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2歳児の手話での豊かな会話

  今、私は、これまで数年間にわたって積み重ねてきた子どもの諸検査結果や保護者の記録をもとに、幼児期の言語発達過程を整理していますが、そこからわかる大事な問題について書きたいと思います。具体的に言うと、普通にきこえる子であれば、語彙の獲得が始まる1歳代から2歳代の「語彙爆発」の時期を経て、1,000語獲得するといわれる3歳になる頃までの約2年位を、言語をもって生活することの大切さです。とくに2歳代は、きこえる子は非常に沢山の語彙(音声日本語)を獲得しますが、きこえない子とくに高度難聴児(人工内耳装用児を含めて)には、音声日本語でこれだけの語彙を3歳時に獲得することはまず困難でしょう。では、手話でなら可能なのでしょうか? 1000語という語彙数は確かに相当の数ですが、聴者家庭であっても手話をしっかり使っていけばそれに近い語彙数なら獲得できます。ただ、手話は日本語ではありませんから、その手話語彙数がそのまま自動的に日本語に移行するわけではありません。手話と日本語との変換とか、日本語語彙を獲得していく手立て(音声、指文字、文字等による語彙獲得)は別に必要になります。

 このようなプロセスを前提としてですが、2歳代でしっかりと手話によるコミュニケーションができている子どもは、そこから様々な知識も獲得し、考える力や物事への意欲も旺盛な子どもが多いのも確かです。ここでは、現在すでに小学生になっていて、読み書きの力も順調に伸びている子どもたちの1~2歳の頃の記録を拾い出してみます。

 

A児:TV「いないないばあ」を見ていたら、バスが出て、「あ!」と本棚を指して、手話で「本!本!」と言っていたので、もしかして、乗り物の本かな?と渡したら、開いて「あ!」と声を出しました。「あ、これ同じだね。バスだよ~」と会話しました。(16か月)  (*すでに1歳半で「本」という手話を獲得)

 

B児:オムツ一丁で遊んでいたBが、「ズボン、はきたーい。」(手話+音声)。「Bのズボンはここにあるよ、これをはいたら?」と言うと、自分で履いていた。履けると今度はズボンの前後を確認して私の顔を見る。「マーマー、ちがう?大丈夫?」。私が「大丈夫だよ、ちゃんと履けているよ。上手に履けたねぇ」と手話で答えると「大丈夫ねー?」と言いながら満足そうでした。最後まで自分でできてうれしそうでした。(2歳2か月) (*80dB台なので音声と手話を同時習得しています)

 

C児:Cが最近質問することが増えてきた。「木、葉っぱ、ロッカー、門・・」片っ端から目にしたものを指さしできいてくる。これが2歳の「質問期」なんだろうけど、時間に押されるとピューッと早歩きで「そう!葉っぱね」とかササッと答えている自分に反省している。(2歳3ヵ月) (*2歳代で「質問期」があるのは言語獲得が順調に進んでいる証拠です)

 

D児:キッチンにいると、Dが「いっしょ、ご飯作る」と。自分のおもちゃのキッチンと忙しそうに行き来する。本物の人参を見せると、本物とおもちゃの人参を両手に持って、うれしそう。「ママの人参、どっち?」と聞くと、「はい!」とおもちゃをくれる。包丁で切った真似をして、「切れないな~」と困っていると、本物をくれた。・・・少しのシーンで、イメージの手話が一気に思い出されるようで、夜、食事の準備を始めると、私に「ご飯作る。グツグツ。パパ家に帰る。車でブーッ。お仕事終わり。テレビ触るとパパ怒る。こわ~い。メッ。・・・」とどんどん話が広がって来て、一気に手話で話し始める。私もそうそう・・・ってうなずきながら聴いている。そして、何か手話で付け足そうとすると、手を押さえられ、「自分で!」と一人で話し始める。そんな時は、ただただ聞いてほしいらしい。しまいには、「ママ、新聞読んでて!」と指示が出る。(2歳5か月) (*再現遊びをイメージ豊かに展開しています)

 

E児:「お風呂に入ろう」「お風呂洗ってくるね」などは話していても、お風呂がお水からお湯になることなんかも説明しなきゃいけないと気づき、「お風呂をわかそう。今は水で冷たいからあったかくしなきゃ。スイッチ入れてこよう!」と言うと、大きくうなづき、台所に行ってガス台のスイッチを触っている。お風呂のスイッチは教えたことがないが、「お風呂」「煮る」という手話で「お風呂をわかす」を表現したので、「煮る」の手話を見てガス台へ行ったのだろう。家の中ではネタ切れだと思っていたけど、いろいろ話したり、教えたりすることは多いなあと気づいたと同時に、断片的な情報から想像をふくらませて行動するEにも感心した。(2歳8か月)  (*日頃の生活場面を意識的に子どもに見せ、用を足す会話に終わらせることなく、しっかりと言語化しています)

 

 これらの会話は、親御さんは口話併用手話、子どもは手話または口話併用手話です。会話からは楽しそうな雰囲気が伝わってきますし、会話はスムーズで、同じ年齢のきこえている子の会話となんら変わりません。この子たちはその後、手話だけでなく日本語も順調に獲得していきました(年長時WISC言語性ノーマル、Jcoss10項目以上通過)。

もちろん全ての子がこのように順調に伸びていくわけではありません。子どもが本来持っている力の問題もあります。しかし、家族が発達早期から手話を使うということは、その子のきこえなさ(障害)を家族が受けとめ、手話を必要としている本人の存在を肯定しているというメッセージを子どもに伝えます。そして、子どもは自分の存在がこの家族の中でしっかり受けとめられていること、きこえる人ばかりの家族の中にも自分の「居場所」があることを実感するでしょう。そしてそのことが、子どもに成長発達の原動力を与えることになるのだと思います。

 

 

◎手話による子ども同士のコミュニケーション(乳相2歳児グループ)

 

「今日は2歳児グループでした。玄関でアゲハのさなぎを見つけた女の子が「ことば絵じてん」を出してきて「これ(指さし)と同じ(手話)」と言うと、男の子が自分のことば絵じてんをめくって探して「(ぼくの辞典には)ない(手話)」とお互い、さなぎと辞典を見合っていました。自分の作った辞典を使って子ども同士でちゃんと会話している。見ていてとても面白かったです。」

 

 2歳児グループですから、子どもは3歳前後のきこえない子たちです。音声(口話)で育っているきこえない子ども同士では、とてもこのような会話は成立しません。これができるのは、手話だからです。手話はきこえない子たちのれっきとした共通の言語です。手話という共通言語があってはじめて、こうした「発見」を、相手に「言葉(手話)で伝え」ることができます。そして、それぞれが作った絵辞典の「虫の概念カテゴリー」のファイルにある虫たちと「照合」し、目の前のアゲハが、その「虫」のカテゴリーに含まれるものであるかどうかを調べていることになります。このように、同じ経験を互いに言葉で共有しあう中で、子どもは、世界を知り、知識としても蓄えていきます。これが発達早期に手話を獲得する非常に大きなメリットで、こうした理解力や蓄えられた知識が、文章の読みに必要な豊かな知識となっているわけです。