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ことば絵じてん

Ⅱ.ことば絵じてん特集


1.なぜ、「ことば絵じてん」を作るのか?

~頭の中に「辞書」をつくる作業

 

(1)構造化された概念カテゴリーの構築

今、難聴幼児の語彙獲得の取り組みの一つとして、「ことば絵じてん」作りという活動が、いくつかの聾学校の乳幼児相談とか幼稚部で行われています。

このホームページの「乳幼児」のところでも紹介していますが、A5サイズ位のノートに、例えば「果物」というテーマだとしたら、その頁にリンゴとかミカンとかいろんな果物の絵や写真を貼って、その頁には「果物」というタイトルをつけ、インデックスもつけます。「野菜」「乗物」・・・いろんなカテゴリーで頁を作り、その子だけのオリジナルな「ことば絵じてん」を作るわけです。

なぜ、こんなことが必要なのかということは、このホームページの「論文」というところに書きましたが、実は、難聴児の半分近い子が、「りんごとバナナはどこが似ていますか?同じですか?」とか「蜂と蝶はどこが似ていますか?」とかいう質問に応えられなかったり、似たところがあまりみつけられなかったりということがあります。子どもによっては何をきかれているのか質問の意味すらわからなかったりします。でも、そうした子どもたちがりんごやバナナを知らないわけではありません。多くの子は名前もちゃんと知っています。さらに、それぞれのモノの絵があれば似たもの同士集めてカテゴリーを作ることもできます。つまり、同じモノをみつけることはできても、ことばになっていないのです。「果物」とか「昆虫(虫)」とか「乗物」とか・・。

モノは階層性のある概念カテゴリーをもっています。りんご-果物-植物-生物とか、りんご-果物-農産物-農業-食糧自給-TPPとか、たった一つのモノでも、様々な切り口で似たもの同士を集めて様々なカテゴリーをつくることができます。そしてその括り方が上位の概念になればなるほど抽象性の高いことばになっていきます。言い換えれば、抽象語彙の下には、驚くほど沢山の具体的な語彙があり、概念があって、それらを私たちは頭の中に、整理され構造化された記憶として持っているから、抽象的な事柄について議論することもできるわけです。

また、似たもの同士のカテゴリーは、いつも名前がつく切り出し方とは限りません。例えば赤い色をした果物とか、猿が食べるものとか、寒い地域の作物とか、そこに特定の名前(名詞)はつかないけれど、様々なカテゴリーで切り出し、似たもの同士集めることができます。ことばとは、このようにいろいろなことばと複雑に絡み合いながら、膨大な構造の中にそれぞれのことばが位置づけられているわけです。私たちきこえる大人は、そうしたことばを何万語も頭の中に持っていて、それらをそのときどきに合わせて取り出し、会話したり文章を書いたり考えたりしているわけです。もし「りんごとバナナはどこが同じか?」と問われれば、そのような複雑な構造をもった何万語という膨大な語彙の中から、私たちは即座にその二つのモノを取り出し、イメージを描き、「食べるところが同じ」とか「両方とも果物」とか答えることができるわけです。


(2)頭の中に「辞書をつくる」作業

しかし、こうした語彙が頭の中に整理して記憶されていなかったり、あるいは取り出そうとしている語彙の概念やイメージが少なかったり、さらにはその語彙が頭の中に存在しなかったりしたらどうでしょうか? 問われている語彙を取り出して比較検討し、共通点を見つけて答えるなどとてもできません。きこえない子たちに欠けているのは、このような「頭の中のことばの辞書」(心的辞書;Mental rexicon)です。

オリジナル「ことば絵じてん」作りとは、難聴児が自分一人だけではやりきれない、頭の中の辞書づくりを、目と手を駆使して親子で一緒にやる共同作業です。このような、ことばの視覚的構造化によって、ことばはさまざまな切り口でカテゴリー化することができ、複雑ではあるが整理された構造をもっていること、そして、ことばによって私たちは世界を切り分け思考することができることに気づかせることだと言えるでしょう。~kotobaejiten3.jpgのサムネール画像




















2.はじめての「ことば絵じてん」づくり


  初めて「ことば絵じてん」作りをしようと思い立ち、お母さんが一生懸命作って「野菜」の絵を集めて貼り、子どもに見せたが子どもは見向きもしなかった。どうすればよいのでしょうか?という質問を受けました。


確かに、親が一人でがんばって作っても、子どもはよほどそのものに興味を持っていないかぎり見ないということは多いです。この辞典は、子どもが所有する辞典ですから、子どもの興味に合わせて、一緒に作ることが基本です。例えば、乗物好きのお子さんであれば、子どもと一緒に興味をもった乗物の写真を撮ってきて、それを貼っていくことから始めてはどうでしょうか? 例えばバスにお子さんが乗っている写真が撮れたら、「バスに乗ったよ」と簡単な解説をつける。バス停の絵と名前、道路(路線)を描いて、子どもに合わせて文を付ける。ある出来事・エピソードで頁を作る、いわば「エピソード辞典」です。つまり「絵日記」でもあり「絵本」でもあるといってよいと思います。


子どもが自分の頭の中につくる「ことばの辞典」は、最初はこうした「エピソード辞典」です。その物事にまつわるエピソード・思い出であり、イメージの記憶です。


ですから、もし「野菜」の概念を教えたければ、まず、野菜を使った料理を一緒に作り、体験したことのイメージをもっている必要があるでしょう。そうでなければ、子どもは野菜をみても何の感動も起きないでしょう。例えば、「今日はカレーを作ろう。手伝ってね」と一緒に買い物に行き、「どんなもの買えばいいのかな?」と考えさせながら材料を買ってくる。そして、一緒に野菜を切る。鍋に入れる。火をつけて煮る。食器をならべる。みんなで食べる。この一連の過程を写真に撮っていく。あとは、辞典作りです。エピソード辞典なら、「カレーを作ろう!」というタイトルでどうでしょう? 


