小学生の日記指導
〇はじめに
以前、「短い日記しか書けなかった子どもをどう長く書けるように指導したか?」というタイトルで、難聴学級での実践を紹介しました。(2022.12.4投稿記事、下記URL参照)
http://nanchosien.com/nyuyou/03-2/post_258.html
「昨日、野球をしました。楽しかったです。」(20字)といったワン・パターンの日記しか書いてこなかった高学年児童を、難聴学級初めてという担任が指導した結果、130字の作文を書いてくるようになった、という実践です。字数から考えると、小1か小2くらいの児童が作文を書く時の時数ですから、新しい担任の前はどう指導されていたのだろうと疑問に思われるかもしれませんが、そうした現実を踏まえてそこからスタートして最善を尽くすのが教育ですし、教育に遅いということは決してないので、その子どもの今のレベルをきちんと見定めて、そこから前向きに指導を始めればよい、ということになります。その指導の経過を再度、以下にまとめておきます。
〇第1段階の指導
まず、新担任が着目したのが、語彙の少なさ。語彙は一つ一つ別々に覚えるよりも、①その語の類義語や対義語、上位概念・下位概念を一緒に調べて覚える、②漢字に着目し、漢字の意味から拡げて考える、③必ずその語を使った(できれば楽しい・面白い)例文を作るのが効率的・効果的です。また、ことばとことばの関係性を考えるワークである『ことばのネットワークづくり』(本会発行・令和4・5年度文科省特別支援教育一般図書指定)等を使って指導を始めました。ことばとことばの関係を考えるということは、結局、「同じもの・違うもの」をさまざまな側面からまとめ直す、整理し直すという思考があるので、実は私たちが日々行っている「同じものをまとめ整理して記憶・保存する」という思考方法の訓練になるというメリットがあります。そこは目に見えにくい部分なのですが、あとでその効果がじわじわと出てきます。
〇第2段階の指導
「いつ、だれが、どこで、なにを、どうする」という疑問詞(5W1H)を使って文を詳しくする。この指導によって、他人に伝えるときに必要な要素を組み込んだ、基本となる文が書けるようになりました。
〇第3段階の指導
その後、担任は、「いつ、だれ、どこ、なに」という疑問詞に対応する部分(名詞)を、さらに詳しくするために、私たちが文法指導で取り組む「名詞修飾」という方法で、長い文が書けるように指導しました。この方法によって、文はさらに長くなり、例えば、「日曜日の夜」は「星のきれいな日曜日の夜」といった名詞修飾節が作れるようになりました。
〇第4段階の指導
その後、4つの段落で文を構成する指導をし、児童は、修学旅行に行った時の作文を、字数こそ130語と少ないですが、起承転結の4段落構成の文を書けるようになりました。ここまで約1年という時間が流れています。ただ、まだ課題は残ります。ここまでの指導で、客観的な事実を詳しく書けるようにはなりました。ここまでが前回アップした記事に書いた内容です。
しかし、作文に表現したい自分の思いはまだ描けてはいません。他者との関わりの中での実際の会話、それに対する自分の感情などを振り返り、それを文の中で表現することなどです。
〇第5段階の指導(現在)~その結果は?
ここからが今回報告する内容になります。自分自身の心の中を振り返って、それをどのように表現する指導がなされたのでしょうか? その指導の結果を、児童が書いた作文でみてみましょう。
児童は、『走れメロス』を読んで、登場人物の心情や行動とそれに対する自分の思いを、実際に自分が経験した野球の試合の時の思い・感情と重ね合わせながら「読書感想文」(?)を完成させました。その作文は、先生が構成の技術も指導されたのでしょう、いきなり冒頭で自分の感情を表現し、読者を誘い込むような少し高度な手法が使われています。また、全体の構成も4つの段落構成になっており、まとまりのよい文構成になっています。
ただ、語の使い方などまだまだ課題はありますが、1年前にはたった20語の文しか書かなかった児童としてはとても大きな進歩ですし、順番に丁寧に指導すればここまで来るんだ!と、やはり感動せずにはおれません。初めて難聴児を担任されて苦労されたことと思いますが、本当にご苦労様でした、と言いたいです。教育に遅いということはない、と心から実感しました。
因みに、この読書感想文は、この児童が居住する市の読書感想文コンクールで優秀賞をいただいたということです。本当におめでとうございます! 以下、作文を紹介します。
「ぼくは、元気がでる方をえらびたい」
「こいつ、いやだな」
ディオニス王の民を信じようとしないセリフや態度にぼくはこう思いました。
うたがうのが正しいと教えたのは、民なのか。ぼくにはさっぱり意味が分かりませんでした。
でも、あれた川に飛び込んだり、山ぞくにおそわれかかったりしながら食事もとらずに走り続けるメロスに対して、自分も少しずつ弱気になっていくのを感じました。
「間に合う六十パーセント、間に合わない四十パーセントくらいなのかな。」
百パーセント人間に会うことが信じられなくなっている気持ちに気付きました。
「そういえばこの気持ちに似たことを一か月くらい前に味わっていたかも。」
あれはN市ブロック夏季野球大会の初戦。ぼくが所属しているTファイトチームは、三対一で負けたまま、最終回をむかえました。
このまま負けてしまうか、チャンスが来るかという心ぞうがバクバクする場面。最終回に僕に打順はまわってこないので、ぼくはひたすら仲間を信じ応えんすることしかできません。負けたときにがっかりするから、どうせダメだよと思うと、一気に体の力が抜けていきます。もしかしたら何かが起こるかもと思ってチャンスを信じたら、体中からパワーが出てくるかんじがしました。
ぼくは、まだむりかもしれないと思う心も少し持ったまま、パワーが出る方に目を向けて力いっぱい応えんしました。その結果、なんと最終回で四点を取り、逆転勝ちをすることができたのです。
自分にも最初から百パーセント仲間を信じられない心があることがわかりました。
親友のセリヌンティウスが一度うたがってしまったと打ち明けたましたが、その気持ちはよくわかります。本当は王も人間を信じたい人だったのに、何かつらいことがあっていつからか、うたがう心が勝ってしまったのだと思います。
ぼくも初めから百パーセント仲間を信じることはまだできません。野球で逆転勝ちしたときも、最終回まではムリだろうが四十パーセントありました。
でも、勝つかもしれない六十パーセントを信じると決めたらドキドキして元気もわいてきて、結果信じられないことが起こりました。力が抜けるより、そっちの方がずっとずっと楽しいです。僕は元気になる六十パーセントの方を信じていきたいです。
〇はじめに
高学年になっても「昨日、~をしました。~をしました。楽しかったです。」といったお決まりのパターンで日記を書いてくる難聴児は少なくありません。もちろん、それは子ども自身の問題と言うより、日記を書く意味や楽しさが伝えきれていない、指導する側の問題も大きいわけですが、では、日記指導の方法(これは幼児期の絵日記指導も含めて)について、教師は研修したり、先輩教師から教わった経験があるのかといったら、それもほぼゼロというのが実情でしょう。では、どのようにすればよいのでしょうか?
