います。


 J.cossの問題構成

(1)1項目めから6項目めまで(単語レベル・語連鎖レベル)

Jcossの最初の1~3項目は単語の問題で、①名詞、②形容詞、③動詞となっています。いずれもごく基本的な単語なので、聴児なら年少児でこの3項目めまでは通過できます。

さらにそのあとは④二語連鎖(二語文)の問題です。そして⑤は二語の否定文です。動詞が否定形になっているので、動詞の「~ません」という活用がわからないと通過できません。難聴児の最初の難関です。そのあと⑥は3要素結合文(3語文)です。ここでの問題は、実は助詞がわからなくても単語がわかれば正答できる問題になっています。例えば「子どもがご飯を食べる」。この文では助詞「が」「を」がわからなくても「子ども、ご

Jcoss3非可逆・可逆文.pptx.jpgはん、食べる」という単語がわかればイメージを浮かべることができます(逆のパターンである「ごはんが子どもを食べる」と思う子どもは助詞がわからなくてもさすがにいません)。こういうタイプの文を「非可逆文」と言って意味的に逆はあり得ないタイプの文です。①~⑥までは、助詞は関係ない問題ばかりなので、単語を獲得しさえすれば誰でもここまでは到達できます。そして4~6項目めあたりまで通過できれば年中レベルです。この検査は聴児390名で標準化されており、何項目通過すれば健常児(聴児)のどの年齢に該当するかがわかります。10年前にこの検査の「視覚版」(文字を見て回答できる版で聾学校や難聴学級ではこれを使います)ができた頃に行われた聾学校児童90名の結果(中川2010)では、小学部低学年児童で平均通過項目数は5~6項目(年中レベル)でした。きこえない子どもの語彙獲得の困難さを象徴する数字でした。

 

(2)7項目め~20項目め(文法レベル)

7項目め(年長レベル)以降が、本来の文法の理解度を調べる検査です。⑦~⑳の問題は、助詞や接続詞の理解、動詞の活用の理解、構文のしくみなど日本語の文法を習得していないと正答できない問題です。

その最初の7項目めに配置されている問題は、「太郎が(は)花子を叩く」といったタイプの文です。このタイプの文は、助詞がわからないと正答できない問題です。「太郎、花子、叩く」という単語の理解だけでは、どちらがどちらを叩いたのか区別できないからです。このようなタイプの文を⑦「置換可能文(可逆文)」と言っています。意味的に逆もあり得るという意味です。

聴児の年長児では、日常生活の中で会話を通して自然にさまざまな語彙や動詞の活用、助詞などの文法を身につけ、⑦~⑨あたりまで通過します。つまり、就学の頃までにこのあたりまで通過していれば、小学校1年生に入学して、国語の教科書を自分で読んでだいたい内容がわかるレベルに来ていると言えます。それゆえに、7項目以上通過は難聴児の就学時到達目標と言ってよい目標と思います。

 

〇難聴児の苦手な文法項目は?

苦手な文法項目.jpg

 J.cossの問題の中で難聴児が苦手とする項目がいくつかあります。それは以下のような項目です。            

1.格助詞(J.coss,⑲)・・・「が、を、に、で、の、と」などの理解

.位置詞(同⑫)・・・あるものとあるものとの位置関係の表現(例「メガネは箱の【上・中・下】にある」)

.比較表現(同⑮)・・・あるものとあるものの大きさなどを比較する文(例「テレビはスマホより大きい」)

.受動文(同⑭)・・・動作を受ける側が主語となる文(例「太郎は 花子に 叩かれた」)

.複文(主部修飾・述部修飾同NO⑬、⑰)・・・名詞修飾を伴う複文(例「鉛筆が中にある筆箱は重い」「鉛筆は黒い筆箱の中にある」)

また、J.cossにはありませんが、「使役文」(例「母が子どもに机の片づけをさせた」)や「授受文」(例「太郎が花子にチョコをあげた。花子が太郎にチョコをもらった。太郎が私にチョコをくれた」)なども苦手な文のひとつです。

 

では、なぜ難聴児はこのような項目が苦手なのでしょうか? また、苦手な項目を克服するにはどのように指導をすればよいのでしょうか? その具体的な方法については次回に書きたいと思います。

 

〇小学生の到達目標は?

J.cossの聴児の平均通過項目数をみると、小4~6年では平均17項目程度で止まっています。高学年の聴児なみのレベルとは1718項目通過くらいのようです。

 右のグラフに示すように、現在大学生になっている、ある公立聾学校小学部卒業生19名(201013年卒業生34名中)の小学生時代の通過項目数をみると19人の平均が18項目に

大学進学者学年別通過数.pptx.jpg届いているのは小6の時です。この子どもたちは現在、大学に入学している子どもたちですから日本語の読み書きはできるようになった子たちです。しかし、小1年のときの平均は通過7.3項目です(赤い線)。黄色線の聾学校小学部平均より2項目分高いだけですが、そのあとの伸び方が違います。では、このような伸びはなぜ生じたのでしょうか? 小学部に入ってからなにか特別な指導をしたのでしょうか? 実はこの子どもたちは、この聾学校で日本語文法指導に取り組み始めた頃に小学部にいた子どもたちです(約10年前)。この子たちの伸びは、文法指導によるところが大きかったのです。とりわけ大きかったのは、動詞活用の指導と助詞の指導です。動詞と助詞を指導することで子ども各聾学校.jpgたちの基本的な日本語を読み、書く力が大きく伸びました。その結果として、教科書が読めるようになり、教科書がわかることによって学力をつけ、学力をつけた結果として大学まで進学することができるようになったのだと思います。X聾学校の半数以上がこうして大学に進学するようになったので、文法指導の効果は本当に大きいと実感しました。
 因みに、当時実践し開発した方法をまとめたものが『きこえない子のための新・日本語チャレンジ』(1,600円・主に助詞と日本語の文のしくみを学ぶ)と『絵でわかる動詞の学習』(1,700円・受動文・授受文・使役文など動詞の様々な活用を学ぶ)です。いずれも本会発行図書です。

 

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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