ことば絵じてん
ある保護者の方から、「なぜ、ことば絵じてんを作るのがよいのでしょうか?」と質問を受けましたので、再度、一緒に考えてみたいと思います。
きこえない子(聾児・難聴児)は、聴こえる子(聴児)のように、あらゆる情報を耳から得るということが困難です。例えば、幼稚園や保育園での友達同士の会話や家の中での

きこえる子は誰がどんなことを話しているかそれとなく、遊び・テレビ・ゲーム・読書・勉強"~しながら"ちゃんと聞いていて、「耳学問」ができるので、語彙も増えるし、知識も増えるし、誰がどんなこと言ったり何を考えているのかまさに「自然獲得」していくわけですが、聴こえない子にはそれができない。ですから、聴こえない子にとっては、基本的に「自分に話しかけられたときだけ」が、ことばの獲得や知識の獲得、他者の考えを知るチャンスなのです。ですから、家族の会話が音声だけであったり、親子の会話が少なかったり、いつも子どもに通じることばばかり使っていたりすると、語彙や知識は増え

実際、聴児の年長児であれば、リンゴやミ

カテゴリーがあるから「推論」と「記憶」ができる!
私たち人間は、ことばを使って思考するわけですが、思考をするために必要なこととして「推論」と「記憶」という頭の働きがあります。その記憶と推論を支えているのが、カテゴリーという頭の中に整理された情報のファイルです。では、カテゴリーは私たちの生活の中でどんな時に使われているのでしょうか? 例えば、洗濯し終わった衣類を冷蔵庫に片付ける人はいないでしょうし、使った食器を洋服ダンスに入れる人もいないでしょう。私たちは生活の中で自然にそれぞれのモノの共通性からモノを「分類」して「カテゴリー」でまとめ、あるべきところに整理し保存し記憶するという方法をとっています。あるいはまた、ある病気に対して、Aという治療法がよいのかBという治療法がよいのかを比較選択できるのも、これまでに知り得た経験(症例)がカテゴリー化され整理されているからできることです。患者はみな一人ひとり症状が違うのだからカテゴリーでくくれない・・と言い始めたら、治療法は成り立ちません。

〇カテゴリーで整理されていれば記憶しやすい
カテゴリーがあることのもう一つのメリットは、共通点・類似点をまとめて整理しているので記憶しやすいということです。「記憶の経済性」があるのです。誰でも意味のないバラバラのことをそのまま記憶するのは大変ですし、記憶し続けることも大変です。ですから、図などを使ってまとめて整理したり、意味づけたりして記憶しやすくします。きこえない子が言葉が増えないということの原因の一つは、持っていることばや知識がまとめて整理されておらず、記憶する負担だけがやたらと大きくなって、新しい知識を新たに取り入れたり保存しておくことが上手にできないためです。バラバラのものはそんなに多くは覚えられない。つまり記憶の効率が悪い。だから語彙が増えないわけです。この段階をなるべく早く卒業しておかないと、小学生になってからでは、計算、カタカナ、漢字等々覚えることが山ほどあってますますこの段階を抜け出せなくなってしまいます。
〇「カテゴリー」の発達は、テーマ別から階層概念へ
2~3歳の幼児に犬と首輪と牛の絵を見せて、「仲間づくり」をするように言うと、「犬と首輪」を仲間にしたりします。首輪は犬がするものだからです。このように経験的な視点から分類したカテゴリーを「チャンク」(意味的分類)と言います。しかし、4歳頃になるとこのようなチャンクによる分類から「牛と犬」とを仲間としてくくるようになりま

ことば絵じてんをつくるとき、当然この二つの観点が入り混じって作られていきます。
例えば、インデックスに「学校に行くときの持ち物」とか「〇〇公園」といったテーマで名前をつけた時、その頁に貼ってある写真と


〇「ことば絵じてん」を子どもが見てくれない~興味・関心を引き出す工夫
このシステムづくりの最初のスタートが「ことば絵じてん作り」です。だいたい2歳から3歳くらいになると、子どもの関心ごとすなわち「チャンク」でのことば絵じてん作りがで


そして、年中・年長くらいになるとモノからことば・様子・関係例えば「ウのつくことば集め」「オノマトペ集め」「気持ちを表すことば」「親戚」などだんだんと高度な内容で作れるようになります。そして、最後に、「ことばのネットワークづくり」(添付ファイル、本会発行)などのワークを使って頭の中のことばを問題を解くことを通してさらに


『ことばのネットワークづくり』は、TOPページ>左記のカテゴリー出版案内⑥より購入できます。
最近、あちこちで「ことば絵じてん」作りの話をすることが多いです。子どものことばの概念を拡げるには「ことば絵じてん」がとても有効だということはこのホームページの中でことあるごとに書いてきました。そのことがだんだんと理解されてきたように感じます。 そうすると保護者の方からもいろいろな質問が出てきます。「ことば絵じてんって市販されていますがそれではだめなんでしょうか?」いえいえ、それはそれで子どもが興味をもって見るのであればとてもよいと思います。辞典にのっている絵をみながら、お子さんといろいろと想像の世界を拡げていけるでしょう。それは絵本でも図鑑でも同じです。じゃあ、なんのために作るのでしょうか?