「レシピを作ろう~カレー編」もよいと思います。「材料」「道具」「作り方」などのカテゴリー別に写真を貼ります。「作り方」では、順番に「たまねぎを切る」「鍋に入れる」など写真と短い文を入れます。最後にできあがったカレーの写真。食べているシーンの写真を貼ってできあがり!写真には吹き出しなど入れてもよいでしょう。


 こうした活動を続けて、辞典の頁が増えていくと、子どもはその辞典を手放さなくなります。こうなったらしめたものです下の写真のような頁が作れると思います。

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3.ことば絵じてん~「動詞」で作れるの?


  ある保護者の方に「ことば絵じてん」を作りませんか?と勧めたら、「わが子は、名詞の概念化はだいたいできています。課題は動詞の数がそんなに多くないことです。ことば絵じてん作りより、絵日記のほうをがんばろうと思います」。なるほど、それはそれでよいことだと思います。文の読み書きにおいて最も大事な品詞は動詞です。文は、全て一番最後に来る動詞の上に成り立っていますし、また、動詞の語尾変化は多種多様です。きこえない子が最も苦労するのは、動詞です(あと助詞も)。ですから動詞の語彙を増やすことはとても大事なことです。


 ただ、「ことば絵じてん」は、名詞の概念化だけに限定するものではありません。その日の出来事や見たもの興味をもったもの、テーマはなんでもよいのです。では「動詞」で頁を作るとしたら、どんな頁ができるでしょうか? 

 

 動詞一連の動きの、あるワンカットを切り出したことばです。そこで、次のような人の連続した動作をビデオで撮り、最初から順にコマ送りして動きが変わるところを静止画にして切り出してみます。そうすると、その静止画は、例えば次のような動詞で切り出せることがわかります。「寝る」→「起きあがる」→「立ちあがる」→「歩く」→「走る」→「止まる」→「しゃがむ」→「座る」。この一連の写真を「ことば絵じてん」に順番に貼り、単語や短い文を添えます。そうするとさまざまな動作・姿勢に付けられた動詞の名前がそれぞれ違うことがわかります。ほかにも「仰向けになる」「うつぶせになる」「はう」「ころがる」などいろいろ動作のことばが考えられます。


あるいは、「食べる」でしたら、お子さんがケーキを食べているところを写真に撮り、「これから食べる」→「今、食べている」→「食べ終わった」→「もう、食べない」→「さっき、食べた」など、動詞の語尾変化(活用)のある文を付けてみてはどうでしょう? このような「動詞」の頁をいろいろと作っていくことによって、動詞の語尾が変わっていくこと、その変わり方にルールがあることなどに、そのうち、お子さんはきっと気づくのではないかと思います。


また、動詞の同音異義語でも作れます。例えば「きる」。これには「木を切る」「紙を切る」「トランプを切る」「野菜を切る」「指を切る」「手を切る」などいろいろですし、道具も違います。「服を着る」の「きる」というのもあります。こんな言葉を集めても頁が作れます。動詞の語彙の拡充や活用を学ぶのにも「ことば絵じてん」は使えるのです。


頭を柔らかくしていろんなアイデアを出し合ってみませんか? 一緒に活動するお子さんもきっと想像力と創造性の豊かなお子さんに育つと思います。




4.「ことば絵じてん」作り~発展のさせ方


この掲示板では、語の概念カテゴリーを豊かにする取り組みとして、オリジナル「ことば絵じてん」作りを推奨していますが、保護者の方からどんな観点でページを作ってよいのかわからないとった訴えを耳にすることがあります。基本はもちろん「子どもが興味をもったことで、遊び感覚でつくる」ということですが、「野菜」や「果物」「動物」「食べ物」などといった名詞だけでなく、そこからどう発展させていくのか、という視点も大事です。


 そこで今日は、ヒントになりそうなものを聾学校幼稚部の教室掲示からいくつか提案してみたいと思います。

まず、第1番目の掲示ですが、これは「かたち」と「もよう」です。このような「かたち」を、一般的な「まる」とか「さんかく」「しかく」といったものから、例えば「ひしがた」=ひしもち、「ながしかく」=テレビ、「だえん」=「ラグビーボール」など、身の回りのものから「かたち」を発見したりするのもおもしろいでしょうし、「○はどこにある?」といって、「お月さま」「ペットボトルのふた」「色えんぴつ」「車のハンドル」など探すゲームをするのもおもしろいと思います。

た、写真下の「もよう」も家族の持っている衣服から探すのもおもしろいと思います。


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 NO2の「いろいろな雨」。雨にもいろいろあるなあと考えさせる教材です。梅雨の時などに写真を撮っておくとよいかもしれません。また、「いろいろな雲」なども、機会をみつけて写真に撮っておくとよいでしょう。それから、下の写真の下には「ふりそうだ」「ふってきた。ふりはじめた」「ふっている」など、動詞「ふる」の活用形が書かれています。これも、きこえない子の苦手な動詞の活用を学ぶ上ではよい教材だと思います。~辞典資料1.jpgのサムネール画像





















NO3は、気持を表すことば(「形容詞」)を集めたもの。実際にどんなときにそんな気持になったのか、思い出しながらページをつくっていくのも面白いでしょう。~辞典資料2.jpgのサムネール画像



 


 


 


 



NO4は、「『お』のつくことば集め。子どもと順番に言い合いながら絵を描いて切っていくのも面白いと思います。辞典資料0.jpgのサムネール画像