以下、紹介する実践は、突然、難聴学級児童を担当することになり、しかも同じ学校内には難聴児の教育・指導について教えてくれる先輩教師は誰もいないという状況で、たまたま日本語文法指導を実践している同じ地域の難聴学級担任と出会い、そこで実践されていた「文を詳しくする方法=大きな名詞の作り方」(*URL参照)を活用して、子どもに文を長くする面白さ・楽しさを実感させ、結果としてその児童も日記を長く書いてくるようになったという貴重な実践を紹介したいと思います。
*参考「文を詳しくする方法」本HP・TOP>日本語文法指導>複文・接続詞の指導>文を詳しくする方法(大きな名詞の作り方)
http://nanchosien.com/09/09-4/post_78.html
〇Bさんの1年前の日記は・・
高学年児童ですが、日記は「昨日、野球をしました。楽しかったです。」(20字)というワンパターンンの文の連続。語彙力も十分でないため、決まりきったことしか書けません。そこでまず取り組んだのは「ことばのネットワークづくり」。ことばはことば同士で仲間を作って構造化されるという仕組みを教えることから始めました。難聴児は、知っていることばが頭の中で関連性なくバラバラになっていることが多く、そのため「ノート、鉛筆、消しゴム、筆箱」といった一つ一つのものの名前(基礎語)は知っていても、それ

らをまとめたことばである「文房具」という上位概念を知らないことが少なくありません(きこえる子が耳から入ってくることばを「偶発的」に自然獲得するという学習は、いかに補聴器や人工内耳をしていても困難です)。そこで大事なのは、視覚も活用して、それらのことば同士の関係に気づき、仲間としてまとめていく活動をすることです。こうした学習と並行して、担任のA先生は、まず、文を書く時の基本である、5W1Hを用いた「いつ、だれが、どこで、なにを、どうする」という疑問詞を使って文を詳しくすることから始めました。
少しテーマから外れますが、これらの疑問詞の中で、「だれ」「なに」「どうする・どうだ」という3つの要素は文を作るうえで欠かせない要素で、この3つを使った基本的な

形態を「基本文型」、そこに必要な3つの要素を「必須成分」と呼んでいます。文は、ほぼどのような文も、この基本文型が土台になっており、そこに「いつ」「どこ」「どうして」などの「随意成分」と呼ばれる部分が加わって、文が長くなっていくという仕組みになっています。
話を元に戻し、その先生(A先生)が指導されたのが右上のファイルの例です。「いつ、どこで、だれが、なにをして、どうだった、思ったこと」などの、他者に伝える上で必要な要素に着目して文を詳しく書くように指導したわけです。その結果として、児童(B児)は、文の骨組みは書けるようになりました。といってもこれはあくまで土台。自分が言いたいこと、ほんとに表現したいことはそこにはまだ表現されていないといってよいと思います。

次にA先生が取り組んだのは、「いつ、どこ、だれ、なに」といった文の要素をさらに詳しく「どんな~」という説明(名詞修飾)を加えることによって、文を詳しくする指導です。
例えば、右の例のように「お父さんが、ルンバを 買いました」(「だれが なにを どうする」)という文は基本文型のⅡで、必須成分のみの最も基本になる文です。これに「いつ、どこ」という随意成分を加えたものが、A先生が最初にされた疑問詞を使って文を作る指導です。例文では、「日曜日の夜、お父さんが こじまで ルンバを 買いました」という文になります。「いつ、だれが、どこで、なにを しました」というかたちですね。*注「ルンバ」・・電気掃除機

その次に、文を長くする指導というのは、これらの「いつ、だれ、どこ、なに」という疑問詞に対応する部分(名詞)をさらに詳しくします。文法的には「名詞修飾」という方法です。この方法によって、文はさらに長くなり、「日曜日の夜(いつ)」は「星のきれいな日曜日の夜」となり、「お父さん(だれ)」は「やさしいおばあちゃんとちょっとおとなしいお父さん」に変わり、「コジマで(どこ)」は「なは市の大きいコジマで」となって、読んでいる人の脳裏には、ルンバを
-thumb-250x333-3589.jpg)
買いに行ったときの情景がさらに活き活きと浮かぶようになるわけです。右下の図は、ノートに貼った練習問題です。この指導法はホームページにリンクした以下のYouTube動画でも学習できます。
だれでもわかる日本語の読み書き・第29回
「大きな名詞にして文を長くしよう」
https://www.youtube.com/watch?v=sD_oJ0d04qg
こうした指導の結果、少しずつ長い文が書けるようになり、先日、修学旅行に行った時のことをB児は以下のように書いてきました。
〇初めてB児が書いた長い日記
「11月22日から11月23日、1泊2日の修学旅行に行きました。
初めての〇〇島は、フェリーで行きました。
2班みんなでフェリーの甲板に出ました。
甲板から青い空、緑の山、きれいな海が見えました。
次は、家族で行って、ちがう場所にも行きたいです。」(130字)
これまでの30字程度の短い文しか書かなかったB児が130字の文を書いてきたのですから本当に驚きです。A先生は「とても感動した。これまでの指導が間違っていなかったことを実感した」とのことでした。
〇さらに高みをめざした日記指導へ
