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「こんなに伸びたよ!」~『ことば絵じてん』づくり半年間の成果

このカテゴリーの記事の下に二つ目に「ことば絵じてんづくりを楽しんでます!」という記事があります。このお子さんは2歳で人工内耳を装用し、装用効果もあがって年中の頃にはそれなりに音声で会話できるようになっていました。保護者の方も「これで大丈夫!」と思っておられたようです。ところが、このホームページをご覧になって、お子さんはそれなりにことばを身につけているけれど頭の中で、それぞれのことばが概念化されたカテゴリーに整理されていないことに気づき、子どもと一緒に「ことば絵じてん」づくりに取り組み始めました。導入も上手だったようで(親が勝手に作って子どもに「見なさい」と与えてもこどもは見ません。作る楽しさがわからないからです)、楽しみながらいろいろなカテゴリーで作っていきました。

 

7か月間で、語彙年齢3歳から5歳へ!

去年の秋(年中・51カ月時)に「絵画語彙テスト」があり、そのときの語彙年齢は32 季節ポスター.JPGか月、生活年齢に比べて約2年の遅れがありました。語彙数でいったらだいたいどのくらいでしょう? これまでの研究によれば、3歳前後での聴児の平均語彙数は約1,000語と言われています。日常会話は1,000語あればほぼ間に合いますから、このお子さんもおそらく1000語くらいの日本語語彙数はあり、それゆえに日々の生活の中ではあまり困らなかったのだろうと想像されます。

しかし、いざ、子どもに「りんご、ぶどう、いち とぶもの.jpg ご、バナナ。これはなんでしょう?」と子どもにきいても「果物」ということばが出てきません。では「果物」という上位概念を知らないのかと言うとそうでもない。正確な知識にはなっていないのです。そこで「ことば絵じてん」に取り組んだわけです。

家の中には、ところせましとばかりにことば絵じてんの「ポスター」が貼られています(右上は「季節・四季」がテーマ)。また、ノートにはいろいろなくくり方で頁が作られています。右中図は「とぶもの」というカテゴリーで、右下図は「1文字のことば」というカテゴリーでその中に入るモノが集められています。

このような活動を続けて7カ月。つい先日、年長・5歳8か月 一文字ことば.jpg時に絵画語彙検査が再びあり、語彙年齢はなんと56か月。7か月間で、ほぼ生活年齢と同じにまで伸びていたのです。だいたい語彙数2,000語くらいでしょうか。

 

 

〇なぜ、短期間に、語彙が増やせるのか?

半年間で1,000語も増える? というのが読まれた方の感想でしょう。7か月=210日で1,000語ということは、1日あたりほぼ5語ずつ増えたことになります。聴児の語彙獲得数の研究では4歳で1,500語、5歳で2,0002,500語、6歳で3,0003,500語、小6で25,000語というのがあります。語彙の増加はだんだんペースが早くなっていくことがわかります。5歳から6歳にかけては1日あたり3語、小1から小6までの6年間では1日あたり10語。

これは、私たちの頭の中に、語彙が爆発的に増えていく装置が備わっているからです(→「ことばのネットワークづくり」参照)。 このお子さんはすでに1,000語の語彙数はあった。しかし、それは個々バラバラのことばで、極端に言うと、固有名詞ばかり沢山あった。固有名詞はカテゴリーを作ることができません(世界に一つだけしかないことばなので)。また、整理して覚えることができないので記憶の負担が大きく、覚えられる量も多くない。その固有名詞的になっている子どもの語彙を「ことば絵じてん」で整理し、いろいろな角度から関係づけていったことで、もともと持っていた語彙がカテゴリーに整理され、いろいろな角度から関係づけられることでことばとことばのネットワークが形成され、記憶もしやすくなった。また、新しい語彙に出会ったときは、すでに持っているカテゴリーの語彙と照合し、瞬時にどのカテゴリーに入るのかを判断し記憶していく働きをもっています(「即時マッピング」)。そのために新しい語もどんどん覚えていったのではと思います。

ですから、きこえたことばだけを自然獲得していたのでは、きこえない子ではそんなに語彙数は増えないでしょうが、「ことば絵じてん」で視覚的に語彙を整理したり、絵日記を書いたり、絵本を読んだりなどの活動を通して、意図的に日本語に触れていけば、1日あたり5語ずつ増えるというペースは決して難しいことではないと思います。

 

「ことば絵じてん」づくりは、どの子にも有効です。ちょっと大変ですが、小学部に入るまでのあいだ、がんばって取り組んでみてはどうでしょうか。効果は必ず出ます。語彙数が少ないと教科書を自分で読むことができません。自分の力で教科書を読めるために必要な語彙数はだいたい3,000語と言われています。最低2,000語はないと教科書は難しい。2,000語獲得はきこえる子にはたやすいですが、きこえない子には相当大変です。保護者の方々は「教科書をやってほしい」と言われます。その気持ちはとてもよくわかりますが、500語にも満たない日本語の語彙数で小1,2年位までなんとかやれても、それ以後はとても無理です。では小学生になってから語彙を増やせるか?小学校以降は座学中心になるので体験を通して語彙を増やすのは基本的に困難。とくに手話という言語をもっていない子は、概念を理解し手掛かりに使える語がないので本当に大変です。といって単語だけを、その物事の概念抜きに、丸暗記しても無意味です。経験と言語を結び付け、楽しみながら覚える工夫をぜひ幼児期の間にやっていただきたいと思います(このカテゴリーの下の「ことば絵じてん」を使った掃除・調理・買物とかゲームなどは楽しみ方として参考になります)。