○ことばを覚えるということは・・・
ことばを育てるために大事なことは、「子どもと一緒に生活すること」です。一緒に生活するということは、いっしょに体験を積むということです。体験するということは、イコール、本物に触れることです。本物に触れることは、視覚からだけしか情報として入らない絵や写真と違って、嗅覚や味覚、触覚、聴覚といった様々な感覚からそのものの属性を情報として得ることができるということです。例えば、りんごがどんなものか子どもに知ってほしいと思ったら、「今日はりんご買いに行こう。どこに売っているのかなあ」とスーパーのパンのコーナー、魚のコーナー、野菜や果物のコーナーなどを一緒に探し、見つけたりんごにもいくつかの種類があることを知ったり、みかんなどと比べながら色や皮、重さの違いに気づいたり、買って帰って皮をなが~くむいてみたり切り口の蜜や種を取り出したり、味や香りの特徴に気づきながらりんごを食べてみることで、自分のことばとして「りんご」を獲得していくわけです。また、ワンワン!と激しくほえる犬の様子や声にびっくりしたり、かわいいしぐさや柔らかい毛並みを触ったりする経験を通して、どんなタイプの犬を見ても「いぬ(ワンワン)」をことばとして獲得できるわけです。いかに子ども達にとって本物に触れること、その際に「見る」だけで終わらずに、様々な感覚を使って、ものをとらえることができるようにすることが大切であるかがわかります。このような体験を日々積み重ねながら、さまざまなモノの概念を知っていくのが1歳代から2歳代です。もちろんそこに手話ということばがあってその経験が言語化され、子どもの頭の中に知識として定着していきます。
○一つ一つのことばの概念はもっているのに・・・
このような経験を積み重ねて子どもは一つ一つのモノの名前やそのモノの概念を身につけていきます。みかん、りんご、バナナ、ぶどう、もも、すいか、パイナップル・・と子どもが知っていくことばも増えていくでしょう。そこで、3歳を過ぎたある日、子どもに質問してみます。「○○ちゃん、バナナは果物でしょう? じゃあ、ほかに果物でどんなものがあるかな?」聴こえる子どもで3歳を過ぎた子どもは、この質問に「りんごでしょ、みかんでしょ・・」と、自分が知っているいくつかの果物を具体的に最低2つか3つはあげることができます。ところが、同じ3歳のきこえない子たちはこの質問に応えることができない子が多いのです。なぜでしょう? きこえる子なら起こり得ないことがきこえない子には起きるのです。きこえる子は、例え大人が意図的に「果物」と教えなくても、どこかで「果物」という言葉を聞きかじって知っているのです。園で、テレビで、絵本で・・・親から、兄弟から、祖父母から、友達から、先生から、あるいはお店の人や知らない人から・・・。
ゼロデシベルのきこえる子ときこえない子のこの差は、本当に驚きます。頭に入って知識として獲得している情報量の差です。モノの名前がカテゴリーで括られ、そのカテゴリーに名前(上位概念)がつけられ(例えば「野菜」「果物」「穀物」)、それらのカテゴリーがさらに集まってさらに上位の概念で括られて(例えば「農産物」)いる。だから小学校5年生で「日本の農業」が学習できるわけですが、こうしたカテゴリーの積み重ねができるかどうかは、将来的に抽象概念の獲得の差になって表れてきますから、ことば獲得のスタートの時からことばをまとめて整理し、頭の中に記憶していくことはとても大切なことなのです。そこで、それを絵
や写真でまとめて視覚的に整理するのが「ことば絵じてん」です。といっても実際に生活の中で絵辞典を使って、いろいろなモノ同士の関係が見てわかるようになるのはだいたい2歳以降。この頃になったらことば絵じてんを作って生活の中で使っていくとよいでしょう。右の例は、『子どもとママと担当者と3年5か月の軌跡』に出てくるとも君の例です。
○夏休みの体験を「ことば絵じてん」にまとめてみては?