B児の書いた修学旅行の日記は、以下のようにちゃんと4つの段落で構成されています。
(1段落・起)11月22日から11月23日、1泊2日の修学旅行に行きました。
(2段落・承)〇〇島と〇〇村に、〇小の6年生と行きました。
初めての〇〇島は、フェリーで行きました。
(3段落・転)2班みんなでフェリーの甲板に出ました。
甲板から青い空、緑の山、きれいな海が見えました。
(4段落・結)次は、家族で行って、ちがう場所にも行きたいです
基本的な文の構成もA先生が指導されたのでしょうか。全体の文は短くともまとまりのある構成になっています。あとは、それぞれの段落をもうちょっと肉付けして詳しくするとよいと思います。ここからは文法指導というより、本来の日記・作文の指導の領域に入ってきます。
例えば甲板から見た空と山と海の情景をもうちょっと詳しく描写するとどういう表現になるでしょうか? 青い空は「どこまでも続く青い空」とか「雲ひとつない青い空」、「ところどころすじ雲が浮かぶ青い空」など描写できるかもしれません。「きれいな海」は「透き通ったきれいな海」とか「時々魚たちがはねるきれいな海」とかよく観察すれば何か見えるかもしれません。「緑の山」は、「なだらかにつながった遠くの緑の山」などと表現できるかもしれません。また、目で観察したことだけでなく、その時の肌をなでる風の様子(触覚・聴覚)、海の潮風の匂い(嗅覚)など、五感でとらえたその時の様子なども観察できるかもしれません。さらに、甲板での2班の友達の様子はどうだったでしょう? 会話はききとれなかったかもしれませんが、友達の表情からその時の友達の楽しそうな様子、はしゃいだ様子は想像できたでしょうか? また、友達や先生とは何か会話をしたのでしょうか? 甲板での自分の気持ちや思ったこと、周りの様子など、詳しく観察する目を育てそのときの様子を詳しく書けるようになると、さらに文も長くなると思います。
また、この日記を書いたあと、タイトルをつけるとどんなタイトルになるでしょうか? そんなことを考えるのも文の主題(テーマ)をはっきりさせる練習になるのではと思います。
以上、文法指導の手法を応用して日記・作文の指導を実践された、ある難聴学級担任の先生の実践を紹介しました。「わかること!楽しいこと!」これが子どもが伸びていくための最大のポイントです。Bさんのこれからの指導、とても楽しみです。
前回は幼児期の絵日記の発達について書きました。今回は小学生になってからの日記の

とはいっても、そんなに大層なことではありません。昔から言われるように「起承転結」の4段落構成法を守って書くだけのことです。この方法は、日記だけでなく、入学試験や採用試験で課せられる小論文などを書く時にも基本になります。
実は、聾学校幼稚部保護者の方の絵日記を見せていただくと、3段落法(序論・本論・結論)や4段落法で書いている人は意外と多いです。自然に身についているのでしょう。ここでは4段落法の例をいくつか添付してみます。
〇4段落法の典型は「4コマ漫画」

「起」では、「いつ、どこ、だれ」などを必要に応じて入れます。そして、最後の「結」



また、幼児の絵日記には通常題名はつけませんが、題名をつける練習をしてもよいと思い
す。題名は絵日記を書いてから、その絵日記の中の言葉、例えば「結」ここに伝えたいことがまとめられている)の中のことばを使ってつけるとよいでしょう。添付した日記の例でいえば、「ぼく、薬飲めるよ!」とか「自分だけのポッキー」とか「穴、大きくしちゃった」「ぼくの失敗」など子どもと相談してつけ



小学生になると日記を一人で書かねばなりません。とはいってもちゃんと日記指導をやってくれる先生は少ないのが実情でしょう。だからといって日記や作文が聞こえない子にとって大切であることには変わりありません。きこえない子も、将来、きこえる人たちの社会の中で生きていかねばなりません。またIT化やAIの技術が進んでいくにつれ、高度な
「読み書き」の技術がますます必要とされるようになるでしょう。さらに、私たちの社会には障害者への差別が現実にまだまだあることを考える時、考える力をつけること、書くことで伝えていく力は絶対に必要な"武器"となるからです。では、最初にどうすればよいでしょう。
2~3語文で、自分の経験したことを書き表せ


そしてテーマをある程度絞って、4つの段落(起承転結)で、各段落1~2文で合計100字(12マスの日記用ノート1頁分)程度で書けるようにします。
〇指導のポイント

一つ目は、「会話」を入れることです。ここに引用した日記の中に会話を入れた例はありませんが(きこえない子の日記には少ないです)、これはぜひ指導したいことです。
二つ目は、いわゆる五感(視覚・聴覚・触覚・味覚、嗅覚)を使って観察したことを入れることです。

四つ目は、書き出しの文の工夫です。例えば、会話から書き始める、自分のつぶやきから書き始める、クライマックスの部分から書き始めるなどの工夫をすると、文が活き活きとします。添付した「ナノブロック」の例は、最初の文(左側)の起承転結の「起承」の部分を入れ替えたものです(右側が入れ替えたもの)。たったこれだけでも日記が活き活きとしてくることが実感できると思います。また、例の6年生の作文も書き出しに工夫が施されていることがわかります。
そして、五つ目に、語彙や文の誤りを直したり、別の表現を考えさせることです。これはただやみくもに一方的に教えるのではなく、子どもに考えさせることが大切です。

