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文法指導と日記・作文指導は車の両輪

 ある小1の女の子(A子ちゃん)が日記を書いて送ってくれました。それに対して、どのように返事をしたのかその返信の内容について紹介したいと思います。

◎A子ちゃんの日記(原文のまま、92字)
「おとといあさがおのたねをきりました。
なかがはっぱみたいなものがありました。
わたしはすごいなとおもいました。
つぎの日たねをみたら、しろいのたねがくろいにかわっていたから びっくりしました。」

◎私からの返信(漢字にはフリガナあり)
 朝顔の種を切ってみたのですね。そうしたら、種の中に葉っぱみたいなものがあったのですね。それは、なんだと思いますか? そう、それが大きくなると、朝顔になるのですね。今はまだ、種の中にあるけれど・・。
 
 A子ちゃんも「わたしは すごいなと おもいました。」と書いているけれど、びっくりしたでしょう? 
それが 朝顔のいのちなんだよ。人間でいえば、お母さんのおなかの中にはいっている赤ちゃんみたいなものかな? だから、大事にとっておいて、来年の春、土の中に返してあげてね。

 それから、もう一つよい発見をしましたね。「つぎの日、たねをみたら しろいのたねがくろいにかわっていたからびっくりしました。」というところですね。
 白い種の中は、黒い種と少し様子がちがうかもしれませんね。

 あと、なにかの様子をあらわすことばで、最後が「い」で終わるとばがあるでしょう? 例えば、A子ちゃんが使っている「白い」「黒い」など。これを形容詞(けいようし)といいます。
 ほかにも「大きい」とか「小さい」、「長い」とか「短い」、「高い」とか「低い」などもそうですね。
このようなことばは、表のような変わり方をします。「白い」と「黒い」だったら、どうなるかな? お母さんとそうだんしながら表に書いてみて下さい。そうすると、
1.「しろいのたね」は、どうなればいいかな? ⇒?
2.「くろいにかわっていたから」は、どうなればいいかな? ⇒?

  形容詞.jpg

 以上が私の返信です。実は、この日記の前にA子はもう一つ、「朝顔」についての日記を送ってくれていました。その日記は、朝顔の種をとったこと、かずを数えたら1つから6つまでいろいろだったこと、種には白いのや黒いのがあったこと、つるはすでに切れていて葉っぱは茶色になって死んでしまったことなどを書いていました。
 それに対して私からは「黒い種をとって、2,3日水につけてから、縦に切ってみるといい」ことなどを書いて返信していました。
 
 そして今回、それを実際にやってみて、その感想の日記だったわけです。朝顔は小1の生活科でとりあげる教材で、たいていは種をとるだけで終わります。しかしもう一歩踏み込んで、種を切って、その中をみることで「いのち」が育まれていることを発見できます。つるや葉は死んでも、ちゃんと種の中に命を宿しています。そして、翌年、その種を蒔くことで再び「いのち」が芽生えること、すなわち生命の循環について実感させることができます。

 このような思考と認識を育てることと同時に、もう一つ、聾学校で欠かせないのが日本語指導です。
 ただ、日本語の誤りは一つの日記で一つだけ取り上げることです。ここでは、形容詞の活用だけを取り上げています。
 しかし、FAXで文法指導まですることは難しいので、ここでは、形容詞活用の表だけを送り(添付ファイル)、とりあえずこの活用表を「白い」と「黒い」を使って埋めてみるように言っています。
 そしてあとは学校の文法指導に任せることになります。動詞や形容詞、助詞の間違いなどは、作文の中で赤を入れて直させただけでは、そこにある文法ルールがわからず、また同じ間違いを繰り返します。形容詞のルールは小1でも理解できますし、一度指導すれば間違いはしなくなります。その意味で日記・作文指導と文法指導は、日本語指導の車の両輪だとも言えると思います。

*形容詞の活用については「きこえない子のための日本語チャレンジ33~34頁参照)

 

「見たこと」を書く日記の大切さ

 

子どもが書く日記のタイプには二つあります。一つは「したこと(やったこと)」を書くタイプの日記、もう一つは「見たこと」を書くタイプの日記です。とはいっても、子どもたちが書く日記は、「今日は~をしました」という前者のタイプが圧倒的です。後者の「見たこと」を書くタイプは、それこそめったに「見たこと」がありません。ここでは「見たこと」タイプの日記を紹介します。以下、A子の日記から。

 

818

 「わたしは あしたのあさ あさがおが いくつさくか わかります。

  いくつさいたは はじめて 9さきました(筆者注;いくつ咲いたか数えてみたら、今日初めて9個も咲いたという意味だと思われます)

  ゆうがた つぼみを かぞえると あしたのさいたはなのかずが わかります。あしたは 2こ さくと おもいます。たのしみです。」(原文のまま)

 

819

 「きょうは こたえは 2こ さきました。「えっ。」やった。

きのういったのは あたり! 「やった。」

  あしたは さくは わかります。あした4こさくと おもいます。」(原文のまま)

  

この作文のよさは、毎日朝顔を細かく"観察"して、何度も観察した結果、自分で、次の日に咲く花の数が"予想"できることを"発見"し、それを日記に"記録"し、そして次の日に、自分の"予想"を"検証"し、さらにその結果を確かめるために、さらに観察を継続していることです。これはまさに「科学者の目」です。

 

そして、この日記が「見たこと」タイプの典型的なものです。もちろん、その中に「したこと」が含まれていないわけではありませんが、あくまで書く中心になるのは、「見た」対象そのものについてのことです。

 

この日記では、朝顔という対象そのものに焦点化し、朝顔を深く観察し、そこから"仮説"を立てて検証する"仮説―検証"型の思考があるのがわかります。

この女の子は聴者家庭の子どもですが、聴力も厳しく日常会話は手話中心です。書いている文にはまだまだ文法的な誤りも多いのも事実です。しかし、ものごとをみる力はとてもよく育っていて、科学的な思考の芽が育っていることがわかります。

 

このように「見たこと」に焦点化して書くことによって、対象への、そして世界への認識をさらに深いものにしていくことができます。ただ、このようなタイプの日記は、ある程度、大人の側の指導も必要です。例えば、「今日は、タンポポを取って帰って、タンポポについて書いてきてごらん」「『秋になった』という書き出しで始まる日記の続きを家で書いてきてごらん」などとテーマを与えてクラスで一斉に書かせ、それを皆で発表する中で、さらに認識を深めていくといったやり方です。このような作文指導の時間が「自立活動」とか「国語」といった時間の中で週1時間は、聾学校では必要だと思います。そして、このような活動の中で培った思考の力と日本語の読み書きの力が備わったとき、いわゆる「9歳の壁」が超えられます。自分の言いたいことを論理的に、正確で、そして他者を納得させられる日本語の文章表現ができる、その表現力こそ、障害者に対する偏見や差別の残る世の中を生き抜いていくための大切な力なのだと思います。