さて、もうすぐ夏休み。子ども達はどのような本物体験を重ねることができるでしょうか。夏ならではの体験をいろいろ思い浮かべてみてください。海に行って、ほどほどに熱い砂の上を裸足で歩かせてみてはどうでしょう。海水と混ざった砂で泥んこ遊びを楽しみましょう。波に作っては崩される山を見て、波の不思議、海、を実感することでしょう。海のしょっぱい水をなめてみるのもびっくりする経験でしょう。岩場があったらカニや貝も探し
てみましょう。山に行けばきれいな星をみることができます。うっとりと空を見上げてみて下さい。蝶やカブトムシ、セミ、トンボやバッタを捕まえて見せてあげるのもいいですね。虫網を持って、童心に返って追いかけてみてはどうでしょう。普段見たことのない大きな飛行機に乗って空から地上を見る体験、フェリーと青い海の上を旅する体験。子どもがワクワクするような体験をぜひしてみて下さい。そして、その時に、「絵日記」にまとめるのもいいし、もう一つの方法として「ことば絵じてん」としてまとめてみるのもよいでしょう。テーマはいろいろ。「夏」「海」「虫」「星」「雲」「飛行機」「旅行」。子どもが実際に経験したことはきっと興味を持つでしょうし、そこからさらに話が広がっていくのではないでしょうか。
このカテゴリーの記事の下に二つ目に「ことば絵じてんづくりを楽しんでます!」という記事があります。このお子さんは2歳で人工内耳を装用し、装用効果もあがって年中の頃にはそれなりに音声で会話できるようになっていました。保護者の方も「これで大丈夫!」と思っておられたようです。ところが、このホームページをご覧になって、お子さんはそれなりにことばを身につけているけれど頭の中で、それぞれのことばが概念化されたカテゴリーに整理されていないことに気づき、子どもと一緒に「ことば絵じてん」づくりに取り組み始めました。導入も上手だったようで(親が勝手に作って子どもに「見なさい」と与えてもこどもは見ません。作る楽しさがわからないからです)、楽しみながらいろいろなカテゴリーで作っていきました。
〇7か月間で、語彙年齢3歳から5歳へ!
去年の秋(年中・5歳1カ月時)に「絵画語彙テスト」があり、そのときの語彙年齢は3歳2
か月、生活年齢に比べて約2年の遅れがありました。語彙数でいったらだいたいどのくらいでしょう? これまでの研究によれば、3歳前後での聴児の平均語彙数は約1,000語と言われています。日常会話は1,000語あればほぼ間に合いますから、このお子さんもおそらく1,000語くらいの日本語語彙数はあり、それゆえに日々の生活の中ではあまり困らなかったのだろうと想像されます。
しかし、いざ、子どもに「りんご、ぶどう、いち
ご、バナナ。これはなんでしょう?」と子どもにきいても「果物」ということばが出てきません。では「果物」という上位概念を知らないのかと言うとそうでもない。正確な知識にはなっていないのです。そこで「ことば絵じてん」に取り組んだわけです。
家の中には、ところせましとばかりにことば絵じてんの「ポスター」が貼られています(右上は「季節・四季」がテーマ)。また、ノートにはいろいろなくくり方で頁が作られています。右中図は「とぶもの」というカテゴリーで、右下図は「1文字のことば」というカテゴリーでその中に入るモノが集められています。
このような活動を続けて7カ月。つい先日、年長・5歳8か月
時に絵画語彙検査が再びあり、語彙年齢はなんと5歳6か月。7か月間で、ほぼ生活年齢と同じにまで伸びていたのです。だいたい語彙数2,000語くらいでしょうか。
〇なぜ、短期間に、語彙が増やせるのか?