(本ホームページ>出版案内>⑥日本語のワーク参照)
きこえない子の日記・作文指導は文法指導とならんでとても大事なものです。日記・作文指導の中で、一人一人のもっている力と課題に合せて、①日本語の語彙や文法の指導、②自分の生活や自分自身を見つめる目を培う、③自分のことを他人に伝える表現力を培うなどのことができるからです。
きこえない子は、将来、きこえる人が圧倒的多数を占める社会の中で、自分のことを適切に周りに伝え、理解を得ていく力をもっていなければなりません。そういう意味では、きこえる子以上に、ものごとを深く見つめ、自分のことを表現する力を育てたいと思います。そこで、今日は、実際に子どもが書いた日記を用いて、どのように指導していくのがよいかを考えてみたいと思います。
聾学校幼稚部などでお母さんと一緒に「絵日記」を書く経験を積み重ねてきたきこえない子は、小学部・小学校にあがると自分の力で「(絵)日記」を書くようになります。多くは、日記の定番である生活作文(「今日は、・・・」で始まる自分のしたことや見たことを書くパターンの作文)ですが、自分や自分の周りのことを自分のことばで丁寧に見とり、表現していくという、文章表現の基本的な力を育てる上で生活作文は大きな役割を持っています。 では、このような生活作文の中でどのような力が育つのでしょうか? いくつかあげてみます。
・自分の経験や周りで起こったこと、見たことなどから、自分で題材を選ぶ力
・自分が経験したことを、時間的な順序に沿って書く力
・その時経験したことの様子や会話、気持ちなどを思い出せる力
・思い出したことを日記のテーマに沿って選び出せる力
・時間的順序、場面の変化などに応じて段落を構成する力
・適切な語を選び、文法にしたがって適切に表現する力
以下、具体的な日記をとりあげ、どのように指導をすればよいか、気づいたことを書いてみます。(但し、今回使う日記は、聾学校年長児が自分で書いたもので、固有名詞などは言い換えてあります。入門期の日記なので、その日の体験を3~4行でまとめるといった日記です。まだ、出来事を詳しく書くというねらいで書かれたものではありません)
「どんどやきを みにいった(題名)
ようちぶのまえに、どんどやきを みにいった。
じてんしゃで いった。
おかあさんは みちに まよって ぐるぐる いきかえました。」
「どんど焼き」とは、正月の松飾りやしめ縄などを持ち寄って燃やし、無病息災を祈る1月15日(小正月)に行われる伝統的な行事です。燃え上がる火を見る機会など、最近の子どもたちはそう体験できることではありませんからきっと心を動かされたと思います。ただ、そのことはまだこの日記の中には出てきていません。
もし、子どもが小学校低学年で、時間系列に沿って、テーマに沿って詳しく書くことがねらいであれば、どんど焼きを見てどうだったのか、どう思ったのかなどを、事前の会話の中でもう少しはっきりさせておくとよいでしょう。例えば、持っていった(?)しめ縄を、どうやってその火に入れたのかとか、燃え上がる火の様子(色、大きさ、熱さ、音、煙、匂いなど)はどうだったかとか、その時の周りの人たちの様子(どんな人が来ていたのかとか)、お母さんとのその時の会話など、詳しく思い出させて書くとよいでしょう。
また、仮に心を動かされたことが、どんど焼きそのものよりも自転車で道に迷ったことであるのなら(本人は、今回、こちらの方を書いていますが)、その時の様子(お母さんの焦った様子、その時の自分の気持はどうだったのかなど)を詳しく思い出してみるとよいでしょう。もし、こちらのほうが書きたいことであるのなら、題名もそれ合せて変えた方がよいかもしれません。
それから、最後の動詞「いきかえました」は、本当はどういうことを言いたかったのでしょう? 「ぐるぐるまわって、ひきかえしました」でしょうか? それとも「ぐるぐる(同じところを)行ったり来たりした」のでしょうか? 子どもの頭の中にあるイメージを引き出すとよいでしょう。
また、冒頭の「ようちぶのまえに」は、「ようちぶにいくまえに」とか「学校に行く前に」などと補ったほうがわかりやすいでしょう。
それから、年長さんなので、今は、3~4行で、その日のできごとを思い出して書くことができればよいでしょう。少しずつ長く書けるようにして、小1の終わりごろまでには、200字くらいで段落も3~4段落(はじめ・なか1~2・おわり)くらいで書けるようにするとよいと思います。(以下、この日記をさらに長くしたとすると・・・)
「どんどやき(題名)
(第1段落・はじめ)
ようちぶにいくまえに、どんどやきを みにいった。じてんしゃで いった。おかあさんは みちに まよって ぐるぐるまわったけど、なんとかたどりついた。(70字)
(第2段落・なか)
どんどやきに、もってきたしめなわを おかあさんとぼくとで なげいれた。しめなわは、あっというまに あかくもえ、そして、きえてしまった。(60字)・・・以下略
詳しく書くためには、物事をていねいに見て、感じたこと、思ったことをことばで表現する練習が必要です。そのためには、「自分がしたこと」だけでなく、道端でみたもの、町で見たことなども書くようにするとよいと思います。また、そこで交わした会話なども書けるとよいと思います。このお子さんの1年後の日記が楽しみです。
〇接続助詞「から」の使い方
1.「この花は、きれいから好き」?
