日記をとおして行う文法指導2~格助詞「に、で、を」の指導
手話を日常的に使用している子たちは、「場所・どこ」「あいだ」「使う」「原因・理由・なぜ」「行く」などの手話は自然獲得しており、その意味・概念も理解しています。その手話を、助詞を教えるときの記号(=「助詞手話記号」)として使います。あくまで助詞を学習するための文法記号なので、日常生活での会話の中でその記号を使うわけではありません。また、その記号で助詞の意味・用法が全て説明できるわけでもありません(日本語の全ての文法を矛盾なく説明できる理論は今のところありません。例えば格助詞の範囲をどこまでとするか等は研究者によってまちまちですし、私たちが学校で習った「形容動詞」には多くの矛盾が含まれています)。そのことを理解した上でもなお、きこえない子にこの助詞手話記号を使って助詞の用法を教える効果は十分にあります。
さて、子どもの書いてきた日記には、助詞の誤りが必ずと言ってよいほどあります。そこで、その都度、子どもに直してもらうわけですが、これまでの聾教育の中では指導の方法がなく、ただただ「『学校で行く』とは言いません。『学校に行く』です」と、子どもにその理由を説明しない(できない)ままに、「日本語はこういうもんだから」という指導をしてきました。もちろん、研究者含めて日本中のだれも説明できないことが、日本語の中にまだまだあります。理由がわからなくても私たちは繰り返し日々使う中で自然獲得してきたのですから、意味や理由がわからなくてもきこえない子も何度も繰り替えせばきっと使えるようになる、という信念があるわけです。では、正しく使えるようになったのでしょうか? もしこの方法で助詞が身につくのであれば、同じ助詞の使い方を小1から高3までの教科書の中で何百回、何千回と見て声も使って読んでいるのですから「自然に身につく」はずです。しかし実態はそうではありません。
きこえない子に必要なことは、説明できることは子どもにもわかるように説明し、子ども自身が自分で理解し、納得して使うという経験であり、それを積み重ねることです。それが日本語の指導であり、文法指導です。
では、日記を通して具体的にどう指導したか。C子さんの日記をとりあげてみます。C子さんの日記には助詞「で」がほとんど出てきません。使い方がわからない、というのが第一義的な理由でしょうが、助詞「で」は、実は使わなければ使わなくても済む助詞なのです。
どういうことでしょうか? これについてはまた改めて説明しますが、ここでは、「で」は、文を詳しく説明するときにしか使わない助詞と理解しておいてください。図に示した二つの日記・作文例(図の左は聾学校幼稚部年長児の絵日記、右は聾学校小6児童の作文)はそれぞれ400字ほどですが、左の文例の中で、「で」は年長児の絵日記に一度しか出てきません(「ので」は接続助詞なので格助詞「で」とは異なります)。
以下に、Cちゃんの日記の中から、助詞「で・に・を」を取り上げたものを紹介します。
一つ目のファイルは、助詞「で」の学習です。
二つ目のファイルは、助詞「に」の学習です。
三つ目のファイルは、助詞「を」の学習です。
四つ目のファイルは、助詞「に、で、を」の使い方のまとめです。
上記の助詞の学習は、「きこえない子のための日本語チャレンジ」と一緒に使うと、より理
解が深まると思います。
また、セットで出版しているCD(動詞形容詞活用練習ノート)には、テスト問題や100枚以上の練習プリント等が掲載されていますので併せて使うと、より効果的に学習できます。