半年間で1,000語も増える? というのが読まれた方の感想でしょう。7か月=210日で1,000語ということは、1日あたりほぼ5語ずつ増えたことになります。聴児の語彙獲得数の研究では4歳で1,500語、5歳で2,000~2,500語、6歳で3,000~3,500語、小6で25,000語というのがあります。語彙の増加はだんだんペースが早くなっていくことがわかります。5歳から6歳にかけては1日あたり3語、小1から小6までの6年間では1日あたり10語。
これは、私たちの頭の中に、語彙が爆発的に増えていく装置が備わっているからです(→「ことばのネットワークづくり」参照)。 このお子さんはすでに1,000語の語彙数はあった。しかし、それは個々バラバラのことばで、極端に言うと、固有名詞ばかり沢山あった。固有名詞はカテゴリーを作ることができません(世界に一つだけしかないことばなので)。また、整理して覚えることができないので記憶の負担が大きく、覚えられる量も多くない。その固有名詞的になっている子どもの語彙を「ことば絵じてん」で整理し、いろいろな角度から関係づけていったことで、もともと持っていた語彙がカテゴリーに整理され、いろいろな角度から関係づけられることでことばとことばのネットワークが形成され、記憶もしやすくなった。また、新しい語彙に出会ったときは、すでに持っているカテゴリーの語彙と照合し、瞬時にどのカテゴリーに入るのかを判断し記憶していく働きをもっています(「即時マッピング」)。そのために新しい語もどんどん覚えていったのではと思います。
ですから、きこえたことばだけを自然獲得していたのでは、きこえない子ではそんなに語彙数は増えないでしょうが、「ことば絵じてん」で視覚的に語彙を整理したり、絵日記を書いたり、絵本を読んだりなどの活動を通して、意図的に日本語に触れていけば、1日あたり5語ずつ増えるというペースは決して難しいことではないと思います。
「ことば絵じてん」づくりは、どの子にも有効です。ちょっと大変ですが、小学部に入るまでのあいだ、がんばって取り組んでみてはどうでしょうか。効果は必ず出ます。語彙数が少ないと教科書を自分で読むことができません。自分の力で教科書を読めるために必要な語彙数はだいたい3,000語と言われています。最低2,000語はないと教科書は難しい。2,000語獲得はきこえる子にはたやすいですが、きこえない子には相当大変です。保護者の方々は「教科書をやってほしい」と言われます。その気持ちはとてもよくわかりますが、500語にも満たない日本語の語彙数で小1,2年位までなんとかやれても、それ以後はとても無理です。では小学生になってから語彙を増やせるか?小学校以降は座学中心になるので体験を通して語彙を増やすのは基本的に困難。とくに手話という言語をもっていない子は、概念を理解し手掛かりに使える語がないので本当に大変です。といって単語だけを、その物事の概念抜きに、丸暗記しても無意味です。経験と言語を結び付け、楽しみながら覚える工夫をぜひ幼児期の間にやっていただきたいと思います(このカテゴリーの下の「ことば絵じてん」を使った掃除・調理・買物とかゲームなどは楽しみ方として参考になります)。
ことば絵じてんを子どもと一緒に作ったもののどうやって使ったらよいでしょう?という質問をいただくことがあります。そこで今日は、使い方の具体的な例を実際に使っている方の育児記録から引用して紹介してみたいと思います。
実践例1「年末大掃除」(乳幼児相談2歳児クラス)
年末の大掃除をみんなで一緒にやった。ことば絵じてんに「掃除」というページがあるのでその頁をひらいて「どれをやりたい?」ときいてみたら、窓ふきを選んだ。絵の通りに三角巾とエプロンをして掃除を開始。パパにも手伝ってもらい、パパ「わあ、真っ黒だね」などと言いながら窓の内側と外側を一生懸命拭いていた。
バケツに水を貯め、雑巾が汚れたら自分で洗って絞るのにも挑戦。ママ「Cちゃん、どう?雑巾見せて?わーっ、黒いね。汚れたね」C「黒い! 汚れてる! 洗う!」と自分も濡れながら楽しそうにやっていた。
ママ「どうして、雑巾は黒くなったのかな?」C(窓を見ながら)「汚れがついたから」。ママ「そうだね。ほら、窓の汚れがこっち(雑巾)についたんだね。窓はピカピカ。雑巾は真っ黒。ありがとう、Cちゃん」C「どういたしまして(/かまわない/の手話)」
次ははたきをかけたがる。絵を見てC「マスクちょうだい」とマスクをつけてパタパタと