2.「この花は、かわいいだから好き」?
きこえない子どもたちは、理由を述べるときに、よく上のような間違いをします。両方共、最後が「~い」なので、理由を述べる時に使う接続助詞「から」の使い方が、どっちがどっちだったかわからなくなってしまうのです。前者「きれい」は、なにで名詞(国分法では形容動詞)です。なにで名詞は、名詞と同じように後ろに助動詞「です(だ)」の活用をつけて使います(きれいだ、きれいだった、きれいでない等)。ですから、「きれい+だ」
に、助詞「から」がついて「きれいだ+から」が「から」の使い方として正しいのです。
→「この花は、きれいだから 好きです。」
因みに形容詞とよく間違う「きらい」「とくい」などもなにで名詞です(右表参照・保護者作成)。ですから「きらいだ+から」「とくいだ+から」になります。また、名詞もなにで名詞と同じように「です」をつけて使います。
「信号が赤だ(orです)+から、止まって下さい。」
「明日は休みです(orだ)+から、遊びに行きましょう。」など。
それに対して、後者「かわいい」は形容詞です。形容詞にはそのまま「から」をつけて使います。すでに活用しているので名詞やなにで名詞のように改めて「だ・です」をつける必要がないのです。
「やさしい+から」「大きい+から」なども同じです。
また、動詞も同じように使います。動詞も活用する品詞なので「だ・です」をつける必要はありません。
「明日は休むから 遊びに行けるよ。」 「必ず返すから1000円貸して」
〇接続詞「だから」の使い方
「から」と似たことばに接続詞「だから」があります。 「だから」は接続詞なので、その前に文が一つあるのが特徴です。前の文の内容(原因)について、「だから~だ」と、話し手の判断や意志などを述べるときに使います。
では、なにで名詞につくと、「だから」はどうなるのでしょうか?
「この花は、きれいだ。だから、好きだ。」
「この花は、きれい(です)。だから、好き(です)。」などとなります。
形容詞では、どうでしょうか?
「この花は、かわいい。だから、好き。」
「この花は、かわいいです(×だ)。だから、好きです。」などとなります。
動詞も形容詞と同じです。
「明日は必ず行く(or行きます)。だから、待ってて。」
では、名詞につく場合はどうでしょう?
「信号が赤です(orだ)。だから、止まって下さい。」
「信号が赤。だから、止まってください。」(*「信号が赤だから・・」と紛らわしいですが、前に句点(〇)があるかどうかが違います)
では、「から」「だから」をどうつなげるか、例文の( )に「から」か「だから」を入れてみてください。
①「いや」・・なにで名詞(形容動詞)
「勉強が いやだ( )やめたい。」
「勉強が いやだ。( )やめたい。」
②難しい」・・形容詞
「勉強が 難しい。( )やめたい。」
「勉強が 難しい( )やめたい。」
③「真っ青」・・なにで名詞(形容動詞)
「顔が 真っ青だ( ) 休もう。」
「顔が 真っ青だ。( )休もう。」
〇日記の中での「から」と「だから」の指導
さて、このような「から」と「だから」の指導を日記の中で行った例を紹介します。小学2年生の日記で、2回にわたって指導をしたものです。以下、下記添付ファイルを参照してください。
「~をしました。~をしました。」と、日記に、したことをつなげて書けるようになってきましたが、詳しく書かせるようにするには、どのような手立てをとったらよいでしょうか?
