文をまとめると日記はどう変わるか?
日本語の難しさ・わかりにくさの一つに「名詞修飾構文」というのがあります。これは、名詞の前に、その名詞を修飾する文がくっついている文のことです。
例えば、よく引用されるのが井上ひさし(H14)の本に出てくる「黒い目のきれいな女の子」という名詞修飾です。井上ひさしはその解釈の例としていくつかあげています。
黒い目がきれいな「女の子」
黒い目の「きれいな女の子」
黒い目のきれいな女の「子」
黒い、目のきれいな女の子・・・(以下省略)
結局、書いた人がどれを言いたかったのかは、多様な解釈が成り立つここだけの文ではわからないので、その前後の文脈から判断するしかないのが日本語です。関係代名詞がない日本語の難しさなのですが、名詞修飾を使って文をまとめられるようになると、文の冗長さがなくなり、読む人にもわかりやすくすっきりした印象の文になります。児童の以下の作文を例にどう違うのかみてみましょう。
「ひまな春休み」(聾学校1年生日記より)
①今日は、キャンプの片づけをしました。
②私は片づけるのが面倒くさいから逃げました。
③お姉ちゃんと一緒に遊びました。
④きよちゃんが来ました。
⑤私は洗濯物をおばあさんのおうちに持っていきました。
⑥途中で落としました。
⑦洗濯物が2枚落ちました。
⑧きよちゃんが拾ってくれました。(以下略)
(*漢字使用と丸数字は筆者)
この日記は8つの文からできています。①から③は関連した内容なのですが、一つ一つが「~ました」「~ました」となっているので、行動が一つ一つ独立して移っていく印象があります。これを一つのこととしてまとめてみるとどうなるでしょうか。
「キャンプの片づけが面倒くさかったので、逃げてお姉ちゃんと遊びました。」
一文にするほうが一つの出来事として、また、「~ので」と接続助詞でつなぐことで、前半の理由でこうなんだと、後半の文が強調されます。ただ、読む側にとっては、「片づけから逃げてどうなったのだろう?」と、その先がもうちょっと知りたいところです。
次に、④⑤⑥⑦も一つの文にまとめてみます。これも一連の関連した出来事です。
「きよちゃんと一緒に、おばあちゃんのおうちに洗濯物を持っていく途中、洗濯物が2枚落ちました。」
こちらは、次の⑧の文で、きよちゃんがひろってくれたという事実だけを書いていますが、読む側としては「洗濯物は汚れなかったのかな?」などと知りたくなります。ここも、そのあとどうだったのかをもう少し書いてほしいところです。例えば以下のように少し詳しくするとよいかもしれません。
「でも、きよちゃんがすぐに拾ってくれたので、洗濯物は(汚れませんでした)とか(私はほっとしました)。あるいは、「きよちゃんに『ありがとう。汚れなくてよかった』とお礼を言いました。」など。
1年生は、ものごとを時系列に沿って書くのがまず基本的に大事なことですが、それができるようになってきたら、名詞修飾や接続詞などを使って文を1文にまとめたり、逆に、詳しく書いたほうがよいところは詳しくするなど、文の書き方を練習するとよいと思います。
また、この日の日記では、キャンプの片づけのことと洗濯物をおばあちゃんの家に届けに行くことの2つのテーマが同居していますが、どちらかのテーマで一つに絞り、詳しく書く練習をするのがよいと思います。そのほうが、生活や自分の内面をみつめ、ものごとを深く考える目を養うことができます。
右は名詞修飾を使った聾学校児童の日記・作文例です。赤の傍線を引いたところが名詞修飾を使った箇所です。
では、名詞修飾は、どのくらいの年齢から指導すればよいのでしょうか? 日記の中で指導するのは学童期以降ですが、絵日記などの文を品詞分類して色分けしていくことは幼児期からできますし、色分けしたカードを使って、「名詞」「動詞」「形容詞」集めなどもできると思います。そのうえで、ひとまとまりの意味のあることば(「大好きなやさしいおばあちゃんの家」とか「たまねぎなしのチーズバーガー」)を括って、「大きな名詞」すなわち名詞修飾句と教えていくことはできると思います。
品詞カードを自分で作ったり、「名詞修飾ゲーム」などを自分で考えて実践してきた、ある保護者のお子さん(年長)は、このような活動を通して名詞修飾の意味を理解し、絵本の中で、「あ、大きな名詞(名詞修飾句のこと)みつけた!」と、自分で発見できるようになったそうです。幼児期から単語や文を可視化して取り組みは、思った以上に子どもの可能性を引き出していくのだと、改めて認識しました。