はたきをかけていた」(3歳1か月)
一緒に作ったことば絵じてんを上手に使っています。大掃除の意味や概念も絵をみて、自分で実際にからだを動かすことでしっかりと身についていきます。また、途中でママが上手に声掛けをして、窓の汚れが雑巾についていることを窓と雑巾を比較しながら理解させているのも上手です。ママが「どうして?」と問うことで子どもは因果関係を考えながら「~だから」と応えています。
実践例2「郵便局」(幼稚部年少クラス)
幼稚部で「ゆうびんごっこ」に取り組んでいるので、学校の帰りに郵便局で手紙に貼る切手を買うことにした。手紙やはがきはポストに投函したことがあるが、
切手を買うのは初めて。ママ「手紙に貼る切手を買いたいと思うけど、一緒に行ってくれる? どこで売っているのかなあ?」絵日記には「ゆうびんきょく」の頁に、手紙、切手、ポストの絵や写真はあるが郵便局の写真はない。一緒に日記の絵を見ながら、わかるかなあと思っていたが、帰りに「郵便局、ここだよ。切手もあると思う」と教えてくれた。(4歳)
同じような事例をもう一例。これは乳幼児相談2歳児さんの記録。
実践例3「はがき」(乳幼児相談2歳児クラス)
先日はがきを書いてポストに投函した。出かけた帰りにM「はがきを買いに行こう。でもどこにあるかなあ?ママ忘れちゃった。辞典も持ってきてないし・・」と言うと、「ン?」と考えている。M「パン屋さんに売っているかなあ?」C「・・・」。とにかく探しながら帰ることにしてとりあえずパン屋さんをのぞいてみた。探したがない。M「じゃあ、となりの八百屋さん?」さがしたがそこにもない。そのうちCがはっと思い出した。C「はがきは郵便局にあるよ。」というので、ビルの中にある郵便局に行き、無事、購入できた。帰ってから、もう一度、ことば絵じてんの「ゆうびん」の頁を開いて一緒に見ながら、はがきを買ったこと、切手も売っていて、切手は手紙に貼ることなどを話した。
次は、「ままごと」の中で使った例。
実践例4「デザート」(乳幼児相談2歳児クラス)
ままごとをした。「ママはデザートに果物がいいな。果物はどこにあるのかな?」というと、A子「本ある」とことば絵じてんを持ってきた。M[あったあった、これだね?]とスパゲッティーの絵を指すと、A子「違うよ!」M「あ、間違った。これだ」とステーキを指さすと、「違うよ!」M「え~っ、わからない」と言うと、A子「いちご、りんご、ばなな、ぶどう」と自分で選んで指さした。(2歳9か月)
以上の事例は、ことば絵じてんや絵日記で過去に書いた頁を使って、実際の生活やあそびと結びつけ、作った頁をより具体的なイメージがもて、概念が広がるよう取り組んでいます。
実践例5「クイズ」(幼稚部年中クラス)
最後はクイズに使っている例。これは写真をご覧ください。「秋の味覚」の頁です。
こうした頁を使ってクイズを楽しむことができます。「ことばを使ってことばを説明する力」「頭の中にことばやかずを思い浮かべて頭の中で動かすことができる力」は幼児期後半に育てたい大切な力で、それが将来の読み書きの力や学力を支えます。その力を、このような絵を手掛かりにして育てることができます。
先日、このHPをご覧になった方から上のようなメールをいただきました。また、お子さんと一緒に作った「絵じてん」のページをいくつか送っていただきました。そこで、今回は承諾をいただいて、メールと絵辞典のページを紹介させていただくことにしました。
以下、メール本文と辞典の中身から。
「わが子は、新生児スクリーニングで重度難聴がわかり、その後、手話を使い始め、1歳4か月で初めての手話「おいしい」が出ました。2歳0か月で人工内耳を片耳して、年中になった今は、声と手話と指文字でコミュニケーションをとっています。
言葉が上手になると、つい「聞こえている」と思ってしまい、安心してしまいました。
先日、このホームページの『ことば絵じてん』づくりのところを見てことばのカテゴリーのことを知り、子どもに『上位概念』を質問してみると、果物と野菜の名前はたくさん知っているのに 、分類もできていないし言葉で説明もできない。単語を知っているから、特に説明はしたことはないけれど、自然に分かっているものと思い込んでいたことに気がつきました。子どもの頭の中では、単語があちこちに散らかってるんだなと思いました。