このような質問を聾学校の先生にいただきました。そこで、何年か前の聾学校2年生の日記を例に、どのように指導すればよいかを書いてみたいと思います。(本HP>日記・絵本・手話>小学生の日記指導参照)
その前に、基本的に大切なことを再確認しておきます。
まず、子どもが書いてきた日記のよいところをみつけて褒めることです。これが何よりも大事です。その励ましによって、子どもたちは文を書こうとする意欲をもちます。
二つ目、子どもの文には直したいことが沢山あるはずです。でも、よくばらないことです。間違いのなおしは一つか二つにします。
できれば、子どもと直接、対話しながら指導をします。それが難しい場合はコメントを書きます。
さて、下の事例は、沢山の語彙と文法の誤りを訂正したあとの日記です。「~をしました。~をしました。」としたことを順番に書けるようになった子どもです。便宜上、ここでは文に番号を入れ、漢字を使用します。
1.誕生会をしました。2.ケーキを作りました。3.いちごとみかんで作りました。
4.はじめに歌を歌いました。5.私は話しました。6.「何がやりたいですか?」7.ころがしドッジとかくれんぼをやりたかった。8.でも、道具がありませんでした。9.だから、転がしドッジはできませんでした。 10.悔しかったです。
11.そのあと、ケーキを食べました。12.ケーキはおいしかったです。13.プレゼントをあげました。
14.おわりの話をしました。 15.楽しかったです。
〇基本文型もいろいろ使って
さて上の日記の文の一つ一つを読んでいくと、ほとんどの文が「~しました。」「~をしました。」ばかりでできていることがわかります。日本語には必須成分をもった基本の文型が5つありますが、その基本文型の1と2だけが15の全ての文に使われています。基本文型できちんと文が書けるようになることは、初歩の段階の指導としてはとても大切ですが、1,2の文型だけでなく、他の文型3~5(「~が~に+動詞」「~が~と+動詞」「~が~に~を+動詞)も使えるように指導する必要があります。
例えば、5の「私は 話しました。」は、「私は みんなに 言いました。」(文型3)に変えられます。また、13「プレゼントをあげました。」は、誰にプレゼントを上げたのかがわかりません。「あげる」の場合は、基本文型5を使って「〇〇さんに(誕生)プレゼントをあげました。」とするのがよいでしょう。
〇助詞「で」も使う
また、助詞「で」も使われていません。助詞「で」は、文を詳しくするときに使う助詞ですから、最初に書くべき「いつ」「どこ」「だれ」のところで使えそうです。例えば「クラスで誕生会をしました。いちごとみかんでケーキを作りました。」とすることで、文をまとめることもできます。
〇4段落構成で
それから、この日記は、起承転結の4つの段落になっています。順番に書いていく中で自然にそうなったのだろうと思いますが、4つの段落で書くのが文章としては一番まとまりのよいかたちなのです。
4つに書く方法として「はじめに、次に、そして、終わりに」ということばで意識させますが、この日記でも、「はじめに、そのあと」などを後で入れて段落を意識させています。 また、最初の「起」の段落では、「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」したかがわかるよう、必要な情報を入れるとよいと思います。
最後の「結」の部分は、子どもは「楽しかったです。」と書きたがりますが、紋切り型のことばではなく、「〇〇さんにプレゼントをあげました。」の次の文として、「○○さんは、『ありがとう!』と、大きな声で言ってくれました。」とか「次の〇〇さんの誕生会が楽しみです」などの周りの人の様子や自分の思いなどを書くように指導します。
〇名詞修飾や複文(~て形)を使って
あとは、一つ一つ短文を羅列すると、単調な文になってしまうので、少しずつ文をまとめて書く練習をさせます。例えば、1~3は、「いちごとみかんでケーキを作って、クラスみんなで、〇〇さんの誕生会をしました。」4~6は、「歌を歌ったあと、(司会の)私は、みんなに『何がやりたいですか?』と尋ねました。」などです。
〇字数、題名などについて
字数は、学年×100+100字を目安にします。また、題名をつけると書く内容が絞れます。上の日記なら「〇〇さんの誕生会」とか、「盛りあがった誕生会」とか。さらに、「誕生会全体」ではなく、その中の一番書きたかったことだけに絞るとか(時間的には10分以内)して、観察する力を伸ばす練習をしますが、そこまで行くには、やはりじっくりと指導する時間が必要です。
日本語の難しさ・わかりにくさの一つに「名詞修飾構文」というのがあります。これは、名詞の前に、その名詞を修飾する文がくっついている文のことです。
例えば、よく引用されるのが井上ひさし(H14)の本に出てくる「黒い目のきれいな女の子」という名詞修飾です。井上ひさしはその解釈の例としていくつかあげています。
黒い目がきれいな「女の子」
黒い目の「きれいな女の子」
黒い目のきれいな女の「子」
黒い、目のきれいな女の子・・・(以下省略)
結局、書いた人がどれを言いたかったのかは、多様な解釈が成り立つここだけの文ではわからないので、その前後の文脈から判断するしかないのが日本語です。関係代名詞がない日本語の難しさなのですが、名詞修飾を使って文をまとめられるようになると、文の冗長さがなくなり、読む人にもわかりやすくすっきりした印象の文になります。児童の以下の作文を例にどう違うのかみてみましょう。
「ひまな春休み」(聾学校1年生日記より)
①今日は、キャンプの片づけをしました。
②私は片づけるのが面倒くさいから逃げました。
③お姉ちゃんと一緒に遊びました。
④きよちゃんが来ました。
⑤私は洗濯物をおばあさんのおうちに持っていきました。
⑥途中で落としました。
⑦洗濯物が2枚落ちました。
⑧きよちゃんが拾ってくれました。(以下略)
(*漢字使用と丸数字は筆者)
