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入門期の日記指導

 きこえない子の日記・作文指導は文法指導とならんでとても大事なものです。日記・作文指導の中で、一人一人のもっている力と課題に合せて、①日本語の語彙や文法の指導、②自分の生活や自分自身を見つめる目を培う、③自分のことを他人に伝える表現力を培うなどのことができるからです。

 きこえない子は、将来、きこえる人が圧倒的多数を占める社会の中で、自分のことを適切に周りに伝え、理解を得ていく力をもっていなければなりません。そういう意味では、きこえる子以上に、ものごとを深く見つめ、自分のことを表現する力を育てたいと思います。そこで、今日は、実際に子どもが書いた日記を用いて、どのように指導していくのがよいかを考えてみたいと思います。

 

聾学校幼稚部などでお母さんと一緒に「絵日記」を書く経験を積み重ねてきたきこえない子は、小学部・小学校にあがると自分の力で「(絵)日記」を書くようになります。多くは、日記の定番である生活作文(「今日は、・・・」で始まる自分のしたことや見たことを書くパターンの作文)ですが、自分や自分の周りのことを自分のことばで丁寧に見とり、表現していくという、文章表現の基本的な力を育てる上で生活作文は大きな役割を持っています。 では、このような生活作文の中でどのような力が育つのでしょうか? いくつかあげてみます。

 

・自分の経験や周りで起こったこと、見たことなどから、自分で題材を選ぶ力

・自分が経験したことを、時間的な順序に沿って書く力

・その時経験したことの様子や会話、気持ちなどを思い出せる力

・思い出したことを日記のテーマに沿って選び出せる力

・時間的順序、場面の変化などに応じて段落を構成する力

・適切な語を選び、文法にしたがって適切に表現する力

 

 以下、具体的な日記をとりあげ、どのように指導をすればよいか、気づいたことを書いてみます。(但し、今回使う日記は、聾学校年長児が自分で書いたもので、固有名詞などは言い換えてあります。入門期の日記なので、その日の体験を3~4行でまとめるといった日記です。まだ、出来事を詳しく書くというねらいで書かれたものではありません)

 

「どんどやきを みにいった(題名)

ようちぶのまえに、どんどやきを みにいった。

じてんしゃで いった。

おかあさんは みちに まよって ぐるぐる いきかえました。」

  

「どんど焼き」とは、正月の松飾りやしめ縄などを持ち寄って燃やし、無病息災を祈る115日(小正月)に行われる伝統的な行事です。燃え上がる火を見る機会など、最近の子どもたちはそう体験できることではありませんからきっと心を動かされたと思います。ただ、そのことはまだこの日記の中には出てきていません。

もし、子どもが小学校低学年で、時間系列に沿って、テーマに沿って詳しく書くことがねらいであれば、どんど焼きを見てどうだったのか、どう思ったのかなどを、事前の会話の中でもう少しはっきりさせておくとよいでしょう。例えば、持っていった(?)しめ縄を、どうやってその火に入れたのかとか、燃え上がる火の様子(色、大きさ、熱さ、音、煙、匂いなど)はどうだったかとか、その時の周りの人たちの様子(どんな人が来ていたのかとか)、お母さんとのその時の会話など、詳しく思い出させて書くとよいでしょう。

また、仮に心を動かされたことが、どんど焼きそのものよりも自転車で道に迷ったことであるのなら(本人は、今回、こちらの方を書いていますが)、その時の様子(お母さんの焦った様子、その時の自分の気持はどうだったのかなど)を詳しく思い出してみるとよいでしょう。もし、こちらのほうが書きたいことであるのなら、題名もそれ合せて変えた方がよいかもしれません。

それから、最後の動詞「いきかえました」は、本当はどういうことを言いたかったのでしょう? 「ぐるぐるまわって、ひきかえしました」でしょうか? それとも「ぐるぐる(同じところを)行ったり来たりした」のでしょうか? 子どもの頭の中にあるイメージを引き出すとよいでしょう。

また、冒頭の「ようちぶのまえに」は、「ようちぶにいくまえに」とか「学校に行く前に」などと補ったほうがわかりやすいでしょう。

それから、年長さんなので、今は、3~4行で、その日のできごとを思い出して書くことができればよいでしょう。少しずつ長く書けるようにして、小1の終わりごろまでには、200字くらいで段落も3~4段落(はじめ・なか1~2・おわり)くらいで書けるようにするとよいと思います。(以下、この日記をさらに長くしたとすると・・・)

    

「どんどやき(題名)

(第1段落・はじめ)

ようちぶにいくまえに、どんどやきを みにいった。じてんしゃで いった。おかあさんは みちに まよって ぐるぐるまわったけど、なんとかたどりついた。(70字)

(第2段落・なか)

どんどやきに、もってきたしめなわを おかあさんとぼくとで なげいれた。しめなわは、あっというまに あかくもえ、そして、きえてしまった。(60字)・・・以下略

 

 詳しく書くためには、物事をていねいに見て、感じたこと、思ったことをことばで表現する練習が必要です。そのためには、「自分がしたこと」だけでなく、道端でみたもの、町で見たことなども書くようにするとよいと思います。また、そこで交わした会話なども書けるとよいと思います。このお子さんの1年後の日記が楽しみです。

┃難聴児支援教材研究会
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