そこで、ことば絵じてんで頭の中に引き出しを作り、整理しようと考えました。変化は早く、すぐに上位概念を理解して、みるみる頭の中に引き出しができていくのを感じました。誰かに何かを説明するときには、ことば絵じてんのページを頭の中で見ながら話していることが、一緒に作った私にはわかりました。ものにはカテゴリーがあること、色々な見方ができることを教えられたと思います。
ことば絵じてんの効果は予想以上でした。こどもと一緒に私も学んでいて、大変なこともあるけれど、素敵な時間を過ごせています。
一番最近作ったのは『秋』に関するページです。体験した事、食べ物、服装など秋にまつわることを集めました。作っていると、ワクワクしてきます。親が楽しいと、こどもも楽しんでいて、どんどんページが増えていきます。こどもも、自分だけの辞典が大好きになって、分からない時は自作の辞典を持ってくるようになりました。
いまは、子どもと二人で『冬』のページを制作中です。冬に使うもの、クリスマスの料理、虫や動物の冬眠などを作っています。夏のページと比較して違いを学んだりしています。」
以上です。お子さんと一緒にほんとに楽しみながら、世界にひとつしかない"myことば絵じてん"が編纂されていく様子が浮かんできます。そう、これは、子どもの頭の中に「辞典」を作っていく作業を、紙の上で行っている"語彙辞典を編む"作業なのです。
きこえる子はとくにこのような作業をしなくても、耳に次々と入ってくることば(新情報)を整理していけばよいのですが(きこえる子は1語につき約800回その語をきいて、その語の概念を旧情報と照合・整理し、新たに語の概念を書き換えているのだそうです)、きこえない・きこえにくい子どもたちは、それだけの情報を「耳から」きくことは、いくら補聴器や人工内耳をしていてもまず不可能です。
ですから、「みかん、りんご、バナナ・・・」と単語はいくつも知っているのに「果物」「食物」「農産物」「植物」「栽培」「農業」「貿易」といった上位概念や抽象語を知らないということが起こってきます。語は様々な切り口で仲間にまとめ、カテゴリー化でき、それらがそれぞれに関係しあって語のネットワークを構成して膨大な構造を構成しているのが特徴です。
頭の中にある語を全て視覚化・カテゴリー化することはもちろんできませんが、語のもっているこのような"しくみ"を学習することは十分可能です。「ことば絵じてん」を編纂することは、このような語と語の関係性、そのしくみを学ぶことです。この原理が理解できれば、あとは子ども自身が自分の頭の中で、新しい語に出会った時にそれを整理しながら蓄え増やしていくことができます。
きこえない子が語彙を増やし、抽象語を身につけていくために、語の概念カテゴリーとそのしくみが学べる「ことば絵じてん」づくりをぜひ、お子さんと一緒にやってみることをお勧めします。
1.なぜ、「ことば絵じてん」を作るのか?
~頭の中に「辞書」をつくる作業
(1)構造化された概念カテゴリーの構築
今、難聴幼児の語彙獲得の取り組みの一つとして、「ことば絵じてん」作りという活動が、いくつかの聾学校の乳幼児相談とか幼稚部で行われています。
このホームページの「乳幼児」のところでも紹介していますが、A5サイズ位のノートに、例えば「果物」というテーマだとしたら、その頁にリンゴとかミカンとかいろんな果物の絵や写真を貼って、その頁には「果物」というタイトルをつけ、インデックスもつけます。「野菜」「乗物」・・・いろんなカテゴリーで頁を作り、その子だけのオリジナルな「ことば絵じてん」を作るわけです。
なぜ、こんなことが必要なのかということは、このホームページの「論文」というところに書きましたが、実は、難聴児の半分近い子が、「りんごとバナナはどこが似ていますか?同じですか?」とか「蜂と蝶はどこが似ていますか?」とかいう質問に応えられなかったり、似たところがあまりみつけられなかったりということがあります。子どもによっては何をきかれているのか質問の意味すらわからなかったりします。でも、そうした子どもたちがりんごやバナナを知らないわけではありません。多くの子は名前もちゃんと知っています。さらに、それぞれのモノの絵があれば似たもの同士集めてカテゴリーを作ることもできます。つまり、同じモノをみつけることはできても、ことばになっていないのです。「果物」とか「昆虫(虫)」とか「乗物」とか・・。