この日記は8つの文からできています。①から③は関連した内容なのですが、一つ一つが「~ました」「~ました」となっているので、行動が一つ一つ独立して移っていく印象があります。これを一つのこととしてまとめてみるとどうなるでしょうか。
「キャンプの片づけが面倒くさかったので、逃げてお姉ちゃんと遊びました。」
一文にするほうが一つの出来事として、また、「~ので」と接続助詞でつなぐことで、前半の理由でこうなんだと、後半の文が強調されます。ただ、読む側にとっては、「片づけから逃げてどうなったのだろう?」と、その先がもうちょっと知りたいところです。
次に、④⑤⑥⑦も一つの文にまとめてみます。これも一連の関連した出来事です。
「きよちゃんと一緒に、おばあちゃんのおうちに洗濯物を持っていく途中、洗濯物が2枚落ちました。」
こちらは、次の⑧の文で、きよちゃんがひろってくれたという事実だけを書いていますが、読む側としては「洗濯物は汚れなかったのかな?」などと知りたくなります。ここも、そのあとどうだったのかをもう少し書いてほしいところです。例えば以下のように少し詳しくするとよいかもしれません。
「でも、きよちゃんがすぐに拾ってくれたので、洗濯物は(汚れませんでした)とか(私はほっとしました)。あるいは、「きよちゃんに『ありがとう。汚れなくてよかった』とお礼を言いました。」など。
1年生は、ものごとを時系列に沿って書くのがまず基本的に大事なことですが、それができるようになってきたら、名詞修飾や接続詞などを使って文を1文にまとめたり、逆に、詳しく書いたほうがよいところは詳しくするなど、文の書き方を練習するとよいと思います。
また、この日の日記では、キャンプの片づけのことと洗濯物をおばあちゃんの家に届けに行くことの2つのテーマが同居していますが、どちらかのテーマで一つに絞り、詳しく書く練習をするのがよいと思います。そのほうが、生活や自分の内面をみつめ、ものごとを深く考える目を養うことができます。
右は名詞修飾を使った聾学校児童の日記・作文例です。赤の傍線を引いたところが名詞修飾を使った箇所です。
では、名詞修飾は、どのくらいの年齢から指導すればよいのでしょうか? 日記の中で指導するのは学童期以降ですが、絵日記などの文を品詞分類して色分けしていくことは幼児期からできますし、色分けしたカードを使って、「名詞」「動詞」「形容詞」集めなどもできると思います。そのうえで、ひとまとまりの意味のあることば(「大好きなやさしいおばあちゃんの家」とか「たまねぎなしのチーズバーガー」)を括って、「大きな名詞」すなわち名詞修飾句と教えていくことはできると思います。
品詞カードを自分で作ったり、「名詞修飾ゲーム」などを自分で考えて実践してきた、ある保護者のお子さん(年長)は、このような活動を通して名詞修飾の意味を理解し、絵本の中で、「あ、大きな名詞(名詞修飾句のこと)みつけた!」と、自分で発見できるようになったそうです。幼児期から単語や文を可視化して取り組みは、思った以上に子どもの可能性を引き出していくのだと、改めて認識しました。
手話を日常的に使用している子たちは、「場所・どこ」「あいだ」「使う」「原因・理由・なぜ」「行く」などの手話は自然獲得しており、その意味・概念も理解しています。その手話を、助詞を教えるときの記号(=「助詞手話記号」)として使います。あくまで助詞を学習するための文法記号なので、日常生活での会話の中でその記号を使うわけではありません。また、その記号で助詞の意味・用法が全て説明できるわけでもありません(日本語の全ての文法を矛盾なく説明できる理論は今のところありません。例えば格助詞の範囲をどこまでとするか等は研究者によってまちまちですし、私たちが学校で習った「形容動詞」には多くの矛盾が含まれています)。そのことを理解した上でもなお、きこえない子にこの助詞手話記号を使って助詞の用法を教える効果は十分にあります。
さて、子どもの書いてきた日記には、助詞の誤りが必ずと言ってよいほどあります。そこで、その都度、子どもに直してもらうわけですが、これまでの聾教育の中では指導の方法がなく、ただただ「『学校で行く』とは言いません。『学校に行く』です」と、子どもにその理由を説明しない(できない)ままに、「日本語はこういうもんだから」という指導をしてきました。もちろん、研究者含めて日本中のだれも説明できないことが、日本語の中にまだまだあります。理由がわからなくても私たちは繰り返し日々使う中で自然獲得してきたのですから、意味や理由がわからなくてもきこえない子も何度も繰り替えせばきっと使えるようになる、という信念があるわけです。では、正しく使えるようになったのでしょうか? もしこの方法で助詞が身につくのであれば、同じ助詞の使い方を小1から高3までの教科書の中で何百回、何千回と見て声も使って読んでいるのですから「自然に身につく」はずです。しかし実態はそうではありません。
きこえない子に必要なことは、説明できることは子どもにもわかるように説明し、子ども自身が自分で理解し、納得して使うという経験であり、それを積み重ねることです。それが日本語の指導であり、文法指導です。
では、日記を通して具体的にどう指導したか。C子さんの日記をとりあげてみます。C子さんの日記には助詞「で」がほとんど出てきません。使い方がわからない、というのが第一義的な理由でしょうが、助詞「で」は、実は使わなければ使わなくても済む助詞なのです。
どういうことでしょうか? これについてはまた改めて説明しますが、ここでは、「で」は、文を詳しく説明するときにしか使わない助詞と理解しておいてください。図に示した二つの日記・作文例(図の左は聾学校幼稚部年長児の絵日記、右は聾学校小6児童の作文)はそれぞれ400字ほどですが、左の文例の中で、「で」は年長児の絵日記に一度しか出てきません(「ので」は接続助詞なので格助詞「で」とは異なります)。
以下に、Cちゃんの日記の中から、助詞「で・に・を」を取り上げたものを紹介します。
一つ目のファイルは、助詞「で」の学習です。
二つ目のファイルは、助詞「に」の学習です。
三つ目のファイルは、助詞「を」の学習です。
四つ目のファイルは、助詞「に、で、を」の使い方のまとめです。
上記の助詞の学習は、「きこえない子のための日本語チャレンジ」と一緒に使うと、より理
解が深まると思います。
また、セットで出版しているCD(動詞形容詞活用練習ノート)には、テスト問題や100枚以上の練習プリント等が掲載されていますので併せて使うと、より効果的に学習できます。
①自分の生活や内面を見つめ、思考や認識を深める、という目的と、②日本語の誤りを正して、より適切な文章表現力を身につけるという二つに役割があります。ただ、注意しなければならないのは、一方的に日本語の誤りを直すという指導だけをやらないことです。きこえない子たちの文章はまだまだ誤りが多いのも事実です。それを「こう直しなさい」というだけでは指導になりません。ただただわけもわからず直してもまた同じ間違いを繰り返すだけで、本人も自信を失い、やる気もなくなります。「だから、誤りを直さない」という先生もいらっしゃいますが、それは指導をしないということと同じです(いつどこで指導をするのでしょうか?)。どうやって子どものやる気を引き出しつつ、正しい文章表現を身につけさせるか、それがきこえない子の日記・作文指導です。
さて、私は、今でもときどき、小学生に日記をみせてもらうことがあります。FAXで送ってもらい、それに返事を書いて送るのです。その中で、よく書けているところの評価と同時に、日本語の文の誤りにも触れます。そして、訂正したものをまた送ってもらいます。ただ、この時に注意しなければならないことは、まず、子どもが自分なりに一生懸命書いてきた日記を褒めることです。どんな日記でも必ず良い点があります。その点をみつけて褒めることです。そして、最初は一つだけ、ちょっとがんばれば直せる誤りを直すように勧めます。「こうしたら、もうちょっとよくなると思うよ」と提案します。このような方法で回数を積み重ねながら、語彙や文法の指導、表現技術の指導へと高めていきます。対面で実際に指導できる学校にはおよびませんが、それでも保護者の方にお手伝いをしていただきながら指導が可能です。
以下、具体的な日記指導について紹介します。小1児童がFAXで送ってくれた日記への返信というかたちで、私がFAXで送ったものですが、図や表があるので、PDF添付ファイルにしてあります。参考になればさいわいです。なお、助詞の指導も大切ですが、助詞については、項を改めて書きたいと思います。(*下記PDFの漢字フリガナは全て解除しています)
一つ目のファイルは、する名詞(名詞+する)と自動詞・他動詞です。
二つ目のファイルは、動詞の可能形(可能文)と受動形(受動文)です。
三つめのファイルは、形容詞となにで名詞(形容動詞)ですが、これは「動詞・形容詞の指導」のカテゴリーにも掲載しています。
これまで低学年の日記指導の方法について書きました。今回は、ある程度文が書けるようになった中・高学年児童の日記指導について具体的な事例をあげて書いてみたいと思います。
まず、中・高学年の日記指導の目標は以下の2つです。
(1)書きたいと思ったことを、さらに絞り、ひとつのことを詳しく書く。
・色、形、数、量、具体名
・五感を使って(味・におい・色・感触・音)
(2)相手の心に響く「書き方」を工夫する。
・クライマックスから書く。
・具体的な風景の描写を入れる。
・具体的な自分の心の動きを入れる。
・臨場感の出る書き方を工夫する。
事例1(小学部3年) 250字
今日は、家で、ナノブロックで遊びました。ナノブロックはとても小さいので、オラフを作るのが難しいです。
作る前、「早く作りたいからドキドキしちゃう。どのぐらい小さいのかな」と思っていました。
作っている時、「これってけっこうむずかしいからひとくろうするな。でも、むずかしいからたのしいな。」と思いました。
でも、まだ完成していないので、「まだまだだな。」と思いました。かんせいするのが楽しみです。
字数はやや少なめですが(3年生なら3×100+100=400字くらい書けるのを目標にします)、3年生としてはよく書けていると思います。低学年時の指導の目標であった、「身の回りのことから書きたいことを書く」ことができていますし、「したことを順序立てて書く」という点でも起承転結の4つに分け、すっきりとまとまっています。また、「自分の思ったことを( )をつけて書く」こともできています。
こうした日記を本人の了解も得て「学級だより」などで紹介し、評価すべきところ(必ず書きます)、もうちょっとこうするとさらによくなる点などをコメントして掲載すると、本人や級友の家族の方などとも作品を共有することができますし、こういうふうに書くといいんだなと参考にもなります。
さて、この日記をさらに一工夫するにはどうすればよいでしょうか?
上記の中・高学年の日記指導目標の(1)の点ですが、とくにどれほど小さいのかをもう少し具体的に書くとよいと思います。
例えば「ナノブロックの大きさは一つ4ミリ。指先でつまんでもすぐにポロッと落としてしまう」などと具体的に書くとよいと思います。
また、(2)の相手の心に響く書き方を工夫する、という点では、楽しみで気持ちが高ぶっている様子を最初にもってくるのもひとつの工夫です。例えば以下のような書き方をしてみるのもよいでしょう。
「早く作りたいからドキドキしちゃう。どのくらい小さいのかな?」
頼んでおいたナノブロックが今日、やっと来ました。箱を開けると、赤、青、水色、黄色・・・。小さなナノブロックがぎっしりと詰まっています。ナノブロックの大きさは一つ4ミリ。指先でつまんでもすぐにポロッと落としてしまいます。・・・
このように、最初にナノブロックを手にした感動を「具体的な描写によって」、また、現在形の動詞を交えて使うことで「臨場感の出る書き方」を工夫すると、活き活きとした日記になります。
聾学校でも難聴学級でも最近、日記・作文指導をしている実践が少なくなりました。しかし、日本語の読み書きの力をつける方法として日記・作文指導は捨てがたいものがあります(というかそれが子どもの現実に即してできる最も効果的な日本語指導法)。ぜひ、日本語文法指導と日記・作文指導とを組み合わせて、しっかりと日本語の力をつけてほしいと思います。