モノは階層性のある概念カテゴリーをもっています。りんご-果物-植物-生物とか、りんご-果物-農産物-農業-食糧自給-TPPとか、たった一つのモノでも、様々な切り口で似たもの同士を集めて様々なカテゴリーをつくることができます。そしてその括り方が上位の概念になればなるほど抽象性の高いことばになっていきます。言い換えれば、抽象語彙の下には、驚くほど沢山の具体的な語彙があり、概念があって、それらを私たちは頭の中に、整理され構造化された記憶として持っているから、抽象的な事柄について議論することもできるわけです。
また、似たもの同士のカテゴリーは、いつも名前がつく切り出し方とは限りません。例えば赤い色をした果物とか、猿が食べるものとか、寒い地域の作物とか、そこに特定の名前(名詞)はつかないけれど、様々なカテゴリーで切り出し、似たもの同士集めることができます。ことばとは、このようにいろいろなことばと複雑に絡み合いながら、膨大な構造の中にそれぞれのことばが位置づけられているわけです。私たちきこえる大人は、そうしたことばを何万語も頭の中に持っていて、それらをそのときどきに合わせて取り出し、会話したり文章を書いたり考えたりしているわけです。もし「りんごとバナナはどこが同じか?」と問われれば、そのような複雑な構造をもった何万語という膨大な語彙の中から、私たちは即座にその二つのモノを取り出し、イメージを描き、「食べるところが同じ」とか「両方とも果物」とか答えることができるわけです。
(2)頭の中に「辞書をつくる」作業
しかし、こうした語彙が頭の中に整理して記憶されていなかったり、あるいは取り出そうとしている語彙の概念やイメージが少なかったり、さらにはその語彙が頭の中に存在しなかったりしたらどうでしょうか? 問われている語彙を取り出して比較検討し、共通点を見つけて答えるなどとてもできません。きこえない子たちに欠けているのは、このような「頭の中のことばの辞書」(心的辞書;Mental rexicon)です。
オリジナル「ことば絵じてん」作りとは、難聴児が自分一人だけではやりきれない、頭の中の辞書づくりを、目と手を駆使して親子で一緒にやる共同作業です。このような、ことばの視覚的構造化によって、ことばはさまざまな切り口でカテゴリー化することができ、複雑ではあるが整理された構造をもっていること、そして、ことばによって私たちは世界を切り分け思考することができることに気づかせることだと言えるでしょう。~
2.はじめての「ことば絵じてん」づくり
初めて「ことば絵じてん」作りをしようと思い立ち、お母さんが一生懸命作って「野菜」の絵を集めて貼り、子どもに見せたが子どもは見向きもしなかった。どうすればよいのでしょうか?という質問を受けました。
確かに、親が一人でがんばって作っても、子どもはよほどそのものに興味を持っていないかぎり見ないということは多いです。この辞典は、子どもが所有する辞典ですから、子どもの興味に合わせて、一緒に作ることが基本です。例えば、乗物好きのお子さんであれば、子どもと一緒に興味をもった乗物の写真を撮ってきて、それを貼っていくことから始めてはどうでしょうか? 例えばバスにお子さんが乗っている写真が撮れたら、「バスに乗ったよ」と簡単な解説をつける。バス停の絵と名前、道路(路線)を描いて、子どもに合わせて文を付ける。ある出来事・エピソードで頁を作る、いわば「エピソード辞典」です。つまり「絵日記」でもあり「絵本」でもあるといってよいと思います。
子どもが自分の頭の中につくる「ことばの辞典」は、最初はこうした「エピソード辞典」です。その物事にまつわるエピソード・思い出であり、イメージの記憶です。
ですから、もし「野菜」の概念を教えたければ、まず、野菜を使った料理を一緒に作り、体験したことのイメージをもっている必要があるでしょう。そうでなければ、子どもは野菜をみても何の感動も起きないでしょう。例えば、「今日はカレーを作ろう。手伝ってね」と一緒に買い物に行き、「どんなもの買えばいいのかな?」と考えさせながら材料を買ってくる。そして、一緒に野菜を切る。鍋に入れる。火をつけて煮る。食器をならべる。みんなで食べる。この一連の過程を写真に撮っていく。あとは、辞典作りです。エピソード辞典なら、「カレーを作ろう!」というタイトルでどうでしょう?
こうした活動を続けて、辞典の頁が増えていくと、子どもはその辞典を手放さなくなります。こうなったらしめたものです。下の写真のような頁が作れると思います。
3.ことば絵じてん~「動詞」で作れるの?
ある保護者の方に「ことば絵じてん」を作りませんか?と勧めたら、「わが子は、名詞の概念化はだいたいできています。課題は動詞の数がそんなに多くないことです。ことば絵じてん作りより、絵日記のほうをがんばろうと思います」。なるほど、それはそれでよいことだと思います。文の読み書きにおいて最も大事な品詞は動詞です。文は、全て一番最後に来る動詞の上に成り立っていますし、また、動詞の語尾変化は多種多様です。きこえない子が最も苦労するのは、動詞です(あと助詞も)。ですから動詞の語彙を増やすことはとても大事なことです。
ただ、「ことば絵じてん」は、名詞の概念化だけに限定するものではありません。その日の出来事や見たもの興味をもったもの、テーマはなんでもよいのです。では「動詞」で頁を作るとしたら、どんな頁ができるでしょうか?
動詞一連の動きの、あるワンカットを切り出したことばです。そこで、次のような人の連続した動作をビデオで撮り、最初から順にコマ送りして動きが変わるところを静止画にして切り出してみます。そうすると、その静止画は、例えば次のような動詞で切り出せることがわかります。「寝る」→「起きあがる」→「立ちあがる」→「歩く」→「走る」→「止まる」→「しゃがむ」→「座る」。この一連の写真を「ことば絵じてん」に順番に貼り、単語や短い文を添えます。そうするとさまざまな動作・姿勢に付けられた動詞の名前がそれぞれ違うことがわかります。ほかにも「仰向けになる」「うつぶせになる」「はう」「ころがる」などいろいろ動作のことばが考えられます。
あるいは、「食べる」でしたら、お子さんがケーキを食べているところを写真に撮り、「これから食べる」→「今、食べている」→「食べ終わった」→「もう、食べない」→「さっき、食べた」など、動詞の語尾変化(活用)のある文を付けてみてはどうでしょう? このような「動詞」の頁をいろいろと作っていくことによって、動詞の語尾が変わっていくこと、その変わり方にルールがあることなどに、そのうち、お子さんはきっと気づくのではないかと思います。
また、動詞の同音異義語でも作れます。例えば「きる」。これには「木を切る」「紙を切る」「トランプを切る」「野菜を切る」「指を切る」「手を切る」などいろいろですし、道具も違います。「服を着る」の「きる」というのもあります。こんな言葉を集めても頁が作れます。動詞の語彙の拡充や活用を学ぶのにも「ことば絵じてん」は使えるのです。
頭を柔らかくしていろんなアイデアを出し合ってみませんか? 一緒に活動するお子さんもきっと想像力と創造性の豊かなお子さんに育つと思います。
4.「ことば絵じてん」作り~発展のさせ方
この掲示板では、語の概念カテゴリーを豊かにする取り組みとして、オリジナル「ことば絵じてん」作りを推奨していますが、保護者の方からどんな観点でページを作ってよいのかわからないとった訴えを耳にすることがあります。基本はもちろん「子どもが興味をもったことで、遊び感覚でつくる」ということですが、「野菜」や「果物」「動物」「食べ物」などといった名詞だけでなく、そこからどう発展させていくのか、という視点も大事です。
そこで今日は、ヒントになりそうなものを聾学校幼稚部の教室掲示からいくつか提案してみたいと思います。
まず、第1番目の掲示ですが、これは「かたち」と「もよう」です。このような「かたち」を、一般的な「まる」とか「さんかく」「しかく」といったものから、例えば「ひしがた」=ひしもち、「ながしかく」=テレビ、「だえん」=「ラグビーボール」など、身の回りのものから「かたち」を発見したりするのもおもしろいでしょうし、「○はどこにある?」といって、「お月さま」「ペットボトルのふた」「色えんぴつ」「車のハンドル」など探すゲームをするのもおもしろいと思います。
た、写真下の「もよう」も家族の持っている衣服から探すのもおもしろいと思います。
NO2の「いろいろな雨」。雨にもいろいろあるなあと考えさせる教材です。梅雨の時などに写真を撮っておくとよいかもしれません。また、「いろいろな雲」なども、機会をみつけて写真に撮っておくとよいでしょう。それから、下の写真の下には「ふりそうだ」「ふってきた。ふりはじめた」「ふっている」など、動詞「ふる」の活用形が書かれています。これも、きこえない子の苦手な動詞の活用を学ぶ上ではよい教材だと思います。~
NO3は、気持を表すことば(「形容詞」)を集めたもの。実際にどんなときにそんな気持になったのか、思い出しながらページをつくっていくのも面白いでしょう。~
NO4は、「『お』のつくことば集め。子どもと順番に言い合いながら絵を描いて切っていくのも面白いと思います。